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scene:98 影追いトカゲ

「どうやって、消えたんでしょう?」

 リカルドが首を傾げると、肩に乗っているモンタもチョコッと首を傾げた。その仕草が可愛くて、グレタは笑ってしまう。

「何がおかしいの?」

 タニアがグレタに尋ねた。

「リカルド様とモンタちゃんが同じことをしてるので」

 タニアとパトリックもリカルドとモンタの姿を見て、ニヤッと笑う。


 リカルドは自分たちが注目されているのに気付かず考えていた。

 (瞬間移動だろうか。【空】の触媒を持つ魔獣なら、そういう魔法が使える可能性もあるのか。……どうやったら確かめられる?)

「少し休憩しましょう」

 タニアが提案した。幸いにも川近くには平らな地面がある。リカルドはコンテナハウスを出して、平らな場所に置く。

 グレタとタニアはコンテナハウスの中に入り、お茶の準備を始めた。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 時間を戻し、リカルド達がムナロン峡谷へ下りた直後。

 縄梯子を引き上げた村長は、急いで洞窟を戻り外へ出た。

「村長。上手くいったのか?」

 その声にハッとした村長が、声が聞こえた方に目を向ける。アプラ侯爵の参謀パガニンと名乗った人物が洞窟の前に立っていた。

「ええ。しかし、こんなことをして、本当に良かったのでございますか?」

 パガニンは無表情な顔を崩さず小さく頷く。

「問題ない。アプラ侯爵の指示だ」


 村長は案内したメンバーの中に、ボニペルティ侯爵の娘が居るのを知り怯えていた。何かあった場合、村長自身や村が咎められるのでないかと不安なのだ。

「ですが、あの連中の中には、ボニペルティ侯爵のお嬢様が……」

「それがどうした。ムナロン峡谷へ調査に来た連中が、行方不明となるだけだ。我々に落ち度はない」

 村長はパガニンの返事を聞いても落ち着かない様子で。

「しかし、この一件はガイウス王太子殿下も承知していると聞きました」

 王太子の名前を聞き、パガニンが初めて表情を変える。浮かび上がった表情の中にあるのは憎悪。

「ふん、落ちぶれた王家の王太子に何ができる」

 パガニンは元々王家に仕える軍人の家系に生まれた男だ。将来、軍人となるために厳しい訓練を受けながら育った。成人も間近となった頃、現国王アルチバルド王が気まぐれを起こし、ヨグル領の視察へ行き問題が起きた。視察に行った国王を小鬼族が襲ったのだ。

 国王は無事だったが、王の愛馬が死んだ。国王は愛馬の死を悲しんだが、責任問題については何も言わなかった。だが、軍部は警護の責任者だったパガニンの父親を罷免し、王都から追い出した。軍部内の出世争いに、この事件が利用されたのだ。あの時、国王が守ってくれたことに対して感謝の言葉を一言でも言ってくれていたら、軍を追われなかったのにと、パガニンの父親は愚痴るようになる。

 王都を追われたパガニン一家は、辛酸を嘗めながらアプラ領に辿り着く。その時、母親と弟は亡くなり、パガニンと父親だけとなっていた。


 パガニンは個人的な憎悪だけで王家を軽んじているわけではない。王家を支えているバイゼル城の重臣たちの中に、メルビス公爵やオクタビアス公爵の手駒となっている者が何人も居るのを知っていたからだ。

 彼らは王家の情報を売り、王家の力が増す政策を邪魔している。それを知っているパガニンは、王家に未来がないと考えているのだ。


「三日後は、どうしたらいいでしょう?」

「何もするな。奴らが戻ってこなかったとだけ報告しろ」

「分かりました」

 パガニンは村長と別れ、領都ブレルへ向かった。ブレルへ到着したパガニンは、アプラ侯爵の居城であるブレル城へ登城し侯爵に報告する。

 アプラ侯爵は満足そうに頷き。

「それで良い。リカルドとかいう小僧の才能は惜しいが、ボニペルティの奴に味方するなら邪魔になる」

 パガニンが同意するように頷き。

「奴らが西の谷で生き延び、もし戻ってきたらどうなさいますか?」

 アプラ侯爵はムッとする。

「儂の策が失敗すると言っておるのか。あの巨獣が西の谷には居るのだぞ」

「運良く遭遇しないという可能性もございます」

「ふん、その場合は村に兵士を配置しておればいいだけのこと。それくらい貴様が判断しろ」

「申し訳ありません。兵士の手配を致します」


 パガニンは報告を終え、最後に。

「メルビス公爵に、報告しておきます」

 アプラ侯爵が僅かに目を細め、不快そうな顔をする。

「いや、知らせるな。公爵はあの小僧に興味を持っているようだ。余計なちょっかいを出されたくない」

 メルビス公爵はアプラ侯爵を取り込もうとしているが、完全に取り込まれてはいないようだ。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 コンテナハウスの中では、リカルドたちが紅茶を飲みながら影追いトカゲの魔法がどういうものか検討を始めている。

 議論に付いていけないグレタは、モンタがテーブルの上でアーモンドに似た木の実をポリポリと齧っているのを見ていた。モンタはグレタに見られているのに気付くと、自分の手の中にあるアーモンドとグレタの顔を交互に見る。

 グレタは可愛い賢獣を眺めていただけなのだが、モンタはグレタがアーモンドを欲しがっていると勘違いしたようだ。赤い首輪に付いている収納紫晶からアーモンドを一つ取り出すと、トコトコと歩み寄りグレタに手渡す。

「おいしい」

「ありがとう、モンタちゃん」

 グレタはモンタを撫で嬉しそうに笑う。


 何気なくモンタの行動を見ていたリカルドは、収納紫晶から木の実を取り出す様子を見て一つの仮説が頭に浮ぶ。

「影追いトカゲは、収納碧晶の中に作られるような別空間に身を隠すんじゃないか?」

 リカルドの意見にタニアが異議を挟んだ。

「でも、生きているものが収納碧晶に入ると死ぬはずよ」

「それは収納碧晶の別空間に空気がないからだと思うんです。影追いトカゲがあらかじめ空気を入れていたらどうでしょう」

 パトリックが右手で顎を撫でながら。

「なるほど、呼吸できなかったから死んだということきゃ?」

「そう。だから、見付けた場所でジッと待っていれば、姿を現すんじゃないか」

 タニアとパトリックが考え込んだ。二人ともリカルドの仮説を否定しなかった。だが、それは仮説であって、真実ではない。確かめなければ真実とはならないのだ。


 コンテナハウスの外で見張りをしていたラッジとロンディが、日が暮れてきたと教えてくれた。

 パトリックがここで野営しようと言い出し、タニアとリカルドが賛成する。

 夕食はリカルドとグレタが用意する。タニアに料理の才能はない。いや、料理を破壊するという才能があった。リカルドが料理を教えても、探究心が止められないようで独自の味付けを探そうとして失敗する。

 その点、グレタは素直だ。リカルドが指示した通りに料理する。但し、自宅や学校で料理を習っているはずもないので、包丁の扱い方が不慣れで肉の大きさが不揃いの切り方になっている。


 リカルドたちが作った料理は、双角鎧熊の内臓を使った料理だ。魔獣の肉は血抜きがちゃんとして有れば臭みがほとんどない。

「ほう、美味そうだがね」

 パトリックがレバーと野菜の炒めものを口にする。絶品だ。濃厚なレバーの旨味と野菜の甘味、それに調味料の味とが合わさり宮廷料理にも負けない味へと仕上がっている。

 一口食べたパトリックが、猛烈な勢いで口の中に掻き込み始める。パトリックの動きが突然止まった。そして、苦しみ始める。

「ど、どうしたんですか?」

 グレタが心配そうな顔で声を上げる。リカルドはジト目でパトリックを見てから、その背中を平手でパンと叩く。

「ガハッ」

 パトリックの口から大きめの肉が飛び出す。喉に肉を詰まらせていたらしい。

「汚いわね!」

 タニアが真剣に嫌そうな声を上げた。


「ハア……死ぬかと思ったがや」

 心配そうにしていたグレタの視線が、残念な人を見るようなものに変わる。それから食事になり、グレタも双角鎧熊のレバーと野菜の炒めものを食べた。

「魔獣の内臓を食べたのは初めてです。美味しいものなんですね」

 グレタを始め他の皆にも好評である。内臓は新鮮なものほど美味しいと言うが、本当のようだ。

 夕食を終え、魔術士三人が交代で見張りをしながら夜を過ごす。

 翌朝、リカルド達は影追いトカゲを探し川沿いの森を歩き回った。かなりの距離を歩き回ったにもかかわらず見付からない。その代りに、牙猪や妖樹ダミルなどの魔獣と遭遇し仕留めている。

「ふうっ」

 グレタが息を荒げている。慣れない森を歩き回り疲れたようだ。その様子にリカルドが気付き。

「少し休憩……ん……」

 リカルドの魔力察知に反応がある。前方の大木の枝で影追いトカゲが、西洋梨のような果物を咀嚼している。肉食だと思っていたが、雑食だったようだ。魔成ロッドを取り出し魔力を放出。その瞬間、影追いトカゲが魔力に気付き、黒い霧を吐き出して消えた。

「影追いトカゲは、魔力に敏感なようですね」

 リカルドは大木の枝に影追いトカゲが居たことを説明し、再度現れるか待つことにする。


 リカルド達はモンタと一緒に影追いトカゲが居た大木を見張る。

 五分ほど見張っていた時、モンタが声を上げた。

「トカゲ、臭いした」

 リカルドたちは大木や周りを探したが、影追いトカゲの姿はない。

「どこにもおらんがね」

「でも、臭いした」

 リカルドはモンタの嗅覚が凄いのを知っている。モンタが臭いがしたと言うなら、臭いが存在したのだ。

「もしかしたら、影追いトカゲが隠れている別空間の空気を、入れ替えたのかもしれません」

 タニアは影追いトカゲがどれほどの魔力を持っているか考えた。それほど多くないなら、別空間からもうすぐ出てくる可能性がある。空気を交換するにも魔力を消費するはずだと考えたのだ。


 予想通り、影追いトカゲが何もない空間から姿を現す。

 その瞬間、リカルドが【地】の魔功ライフルでトカゲの背中を撃った。その衝撃で心臓が潰れ、影追いトカゲが大木からポトリと落ちる。

「仕留めた!」

 珍しくリカルドが喜びの声を上げる。

 リカルドたちは影追いトカゲの解剖を行った。内臓には特別のものがなく、皮も普通のものである。リカルドは口の中を調べ、黒い管が存在するのを発見する。

「この管か、牙が触媒になりそうです」

 タニアが黒い管を見て。

「リカルドが欲しがっていた触媒は、これなの?」

「そうだと思いますが、試してみないと何とも……」

 タニアが黒い管を覗き込み。

「これは【地】の触媒なの?」


「これは黒の触媒じゃないかと思っています」

「なんですって!」

 驚いたのはタニアだけだった。パトリックとグレタは黒の触媒について知らなかったようだ。リカルドは黒の触媒について説明する。

「へえ。黒の煌竜石というのがあるのですか」

 今ひとつグレタとパトリックは、黒の触媒の重要性について認識していないようだ。

「黒の触媒が存在するということは、【火】【風】【水】【土】【命】【召喚】以外の系統が存在するということなのよ」

 タニアの説明にグレタとパトリックが、声が出ないほど驚く。


「本当に黒の触媒なら、大発見なんですね」

 グレタとパトリックは黒い管をまじまじと見る。

「ちょい待ち、触媒だけあっても系統詞が無けりゃ魔術は発動せんがね」

 リカルドは【空】の系統詞について話そうかどうしようかと迷った。結局、話さないと決める。【空】の魔術が強力なものなら、その秘密をどんな手段を使っても手に入れようと思う者が現れると判断したのだ。

 初めから知らない方が安全だろう。

「それはそうだけど、黒の触媒を発見した事実を論文にすれば、リカルドなら『秀士』の称号を与えられるはずよ」

 魔術士協会には、多くの業績を残した魔術士に称号を与える制度がある。二つの優れた魔術論文を発表した者には、『秀士』という称号が与えられる。

 ちなみに『秀士』の他に『博士』や『賢者』という称号があり、『賢者』の称号を贈られた者は賢者マヌエルしか存在しない。


 その後、三匹の影追いトカゲを仕留め黒い管を手に入れた。影追いトカゲは予想していた以上に個体数が多いようだ。希少な魔獣だというから、個体数も少ないとリカルドたちは考えていたのだが、違ったらしい。

 夜になり、同じ場所で野営することにする。コンテナハウスの中で、リカルドは触媒屋が使う触媒用粉砕機を出す。これは最近になって購入したものだ。黒い管を触媒用粉砕機で粉々にし黒の触媒が出来上がる。

「量が少ない。実験するには大量に必要なんですが」

 リカルドのがっかりした声に、タニアが。

「その前に、それが本当に黒の触媒かどうか確かめるのが先でしょ」

「そうですね」

 リカルドは右の掌から魔力を放出し、その魔力に黒い管から作った触媒を振り掛けた。魔力が属性励起し黒く変化する。

「凄い。やっぱり黒の触媒だったのよ」

「すげえ、大発見だがね」

「リカルド様、素晴らしいです」

 グレタを含めた魔術士達が大喜びしている中、モンタが首の後にある毛を逆立たせ、耳をピコピコ動かしている。これはモンタの種族特有の警戒動作だ。

「リカ、変なのが来てる」

 モンタの警告と同時にコンテナハウスのドアが開き、見張りをしていたラッジとロンディが飛び込んできた。


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