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『七行詩集』

七行詩 281.~300.

作者: s.h.n


『七行詩』


281.


この世には 約束されたことなどなく


偶然ばかりが起こるけど


無意味なものは一つもなく


力強く結びついてゆく


もしこの通りの向こう側に


貴方が居るなら 会いに行こう


路地裏のフェンスを乗り越えて



282.


人とつり合うということは


同じ重さの 涙を流し


同じ重みの宝を 受け渡し


同じ時間を 生きてゆくのだということです


これでまだ足りないと 言うのなら


私はどれほど 素敵な人に


恋をしているというのでしょう



283.


どこか遠く 行ってしまった あの人に


もうこの道で 会うことはない


けれどもし 何かの間違いであるように


愛が訪れ あの日と変わらぬ 姿のままで


貴方を待っていられたら


どうかもう一度 思い出して


私の名前を 呼んでください



284.


"恋する人は美しい"


それが誰にも 言えることなら


いったいどんな 恋が貴方を


不朽の名画へと 仕立て上げたのか


貴方が日常の一部となるのは


届かぬ高さにある額を 遠く眺める瞬間だけ


その平凡が 私には相応しいのだとしても



285.


もしも私が 一本の木であったなら


鳥となり 旅する貴方を


休ませる宿に なることができ


川となり 流れゆく貴方を


傍で見送ることができ


やがて大地へと還る貴方を


この場所で 見守ることができるのに



286.


"生きている"という 夢は覚め


やがて 空より高く この階段を


私は上るのだろうけど


"生きて夢を見る"ということは


やがて自らが立つ 足場として


石段を 一から積み上げてゆくこと


"生きる"とは 行き先を見上げ続けることだ



287.


私は何もいらないから


もう何も奪わないで と言った


分かち合えない平穏は


ただ長く続く孤独なのだから


さまよう足に 靴を履かせ


凍える指を 温めてくれる人が居る


それだけが 貴方の孤独を 奪ってくれるのに



288.


或る広場に 夜も鳴き止まぬ 蝉の音よ


人も忘れた 木々を抱き


短い夏を 歌い上げるのか


月は夜空の中心にあり


傍らに何も置かずに昇る


そんな貴方と向かい合い


声よ届け、と 休まず歌い上げるのか



289.


今もまだ 夏だというのに 肌寒く


ひと晩 二人が温めた


その席に腰を かけ直した


あの日から 一年が経ち 二年が経ち


一歩ずつ 戻れなくなってゆく


君との出会いは十字路で


僕らは道を 違えたのだから



290.


まず一つ 溢れる愛を 持ちなさい


第二に其れを 注げる相手を 持ちなさい


そのことが 貴方をまた強くするでしょう


悩める人は 皆 兄弟


支え合う人は 皆 兄弟


尊い貴方の喜びにこそ


私は喜びを感じます



291.


私は貴方の 未来ではなく


貴方の"今"を 刻む時計


見守り続け ただ傍で記録し続けて


懸命な"今"を 映す鏡


いつか貴方が のぞき込むとき


それが苦しさであれ 惨めさであれ


その鏡を 割らずに済むよう 生きて欲しくて



292.


僕は長いこと お腹を空かせて 待っていた


扉を開け 痩せた僕を見て 貴方は泣いた


その涙は 銀の食器では拾えない


貴方が 僕のためだけに 見せたものなら


地面に落ちるのを 見送らず


恐れずに この手に受けて 喉を潤し


聖書の言葉で 貴方を包んで 返しましょう



293.


どんな素晴らしい名画でも


まだ見ぬものに 出会う喜びは


一目では 理解し得ない芸術を


解ろうと 長く見つめることにある


私が貴方を見つめるのは


貴方が抱える美しさにも


同じ理由がある気がして



294.


目を閉じて 記憶の浜辺の 残り香を


広い集め びんに詰めては


記憶の海へと 投げ入れた


波は不規則で しかし安らぎをもたらし


足を浸せば 引かれるような 心地よさ


このまま連れて行かれてはどうか


向こう岸に あの日の自分は いるだろうか



295.


探しものは 或いは人でなく 物でなく


息をつき 腰を下ろせる場所であり


そんな人と すれ違う瞬間 そのものなら


ふいに訪れてしまった日に


迷うことなく 気づけるのか


そっと自分を呼んだのは


すぐにその声と 気づけるのか



296.


疲れこそ 成し得た偉業の 大きさであり


疲れこそが 小鳥に羽を 休めさせる


その休息が 貴方の時間を 奪ったとしても


心地よき夢見の 報酬を受け


母なる夜に 今日の出来事を聞かせなさい


子である我らが 眠りにつくのを


空から包み 見守ってくれているのだから



297.


貴方の記憶の回廊には


どのような過去が展示され


今の二人は どのように描かれているのか


愛を愛し抜き 苦しみには苦しみ抜き


ようやく互いの存在を 量れる秤を手にした


同じ高さで見つめ合う 瞳を持つ事ができた


この先に並ぶ未来を 貴方は想像できますか



298.


宵闇は 僕を部屋へと 招き入れた


その部屋は 宇宙などではなく


過去という 散らばるビーズの一粒を


無数に集めただけにすぎない


けれどその中の一粒が


自分には どうしようもなく


輝いて見えるのは 何故だろう



299.


蝉が鳴き止めば 夏の終わりか


移ろいに蝉は 鳴き止むのか


風邪は落ち着きを 取り戻したように


髪を撫で さまよう蝋の 輪郭をなぞる


今貴方は 夏の嵐は過ぎ去った


十五夜の 月に手を伸ばす ススキのように


惜しく届かぬも それまた風情をいうものか



300.


踏み出せず 雨が止むまで 待ち続けた


もしもあの日の 郵便受けに


自ら手紙を出せるなら


"迷わず来い"、と伝えたい


なぜなら私は 知っているから


たとえ今 答えを手にしては いなくとも


今私の歩く道は 誰よりも美しいのだと



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