1
「気ぃ引き締めていくぞ。ゾンビは確実に殺らなければならない」
しゃがんで物陰に身を隠しながら、松井が俺にひそひそと、しかし芯の通った声で言った。片膝をついたいつでも動ける姿勢で、それぞれの手にはズッシリと重いライフルを持っている。
「わかってる。でも、ゾンビがどいつかわかるのか?」
「ああ。言ってなかったな。ちゃんと特徴はある。デザート迷彩を着ているやつだ。わかりやすいだろ?」
「……確かに」
「いつもデザートを着てるから、俺たちはパフェってあだ名をつけてる」
「なんでパフェ?」
「食後の方のデザートとかけたんだよ」
ああ、なるほど。俺が納得したところで、リーダー格の松井は中腰に立ち上がった。あたりにピリッと緊張が走る。目配せをして、俺たち四人は作戦通りに散った。
木陰に身を隠しながら前線へとゆるゆる進んでいくと、同じように移動している二つの人影が見えた。
木陰に出来る限り身体を隠しながら素早くスコープで狙いを定め、フルオートで人影に向かって撃ち込む。索敵時と狙撃時はこちらも姿を見せる事になるので、先手を取らないといけない。
「ヒットぉ!」
そう言いながら、黄色のガムテープを腕に巻いた敵陣の一人が手を挙げて出てくる。その彼がヒットなら、すぐ隣にいたパフェにも確実に当たっているはずだ。しかし、タタタと、狙撃の為にさらしていた俺の半身に数発のBB弾が着弾した。反撃してきたのは確実に、パフェだ。あの……ゾンビめ!!
納得はいかないけど、こちらまでゾンビになるわけにはいかない。無駄に痛い思いもしたくないので、「ヒットぉ!」とコールして前線から離れ、セーフティエリアに戻った。電動ライフルからマガジンを外し、銃はガンラックに置いてパイプ椅子に座った。既にやられて戻ってきていた沼田はゴーグルやフェイスマスクも外して、次のゲーム向けてマガジンにBB弾を込めている。
「おお、誰にやられた?」
「パフェだよ。沼田も?」
「ああ」
さて、殺られてセーフティに戻ったところで、次のゲームの準備をしながら今の状況の説明といこう。
ご想像の通り、俺は今サバイバルゲームをしに来ている。場所は俗に森林フィールドと呼ばれる、山間部にある自然を生かした屋外フィールドだ。開けた場所にはベニヤ板やドラム缶、廃車などの遮蔽物が置いてあるし、木々生い茂る範囲に行けば、もう人工物がないってだけでなんだかリアルで楽しい。緑系の自衛隊迷彩ジャケットも、真価を発揮する。
管理棟にはトイレやら更衣室やらシャワーまで用意されていて、とっても快適にサバゲができる。その付近にはテントとテーブルや椅子が並べられたセーフティーエリアが作られていて、待機をしたりゲームの準備をしたりする。今日はこのフィールドの定例会で、敵味方合わせて百人を超える人が集まった。
と、そんなことをしているうちに松井と伊勢崎がやはりやられて戻ってきた。俺を含めたこの四人がいつものサバゲ仲間で、あとは今日初めて顔をあわせたか、ひょっとして以前に一緒にゲームをした事があっても話した事もない人達だ。
☆超ふんわり用語説明☆
サバゲをまったく知らない方向けです。あくまでふんわり。詳しく知りたくなったら、ググってね☆
「サバイバルゲーム、サバゲ」
プラスチック製のBB弾を発射する銃で銃撃戦ゲームをする。
ルールは色々だが、基本的にはチームに分かれて撃ち合い。跳弾、自爆を含めて一発でも当たったら退場。
「デザート迷彩」
砂漠での戦闘に適したベージュ色っぽい迷彩柄。森林では向かない
「フルオート」
トリガーひきっぱなしで、弾が秒速何十発と連写できる
「ヒットコール」
弾が当たったことを自己申告。手を上げて大きな声でアピールしないと、また打たれるので痛い。
「セーフティエリア」
ゲームの準備や待機をする場所。ここでは絶対に撃ってはいけない。暴発を防ぐためにマガジンを外しておいたり、銃口に蓋をしたりなどの安全の為のルールがある。
「ゴーグル、フェイスマスク」
ゴーグルはサバゲに必須。目を守る。フェイスマスクは目以外のところを覆うもの。案外顔にはよく当たるので、ないと痛いし、目にBB弾が当たると失明する。
「マガジン」
BB弾を装填するパーツ。これを銃にセットすると、銃から弾が出る。
「フィールド」
サバゲができる場所。サバゲはお金を払ってフィールドでやりましょう。