壁スリの正体
強敵❨ライバル❩は、主人公より強くあるべきだ。だが、弱点が無ければ面白くないじゃない。
歓声が響く・・・ そう言えばレース中も歓声がしていたのだろうけれど・・・ いっぱいに成っていたからなあ・・・ ゴールラインが近づく。かなりリキんでいたので身体中が痛い・・・ ゴールラインを越えるとドリュウスさんから念話だ。
〈遂に念願の1位だな… 俺はうれしい!!〉
〈はい。ボク達・・・ やりましたね!〉
〈お前、凄いよ! さあ・・・ ウイニングランだ。手を上げながら回るんだぞ!〉
ハアー、疲れたな・・・
〈フィーネさん、ありがとうございました。あなたのおかげで勝てました。初勝利です〉
〈エンジン、勘違いしている・・・ 私は、質問していただけ。運転は、あなたの実力・・・〉
〈それならやはり、あなたのおかげで勝った事に成りますよ。あなたは勝利の女神です〉
〈女神・・・〉
コースを一周して、ピットレーンに入る
〈さあ、表彰式ですよ。一緒に行きましょう!〉
〈私はピットで待っている〉
〈そうですか・・・〉
ピットに着いて、即席のシートベルトを外す。
〈勝手なお願いですが、これからもずっと一緒にいられたら良いなと思います〉
〈それは、結婚するって言う事?〉
〈いやあ、あはは・・・〉
〈冗談です・・・ 私の種族の話ですが、女神は悪い魔女に呪いをかけられるのですが・・・ その呪いを解くのは、王子さまのキスです〉
〈へぇー、王子さまか・・・。 えっ? ボク?〉
〈はい〉
〈あー、えっと、ボクの生まれた国では、王子さまはカエルにされて、おひめさまのキスで、呪いが解ける話だったな・・・ 同じですね〉
ボクは、銀のヘッドレストに口づけした・・・ 多分気のせいだろうけど・・・ ほのかに赤くなった気がする。
〈じゃあ、行ってきます〉
なんか、本当にプロポーズしたみたい・・・
ピットから出て、表彰式に向かう所だった。背後から声を掛けられる。
「ちょっと、待ちなさいよ!」
最初、ボクに声を掛けられたと気付かなかったので、辺りをキョロキョロしていたのだが… 真っ赤な貴族服に身を包んだ美少女が、仁王立ちでコッチを見ている・・・
「ボク?」
顔立ちはかわいいのだが、怒っている様だ。
「そうよ! まったく礼儀がなって無いわねえ!」
ストレートのブロンドがまばゆい・・・
「何か?」
「私が、誰だか解る?」
「? 貴族に知り合いはおりません・・・ あっ!オレンジの・・・ 2位だった人・・・ ですよね?」
「そうよ! あなたに勝てなかった2位の人よ!」
「いやぁ・・・ そう言うつもりでは無かったのですが」
「まあ良いわ。私はミシェル・ド・ウォルゲーブル ・・・子爵よ」
「そうでしたか」
「知ってるの?」
「いいえ・・・ ご覧の通り異国人ですので、内政にはとんと疎くて・・・」
「ウォルゲーブル公爵様ん所の、娘さんだったかな?」
おっ、カーライル、物知りじゃないですか。
「あー、えっと、子爵様・・・ 何か問題でも」
もう名前忘れた・・・ はは・・・
「ミシェルで良い。あなた速いわねえ。まったく追い付け無かったわ」
「いやいや、ギリギリでしたよ」
「あんなに差を付けておいて、謙遜にもならないわ。私の風の道が通用しないなんて」
「? 風の道? ああ、あの技の名前ですね。ボクは、壁スリと呼んでいました」
「壁スリ? フフ、壁を擦りながら走るからね。あの技を使っても、あなたに敵わなかった。ナゼなの?」
「あの技には穴が有ります」
「穴?」
「弱点の事です」
「おいおいエンジン、相手の批判は良くねえぞ」
すかさずカーライルが割って入る。わざわざ弱点を教えてやる必要は無いぞと、言いたいのだろう。
「まあ、良いじゃ無いですか」
「何よ! 何か問題でも有るって言うの?」
今度は、カーライルに噛みつきそうである。
「あなたの走り方ですが・・・」
とりあえずミシェルさんの顔をこちらに向ける。
「コーナーに対する突っ込みが鋭いです。ノーブレーキですからね」
「ん・・・」
「コーナーリング速度も高い。壁スリしてますからね」
「ん・・・」
「でも、全体のタイムは速くない」
「予選1位よ!」
「それは、過去の記録です」
「うー!!」
「問題は、あの浮くタイヤです。コーナーリング中の速度は高いけれど、直線ほどじゃ無い」
「当たり前でしょう! コーナーなんだから!」
「浮いたタイヤでは、加速も出来ません、よね?」
「・・・」
「じゃあ、いつまで浮いているのかと言うと、壁スリが終了する迄ですよね。つまり、直線に入ってからの加速じゃ、失速もするでしょう」
「じゃあ、あなたは?」
「ボクは今回、5位と言う予選結果から、半日かけて足回りの強化を行いました。ただ、あまりに時間が無かったので、ブレーキ強化や軽量化にまで手が回りませんでした。ですから、コーナー手前で充分減速を行い、早目の加速で立ち上がりを重視しました。それがこの結果につながりました」
うわっ、怒ってる。目が怖い。
「これはアドバイスですが、次回ボクとリズに、リベンジを挑むのであれば、減速と加速の位置を勉強されるのが良いと思いますよ」
「・・・リズって?」
「ああ、このクルマの名前ですケド?」
「あっきれたぁー! クルマに名前付けて呼んでんのー!」
「ええ、まあ・・・」
うわっ、白い目で見られてる… オタクだって思われているんだろうな。
「でっ!」
「? でっ・・・ とは?」
「私のクルマにも、名前を付けてって言ってんのよ!」
「はあ? そのクルマの正式名は?」
「10HP A型よ!」
ゲッ!! リズの馬力の半分? 10馬力であの速さ・・・ しかもA型。見くびっていた・・・ 彼女がリズに乗ったらどうなるんだ?
「あっ、解りました。Aさんでいかがでしょう?」
「Aさん? 変な名前ねぇ・・・」
「冗談です・・・」
「もう一度冗談を言うなら、次は近衛兵で、取り囲むわよ」
「・・・解りました。シンシア・・・ で、どうです?」
「シンシア・・・ シンシアちゃん・・・ ピッタリじゃない・・・ さすがね」
「気に入って戴けましたか? 良かった」
子供の頃、飼っていた犬の名前なんだけど、気に入って貰えたようで何よりだ。・・・ポチとかシロにしなくて良かったよなぁ。
「シンシアちゃーん」
うーん、クルマをなで回している。犬の名前で、正解だったか?
「じゃあ、ボク達はこれで失礼します。さあ皆さん、表彰式に参りましょう」
未勝利戦の表彰式はあっさりしたもので、優勝の盾も無く、賞金の20シルバーのみであるが、大会運営の方を交え、祝福された時はジーンときた。
「この勝利を機に、益々の活躍を期待しております」
ボク達は頭を下げ、その場を後にした。賞金を胸に、意気揚々と控え室に戻る。
理屈っぽい走り方と謎解きでしょう?
ちなみに、ツンデレ姫の愛車のモデルは、キャデラックA型です。
フォードA型とそっくりなんですよ。デザイナーが同じだからね。