簡易的呪術のすゝめ
時刻は深夜1時。高校生の女の子3人がスマホでグループ通話をしている。彼女の名前は真坂楓。この短く、不気味な物語の主人公である。
楓「もうGWも終わっちゃうね」
「ほんと、学校なんてなくていいのに」
「そんなこと言ってるけど、美樹は早く学校行きたいんじゃないの?」
美樹「私?なんで?」
「とぼけちゃって。愛しの隼人君に会えなくてこのGWは寂しかったんじゃないの?」
美樹「ちょっと、やめてよ。私は別に隼人のことなんか好きじゃないから」
「隼人・・・だって!呼び捨てしちゃうような仲なの?熱いねぇ」
美樹「だから、違うって。はぁ…。そういう夏美はどうなのよ。隣のクラスの健斗君から熱烈なアプローチを受けてるんでしょ?」
夏美「別に熱烈ってわけじゃないけど…。なんとなく気味悪いんだよね。クラスも委員会も違うのに下校のタイミングが同じで、家も近いから途中まで一緒でさ。少し後ろをずっと歩いてるの。普通に話しかけてくれたりした方がまだマシなのになぁ。怖いから美樹から貰ったお守り握りしめてるよ」
楓「今時流行りの草食系男子ってやつじゃん」
夏美「んー、なんて言うか、そう言うことじゃないんだけど…。楓は何か浮いた話はないの?」
楓「私はもう全然ない。二人が羨ましいよ」
美樹「楓は可愛いのに男子たちとは一切喋らないからね。怖がられてるんじゃない?」
楓「怖がらせようとしてるわけじゃないんだけどなぁ…。ほら、同年代の男子って子供っぽいじゃん」
夏美「楓が大人っぽすぎるの」
美樹「確かに。高嶺の花、って感じよね」
楓「やめてよ。私がお高くとまってるみたいじゃない」
美樹「あはははは」
美樹「ところでさ、知ってる?あの噂」
夏美「あー、何でも願いを叶える方法ってやつ?」
美樹「そうそう」
楓「でも、怖くない?自分の髪の毛を紙に包んで誰か別の人に送りつけるんでしょ?」
夏美「らしいね。でも、なんでそんな方法なんだろう」
美樹「私が聞いた話だと自分の不幸を他人になすりつけることの暗喩らしいよ。女の人の霊が関係してるって話も聞いたなぁ。」
楓「美樹は本当よく知ってるよね、その手の話」
美樹「へへ、噂話とか大好きだからさぁ」
夏美「それで?送りつけられた人はどうなっちゃうの?」
美樹「んー、私もそこまではよく分からないんだよね。聞く人によって言うこと違うし」
夏美「そうなんだ」
美樹「でも、一番多いのはその女の人の霊に体を乗っ取られて死んじゃうって話かなぁ。何だっけ、確か幽霊の名前は…マガザシ様とか言ったっけなぁ」
ゴンッ
楓「…今の音、何?」
美樹「楓も聞こえた?」
楓「うん。低く鈍い音。さっきも鳴ってたよね」
夏美「え、私、何も聞こえなかったよ?」
美樹「なんとなく夏美の方から聞こえた気がしたよ。部屋の物が落ちたりしてない?」
夏美「ちょっと怖いこと言わないでよッーーー
ギャッ」
ーーーーーゴンッ
「夏美?!どうしたの?大丈夫?」
「…あー、大丈夫、大丈夫。部屋に飾ってるメトロノームが落ちちゃったみたい」
「そっか。もう、何事かと思ったよ」
「ごめんね」
「やだっ、もう3時じゃない!明日も学校だから早く寝なきゃ!」
「そうだね!また明日!おやすみ!」
「おやすみ」
「えー、今日は先生から、悲しいお知らせがある。昨晩、夏美さんがお亡くなりになったそうだ。詳しくは話せないが、一応言っておくと心臓麻痺だったようだ。悲しいとは思うが、今日一日、頑張っていこう。朝礼終わり。委員長、号令」
「起立、礼」
「ねぇ、知ってる?マガザシ様の話」
「何でも願いを叶えてくれるんでしょ?私、好きな人と結ばれるようにお願いしようかなぁ」
「やめときなって。一番仲良い人を呪わないといけないんだってよ」
「でも、どうせむずかしいんでしょ?その方法も」
「それがね、簡単らしいの。自分の髪の毛を紙に包んで自分と付き合いの長い人に送るんだって」
「え?それだけ?みんな誰かを呪い始めちゃわない?」
「ううん、最後にね、その送った相手に対して『マガザシ様』って言わないといけないんだよ。だから、この噂を知ってる人には勘付かれちゃうでしょ?」
「そっか、確かに急に『マガザシ様』なんて言われたらびっくりしちゃうよね」
「うん。相手に勘付かれたら呪いが自分に跳ね返ってくるらしいから」
「そっか、じゃあ、やっちゃいけないね。絶対に」