【PsyFi】《三語即興文》
「お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛っっ!!!!!!!!」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっ!!!!!!!!」
誰も使われなくなった地下鉄線。
薄暗い空洞に戦士と兵士の声が木霊し、増幅し、響き合って膨れ上がって周りの空気を震わせていく。
空洞に柱はない。
阪神大震災以降、シールドマシンで穴を掘ると、その表面に装甲を張り巡らせ、それ自体が崩壊を防ぐ盾となってくれるのだ。円形は外からの衝撃をもっとも受け流しやすいカタチでもある。
爆発音とともに、トンネルが崩れ落ちる。あっさりと、土砂がぱらぱら落ちていく。
――逆手を返せば、内からの攻撃にひどく脆い。
「――ちっ!」
戦士が巻きあがる土砂から抜け出して、どうにか姿勢を戻して着地する。
「……お見事お見事」
声とともに、兵士が土色の霧から現れる。まるでカフェから出てきたような、落ち着いた物腰。
だけど、全身を包むボディアーマーや、肩に提げた高出力レーザーライフルが、彼の印象を剣呑なものにしている。
「超弩級にムカつく野郎だぜ!」
戦士は忌々しげに、兵士をにらみつけた。
「……ずいぶんと嫌われましたね」
心外だとばかりに兵士はつぶやく。
「宇宙人と友好を結ぶようなシュミは、あいにく持ち合わせちゃいないんでね」
――宇宙人。
そう。見た目人間そのものな兵士。
だけどその中身は、垂直に伸びた筋繊維を別の筋繊維でらせん状に結んで固定した、骨の存在しない異人種――【擬態宇宙人】なのだ。
ある日彼らは何食わぬ顔で地球に飛来し、人間そっくりに成りすまして企業や政界のトップになりかわり、武力を整え――満を辞して地球に宣戦布告したのだ。
そしてこれは地球人と宇宙人の戦争――今やオリンピックよりも派手にふるまわれている戦いなのだ。
「……サイファイ」
兵士は、呪文のようにつぶやいた。意味が分からない。
「……は?」
当然、戦士の返事もそんなところ。
「SFというのは、外国じゃそう呼ばれるらしいですよ」
さも楽しそうに兵士は笑った。楽しむように、含みをこめてくすくすと。
「SF――空想科学。空想科学は、人の夢」
まるで茶飲み話のように軽快に、フレンドリーな空気さえまとって兵士は話しかける。
「宇宙人に会えるのも、きっと人々が思い描いた夢」
だけど、だけど……。
「それが悪夢になって牙を剥いているだけのこと……」
兵士は笑う。凶悪に。
きっと兵士は――戦 士 の こ と を 好 い て い な い。
あるいは――地球人そのものを。
「――仲間になろう」
なのに、兵士はそんなことを口にする。
手まで差し伸べて。握手を求めているのか?
「君は使える。とても使える人材です。仕事に人間の相性は関係ないですからね」
「……どこまでもビジネスライクな野郎だぜ」
戦士は笑う。
とても獰猛に。
兵士の仮面みたいな顔とはまるで異なる――獣の貌。
「俺はヘソ曲がりな性格でね……」
戦士の返事は――腰から抜き取ったオートマチック拳銃――V10ウルトラコンパクト。
「お前みたいなクソ野郎が、超弩級に嫌ェなんだよ!」
タァン、と乾いた音が響いた。
それが勝負のゴング。
あるいは、勝利を祈るゴング。
「…………」
頬をかすめた一弾。
兵士の頬に一条の傷がはしる。
「……お見事」
兵士は、耳まで裂けんばかりに口端を歪めて嗤った。
心底愉しいといわんばかりに……。