3話 恋の監獄!? 囚われの第二王子リオ!
「実は助けたい人がいてな……寄り道したいんだがいいか?」
廊下の分かれ道でベア太がそう呟いた。
「もちろん! 人助けは魔法少女の本分ですわ!」
「ありがとう! こっちだ!」
私がベア太についてミニスカートを揺らしながら走っていると、廊下の突き当りに頑丈な鉄扉が見えた。
「少し本気で行きますわよ! ――魔衝撃!」
鉄扉は耳をつんざく音を立ててひしゃげ、部屋の中へと倒れる。
部屋の中には、やせ細った茶髪の少年が座り込んでいた。
「……あなたは……誰?」
「古今東西の悪を惨殺処刑! 正義の魔法少女、マジカルアリーサですわ!」
「……魔法少女?」
「正義と愛の為に、悪をチリ一つ残さず徹底的に粉砕する……そんな存在ですわ!」
「……じゃあ僕も助けてくれますか?」
「もちろんです!」
「……ありがとうございます。僕は第二王子のリオっていいます」
私は少し不審に思った。
リオという第二王子がいた事は知っていたが、確か3歳の頃に病気で亡くなった筈。それに……
「……あなたが第二王子だったとして、なぜこんな所に?」
「…………」
俯いて黙り込んでしまったリオの代わりに、ベア太が答えた。
「リオ王子は無魔力だったのさ。本当はその事が露呈してすぐ処刑される筈だったが、王妃が王に懇願したので、この地下牢から出さないという条件で生き延びる事が出来たんだ」
「……何故その事を?」
リオは驚いた様子だった。
ベア太が何故そんな事を知っているかは分からないが、リオの反応からそれが真実のように感じられた。
「というか……このぬいぐるみは一体?」
リオはプカプカと浮かぶベア太の姿を不審に思ったようだった。
「この子はベア太。私をサポートしてくれるマスコットですわ」
「……まあそんな所だ」
「分かりました。よろしくおねがいします!」
「そろそろ行きましょう。じきに追手が来ますわ」
私はリオを横抱きして微笑みかけた。
リオは少し恥ずかしそうな表情で目を逸らした。
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そして、私は追手を錠前魔法で軽々と叩き伏せつつ、地上へ脱出する事が出来た。
「……マーデルの居所も分からないですし、まずは追手から逃げて、リオに美味しい物を沢山食べさせるのが先ですわね」
「そうだな。北のアリア村ならとりあえずは安全だぞ」
「わかりました!」
私はリオを抱えたまま足に魔力を込めて、城壁へと登って行った。そして、王都を埋め尽くす赤レンガの屋根へとミニスカートを抑えつつ飛び降りる。
「待ってくれー!」
ベア太が必死に追い縋って来た。
「急ぎますわよ! ベア太!」
私はベア太に合わせてスピードを落としつつも、魔法の力で立ち並ぶ家の屋根を颯爽と駆け抜けて行く。……やがて、城門の出口が姿を現した。
「アリーサが逃げるぞ! 城門を閉じろ!」
大声と共に、城門の出口は巨大な鉄扉で封鎖されてしまった。
「無駄ですわ! ――魔衝撃!」
私の拳から放出された魔法により、鉄扉は粉々に粉砕された。
そのまま速度を落とさずに王都の城門を抜け出し、草原の道を北へと駆けて行く。
リオは驚嘆の眼差しで私を見上げていた。
「すごいですアリーサさん! どうしてこんな強力な魔法を?」
「私が魔法少女だからですわ……!」
「これが……魔法……僕が使えない魔法……」
顔を落とした少年の青い瞳に、私は柔らかく笑いかけた。
「気にする事はありませんわ。私だって魔法こそ多少覚えがありますが……力は人並みにもありません。誰にだって得手不得手があるのです」
「…………」
「魔法が使えないなら、剣技を憶えれば良いのです」
「僕が剣技を……」
「そうです! リオならきっと出来ますわ!」
リオは暫く悩ましそうにしていたが、やがて意を決したように私を見上げた。
「……僕やります! 剣技の達人になって、アリーサさんを守れるくらい強くなります!」
「それは頼もしいですわね」
やがて、草原の彼方に木柵に囲まれたアリア村の姿が見えて来た。
「待ってくれー! 速過ぎるよあんた!」
「……あらごめんなさいベア太。……速度補助魔法を使い過ぎましたわ」
「ゼエ……ゼエ……そんな魔法あるなら……俺にも掛けてくれよ……」
「申し訳ございませんが、自分以外に補助魔法を掛けるのは苦手ですの」
私がスピードを落とすと、ベア太はやがて追いついた。
「人に見られたら目立ってまずいし、俺の事はリオが抱えておいてくれ」
「そうした方が良さそうですわね」
私が村の入り口でリオを降ろすと、ベア太はリオの腕の中に転がって動かなくなった。
そして、私達はアリア村へと入って行った。