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scene:70 なんちゃって複合魔術

「ご苦労、見事だったぞ」

 王太子が兵士たちにねぎらいの言葉を掛けた。

 その後も遭遇した魔獣を兵士たちと魔術士以外の魔獣ハンターが倒し、浅層と中層の境目辺りまで到達。

 王太子が触媒の消費を考え、魔術士に戦闘を控えさせた結果である。リカルドとしては楽で良かったが、銀嶺団のメンバーが戦っている近くで、見守っているだけというのは申し訳ない気分になる。

 この日、リカルドは頭突きウサギ一匹を魔成ロッドで仕留めただけで終わった。


 魔境に夜が迫っていた。樹木が途切れ、少し空き地となっている場所に出る。

「殿下、この辺で野営の準備をしませんか」

 兵士の提案に王太子が頷き、野営の準備が始まった。

「リカルド、例のものを持ってきたのであろうな」

「はい、用意しました」

 リカルドは平らな地面を探し、収納碧晶からコンテナハウスを取り出した。

 いきなり大きな鋼鉄製の箱が出てきたので、兵士や魔獣ハンターたちが驚く。

「何だ、それは?」

 銀嶺団のアメディオがリカルドに問い掛けた。

「野営用の宿泊設備です」

 リカルドはもう一つコンテナハウスを取り出した。

 王太子から魔境探索の依頼が来た時、リカルドはコンテナハウスを作っていると王太子に伝えた。王太子なら興味を持つだろうと思ったからだ。

 案の定、王太子は自分用のものが欲しいと言い出した。急遽、もう一つ作ってくれとガロファロに依頼。初めは渋っていたが、依頼主が王太子だと知ると全力でやると言ってくれた。


 完成したコンテナハウスは、ほとんど同じものである。ただ塗装に使われている塗料が違っていた。王太子用は濃い紫、リカルド用は濃い緑色である。

 どちらも夜間に目立たない色だ。

 入り口はトイレとは反対側の壁と天井にあり、魔境などでは天井の入り口を使うのがお勧めである。

 リカルドは王太子を案内し、コンテナハウスに入った。紫色の小さな扉を開け中に入ると、右側に小さなクローゼット、左側に寝台が置かれている。

「狭いな」

 王太子が独り言のように呟く。

「収納碧晶に入るサイズという制限がありますので、仕方ありません」

「ふむ、贅沢は言えぬか」

 納得してくれたようだ。

 トイレとシャワーを見せると。

「水はどうしているのだ?」

 リカルドたちは壁に取り付けてある梯子を登り、天井の入り口からコンテナハウスの屋根に出た。

 丁度トイレとシャワー室の上に水のタンクがあり、水は屋根の上にあるハッチを開け、そこから注入するようになっているのを説明した。

「ただ水にも限りがありますので、手早く身体を洗うように心掛けてください」

「まあ、当然のことだな」

 王太子は少し残念そうである。顔に似合わず綺麗好きなのかもしれない。


 少し休むという王太子を残し、リカルドは外に出た。モンタが背負袋から出て、コンテナハウスの上に登る。狭い場所でジッとしていたので我慢できなくなったようだ。

「モンタ、危険な魔獣がいるから、気を付けろよ」

「大丈夫、モンタ ノ 耳ハスゴイ」

 

 収納碧晶からシャベルを出し、アメディオたちに手伝ってもらいトイレの外側に深い穴を掘る。

「なあ、リカルド。中はどうなっているんだ?」

「小さな部屋というだけですよ」

「ちょっと見せてくれよ」

「ええ」

 リカルドは自分のコンテナハウスに銀嶺団を招待した。

 二段ベッドやトイレ、シャワー室を目を細めて見物する。

「すげえな。こんな部屋を持ち歩いているんだ」

 槍使いのブルーノが溜息を吐く。


 リカルドは銀嶺団のメンバーに。

「必要な時は、トイレやシャワーを使っても構いませんよ」

「ええっ、本当に!」

 唯一の女性メンバーである魔術士のマリベラが喜んだ。女性はトイレなどで苦労しているようだ。

 コンテナハウスの前に、焚き火の炎が上がっている。

 兵士たちが、今日仕留めた牙猪の肉を捌いていた。彼らにばかり仕事をさせるのは悪いので、料理を一品作り始める。

 持ってきた根菜を大きめに切ってから、干し昆布を敷き水を入れた大きな鍋を火に掛ける。出汁を取った昆布を取り出し、切った根菜とウサギ肉の細切れを入れて煮る。

 灰汁を丁寧に取ってから、塩と魚醤で味を調えた。


「何だか美味しそうな料理ですね」

 マリベラが声を掛けてきた。

「簡単な料理ですよ」

「初めに煮ていた奴は食べないの?」

「あれは出汁を取るために入れていたもので、食べません」

 リカルドが作ったウサギ肉と根菜のスープは、王太子を始めとする皆に振る舞われ好評だった。


 その夜は王太子を除く全員が、交代で見張り番をすることになる。

 リカルドはもう一つの二段ベッドを収納碧晶から出し、コンテナハウスで四人が寝られるようにした。

 唯一の女性であるマリベラとリカルドは二段ベッドの一つを優先的に使い、もう一つの二段ベッドは交代で使うようだ。

 季節は夏だが、魔境の夜は涼しくなる。網戸を備えた格子付きの窓から風が入って気持ちいい。用意した敷き布団と毛布は普通のものだ。それでも野外で寝るのに比べれば雲泥の差である。

 網戸が有るので虫が入ってこないし、安心感がある。

 翌朝、見張り番だったアメディオが起こしに来るまで、リカルドは熟睡していた。身体から昨日の疲れが消えている。コンテナハウスを作ったのは正解だったようだ。

「はあ、魔境の中で熟睡したなんて、初めてよ」

 マリベラの声がコンテナハウスの中に響いた。


 目覚めたリカルドたちは簡単な食事を済ませ、コンテナハウスを収納碧晶に仕舞うと出発した。

「あのコンテナハウスはいいな。野営地とは思えないほど快適に眠れたぞ」

 王太子もコンテナハウスに満足したようだ。

 魔境の奥へと進み、三〇分程歩いた頃、背負袋から半身だけを出したモンタが警告する。

「アッチ 危険ナ奴 イル」

 その声で全員が身構えた。現れたのは、大蛇蜘蛛だった。

 胴体の長さが二メートルもあり、蜘蛛の頭があるはずの場所に大蛇の頭が付いている魔獣である。


「気を付けろ、こいつは口から毒を吐くぞ」

 アメディオが警告の声を上げた。

 一目ひとめで妖樹エルビルクラスの魔獣だと判った。兵士たちが振るう剣や槍では倒せない魔獣である。

 もちろん、【風】の魔彩功銃があっても仕留めることは難しいだろう。

「魔彩功銃で時間を稼げ、その間に魔術の準備だ」

 王太子が指示を飛ばす。


 兵士たちが大蛇蜘蛛に向かって魔彩功銃の引き金を引く。

 衝撃波が蜘蛛の胴体に当たった。だが、頑強な外殻はそれを弾き返す。別の魔彩功銃から放たれた衝撃波が頭の部分に命中した。

 細かい鱗が弾け飛びダメージを与えたようだ。けれども、大蛇蜘蛛は前進してくる。

「頭だ。頭を狙え!」

 衝撃波が連続して大蛇蜘蛛の頭を揺らす。その攻撃を嫌った大蛇蜘蛛が立ち止まって、ジジジッと奇妙な叫び声を上げた。


 最初にマリベラが【崩水槍】の魔術を放った。水の刃が生まれ回転し渦を巻きながら、大蛇蜘蛛に襲い掛かる。

 水の刃は蜘蛛の背中に命中した。だが、装甲を削り切れずに霧散する。

 大蛇蜘蛛の防御力が、相当高いと判明。

 他の魔術士二人が【嵐牙陣】と【滅裂雨】を放つ。【風】の魔術の中で中級魔術に属するものだ。十数本の風の刃が大蛇蜘蛛の頭を切り裂き、衝撃波の塊が雨のように蜘蛛の全身に叩き付けられた。


 大蛇蜘蛛が頭から血を流している。かなりのダメージを負ったようだ。

 王太子が魔功ライフルを取り出し、奴の頭を目掛け引き金を引く。衝撃波が発生したことで空気が鳴る。特大の衝撃波は蛇のような頭に命中し引き裂いた。

 息絶えた大蛇蜘蛛を見て、王太子が皆に声を掛ける。

「よくやった」

 王太子は魔功ライフルを手に持ったまま、リカルドの傍に来て。

「なあ、リカルド。こいつをたくさん揃えられたら、無敵の軍勢ができると思わんか?」

 リカルドはどういう意味だろうと考える。

「しかし、特大の魔功蔦は簡単に手に入りません」

「……世の中、上手くいかんものだ」

 大蛇蜘蛛の死骸は、王太子が収納碧晶に仕舞う。


 その場で少し休憩する。

 モンタが背負袋から這い出し、近くの木に登り始めた。

「どうした。何か見付けたのか?」

「コレコレ 美味シソウナ 木ノ実」

 サクランボのような木の実を見付けたモンタが、はしゃいで木の実を集めている。モンタは魔境の魔獣を恐れていないようだ。

 集めた木の実を収納紫晶に仕舞ったモンタが戻ってきて、三個だけリカルドに渡した。

 モンタは食べられない木の実が判るようなので、信用して食べてみる。

「美味しい」

 見た目もそうだが、味もサクランボだ。

 モンタは『ドウゾ』と言いながら、一個ずつ木の実を皆に配った。皆は笑いながら受け取っている。


 それから二度、大蛇蜘蛛と遭遇した。三匹目の大蛇蜘蛛は、リカルドが【地】の魔功ライフルで仕留めた。

 一番効率が良い倒し方は、兵士たちの魔彩功銃と王太子の魔功ライフルで大蛇蜘蛛の動きを止め、リカルドの魔功ライフルで止めを刺すことだと判った。

 大蛇蜘蛛の他にも樹咬トカゲや斑大猪とも遭遇した。王太子は、これらの魔獣を魔術士に任せる。

 風斬ハンターの魔術士二人は、【風】の魔術を得意としているらしい。【地】や【火】に比べると攻撃範囲が広く使い勝手のいい魔術だが、威力が劣るという欠点がある。

 脅威度4の大蛇蜘蛛までならダメージを与えられるが、それより強い魔獣と遭遇した場合戦力不足となる可能性がある。


 そんな心配をしていると、呼ばれたかのように双角鎧熊が現れた。

「ここは、自分の魔術で……」

 リカルドが前に出ようとした時、【風】の魔術を得意とする二人が止める。

「待て、お前のような小僧の出る幕じゃない」

「そうだ、俺らに任せとけ」

 魔術士二人が同時に【嵐牙陣】を放つ。

 閃く風刃の暴風が双角鎧熊を襲う。双角鎧熊は避ける素振りも見せず立ったまま魔術を受け止めた。

 凶悪な魔獣はダメージを受けた様子もなく、二人の魔術士を睨み付ける。

「クッ、駄目か。こうなれば、兄貴」

「おう、俺たちの切り札を出すぞ」

 ノリノリで声を上げる二人の魔術士。

 王太子が大丈夫なのだろうかと心配そうに見ている。


「行くぞ、俺らの複合魔術だ」

 複合魔術と聞いて、リカルドは目を見開き、観察を始めた。

 二人の魔術士が同時に呪文を唱え始めたので、どんな呪文なのか聞き取れない。

 風の竜巻と水の渦が現れ、それが一つに合わさると双角鎧熊に向かった。風と水の渦が双角鎧熊に衝突し、地上から巨体を持ち上げ、回転に巻き込んだ。

「おお~っ」

 見ている兵士たちの間から歓声が上がる。


 風と水の渦が消え、ドサリと双角鎧熊が地面に落とされた。熊の体には傷跡もなく血も流れていない。

 双角鎧熊はすっくと立ち上がった。

「あれっ、兄貴。熊の奴、目も回していねえようだぜ」

「チッ、それはまずいんじゃねえか」

 怒った双角鎧熊は、二人の魔術士に突進すると強力な手で薙ぎ払った。

「「ぎゃああーーーーー」」

 二人の魔術士が宙を飛んだ。

 呆然と見ていたリカルドは、あんなのは複合魔術じゃないと心の中で叫んだ。


 王太子も何とも言えない表情を浮かべ、二人の魔術士が飛んで消えた方向を見ている。

「あっ、殿下ご指示を」

 兵士の一人が声を上げた。

「そ、そうだな。リカルド、任せる」

 王太子は双角鎧熊を倒した実績のあるリカルドに任せた。


 リカルドは何だか戦意を持っていかれるというか、気勢をそがれ脱力感を味わっていた。

 それでも目の前に敵がいる。

 何とか気力を掻き集め、【雷渦鋼弾】の魔術を放った。

 銀色に輝く鋼の粒が空中に現れ、高速で回転を始める。そして、紡錘形の塊となったものが、バチッと音を発し火花を飛び散らせ高速で前方へ飛翔した。

 雷渦鋼弾は双角鎧熊の胸に命中すると電流を熊の巨体に流し込む。動きの止まった熊の肉体を鋼鉄粒の渦が削り取って穴を穿つ。

 双角鎧熊の胸に大きな穴が開き、その巨体が倒れた。


 リカルドの魔術は素晴らしい威力だったのだが、皆の記憶には飛んでいった二人の魔術士の姿が焼き付いていた。

 双角鎧熊が倒れた途端。

「二人を探せ、生死を確かめるのだ」

 王太子の命令で二人の魔術士を探す。───生きていた。

 二人とも重傷だ。魔境探索を続けることは無理だと判るほど。

 同じパーティの二人が、魔境探索から抜けさせてくれと王太子に頼んだ。魔術士二人を担いで帰りたいと言っているのだ。


 王太子は厳しい顔をして考えている。魔獣ハンター四人が抜ければ、魔境探索の成功が難しくなると考えているのだろうか。リカルドは王太子がどういう決定を下すか待った。

「まずは野営に適した場所を探せ」

 王太子の指示で、五分ほど歩いた場所に野営することになった。

 後ろに小さな岩山がある場所で、前方から近付く魔獣にだけ気を付ければいい。

「コンテナハウスを出してくれ」

 王太子に言われコンテナハウスを出す。負傷した二人を中に運ぶように指示され、ベッドに寝かせた。王太子が使っていたベッドである。二人を並んで寝かせるだけの広さがぎりぎりあった。

 それからできる限りの治療を行った。

「このコンテナハウスを貸してやる。風斬ハンターの四人は、我々が戻るまでここで待て」

 王太子が風斬ハンターのメンバーに命じた。剣士二人は感激し膝を突いて礼を言う。

 何故かコメディアンのような魔術士二人を、王太子は気に入ったようだ。


 ここで一泊したリカルドたちは、翌朝早く出発した。

 その後、二日掛けて中層と深層の境目辺りまで到達。途中、危険な魔獣に遭遇する度に【雷渦鋼弾】を使って撃退した。

 王太子とマリベラが興味を示したが、簡単に教えるわけにはいかない。リカルドにとって切り札の一つなのだから。


 その建造物を見付けた時、リカルドは場違いなものに遭遇したと正直思った。

 金属製のドーム型建物が、そこに在る。この国の科学技術とかけ離れた存在だ。

 入り口らしい扉には、ディスプレイだとしか思えないものが嵌め込まれており、その扉にリカルドたちが近付くと、ディスプレイらしきものに文字と図形が浮かび上がった。



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