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ところで、俺はガスガンが好きだ。使える時季は限られてしまうが、ブローバックの反動が、実銃のようなリアルさが、俺の中では電動の利便性を圧倒的に上回る。トリガー引いて、パスパス弾が出るだけじゃ、なんかこう、撃ってる気にならないだろ? 異論は認める。
しかし、今日はメンバー全員がロマンよりも敵を確実に倒すことが重視されるラインナップを用意してきている。
「俺はスナイパーやりたいんだけどなぁ……」
伊勢崎がいつもの重たくてごっついスナイパーライフルではなくて、秒間何十発と撃てる、軽量型ライフルのマガジンにBB弾を込めながらぼやいた。
「スナイパーライフルは確かに男のロマンだ。敵からはスナイパーがどこにいるのかわからない。しかし、確実にやられた。敵を探してキョロキョロする様にお前はニヤリとするだろう。しかし、ゾンビには通用しない。遠くから撃たれ、速度の落ちたあまっちょろい弾では、奴は倒せん」
松井が仰々しく言った。
つい先程言ったが、俺はガスガン派だ。ただし、勝ちに行くなら電動ガンというのは理解できる。装弾数が段違いだし、安定性も命中性能も残念ながら電動が上。そもそも、もう夏を過ぎたこの季節、サバゲをやるには快適な気温だが、ガスガン勢にとってはこれから冬に向けて銃の性能は落ちていくばっかりだ。そういうわけで渋々持ってきたのは、撃った時の反動が再現された次世代電動ガン。これくらいは許してくれ。
ニヤニヤとしながら松井が取り出したのはごっつい回転式装弾グレネードランチャーといくつものBB手榴弾。絶対に倒すという気概が伝わってくる。まずグレネードが使えるほど近づかないといけないけども。
なぜ、個々人の楽しみやこだわりよりも、必殺重視な装備で来たのか、それには理由があった。俺以外の三人はこのフィールドにちょくちょく遊びに来ている。あ、俺はハブられてるわけじゃなくて、ガスを使いたいから室内や狭めのフィールドのほうが好きなんだ。で、松井たちはココで同じヤツによくやられるらしい。しかもそいつはゾンビ行為をしてくるのだという。それがさっきのゲームでパフェと呼んでいたデザート迷彩を着た女だ。
お互い気持ちよくゲームを楽しむには、弾が当たったにも関わらず申告せずにプレイを続けるゾンビ行為はご法度なのに、だ。
「女の子なのに、とか、オーバーキルでは? と言われようとも『当たってない』なんて誤魔化しがきかないほど撃ち込んでやりたいんだよ!」
松井は鼻息荒く言う。
「なんで出禁にならないんだ?」
俺は予備のマガジンにも弾を込めながら聞いた。
「あの強面店長のお気に入りらしいぜ? デキてるっていう噂もある」
「まじかよ」
「まあ、もしも各所で出禁喰らってたら、ご贔屓にしてもらえるココにとどまるしかないのかもなぁ?」
「ゾンビやめりゃいいだけだろ。なんでそこまでしてルール破りたいかね」
「無敵で無双が快感なんだろ……」
「プレイヤースキルあげろや」
そんなこんなと噂話をしているうちに、俺たちが撃たれて引っ込んだゲームは終わった。どうやらこちら、赤陣営は負けたらしい。そりゃあ、向こうにゾンビがいりゃこっちは不利だよ。
☆超ふんわり用語説明☆
サバゲをまったく知らない方向けです。あくまでふんわり。詳しく知りたくなったらググってね☆
「ガスガン」
マガジンにフロンガスを充填して、そのガスを使って弾を発射させる仕組みになってる(ふんわり説明です!)
「ブローバック」
実銃のような反動挙動
「電動ガン」
電気で、弾を発射させる機構が動くエアソフトガン
「スナイパーライフル」
本物のスナイパーライフルは遠くまで届くだろうが、弾の速度の上限が銃刀法で決められているので、実は手持ちのライフル型と大きく飛距離は変わらない。けど重くて大きくて連射しにくい。
「回転式装填グレネードランチャー」
100個以上のBB弾が入るカートリッジを6個装填できるごついエアガン。一発で一気にBB弾を拡散できる
「BB手榴弾」
BB弾がいっぱいつまったプラスチックの筒。衝撃で開いたり時間差で開いたりするタイプがあって、めちゃくちゃBB弾が飛び散る。
「ゾンビ行為」
弾が当たったにも関わらず、ヒットコールをせずにプレイを続ける行為。とても嫌われるし、どのフィールドでも禁止。
「オーバーキル」
明らかに当たっていたり、ヒットコールをしているのにさらに撃ち込む行為。