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「店長さんさ、ゾンビ、ちゃんとなんとかしてくださいよ!」

 松井がパフェを指差しながら、開口一番に店長に噛み付いた。


「ゾンビに……気づいて、しまったんですか?」


「そら、あんだけあからさまだったら気づきますよ! なに? 本当に公認なわけ?」


「ええ、彼女は公認でやってますが……」


「は? ふざけてんの?」


「ふざけてなど。彼女のお陰でゾンビはだんだんとその数を減らして……」


 パフェが慌てたように店長の服を引っ張る。

「違うわよ、店長! この人たちは私のゾンビ行為を言っているだけよ!」


「え?」


 店長は一瞬キョトンとし、そして頭を抱えた。


「ああ! しまった! そうか! 僕はなんて余計なことを!」


 むしろ、こちらがキョトンだ。店長の百面相は続き、次はものすごく真剣な顔になって背筋を伸ばし、俺たちを見据えた。


「聞いてしまったからには、君たちも関係者だ。協力してもらうぞ」


「はあ?」


 首をひねる俺たちをよそに、店長は話を続けた。


「ともかく、まずは仲間になる彼女、花園さんを紹介しよう。

 ゾンビ対策委員会の会員で、プレイヤーに紛れているゾンビを退治する役目を担っている」


 ーー頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいる自覚がある。一体、なんの話をしているんだ?


「いや、俺たちは、その花園さんがゾンビ行為をしていた事に対して、苦言を言ってるんです。他にもゾンビやってる人いるんですか?」


「ゾンビ行為の話をしているんじゃない。このフィールドには本当にゾンビが出るんだ!」


「な、なんだって⁉︎」


 松井は鵜呑みにしてるのかノってやっているのか知らないが、店長の話に食いついている。


「この辺りの山は(いわ)く付きだったらしくてな。通りで安く手に入ったわけで……。昔、陰陽師が張ったと言う結界のお陰でこの地から外に出て行くことはないようなのだが、夜も昼もなくうろついているんだ」


「そ、それで⁉︎」


「しかも、なぜかそいつら、ある時からサバゲに参加し始めて……」


「いや、サバゲに参加したいゾンビってなんだよ!」


 俺は我慢できずに思わず食い気味にツッコミを入れる。


「荒唐無稽と思うでしょ? でも本当なのよ。レンタルに用意していたはずの装備がちょこちょこなくなって、盗難かと思ったらゾンビが身につけて参加者に紛れて遊んでいるのよ。フル装備着られたら、人間の参加者と区別がつかないわ」


 花園さんが店長の話に補足を入れ始めた。


「そこで、陰陽師の娘である私は、このゾンビ専用のBB弾でサバゲをしにきたゾンビを駆除しているのよ。ゾンビは倒せるけど人には無害な特別製よ! もちろん、生分解性でちゃんと土に還るわ。ゾンビと一緒にね」


 情報が……多すぎる!! そしてあまりにも現実離れしていて、俺たちをバカにしているようにしか聞こえない。お気に入りの客のゾンビ行為をごまかすなら、もっと上手い言い訳はいくらでもあるだろう。

 松井はなんだかノリノリで話を聞いているけれど、俺は心も態度も冷め切って彼らの話を聞き流しはじめた。


 生返事をしている間に、デザート迷彩のジャケットとズボン、対ゾンビ用BB弾を支給され、俺はいつのまにかゾンビ対策委員会の一人に数えられていた。


「ゾンビは目が良くないから、緑系の迷彩服を着ている人はなかなか認識できないの。だからデザートを着ることで、ゾンビに狙ってもらうのよ。向こうからやってきてくれたら、倒しやすいから」


 花園さんが説明した。しかも、これも特別製で、ゾンビの目からは視認しやすい柄になっているのだという。


「でも、当然人間からもわかりやすいからね。ゲームに出てすぐに自分がやられてしまったのでは本来の仕事ができないから、多少の“ゾンビ行為”はやむを得ないわ」


 ああ、それでゾンビ行為を致していたわけね。ーーって、納得できるか! 面倒だから口に出したのは気の抜けた「なるほどですねー」という言葉だったけど。


 何やかんやと説明が終わり、俺と松井は赤陣営のセーフティに送り出された。パフェこと花園さんも、黄色陣営に戻って行く。残っていた二人に「なんでお前らまでデザート着てるんだ?」と聞かれたけど、ゾンビの件は極秘事項と念を押されていたので、これには松井がそれっぽい理由を作って説明してくれた。

 ため息をつきながら、一応マガジンの中の弾を今もらった対ゾンビ用BB弾に取り替えていると、ふと、視線を感じたので顔を上げた。


 ーーあれ? 赤陣営の人数、こんなに多かったっけ?


 帽子、ゴーグル、スカーフやフェイスマスクに覆われた、たくさんの見えない顔がこちらを不気味に注視している。それらを外して、わいわいと次のゲームの準備をしたり休憩したりしているのは当然人間なのだろうが、今俺を見ているコイツらは本当に、マジで、ひょっとするのか?



 今日最後のゲームが始まって、スタート地点からほど近い木陰に身を隠す。手には重いライフルを持ち、片膝をついてしゃがんだ姿勢でまずは周囲の様子をうかがった。


「俺たちも、これからは戦さ場(いくさば)のパルフェだな」


 隣にいた松井は傾き始めた太陽を背に、映画のワンシーンの様にかっこよさげに言った。ーーまあ、ゾンビの話が本当かどうかわからないけど、とりあえず付き合ってみるか。俺は松井の言葉に頷いてみせると、仲間内で目配せを交わして作戦通りに自分の持ち場へと駆けた。



end

☆超ふんわり用語説明☆

サバゲをまったく知らない方向けです。あくまでふんわり。詳しく知りたくなったらググってね☆



「生分解性BB弾」

時間経過で分解されて土に帰るプラスチックでできたBB弾。特に屋外のフィールドではこれを使うルールになっている。

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