6話 魔法でおしおき! 物理耐性なんて知りませんわ!
「ヒッヒッヒ! アリーサ! お前の命を頂くぜ!」
「……まずいぞアリーサ! あいつは魔王軍四天王の一人……盾のガンドだ! 完全物理耐性を持っているから今の俺達じゃどうしようもない!」
「その通りだ! 俺様の物理耐性は魔王様にも引けを取らないんだぜ!」
ベア太もガンドも、何を言っているのだろう。
魔法少女の私に物理耐性など関係ないというのに。
「魔法防御力はどうですの?」
「ガハハハハ! 無魔力のお前がそれを聞いてどうする?」
やはり、ガンドの魔法耐性は完全ではないようだ。
――ならば、勝機はある!
「ベア太! 変身ですわ!」
「いや逃げた方がいいって絶対! 完全物理耐性だぞ! いくらアリーサでも勝てる訳がない!」
「なんでそんな酷い事を言うんですか! アリーサさんの魔法は最強です!」
リオが正論でベア太に詰め寄ってくれた。
私もベア太を強く睨みつける。
「分かった! 分かったからそんな目で睨まないでくれ! こわい! ああもう分かったって! そのかわりダメだったらすぐ逃げるんだぞ!」
「さっきから何をうだうだと……話は終わったか?」
ガンドは呆れた様子で私達のやり取りを眺めていた。
「申し訳ございませんが、今から変身致しますので今暫くお待ちください」
「メタモルフォーゼだと?」
「今からお見せしますわ……! マジカル! 変身!」
私がそう叫ぶと、ベア太が変身メロディーを口ずさんでいった。
「……ちゃんちゃらちゃんちゃんらー」
私は魔力を込めた正拳突きを繰り返し、爆音と閃光を発生させる。
ドレスの袖は私の全身を輝かせながらチリになっていく。
「ちゃんちゃんちゃー」
私の丸太の様にか細い腕が、光り輝きながら露わになった。
「ちゃんちゃんちゃー」
メロディーと共に踊る様に高速ステップを踏み、私の全身は輝いていく。
「ちゃんちゃららーらー」
そしてロングスカートを千切って、文献通りミニスカートにする。
引きちぎった布で、大きな赤リボンを作って胸に付ける。
「ちゃんちゃっちゃー」
最後に、余った布で大きなリボンを作って、私の金髪をボリューミーに結び付け、石ころを踏みつけて大きな火花を上げ、より一層光り輝く!
「ちゃんちゃんちゃん!」
「神羅万象の悪を即刻処刑! 正義の魔法少女、マジカルアリーサ見参!」
拳を突き出し、ポーズを決める!
「きらきらきらーん」
――決まりましたわ!
「何で俺が歌うんだよ……変身メロディーを歌うマスコットなんて聞いたことねえぞ!」
「……す……すごい! すごい魔法ですアリーサさん!」
憧憬の眼差しを向けるリオと正反対に、ガントは呆然としていた。
「……何だこれ……俺は何を見せられているんだ?」
「空気を読んで攻撃しないで頂いた事には感謝致します。しかし……あなたのような悪鬼外道は断じて私が許しません! チリの一つも残す気はありませんから、覚悟するといいですわ!」
私はガントへと歩み出した。
「ガハハハハ! 何をするかと思ったらただ向かってくるだけか! 言っただろう! 俺に物理攻撃は一切効かない!」
「困りますわ……意味のない自慢をされても」
私は一気に距離を詰めて、拳を軽く握った。
そして……
「――小魔爆!」
ガントの大盾はへし折れて弾け飛んだ。
「なっ!?」
大きくのけぞって体勢を崩したガントへ、すかさず追撃する!
「――最小魔爆!」
「グハアアアアアア!!」
ガントは大きく抉れた脇腹を抑え、蹲った。
「そんな……馬鹿な! 物理防御最強の俺様が! 何故無魔力なんぞに……!」
「簡単な話ですわ……私が無魔力では無く、魔法少女だからです」
そして、腰を落として更に追撃する。
「――最小魔連撃!」
「ガアッ! ……やめっ! ゲエッ! ウオ! アアァ!!」
私の魔法の拳を絶え間なく受けて、ガントは全身穴だらけになって行く。
絶望に歪むガントの顔に、そっと微笑みかける。
「安心してください。止めはリオにじっくり刺して貰うので、まだ殺しませんわ」
しかし、ガントは血反吐を吐きながら虚ろな目になっていた。
少しやり過ぎてしまっただろうか?
「魔王軍……物理防御最強の……俺が……無魔力なんぞに……!」
ガントはそう言い残して倒れ、そのまま動かなくなってしまった。
「……嘘だろ……物理攻撃じゃ絶対倒せない筈のガントが……死んだ……?!」
ベア太の声で、私は自分の失態に気付いた。
「申し訳ありませんリオ! 手加減したのですがつい殺してしまいましたわ!」
「いいんです。僕は自分の力で強くなりたいですから。それよりアリーサさんの魔法、すごかったです!」
「ありがとうリオ……!」
私はリオが堪らなく愛おしくなって、思わず茶色い髪を撫でた。
リオは恥ずかしそうにしながらも、はにかむように微笑んでいた。
「どうなってんだこの世界……本当にあの乙女ゲームの世界なのか? やっぱりカオスモードになってるせいか? だとしたら……」
ベア太はまた何やら訳の分からない事をぶつぶつと呟いている。
「とにかく……このゴミを処分しておきませんとね。――魔連撃!」
ガントの残骸は、閃光と共に完全に消滅してチリになった。
「とどめですわ! ――魔衝撃!」
地揺れと共に大地は大きく凹み、残ったチリも完全に消失した。
私は拳を握り締めて胸の前でクロスさせるポーズを決めた。
「言ったでしょう? チリの一つも残すつもりはないと!」