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scene:99 村長の裏切り

「大変です。巨大な化け物が近付いてきます!」

 リカルドたちは急いでコンテナハウスの外へ。薄暗い月明かりの下、巨大な何かが立っている。リカルドは目を凝らして確かめる。体長六メートル、体重が五トンほどもありそうなサイに似た魔獣だ。初めて見る魔獣だったが、リカルドの知識の中に該当する魔獣が存在した。

「クラッシュライノ……」

 冥界ウルフに匹敵する魔獣として知られている巨獣である。

「プーッキャキュキュ、変な髪の毛」

 モンタが笑い声を上げる。よく見るとクラッシュライノの頭の部分に毛が生えている。二〇年以上前に見た『3年○組金○先生』の主人公のようなロン毛だ。

 それを思い出したリカルドは、プーッと吹き出す。タニアに睨まれた。


 重々しい地響きのような巨獣の足音を感じ、リカルドたちは一斉に身構えた。クラッシュライノがコンテナハウスを目掛け走り出していた。

 グレタと護衛二人は恐怖の叫びを上げる。

「逃げろ!」

 魔術を放つ時間はないと判断したリカルドが叫んだ。護衛たちはグレタを抱えるようにして逃げ出し、リカルドも全力で逃げ出す。モンタは即座に大木に駆け登った。

 クラッシュライノは一直線にコンテナハウスに突っ込み、角をコンテナハウスの鉄板に突き立てると放り上げる。

「ああっ、コンテナハウスが」

 リカルドが堪えきれず声を上げた。お気に入りの野営装備だったアイテムが宙を飛び、凄まじい音を立て地面に叩き付けられた。

 その後もクラッシュライノはコンテナハウスを踏み付け、原型がなくなるまで攻撃する。どうやら、コンテナハウスを敵だと勘違いしているらしい。


 その間に、リカルドたちは魔術の準備を終えた。最初にタニアが【雷渦鋼弾】を放つ。薄暗い中でバチバチと火花を散らす雷を纏った鋼弾の渦が、巨獣の体に叩き付けられた。しかし、クラッシュライノの外皮は炎滅タートルほどではないが硬く強靭で、雷渦鋼弾を弾き返す。

「駄目、雷渦鋼弾が効かない!」

 タニアが叫んだ。

 クラッシュライノは攻撃を受けたことで、リカルドたちを敵だと認めた。この巨獣からすれば、小さな人間など敵として認めていなかったようだ。

 自分目掛けて突進してくる巨獣を、タニアは必死で飛び退いて避け、地面をゴロゴロと転がる。素早く立ち上がったが、タニアの顔から血の気が引いていた。


 巨獣はタニアが躱したことに気付き足を止める。ドスドスと足音を響かせ、身体の向きを変える。その途中に巨獣の目とリカルドの目が合った。ラッパのような鼻息を響かせた巨獣は、リカルド目掛けて突進する。

「クソッ!」

 もう少しで魔術の準備が終わりそうだったリカルドだが、制御していた魔力を放棄し飛び退く。間一髪で、リカルドを掠め、クラッシュライノが通り過ぎた。リカルドは掠っただけなのに、トラックに撥ねられたように投げ出され地面を転がる。リカルドは痛みを我慢し起き上がる。


 巨獣が速度を落とし方向転換しようとしている。その時、魔獣は隙を見せた。

 チャンスだと思ったパトリックは、素手で【真雷渦鋼弾】を放つ。上級魔術に耐えられる魔成ロッドを所有していなかったのだ。素手だと魔力を効率よく制御できず、魔術の威力が落ちる。それでも【真雷渦鋼弾】は上級魔術である。真雷渦鋼弾はクラッシュライノの外皮を貫通し、背中に大きなダメージを与える。

 その途端、巨獣が凄まじい咆哮を上げる。それは怒りの叫びだった。木の上に避難していたモンタの体が震え、首の後の毛を逆立たせる。グレタと護衛たちも顔を青褪めさせ身体を硬直させた。


 咆哮に耐えながらリカルドが起き上がる。触媒を取り出し【真雷渦鋼弾】を準備。巨獣が地団駄を踏みながら方向転換しようとしている。狙いはパトリックだ。

 パトリックは上級魔術を放った直後で、気が緩んでいたようだ。巨獣の咆哮で身体が固まっている。

「パトリック!」

 リカルドは友人の名前を叫んでから、巨獣の横に回り込み首を狙う。制御している魔力が盛大に火花を散らす真雷渦鋼弾に変化し、大気を切り裂く音を発しながらが飛翔した。上級魔術である真雷渦鋼弾がクラッシュライノの首に命中。その威力で外皮を削り落としながら突き進み、外皮を貫き肉をミンチに変える。大きな血管が傷付けられたようで大量の血が噴き出した。

 クラッシュライノはふらふらしてから、ガクッと前足を折り苦しそうに息をする。タニアがリカルドの反対側に回り込み、【真雷渦鋼弾】を放った。これもクラッシュライノの首に命中し大きなダメージを与える。

 最終的にタニアの一撃が致命傷になり、クラッシュライノの息の根が止まった。


 タニアが地面にペタンと座り、呆然と巨獣の死骸を見つめる。

「大丈夫きゃ?」

 パトリックがタニアに声を掛けた。タニアは小さく頷く。だが、タニアの身体のあちこちに血が付いていた。クラッシュライノの突進を避けた時に擦り傷を作ったようだ。

「グレタ、タニアさんの傷の手当てをしてくれないか」

「は、はい。リカルド様は大丈夫なのですか?」

 リカルドは鋼鉄サソリの外殻を使った防具を叩き。

「この防具の御蔭で大丈夫です」

 リカルドが収納紫晶から出した救急箱を受け取ると、グレタはタニアの手当てを始める。


 リカルドとパトリックは、クラッシュライノの死骸を調べた。触媒になりそうなのは角だけらしい。とは言え、その角は大きく、高品質で大量の触媒が取れそうだ。そして、クラッシュライノのロン毛を編み込んだ服は、防刃・耐魔術の服になるらしい。

「こいつの肉は、美味いのかな?」

「さあ、食べてみんと分からんがね」

 巨獣の首から大量の血が流れ出している。偶然にも血抜きをしているような格好で死んだようだ。


 リカルドはコンテナハウスだった残骸に歩み寄り、溜息を吐く。修復不可能なほど破壊されていた。ジッと見つめていると、パトリックが肩をポンと叩き。

「災難だったがね」

「こういうこともありますよ」

「だけど、おかしいがね。ここは東の谷のはずだがや」

 パトリックに言われなくとも、リカルドも疑っていた。双角鎧熊の次に冥界ウルフに匹敵する魔獣に襲われたのだ。ここが東の谷であるはずがない。村長は西の谷へ案内したのだ。


「明日、村長が迎えに来たら確かめましょう」

 パトリックが頷いた。

 血抜きが終わったクラッシュライノの死骸を切り開き消化器系の内臓だけ取り出し捨てる。残った内臓は冷凍収納碧晶へ、肉は収納碧晶に仕舞う。

 その夜は、交代で見張りをしながら、焚き火の傍で毛布に包まって眠った。グレタやタニアは硬い地面の上で寝付けず、遅くまでモゾモゾとしていたようだ。


「うっ、身体のあちこちが痛い」

 朝一番に、タニアの声が響く。その声でリカルドたちも目が覚め起き上がった。久しぶりに地面で寝たリカルドも腰が痛い。

「コンテナハウスが、どんだけ快適やったか、よう分かったがね」

 パトリックの言葉に他の皆が頷いた。但し、モンタだけは不思議そうに首を傾げている。


 朝食を食べ、洞窟がある崖の方へと向かう。昼前には到着し、村長が縄梯子を降ろすのを待った。

 しかし、昼を過ぎても村長は現れない。

「遅いがね」

「やっぱり、あの村長は怪しい」

 パトリックとタニアが洞窟を見上げながら言う。

 グレタが不安そうな顔になり。

「もしかして、帰れないんですか?」

 リカルドは二〇メートルほど上にある洞窟を見上げ。

「いや、あのくらいの高さなら、登れるかな」

 タニアも上を見上げ。

「どうやって……私には無理よ」

 グレタもタニア同様無理だと言う。


 リカルドたちは村長が遅れているだけという可能性を考え、もうしばらく待つことにした。二、三時間ほど待っても村長は現れない。

「村長は、来ないようだがね。どうやって登る?」

 崖を登る方法はいくつか考えられる。モンタに高い木に登ってもらい、洞窟まで飛んでロープを垂らしてもらう。収納紫晶を持つモンタには可能なことだ。しかし、風向きや木の位置により成功率は変わる。

 もう一つは、二〇メートル以上の木を切り倒し梯子代わりに使うやり方である。リカルドは確実な方を提案する。


「木を切り倒すのか。背の高い木は川の方にしかなかったがね」

「また戻るのですか?」

 グレタの質問に、リカルドが周辺の木に視線を向ける。背の高い木を探すが、近くにはない。

「仕方ない。戻ろう」

 パトリックが忌々しそうに。

「チッ、村長の奴。今度会ったら、お仕置きしてやるがね」

 リカルドたちは朝来た道を戻り始める。


 川の近くまで戻った時、モンタが木の上から、リカルドの肩へと戻ってきた。

「あっちの方、怖い妖樹がいっぱい」

 川上の方を小さな指で指し示す。

「確かめに行きましょ」

 タニアが一番に確かめようと言い出した。

「でも、危ないですよ」

 リカルドが消極的な意見を言うと、タニアが頼んだ。

「上級魔術を扱うには、やっぱり二級の魔成ロッドが必要だと思うの。その為の資金稼ぎに協力して……お願い」

 パトリックも同じように感じていたらしく二人に懇願され、リカルドは承知した。


 藪を掻き分け、モンタが示した方向へと進む。何かが争う音が聞こえてきた。

 見える位置まで近付いたリカルドたちは、妖樹タミエルの群れと妖樹エルビルの群れ、それに加え影追いトカゲが三つ巴となって戦っている現場を発見する。妖樹タミエルは四体、妖樹エルビルは三体、影追いトカゲは二匹だ。しかも妖樹タミエルは通常の個体より大きく、特大魔功蔦を持つ長老と呼ばれる種類の特別な個体だった。

 四体とも長老なのは、この谷の環境が影響しているのかもとリカルドが考えた時、妖樹タミエルの特大魔功蔦から発射された衝撃波が、影追いトカゲに命中した。強烈な衝撃波に影追いトカゲは息絶える。

 その後、妖樹同士の戦いとなる。特大魔功蔦の衝撃波が、妖樹エルビルの幹に命中した。樹皮が飛び散り多少のダメージを与えたが、決定打とはならない。


 妖樹エルビルの強力な枝に打たれた妖樹タミエルは、弾き飛ばされ地面に倒れた。三、四メートルの体長がある妖樹同士の戦いは見応えがあった。

 特に妖樹エルビルの打撃が、妖樹タミエルに命中した時の打撃音や倒れた時の衝撃音は凄まじく迫力満点で、リカルドたちは固唾を呑んで見物する。

 妖樹タミエルの一体が樹肝の瘤に攻撃を受け倒れると、形勢が圧倒的に妖樹エルビル有利となる。


 立っている妖樹タミエルが一体にまで減った時、偶然にも特大魔功蔦の衝撃波が妖樹エルビルの樹肝の瘤に命中し、樹肝油を吹き出させた。その妖樹エルビルはふらふらとなり、戦線を離脱する。

 残った妖樹エルビル二体は、猛烈な勢いで敵に連打を浴びせ、短時間で敵を仕留めた。


 リカルドたちは残った二体の妖樹エルビルに【雷渦鋼弾】を一斉に放つ。完全な奇襲だったので、雷渦鋼弾は樹肝の瘤を抉り致命傷を与えた。

「もう一体のエルビルは?」

 リカルドが問うと、グレタが。

「あそこの先で、倒れました」

 どうやら妖樹タミエルが与えた傷が致命傷となったようだ。


「凄え、これだけ大量の妖樹を狩ったのは、デスオプの群れ以来だがね」

「何言っているの。実際に狩ったのは、妖樹エルビル二体だけじゃない」

 タニアの反論で、大喜びしていたパトリックは肩を落とす。

 リカルドたちは妖樹の枝と特大魔功蔦を切り離し、妖樹の体と一緒に収納碧晶に回収した。最後に影追いトカゲの死骸を回収したリカルドの頭に、疑問が浮かぶ。

「何故、影追いトカゲは別空間に逃げなかったんだ?」

 グレタも首を傾げる。タニアもパトリックも答えられなかった。


「モンタ、わかった」

 リカルドたちは驚いた。

「モンタちゃん、教えてくれる?」

 グレタが尋ねると、モンタは胸を張って、近くにある大木の根っこを指差した。リカルドがそこを調べてみる。二〇個ほどの小さな卵が見付かった。

「これって、影追いトカゲの卵」

「なるほど、卵を守っていたんだがね」

「モンタちゃん、偉い」

 褒められたモンタは、嬉しそうな顔をしてリカルドの身体によじ登り、その首に抱き着いた。


 リカルドは卵を回収した。それを見ていたタニアが。

「そんなものを、どうするの?」

「持って帰って、育てようかと」

 グレタ以外の皆が呆れたという顔をする。特にタニアは。

「妖樹の次は、影追いトカゲなの」

 リカルドは不敵に笑い。

「妖樹の飼育は、利益が出てるんだぞ」


 リカルドたちが、影追いトカゲの卵をネタにワイワイ騒いでいると、ラッジが梯子を作らなくてもいいのかと指摘する。

「そうだったがね」

 リカルドたちは、急いで梯子に適した木を見付け切り倒した。枝を切り落とした頃には、暗くなったので野営の準備を始める。

 翌朝、全員で切り倒した木を引きずって洞窟の下まで運んだ。収納碧晶には長すぎて入らなかったのだ。


 苦労して運んだ木を崖に立て掛ける。ぎりぎり洞窟まで届いた。モンタが真っ先に登り始め洞窟の中に飛び込む。次に体力に自信のあるパトリックが木を登り洞窟に入る。

 リカルドたちは不要になった木を押し倒した。その後、パトリックがモンタの収納紫晶に入っていたロープの先端を自分の身体に結び、逆の先端を崖の下に垂らす。

 リカルドたちはロープに掴まり洞窟まで登った。


 洞窟を戻り外へ出た。

「これからどうするの?」

「もちろん、フェドル村へ行って村長を問い詰めるんだがね」

 パトリックが息巻く。その様子を冷静に見ていたタニアが。

「村長が意図的に東の谷でなく、西の谷へ案内したのなら、理由は何?」

「そりゃあ……何故だ?」

 リカルドも理由を考えていたが、村長自身に恨まれる覚えはない。そうなると誰かに命令されたと考えられる。あの村はアプラ侯爵の支配下にある村である。

 アプラ侯爵が命令した可能性が高い。


「いや、フェドル村へ行かない方がいいと思う。もし、アプラ侯爵の命令だったら、生きて戻ったことを知られるのはまずい」

 アプラ領を抜け出す前にアプラ侯爵に知られたら、追撃を受ける可能性があるかもしれないとリカルドは予想したのだ。


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