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scene:74 災厄の胎動

感想と評価を頂きました。

楽しく読ませて貰っています。ありがとうございます。

 祭りが行われた王都中央広場では、後片付けが始まっていた。

 串焼きとシチューを作っていたテント以外が片付き、昼頃になる。

 ベルナルドがミラン財閥本家から戻り、休憩するよう伝えた。

「料理人の方は、少し手伝ってもらえませんか」

 リカルドが料理人を集め、昼食用の料理を作り始める。材料は巨頭竜の内臓もつと余った野菜だ。

 巨大な肝臓や心臓が切り分けられ、串に刺されると炭火で焙り始める。

「これは贅沢ね。貴族様でも食べたことはないんじゃないの」

 女性料理人のラヴィーナが声を上げた。四〇歳ほどの逞しい女性で、魔獣が王都に現れた時に店を焼かれ苦労している人物だった。

「そうなの?」

 ジュリアが尋ねた。

「ええ、モツは傷みやすいので、魔境でしか狩れないような魔獣のものは、王都では滅多に食べられるものじゃないのよ」

「さすが料理人、食材については詳しいですね」

 モツの串焼きが焼き上がり、皆に配られた。

「こいつはうめえ!」

「癖があるけど、なんて濃厚な味なの」

 美味しいと言う皆の声を聞き、ベルナルドとリカルドも串焼きを食べ唸った。

「んー、美味しいですね」

「本当に。こっちの方がステーキより高く売れたかもしれません」

 串焼きだけでなくシチューも作られ配られた。このシチューも好評だった。


 祭りの後片付けも終わり、リカルドはユニウス飼育場へ向かう。

 魔境で手に入れた神珍樹の枝を、妖樹クミリに接ぎ木してみようと考えたのだ。

 飼育場では、アントニオが魔術を使って妖樹クミリを種から小さな妖樹へと育てていた。その周りにはダリオ、エリク、フレッドの三人が居て、熱心に見学している。

「凄い、アントニオ様も一流の魔術士だったんですね」

 種から玉ねぎ大の妖樹クミリにまで一気に大きくなったのを見て、ダリオが称賛の言葉をアントニオに贈る。

「馬鹿言うな。これくらいは、ちょっと魔術を囓れば誰でもできるようになる」

「俺たちもできるようになりますか?」

 エリクが尋ねた。アントニオが肯定すると、ダリオたちは嬉しそうな表情を浮かべる。


「兄さん、元気がいい妖樹クミリを三体捕まえてくれないか」

 アントニオは近付いてくる弟を見て尋ねる。

「祭りの後片付けは終わったのか?」

「終わったよ。昼飯に巨頭竜のモツを食べたんだけど、凄く美味しかったんで、少し残して持ってきたから、夕食の時に出すよ」

「へえ、そいつは楽しみだ」

 リカルドとアントニオが話をしている間に、ダリオたちが妖樹クミリを飼育している区画へ行き、三体捕獲して持ってくる。

 それを受け取ったリカルドとアントニオは、ロマーノ棟梁に注文して作ってもらった接ぎ木小屋へ入る。

 今のところ、この小屋に入れるのはリカルドとアントニオの二人だけになっている。つまり、接ぎ木のやり方はリカルドとアントニオだけが知っているのだ。


 二人は妖樹クミリに神珍樹の枝を接ぎ木した。

 シュラム樹の枝を接ぎ木した時は、のそのそという感じで、すぐに歩き出したのだが、神珍樹の枝を接ぎ木した妖樹クミリは、明らかに様子がおかしかった。

「妖樹クミリと神珍樹の組み合わせは、駄目なのか?」

 アントニオが眉間にシワを寄せて動かなくなった妖樹クミリを見つめる。

「二、三日様子を見ようか。駄目な時は妖樹トリルを育てて試してみよう」

 リカルドは何度でも挑戦するつもりだった。

 妖樹に接ぎ木した神珍樹の枝から樹実晶が実れば、飼育場の大きな資金源となるからだ。

 後日、神珍樹の枝を接ぎ木した妖樹クミリは、死んでしまった。神珍樹の枝の方が生命力が強すぎて、妖樹クミリでは耐えきれなかったようだ。



   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 魔境クレブレスには、九つの魔境門が存在する。第一魔境門から第四魔境門は、王家直轄地であるヨグル領とミル領にあり、最後の第九魔境門は王都の北、ベルーカ山脈を越えた向こう側にあるアプラ領にある。

 アプラ領はアプラ侯爵家が支配する領地で、グレタの父親が領主を務めるボニペルティ領の西隣に存在した。

 その第九魔境門に厄介な魔獣が現れた。

 熊喰い鷲と呼ばれる魔獣で、体長四メートル、翼を広げると九メートルになる大怪鳥だ。普段は魔境の深層を住処としている鳥型魔獣なのだが、第九魔境門へ突然現れ兵士たちを攻撃した。

 門衛隊の指揮官は魔術士を急いで呼んだ。

 アプラ侯爵の家臣である魔術士五人が駆け付け、熊喰い鷲と相対する。

「あ、あれは熊喰い鷲ではないか」

 魔術士の中で年長のニッコリーノが、少し怯えを含んだ声で言った。


『ケギョオオオオオーー!』


 大怪鳥が凄まじい咆哮を上げた。

 魔境門の付近に居た魔獣が、その声を聞いて逃げ出す。それほどの力を秘めた咆哮だ。魔境門を守っていた兵士や魔術士も本能が逃げ出せと叫び始め浮足立つ。

「ひ、怯むな。魔術で攻撃するぞ」

 ニッコリーノが指示を出した。

 魔術士たちは自分が持つ最高の魔術を放つ準備を始める。一人は【嵐牙陣】、別の一人は【九天裂風】。そして、ニッコリーノは上級魔術【砕崩炎】を選択した。


 魔術の巻き添えを食いそうな兵士たちは逃げ出す。

 追い掛けようとする熊喰い鷲に、【嵐牙陣】が襲い掛かる。十数もの風の刃が巨大な鳥に命中したが、全くダメージを与えられなかった。

 次々に魔術師たちが放った魔術が熊喰い鷲に命中するが、【砕崩炎】以外はほとんどダメージを与えられない。【砕崩炎】は三方から滝のような炎が降り注ぐ魔術だ。砕崩炎は特別製で空気より重い、通常の炎は吹き上がるものだが、【砕崩炎】は溶岩のように落下し下にある物を破壊しながら燃える。


 【砕崩炎】は熊喰い鷲に恐れを抱かせたようで、翼の一部が燃えると叫び声を上げて飛び立った。

「まずい、ベルーカ山脈の方へ逃げたぞ」

 兵士たちは熊喰い鷲が魔境ではなく、南にあるベルーカ山脈へ向ったのを見て危惧を覚えた。ベルーカ山脈にも魔獣が住んでいる。熊喰い鷲ほど強い魔獣ではないが、それぞれがテリトリーを持ち一定の秩序が形成されている。

 そこに熊喰い鷲ほどの大物が乱入すれば、秩序が崩壊し魔獣が山から下りてくるかもしれない。


 それから一〇日ほどは何事も起きなかった。

 だが、十一日目。ベルーカ山脈近くの村に山賊ウルフの群れが襲い掛かった。熊喰い鷲から逃げ出した山賊ウルフの群れが、獲物を探し回り村を見付けたようだ。

 最初はアプラ侯爵の配下である兵士や魔術士が撃退していたが、山賊ウルフの次は鎧山猫、その次は牙猪というように山脈から下りてきた魔獣が領地を荒らすようになった。

 兵士や魔術士の中から死傷者が出るようになる。

 魔境門付近にも兵力が必要なので、アプラ侯爵家だけでは対応が難しくなり、メルビス公爵に支援を願い出た。

 王家ではなく、メルビス公爵だったのは仲の悪いボニペルティ侯爵家が王家と親交が深かったからだ。

 当代のアプラ侯爵は、学生時代からボニペルティ侯爵と張り合う仲であり、領主となってからも領地の境付近で小競り合いを起こしていた。


 アプラ領へ、メルビス公爵家の魔術士アルベルトと十数人の魔術士が来た。

「おお、よく来てくれた」

 笑顔でカヴァリエ・アプラ侯爵が出迎える。

「相手は熊喰い鷲だそうですね」

「そうだ。厄介な相手だが、メルビス公爵家の魔術士なら大丈夫だろう」

「分かりました。全力を尽くします」


 アルベルトは詳しい状況を聞いてニヤリと笑った。

「この状況は使えそうだ」

 熊喰い鷲が住み着いた山を調べたアルベルトたちは、アプラ侯爵に一つの提案をした。

「なんだと……山に火を放つのか」

 アルベルトは熊喰い鷲を撃退するために、ベルーカ山脈の山を焼き払うと言う。

「足場の悪い山の中で、熊喰い鷲を仕留めることは困難。なので、奴をベルーカ山脈の向こう側に追いやります」

「しかし、それだと王都の方に」

 アルベルトが薄笑いを浮かべ。

「構わないではないですか。王領には宮廷魔術士や優秀な兵士がいます。彼らが仕留めてくれるでしょう」

 アプラ侯爵は薄笑いを浮かべる魔術士の話を聞いて、背筋にゾクリと寒気が走った。

 メルビス公爵は王家に敵対する意志をはっきりさせたのだ。巻き込まれるかもしれないと気付いた侯爵は、メルビス公爵家に支援を求めたことを後悔した。


 その数日後、山が燃えた。山の中腹まで登った兵士と魔術士が一斉に火を放ったのだ。

 魔獣の多くが逃げ惑い山頂を越え王領側へと追いやられる。

 火事に気付いた熊喰い鷲は、一度だけ魔境の方へと戻ろうとした。だが、アルベルトは巧みに魔術士たちを配置しており、戻ろうとする熊喰い鷲に向け魔術を放ち、ベルーカ山脈の向こう側に追い立てる。

 火を嫌った大怪鳥は、魔境へと戻ることを諦め山頂を越えた。

 ベルーカ山脈から立ち上る炎と煙は、王都からも見え王都民の間で何だろうと話題に上がる。


 ベルーカ山脈から上がった炎と煙の原因が王都に知らされた頃、ベルーカ山脈に水源を持つクレム川沿いで、魔獣と遭遇する者が増えた。

 その状況を重大視した王都の官僚からは、早めに手を打つべきと意見が議論となり始める。その意見を聞いたアウレリオ王子の取り巻きが、

「殿下、これはチャンスかもしれませんぞ」

 巨頭竜を倒し名を上げた王太子のように、王子も熊喰い鷲を倒し王都へ凱旋すれば、王太子以上の声望が得られると王子の取り巻きが囃し立てたのだ。


 アウレリオ王子は自分の力を過信する愚か者ではなかった。王子本人や取り巻きたちだけでは熊喰い鷲を倒せないと考え、優秀で屈強な部下が必要だと計算する。

 ガイウス王太子と同じように人材を探し始めた。但しガイウス王太子と関連する人材は、初めから除外した。

 除外した人材の中には、イサルコやリカルド、銀嶺団も入っている。

 優秀な魔獣ハンターパーティとして『雷嵐の守護者』と『青狼戦士団』を雇用し、数人の魔術士も雇った。

 その中で、アウレリオ王子が一番頼りとしたのが、宮廷魔術士長ヴィットリオの長男サルヴァートである。


 王子に呼ばれ王城に登城したサルヴァートは、アウレリオ王子の私室に案内された。私室と言っても四部屋が内部で繋がっている城の一角で、その中の応接室のような使い方をしている部屋に通される。

「殿下、ベルーカ山脈に魔獣狩りに行くと聞きましたが、獲物は熊喰い鷲でございますか?」

「そうだ。放置すれば王領の領民が犠牲を払うことになる。それを防ぐには責任ある者が勇気を出して立ち向かう必要があるのだ」

 サルヴァートはアウレリオ王子と同年代の少年である。父親である宮廷魔術士長の下で魔術の研鑽に励んでおり、宮廷魔術士長と同じく【火】と【風】の魔術を得意としている。


 アウレリオ王子の言葉に、何か浮ついたものをサルヴァートは感じた。領民のためと言っても、王子自身の利害のために魔獣狩りに行こうと考えているのかもしれないとサルヴァートは推測する。

 ただ、それでもいいとサルヴァートは思った。それが庶民の安全に繋がると考えたからだ。

 サルヴァートは、王家や貴族の駆け引きや政治に関心はない。だが、最近の王家、特にガイウス王太子の行動には興味を持った。

 新しく開発された魔術武器を兵士に持たせ魔獣を撃退していることだけでも興味深く、魔境の奥への探索行には同行したかった。


「サルヴァート、熊喰い鷲を倒すためには、何が必要だと思う?」

「大勢の魔術士を揃えられれば一番いいのですが、難しいでしょう」

「当たり前だ。一人の魔術士を雇うだけでどれほどの費用が掛かるか、知っているであろう」

 宮廷魔術士長の息子であるサルヴァートは、王家が宮廷魔術士団を維持するのに、どれほどの財力をつぎ込んでいるか知っていた。

 宮廷魔術士は技量を維持するために、高い触媒を使って魔術の練習をしているので、兵士などより金が掛かる。王子が使える資金は、王家財務官が管理しており無限ではないのだ。

「ならば、魔砲杖を購入し砲杖兵士団を組織するのが、良いのではないでしょうか」

「砲杖兵士団だと……兄上の真似ではないか」

 ガイウス王太子が魔砲杖を兵士に装備させ、魔獣撃退に成果を上げた事実が広まり、魔砲杖を装備している兵士を『砲杖兵士』と呼び、最上級の兵士だと認識されるようになっていた。


「殿下、それが真似であっても有効な戦術なら取り入れるべきです」

「う~む……しかし、最上級の魔砲杖が作れるのは、兄上と関係が深いエミリア工房だ。余に協力してくれるだろうか?」

「領民のためになる仕事です。嫌がるはずはありません」

 翌日、アウレリオ王子とサルヴァートは護衛兵士を引き連れ、エミリア工房を訪ねた。


 工房の表で掃除をしていた弟子の一人が、いきなり訪ねてきた王子に気付き慌てる。

「こ、工房長、で、殿下がいらっしゃいました」

 その時、エミリアはリカルドから新しい魔砲杖について相談を受けていた。

「殿下だと、王太子様がいらっしゃったの?」

「ち、違います。アウレリオ殿下なんです」

 エミリアは何の用だろうと首を傾げてから迎えに出た。

 アウレリオ王子を目にしたエミリアは、丁寧に挨拶をしてから用件を尋ねる。


「新しい魔砲杖が欲しいのだ」

「どのような魔術を組み込んだものでしょうか?」

「【地】の中級上位魔術【鋼矢散弾】を組み込んで欲しい。数は一〇丁だ」

 その依頼にエミリアは頭を抱えそうになる。今までに作った魔砲杖で最高の威力を持つのが、中級下位の魔術を組み込んだものなのだ。

 エミリアは正直に中級下位魔術までしか組み込んだ実績がないと伝えた。

「【鋼矢散弾】を組み込むのは、不可能だと言うのか?」

 不可能かと訊かれると可能性はあると答えるしかなかった。現に、リカルドから同じ中級上位魔術【雷渦鋼弾】を組み込んだ魔砲杖が作れないかと相談を受けていたところだからだ。


「可能性があるのなら、まず試すべきだろう。そうではないか」

 王子から、そう言われると断るわけにはいかなくなる。

「分かりました。可能かどうか試してみましょう」

 王子たちが去っていくのを見送ったエミリアに、リカルドが近付き。

「【雷渦鋼弾】の魔砲杖を試作する余裕はなくなったようですね」

「済まない」

「いいんですよ。王太子との約束ですが、期限を切られているわけではありませんから」

「相談なんだが、【雷渦鋼弾】の魔砲杖に使う予定だった魔成ロッドを譲ってくれないか」

 中級上位魔術を組み込む魔砲杖には、二級の魔成ロッドが必要だと判っていた。リカルドが使っているデスオプロッドと同じ等級の魔成ロッドであり、纏まった数を入手するのは困難だ。

「いいですよ。二級の魔成ロッド一〇本ですね」

「用意できるのか……ありがとう」


 リカルドはアウレリオ王子が値段の交渉を一切しなかったことを思い出した。

 それをエミリアに尋ねると。

「王家の方々からの注文は、そんなものさ。後で王家財務官と交渉するんだよ」

 王家財務官は手強い交渉人で、泣きたいほど値切ってくるらしい。

「それは大変ですね」

「そうなんだ。初めからお金を用意してくれるのは、王太子様くらいだよ」

 王太子は自分の持ち物や魔境で仕留めた魔獣の素材を売ったりして、独自の財源を持っているらしい。


「【雷渦鋼弾】の魔砲杖は、自分で試作したらどうだい」

 エミリアがそんな提案をした。

「自分でですか……やってみます」

 リカルドがエミリアから技術を学び始めて一年が経つ。職人の修行期間として一年は短いが、リカルドの魔導職人としての技量は、エミリアが驚くほど上達していた。


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