第二話 姉が仕組んだ毒(聖呪術)はとんでもない物でした
「······瞬、起きてください······ダメですね。契約女神だと言うのに反応なしとはなんか悲しいような」
「じゃあ、私の番だね······瞬ちゃん······瞬ちゃん······起・き・な・さ・い」
誰かの囁き声が聞こえ微かに耳をくすぐる。
「······うぅん、起きないな瞬ちゃん······」
「起きませんね」
「マスター。ここは、私に任せてください」
ギシギシと音が響き、両足の外側に何かが当たる。
これは、足か?
おそらく誰かがベッドの上に乗っかり俺の足をまたぐ形で立っているのだろう。
「ツクヨミちゃん何をするきなの?」
ツクヨミだと?! だとしたら今のこの状況はかなり危険だ。
うっすらと目を明け、その時が来るのを待つ。
「こう······するんです」
彼女は、制服をなびかせながら宙に飛び反転すると危険大な踵落としを放ってきた。
もちろん予測していた俺は、起き上がりながら顔面を守備するように両腕をクロスさせ彼女を弾く。
弾かれた彼女は天井すれすれに体制を立て直すと白い床にきれいに着地た。
「ほら、起きました」
そう言うと自らが座っていた場所に何事も無かったかのように戻る。
「もっとましな起こしかたがあるんじゃないか」
傷を追った足を確認しようと動かすと痛みはなく完全に治っていた。
視界に入ってきたのは白一色のベットだ。
向こうに3つ。こちらに2つ。
俺が寝ていた右側。
ベットと空きベットを挟んだ向こうには事務机と椅子があるが誰も座っていない。
どうやらここは、学院の医務室らしい。
左側に目を向けると、ベット近くにある窓辺側のソファーには、制服を着た、姉ちゃん、姉ちゃんの契約女神であるツクヨミ、アマテラスの順番で三人が座っていた。
面々が着ている制服は、上は漆紺色の長袖。段のないジャケットのような素材であり、チャックで止められるようになっている。
それは、閉じられていない為Yシャツが見えネクタイは、学年により赤と緑でそれぞれ分かれいる。
スカートは灰色を主体とした黒いチェック柄が入っている。
いわば膝上まであるフレアスカートだ。
「やっと起きたね、瞬ちゃん
やっぱりお姉ちゃんの事が大好きなんでしょう? 」
黒髪、紺色の瞳、黒いタイツをはいた抜群のスタイルを持った俺の姉はポニーテールを揺らしながら笑みを浮かべそう投げ掛けてきた。
「いや、それはない。絶対ない。というか何でそう言う結論に至るんだよ」
「へぇ、そうなんだ
じゃあ、やっぱりアマテラスちゃんの事が······朝の現象はそういう事なの? 」
「聞けよ!! ······それもないけどな」
「そう? ならいいんだけど
と言うことで、アマテラスちゃん
ここは引き分けにしといてあげる! 」
「はぁ……? なんだか分かりませんが
なんとなく胸が痛むんですけど 」
なにをしてたんだこいつらは?
「よかったです
先程の衝撃で目覚めなければ、マスターの為、意識を呼びおこそうと氷漬けにしようかと思っていましたが······よかったです」
「本当だ、お前ならやりかねないからなツクヨミ
それに意識を呼び起こすどころか永遠の眠りにつきかねないぞ 」
「······?」
俺の投げ掛けに首をかしげ小学生並みに(145くらい)ちんまりとした青髪紺色の瞳を持つ美少女は疑問の顔を浮かべる。
やっぱりこいつ常識ってもんを知らないだろ
そう思いつつ俺はおもわず顔をひきつらせた。
「しかし、瞬
禁じられた聖剣の使い手である貴方が、意識を失うとはそれ程の敵だったんです?」
「それはだな、要因はすべてこいつらにある」
「はい、重々反省しています」
「私も? 何か今日瞬ちゃんにしたかな? はてさて」
素直に認めたアマテラスに比べ姉は、まるで今朝した事を覚えていないかのように疑問の顔を浮かべる。
無論本人は、覚えている。
こう見えて姉は策士なのだ。
「姉ちゃんがしらを切るだろうと思ってちゃんと策をこうじてある
アマテラス、バックからあれを出してくれ」
「あれですか? あれてなんです? 」
「食べるな危険。と家から出るまいに包み紙に確かに書きほどこし、お前のカバンに入れておいたおにぎりだが······お前まさか!! 食べたのか?! 」
アマテラスの顔がみるみる真っ青になっていく。
「はい、食べ······ました。
食べてしまいました!!
リナさんを聖王様のところまで送った後。
お腹が空きすぎて何かないかとカバンをあさると包み紙にくるんだおにぎりが入っていたので······なにも見ずに衝動でつい。
一体何をいれたんですか!! 奏?」
「え! う、うーんとね……もう少しで効果が出ると思うよ
まさか本当に食べるなんて······」
姉が苦笑いを浮かべたつつ顔をそらす。
すると途端に、アマテラスが光を放った。
体がみるみる小さくなっていき、光が消失すると背が縮み、体型も色々な部分も小さくになってしまっていた。
制服がだぼだぼだ。
「な、何ですかこれ!! 瞬、私どうなってます?」
「······ちまっとしてる
ツクヨミと同じくらいちまっとしてる」
「······グット」
ツクヨミはなぜか嬉しそうにアマテラスに向け親指をたてた。
「なぁ……姉ちゃん……ちゃんとこれ戻るんだよな」
「······うん……多分大丈夫三時間後には解けるはずだから……」
たぶんかよ
「だいたい、何でアマテラスにこんなの仕組んだんだよ!? 」
「だ、だって、アマテラスちゃん
私とプロポーションいい勝負だし、このままじゃ瞬ちゃんが······」
顔を伏せ暗い声でそう呟いた。
ブラコンもここまでの行動をするとなるとさすがにあきれてしまう。
だが、異界化以来心に俺以上の深い傷をおってしまった姉だからこそしょうがないなという部分もある。
姉に残された唯一の家族は俺だけなのだから。
「今回は見逃すが二度とこんな真似しないでくれよ、アマテラスも不問でいいか?」
「まぁ、瞬がそう言うのなら不服ですが契約者として従います」
「二人とも本当にごめんなさい
特にアマテラスちゃんには悪いことしちゃったね」
「い、いいえ、ありますよね……そんな気持ちになる時って
それに三時間くらい弱化しても問題ないですよ、たぶん······本当にとけますよねこれ
災厄の場合は聖王様に」
その時、急にコツとヒールの音が響き、音がした方向に振り向くとほほを膨らませた機嫌が悪そうなアテナが立っていた。
美人としか言い様のない整った顔立ちとスラッとした立ち姿。
腰の高さまである淡い金色の髪に少しつり上がった黄金色の瞳。
王族の証である黄金色に輝く瞳はあまりに美しく神々しく、見た者全てを惹きつける。
「その類いの聖術はかけた聖剣士が全聖力を消費しない限り解けませんよ、アマテラス」
「聖王様!! あ、いえ今は学長でしたね
て、それ本当ですか?! どうします瞬?! 」
「悪い、俺に聞くな」
「全く仕方ないですね
その身だしなみでは女神としての品格に関わりますから、聖術をかけてあげましょう」
そう言うと、聖王兼学長のアテナは、アマテラスに向けて手をかざし目を閉じ集中するとすぐに目を開けた。
ほんの数秒だった。だぼだぼだった制服から靴まで一式がちまっとしたアマテラスの身体にフィットしていた。
「ありがとうございます聖王……いえ学長」
「ついでに体格にあわせて伸縮するよう聖術を施しておきました。
これで弱体化が解けても制服と下着が破損する事はないでしょう、感謝するんですよ
さて、皆さんお揃いですね
それでは学長室へと移動します。
お説教の時間ですから、特に瞬くん
貴方にはたっぷりと経緯を聞かせてもらいましょうか」
「はい······」
睨みを効かされ萎縮したまま、学長が指を弾くと俺たち面々は学長室内へと転移した。