10話 チクリ作戦で大ピンチ!? マジカルリオの力!
次の日、私は買い取った紫の結晶のような魔鉱石を、リオと荷馬車に積み込んでいた。
ベア太は荷車の結晶の上に座り込み、その様子を眺めていた。
「しかしこんなに積んで大丈夫かアリーサ? 北のノルン港までは結構山道だが」
「魔法の力があるので問題ないですわ」
「……そうだったベアな」
やがて、荷車は魔鉱石で一杯になった。
「よし、準備万端ですわ。行きますよリオ!」
「はい!」
リオが荷車に乗ったのを確認して、私が荷車に手を掛けた時、
「待ちな!」
生意気そうな声に呼び止められた。
鼻を垂らして、アホっぽく笑っているその姿は、いかにもなクソガキだった。
「あら……あなたのようなガキに構っている暇はないのですが」
「お前に無くても僕にはあるもんねー! お前王都で指名手配されてるアリーサだろ! この前お父さんと王都に行った時チラシで見たぞ!」
「ゲッ! 何故その事を……!」
「やっぱりだー! 言ってやろー! 村長にもお母さんにも言ってやろー!」
「止めなさいこのクソガキ! そんな事許しませんわ」
「嫌だったらその魔鉱石僕にちょうだい!」
仕方ない……殺すしかないか……。
「うわなんだその目は! 駄目だぞアリーサ! 殺したらルートが……! とにかく人殺しは駄目だ!」
「――くっ!」
リオは、私の傍に駆け寄って不安そうな顔をしていた。
ベア太のアドバイスも気になるし、何よりリオに人殺しを見られたくは無かった。
何とか殺さずに済む方法は無いだろうか……。
「そうだ! リオ! 私と来なさい!」
「何だお前ら! 逃げるんならお母さんに言っちゃうぞ!」
「言ったら殺しますよ? あなたはそこで待ってなさい!」
私が睨みつけると、クソガキは大人しくなった。
「は……はい」
「リオ……! 来なさい!」
小さく返事したリオを小脇に抱えて路地裏に向かうと、準備を整えてすぐに戻る。
「うう……やっぱり恥ずかしいです……」
私の陰に隠れてもじもじと立つリオは、魔法少女マジカルリオへと変身を済ませていた。
「行きなさいリオ! あのクソガキの横暴を止めるのです!」
「な……なんだお前……」
超絶美少女のリオが、クソガキへとゆっくりと進んで行く。
「アリーサさんとぼ……私の事は、秘密にしてください」
「き……君は一体?」
「魔法少女……マジカルリオです……」
「か……かわいい!」
案の定、リオの可憐な姿にクソガキは虜になってしまっていた。
「マジカルリオ! とどめですわ!」
「はい……えっと……私と小指の誓いをしてくれますか?」
「う……うん! しよう!」
クソガキとリオは、小指を絡めて誓い合った。
「僕ぜったい言わないから! また会おうねマジカルリオちゃん!」
「は……はい……」
そして、クソガキは上機嫌のまま去って行った。
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私は北の山道を、荷車を曳きながら速足で進んで行った。
リオは色々あって疲れたのか、眠ってしまっている。
「アリーサ。今回は仕方ないが、リオにああいう格好をさせるのはもうやめろよ」
「あらベア太……そういうあなたも、リオの魔法少女姿が可愛いと思ってしまったんじゃなくって?」
「うっ……それは……」
「どうなんですの?」
「そりゃあ可愛いけどさ……リオは男の子なんだから」
「男の子が女の子の格好をするから余計いいのですわ! あなたにも分かっている筈です!」
「……まあ正直分かるっちゃ分かるけど、アリーサと違って俺には理性があるの!」
「偉そうに! 私にだって理性くらいあります! 大体語尾はどうしたのです語尾は!」
「ご……ごめんなさいベア……」
「まあ……私も少しやり過ぎたかも知れません。程々にしておきますわ」
やがて、私は山の頂へと辿り着いた。
見下ろすと、彼方には帆船が桟橋の埠頭に連なったノルン港の姿がはっきりと見えた。




