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scene:81 魔術研究発表会

 リカルドが現在研究しているのは、【水】の魔彩功銃の効果解明と黒い煌竜石を使った玄子濃縮、そして、雷の魔術についての研究だった。

 前の二つについては、論文を発表するつもりはなかったので、イサルコから頼まれた発表会には、雷の魔術について発表することになる。

 雷の魔術は【火】の魔術として幾つか存在する。

 初級下位の【放電】は、魔力を電気に変換し杖の先から放出する魔術、初級上位の【雷翔撃】は稲妻のような電気の塊を前方に飛ばす魔術である。


 これら既存の魔術は、魔術士の間ではあまり使われていない。

 【放電】は杖を敵に接触した状態で魔術を放たなければならず使いづらい。【雷翔撃】はとにかく命中率が悪かった。【雷翔撃】は途中に少しでも伝導率の高いものがあれば、そちらの方へふらふらと逸れていってしまうのだ。

 電気の性質からすれば当然の結果なのだが、魔術としては欠陥魔術である。

 リカルドは、この命中率を改善した雷の魔術を研究しているのだ。


 【雷渦鋼弾】も電気エネルギーを敵に命中させる方法の一つである。

 但し【雷渦鋼弾】の場合、投入された魔力のほとんどが鋼弾を作り出し弾き飛ばすために使われ、電気エネルギーはおまけ程度になっている。

 リカルドは電気エネルギーを誘導するようなものが空気中にあればいいのではないかと考えた。

 敵との間にイオン化した空気の管のようなものを作り、そこに電流を流し込むということはできないかと考えたが、駄目だった。

 イオン化した空気に高圧の電流を流すと、瞬時に空気が加熱され爆発的に膨張するのだ。発動した本人が危険となる魔術は使えない。

 それに強い風が吹いている場合、イオン化した空気の管を保持するのが難しいと判った。


 そこで魔力の伝導線と呼べるようなものを作り出し、その伝導線を敵に打ち込み高圧電流を流し込むという方法を取ることにした。

 初めは魔力の伝導線を発射するのも魔術の中に組み込もうとした。だが、魔術単語の組み合わせで実現できそうにないと分かり断念する。

 そこで魔力の伝導線の発射は、魔術道具に任せることにした。

 魔術道具の機能は単純だった。魔力に電気伝導率を高める効果を付加し、それを糸のように伸ばしながら前方に撃ち出すのだ。


 その魔力伝導糸が敵に張り付いた状態で、【雷翔撃】を発動すると必ず命中するようになった。

 リカルドが実際に作った魔力伝導糸を発射する魔術道具は、アイスピックのような形状をしており、柄の部分には魔術回路と魔力バッテリーが組み込まれ、小さなスイッチが付いている。そして柄の先端には細い魔成ロッドが取り付けられていた。

 リカルドは魔術道具を『雷導ピック』と名付ける。


 一応問題点は解決した。だが、元々【雷翔撃】は初級上位の魔術であり、込められている魔力量も少なく、威力も大したことはない。

 人間に命中しても少しの間麻痺させる程度のダメージしか与えられないのだ。

 その威力を確かめるために、王都の外へ出て試してみた。

 場所はクレム川沿いの森である。リカルドは獲物を探して魔力察知を発動する。頭突きウサギらしい反応があったので、その方向へ行くと頭突きウサギを発見した。

 頭突きウサギに向け雷導ピックのスイッチを入れ、【雷翔撃】を発動する。


ファナ(火よ)ボリュゲム(雷電を生み出し)スパレゼーロ(飛翔せよ)


 雷翔撃が頭突きウサギに命中した時、小さな火花が散った。頭突きウサギは倒れて動かなくなる。

 リカルドが近付いて生死を確かめる。死んではいないようだ。ナイフで止めを刺した。

「【雷翔撃】の命中率は改善されたけど、威力が微妙だな」

 この魔術は、魔獣や人間を捕縛する時くらいしか使えない。

「普通の魔術士には使いづらいな。だけど、守備隊とかだと需要がありそうだ」

 とは言え、守備隊にはほとんど魔術士は居ない。結局、命中率が高くなった【雷翔撃】であっても、遣い手は少ないようだ。


 リカルドは雷の魔術を研究しているうちに、一つ思い付いたことがある。

 魔力を電気エネルギーに変換できるなら、逆も可能なのではないだろうかということだ。もしかすると、電気エネルギーを魔力に変換できるかもしれない。

 それが可能なら、熱エネルギーも魔力に変換可能かも。その可能性に気付いた時、リカルドは身体が震えるほど興奮した。

 熱エネルギーが魔力に変換可能になれば、石炭や薪を燃やして魔力を作り出すことが可能になる。その変換効率が良ければ、魔力は地球における電気のような存在になるだろう。

「面白い」


 リカルドは発表会のことを忘れ、熱魔力変換の研究に没頭した。

 そして、気付いた時には、魔術研究発表会が明後日に迫っていた。

「まずい、発表会を忘れていた」

 大慌てで発表会の準備を始める。人手が足りないので、パトリックとグレタにも手伝ってくれるように頼んだ。

「リカルドがこういう作業を手伝って欲しいなんて、珍しいがね」

「そうですね。リカルド様は慎重で計画性が有りますから、余裕を持って準備していると思っていました」

 パトリックとグレタに言われ、リカルドは少し情けなくなる。

 大きな紙に図を描き、注目して欲しい点を箇条書きにしたものを用意した。


 発表会の当日が来て、リカルドとパトリックは講義堂へ向かう。講義堂の前には豪華な馬車が何台も停められていた。発表を聞きに来た貴族の馬車である。

 講義堂の中では一〇〇人ほどの人が来ていて、ガヤガヤと話をしている。半分ほどは魔術士で、残りの半分は服装から貴族と護衛だと推測できる。

 今日、発表を行うのは五人で、リカルドは四番目だった。

 控室で助手を頼んだパトリックと一緒に待っていると最初の発表が始まった。

 最初の発表者は、長老派のジャンピエロである。彼の発表は複合魔術の系統詞『ファスナル(火と水よ)』を使った新しい魔術だった。

 リカルドが開発した【溶炎弾】の魔術を改良したもので、複数の溶炎弾を同時に発射する魔術だ。


 その発表を聞いていたパトリックが小声で。

「リカルドが開発した【溶炎弾】をちょいと変えただけの魔術だがや。あんなのワイでも思い付くがね」

「こういうのは、早い者勝ちなんですよ」

「リカルドなら、もっと早く発表できたんやないか」

「そういうちまちました研究は好きじゃないんです」

 それを聞いたパトリックが苦笑する。

 リカルドはジャンピエロの発表を聞いていて、拍子抜けした。ジャンピエロは図や箇条書きしたものなどを用意しておらず、論文を読み上げているだけだったからだ。


 ジャンピエロの発表が終わるとパラパラと拍手が起こった。

 二人目の発表者は王権派のライモンドだった。彼の発表は【風】の魔術である【嵐牙陣】を魔砲杖に組み込む場合の研究だった。

 この発表にはリカルドも興味を持った。

「これは力を入れて研究していますね」

 ライモンドの発表が終わると大きな拍手が沸き起こった。


 三人目は大した発表ではなかった。

 発表を聞いていたメルビス公爵は、つまらなそうに横に座っている魔術士アルベルトに声を掛ける。

「今年の発表会も大したことないわね」

「魔砲杖に【嵐牙陣】の魔術を組み込む研究は、参考になると思われますが」

「あれくらいなら、我が領地でも研究しているでしょ」

「ですが、全く同じというわけではありません」

 中級以上の魔術を魔砲杖に組み込む場合、必要とする魔力の制御が難しくなる。エミリアはユナボルタの魔成ロッドを組み込むことで解決した。

 それを知ったメルビス公爵領でもユナボルタの魔成ロッドを集め始めたが、多くは集まらない。


 メルビス公爵はユナボルタの魔成ロッドを作れる職人を育てる計画を立ち上げた。有望な若手の魔導職人を集め魔力量増強を目的とする修行を課したのだ。

 その修業とは、魔獣を狩ることだった。『恩恵選び』で魔力量増強を選択させ、魔獣を仕留めることで魔力量を増やすのだ。

 もちろん、魔導職人だけで行える修行ではない。サポートとして数人の兵士と魔術士を付け、兵士と魔術士が魔獣を弱らせたところで、魔導職人に止めを刺させるのだ。

 この方法で育てている魔導職人は、順調に魔力量を増やしているという報告をメルビス公爵は受けている。

 メルビス公爵とアルベルトの話が終わり、二人の注意が前方に向かう。

 

 リカルドの番となり、パトリックと一緒に壇上に上がった。聴衆の中にグレタと父親であるボニペルティ侯爵の姿を見付け緊張する。

 用意してきた資料を壁に貼り準備が終わると、リカルドの発表が始まった。

「今回、雷の魔術について発表致します」

 それを聞いて、聴衆の中から苦笑する者が現れた。雷の魔術に欠陥があると知っているのだろう。

 リカルドが何故【雷翔撃】の命中率が悪いのか、その考察を発表する。


「【雷翔撃】は、雷と同じで金属や樹などが途中にあると、吸い寄せられるように軌道が逸れてしまいます」

 リカルドが発表している間、パトリックはちょっとした実験を行う準備をしていた。魔術の標的になる革袋に塩水と砂を混ぜたものを入れたサンドバッグのようなものと金属製の帽子スタンドのようなものを持ってくる。

 標的のサンドバッグだけを少し離れた所にパトリックが置いた。

「では、実験してみます。まずは的に向かって【雷翔撃】を放ちます」

 四メートルほど離れたサンドバッグの標的に向かって【雷翔撃】を発動する。これぐらいの距離だと誘引する物がない限り的を外さないのは実験して判っている。

 雷翔撃は標的のサンドバッグに命中し、バチッと音を立てた。その瞬間、サンドバッグの中心に黒い焼け焦げを発生する。サンドバッグからチョロチョロと塩水が漏れ出した。

 パトリックが手際よくサンドバッグにパッチを当て穴を修理する。


 次に標的の傍に金属製スタンドを置き、同じように【雷翔撃】を発動する。雷翔撃は吸い寄せられるように金属製スタンドに命中し、バチッと音を立てた。

「このように、雷翔撃は金属などに吸い寄せられる特性があるのです」

 リカルドは実験により論文の正当性を示しながら、発表を続けた。

「そこで考えたのが、これです」

 リカルドは雷導ピックを取り出し、熱心に聞いている人々に見せた。


 雷導ピックの機能を説明したリカルドは、雷導ピックを使いながら、もう一度【雷翔撃】を発動した。雷導ピックの先から放射される魔力伝導糸は目に見えないが、その先端が命中した部分は赤く光るようになっていた。

 リカルドはサンドバッグに赤い光が現れたのを確認し、【雷翔撃】を発動する。今度は金属棒に吸い寄せられず、サンドバッグの赤く輝いている部分に命中した。

 それを見た人々が歓声を上げた。今まで論文を読み上げるだけの発表ばかりだったので、聞いている人々もリカルドの発表方法は新鮮で楽しかったようだ。


 リカルドが発表を締めくくった後、珍しく質問があった。

「君の研究は面白かったが、実用的ではないように思える。威力の低い【雷翔撃】を少しくらい改良しても使えないのではないかな」

 質問したのは魔術士アルベルトである。

「【雷翔撃】自体は、殺さずに捕縛したい時に使える魔術だと思います。それに命中率が悪いせいで、雷の魔術はあまり研究されてきませんでした。ですが、命中率が改善した今、研究すれば威力を上げることは可能だと思います」

 リカルドの返答を聞いて、魔術士たちの間にざわめきが起きた。

 研究課題として魅力的だと思ったようだ。


 リカルドの発表を聞いたメルビス公爵は、面白そうに笑い。

「あれが噂の王太子の魔術士ね。興味深いわ」

 アルベルトが眉をひそめ。

「普通の魔術士とは違う発想をするようです。厄介な奴ですよ」

 五人目の発表が終わり、最後にイサルコが挨拶をして発表会が終わる。


 グレタとボニペルティ侯爵が来てリカルドに。

「面白い発表だった」

「リカルド様、素晴らしかったです」

 グレタが目をキラキラさせてリカルドを見ている。

 そこにイサルコが来て。

「素晴らしかったぞ」

「ありがとうございます」

 ニコニコしていたイサルコが真剣な顔になり。

「研究の発表を急がせてしまったが、発表して良かったのか?」

「構いませんよ」

「リカルドなら、【雷翔撃】の威力を上げた魔術についてアイデアがあったのじゃないのか。それと一緒に今回の発表をすれば、もっと素晴らしい論文となったんじゃないかと思ったのだ」


 リカルドの発表に触発され、他の魔術士が雷の魔術を研究し成果を上げるのではないか、本来リカルドの手に入るはずだった栄誉を奪われるのではないかとイサルコは心配したらしい。

「そんなものは、どうでもいいくらいのアイデアが閃いたんです」

 リカルドの言葉にイサルコは目を見開き、大言壮語することがないリカルドが、ここまで言うのなら本当に凄いアイデアなのだろうと思った。

「それは楽しみだな。それは論文として発表するのか?」

 リカルドは少し悩み否定する。

「いいえ、当分は発表しません」

「特別なものらしいな」

「ええ、完成したら、イサルコ理事には知らせます」


 発表会が終わり、リカルドは熱エネルギーを魔力に変換する魔力炉の開発に熱中した。

 リカルドも単なる閃きだけで魔力炉が開発可能だと思ったわけではない。魔境の研究所で手に入れたブラックプレートを調べて増えた知識の中に、魔力炉のヒントがあったのだ。

 そのヒントというのは、ブラックプレートの中に創世記のような形で書かれていた。世界を作り上げた種族は天神族と呼ばれているようだ。その天神族は世界に魔術を与えようと考えたらしい。

 まずは大気中に魔力を充満させようと考え、各地の火山の近くに魔力を作り出す装置を設置したそうだ。

 だが、それらの装置は大規模な天変地異で破壊される。残されたのは装置の破片である煌竜石だと記述されていた。


 その装置というのは巨大な煌竜石の塊であり、天神族は巨大煌竜石の内部に魔術回路のようなものを刻んで、魔力発生装置としたのではないかとリカルドは推測している。

 そして、火山の近くに設置したのは地熱を利用していたからではないかと考えた。

 リカルドはブラックプレートから学び取った因子文字の知識を使い、熱魔力変換魔術回路を作り上げようと試行錯誤する。

 手持ちの煌竜石にエミリア工房で学んだ技術を使って魔術回路を刻み込み、試してみた。

 だが、すぐには上手くいかなかった。そのうちに手持ちの煌竜石が切れ、新たに手に入れなければならなくなった。


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