ディーネさんの特性
最近の読書は、ドライビング教本や、自動車整備士シャシを読んでいます。
フィクションなのですが、嘘っぽいのもちょっとね。ある程度、リアルで行きたいのです。
〈フルアクセルするのが速い訳じゃ無い。エンジンのトルクを路面に伝えるのだから、路面を良く見て。車体がハネた時は流して、沈んだらアクセルを入れる。ハンドルも同じ〉
ちょっとレベル高く無いか?
〈このクルマの長所はハイギアの伸びです。トルクを伝える為にも、ローギアでもっと引っ張らなければ、ハイギアでトルク切れする〉
成る程、この娘はレーシング脳だ。
〈ギアの噛み合わせで、いつも手間取るんですよ〉
〈シフトダウンは一度空噴かしをして、回転数を上げてからギアを入れると、ロスにならない〉
〈ああ、成る程…〉
〈あなたはこのクルマの能力を出しきれていない。相手は派手なコーナーリングで走っているケド、加速の伸びも最高速もこっちが上〉
〈そうですね、とりあえず直線で差を詰めましょう〉
〈昨日の逆ハンドルのドリフト・・・ ドリフトのきっかけにはなるケド、明らかにロス。その後の流すようなドリフト、そっちの方が良い〉
〈あれ、フロントも流れるから怖いんですよね〉
〈繰り返す事が大事〉
〈スパルタだなあ〉
おっ! シンシアが見えてきた。
〈いかがですかミシェルさん。もう1周走りますか?〉
〈もちろんよ! 乗ってきた所〉
〈壁スリの精度が良くなってますね。後ろから見ていると良く解ります〉
〈ん。ありがと〉
ツンデレ姫がお礼を言ったよ! まあ、何にせよ、一度は前に出たい所だが・・・
〈シンシアに、コーナーで勝つ方法は有るよ〉
何ですとー!
〈ねぇ、エンジン。R20mのコーナーを、時速60kmで走ると… 何秒か解る?〉
〈はあ?〉
〈R20mは、半径の約3倍で60mね。時速60kmとは、60分で60km。1分1kmよ。
1000m60秒なら、10m0.6秒だよね。つまり、3.6秒かかる〉
〈はあ・・・〉
〈じゃあ、アウトコースのR40mを走った場合、何km出せば60kmのクルマを追い抜けるかしら?〉
〈えっ? えーっと、R40だから、120m…〉
〈この状況で良く計算出来たわね。そう、120km/h。つまり、半径が倍になれば、距離も倍になる。シンシアは、イン・イン・インと最短距離を走っている。
対抗策としては、道巾一杯を使った、アウト・イン・アウトのコーナーリングで。例えば、70km/hで曲がらなければコーナーを、71km/hで曲がるとコースアウトするし、69km/hなら、シンシアに勝てない〉
〈何ですその狭い選択肢は〉
〈それがレーサーでしょ。エンジンの回転数にも、気を配って〉
〈ローギアで引っ張るんでしたね〉
〈ギア比は、ロー 3.53、ハイ 2.9、トルクは 3.6kgm/1550rpm、馬力 20HP/1800rpm、タイヤ半径 0.3m〉
〈あの・・・ ディーネさん?〉
〈駆動力は、トルク×ギア比÷タイヤ半径で表されるから…〉
〈はい?〉
〈エンジン回転数をローギアで、1660rpmまで引っ張れば、ハイギアで、1320rpmに回転が降下して、駆動力は、32.4kgが得られる〉
〈つまり、1660rpmまで引っ張れって事ですね〉
〈はい、良く出来ました〉
〈ボクは一昨日、クルマを運転したばかりですよ〉
〈あたしは一昨日の夜、クルマを見たばかりよ〉
〈ですよねー〉
第2ヘアピンが迫る。
〈63・・・ 62km/hよ!〉
〈はいっ!〉
ム・ムヅい。ヘアピンを一定の速度ではしるのは、迫力がある。
〈1630位でシフトアップの準備して、今よ!〉
・・・!!
〈本当だ、シフトショックが少ない。ロスが少ないと言う事ですね〉
〈クラッチを切って、一度空噴かし、1400まで落ちたら、ローギアにつなぐ〉
トルクを感じる・・・ L字だ、チョイステア・・・ 後輪が滑り出す。
〈アクセルそのまま、ハンドルを少し外側に!〉
〈こう・・・ ですね〉
ナナメに滑り続ける。
〈アクセルを抜いて、もう一度踏む!〉
今度は逆に滑り出す・・・ 凄っ! 振りっぱなしで2つのコーナーをクリアした。
〈次のヘアピンは、64km/hよ!〉
ブレーキ、クラッチを切って空噴かし、1400でローにつなぐ、目印の標識でインへ切り込む。
あれだけ開いていたシンシアとの差が詰まり、今や目と鼻の先。
〈ミシェルさん、一度ピットに戻りましょう。走りたい気持ちも解りますが、クルマに異常が無いか、気を配るのもドライバーの役目ですよ〉
〈解ったわ!ピットに入るわよ!〉
ピットに入り、ジャッキアップする。油圧ホースの劣化や緩み、油漏れは無いか。シャフトに歪みは、ボルトやナットの緩みをチェック。タイヤの空気圧も・・・
「ボクは元々メカニックなんで、点検の方が本職なんですよ。」
「あんなに速く走れるのに?」
「いやいや、今の走行だって、ミシェルさんを追い抜けませんでした。あなたの勝ちです。きっと次の未勝利戦では、敵無しじゃないですか?」
「そ・そうかしら?」
「10HPをそこまで乗りこなすのは、並大抵ではありません。馬力アップも考えていましたが、変にいじらない方が正解だと思います」
「解ったわ。それであなたは、これからどうするの?」
「ボクも燃えてきました。あなたに追い付ける様に、このクルマを進化させます」
「ふーん、例えば?」
「ボクはあなたの様に、風魔法を使えませんからね。フロントカウルの一体化とか、リアにウイングを着けるとか、グラウンドエフェクトとか、考えなければなりません。工場に帰ったら、早速設計に掛かります。次のオープン戦まで、1ヶ月ですからね」
「忙しいのね」
「まあ、それはともかく、もう少し走りましょう。走っていると新しいアイデアが、湧いてくるんです」
「じゃあ、この私を抜ける様に、頑張んなさい!」
「あはは、それでこそミシェルさんだ」
区切りを付けるのに、少し長くなりました。ディーネさんのマニアックなイメージを作るのに、
かなり詰め込みました。




