4話 ベア太とコンビ解消!? 早過ぎますわ!
アリア村は国王に比肩する程の有力領主の土地……ガリム領に属しており、治外法権も適応される。
例え国王でもおいそれと軍を派遣する事は出来ない。
追手が来るまでには暫く猶予がある筈だ。
それに村は栄えていて宿屋だけでなく一通りの店が揃っている。
ベア太の言う通り逃げるには丁度いい村だった。
私はまず酒場に入って、痩せこけたリオに食事を与える事にした。
「おいしいです!」
「……それは何よりです」
がっつくようにゆがいたポテトを食べるリオの姿は微笑ましかったが、私は胸が痛むのを感じていた。
――魔法が使えないというだけで、こんないたいけな少年を牢獄に閉じ込め、食事もロクに与えないなんて……。
ベア太も同じ気持ちなのか机の上で悲しそうに俯いていた。
「おっ! 姉ちゃんエロい服着てるじゃないの!」
いやらしい声の主は、カウンター席で酒を飲んでいるおっさんだった。
――魔法少女の神聖なコスチュームに汚い目を……何と腹立たしい!
「こんな短いスカート履いちゃって……もしかして誘ってるの?」
「……やめろ!」
リオが立ち上がって声を張った。
「ガキがうぜえんだよ! お前はすっこんでろ!」
「リオ……私は大丈夫ですわ」
私はリオにそう言うと、おっさんを鋭い殺意を込めた眼差しで睨んだ。
「――ひいっ! ごめんなさい!」
おっさんは慌てて酒場を出て行った。
「ごめんなさい……僕がもっと強ければ」
私はリオに優しく微笑みかける。
「リオの勇気と優しさは嬉しかったですわ。それに、リオはきっと強くなれます!」
「ありがとうございます!」
しかし、魔法少女は正体を隠す事が多いと文献にも書いてあったし、ずっと変身したままでいるのも良くないかも知れない。
そう考えた私は、食事を終えると服屋に向かった。
そして舞踏会で来ていた物と似ている赤ドレスを大量購入し、すぐに身に着けて変身を解除した。
そして私はリオにロングソードと皮鎧を買い与えると、宿屋へと向かった。
ベッドに寝そべりながらベア太に話しかける。
「もう話してもいいですわよベア太」
ベア太はベッドから起き上がり、私の方を向いた。
「おう。……さてこれからどうしたもんかね」
「決まっていますわ。私を陥れたマーデルは間違いなく魔王の手の者です。リオに体力を付けて安全が確保出来次第、再び王都に戻って魔法少女に変身し、あのクソビッチを私の魔法でタコ殴りにして処刑するつもりです」
「うーん……マーデルが魔王の手の者なのは合ってるんだが……あいつは魔法耐性が半端ないんだよな」
「何ですって!?」
「……いや、今のは忘れてくれ。あんたが魔法魔法言うからごっちゃになってしまった。アリーサの物理攻撃なら問題は無く倒せるぜ」
私は絶望で目の前が頭の中が真っ暗になるのを感じていた。
「……そんな! 私に物理攻撃なんてできませんわ!」
「……いや……だから……その……」
「一体どうすれば……」
「――僕が強くなって、マーデルを倒します!」
リオが真っ直ぐな目で私を見上げていた。
なんて頼り強い……。
私は微かな胸の高鳴りを感じていた。……これは……もしかして恋?
文献にも書いてあった……魔法少女は恋をしがちだと……!
私は、思わずリオを見つめ返す。
「リオ……!」
「いやいやいや、聞いてくれリオ……アリーサは無魔力なんだよ!」
訳の分からない事を言いだしたベア太を、リオが咎めた。
「いい加減怒りますよベア太さん! アリーサさんが無魔力なら僕を閉じ込めていた牢獄の扉をどうやって開けたと言うのですか?」
「……それは……馬鹿力だろ……」
――か弱い乙女になんて失礼な!
私はクソ熊を魔法で八つ裂きにしたいのを堪えて、冷たく言い放った。
「見損ないましたわベア太さん。それ以上世迷いごとをおっしゃるなら、あなたとのコンビはこれっきりにさせて頂きますわ!」
「あー分かった分かった! もうそれでいいから! 魔法の力でリオをサポートして、マーデルを倒してください!」
「分かればいいんですわ」
私とベア太は、コンビ解消の危機を何とか乗り越える事が出来た。