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scene:58 妖樹の群れと王太子

 今度の旅にもモンタが付いていきたいと言うかと思ったが、アスカリ火山への旅で少し疲れたようで留守番をするそうである。賢獣とは言え、まだまだ成長途中で体力がないようだ。

 銀嶺団の皆と世間話をしている間に、乗合馬車はヨグル領の領都ヤロに到着した。

「リカルドさんは、ヤロでの宿は決まっているのかい?」

 銀嶺団のアメディオが尋ねた。

「いえ、決まっていません」

「だったら、『ゆるゆら旅館』にしませんか。俺たちの常宿なんです」

 リカルドはどこでも良かったので、アメディオの勧めに従い『ゆるゆら旅館』に向かった。

 アメディオによると安い宿代の割に美味しい料理が出るらしい。

 『ゆるゆら旅館』は木造二階建てのがっしりした建物だった。魔獣ハンターや行商人をターゲットにしているらしく、一階の食堂には魔獣ハンターらしい人物や商人などが多かった。

 部屋を取った後、リカルドはアメディオに買い物に行くと伝えてから、一人で外に出た。


 魔境から採れた素材を扱っている店を探し、紫玉樹実晶を購入した。紫玉樹実晶が収納紫晶になると知られたため、値上がりしている。

 前は金貨一枚程度だった紫玉樹実晶が金貨三枚ほどに相場が上がっていた。

 ちなみに紫玉樹実晶を収納紫晶へ加工する方法は世間に知られていない。大勢の魔導職人が試してみたのだが、駄目だったようだ。

 収納碧晶を製作している有名な魔導職人も試したと聞いているが、失敗したらしい。

 成功させるには、加工する時に魔力を圧縮し針のように細くしたもので魔操刻を行う必要があるのだが、魔導職人達は収納碧晶と同じような要領で魔操刻を行うので失敗するようだ。

 とは言え、紫玉樹実晶を魔操刻するには大量の魔力が必要なので、そのコツが判ったとしても成功するかどうかは判らない。


 紫玉樹実晶を二十六個手に入れた。

 リカルドが紫玉樹実晶を買ったのは、資金稼ぎのためである。ちょっと作りたいものがあり、紫玉樹実晶を収納紫晶か冷蔵収納紫晶に加工し、資金を稼ごうと考えたのだ。

 妖樹タミエルの群れを倒し多数の魔功蔦が手に入れば、魔功銃を作製し資金を手に入れられる。だが、鋼鉄サソリの毒が本当に妖樹タミエルに効くのかどうかは試してみないと判らないとリカルドは思っていた。

 ローランド教授の情報がどこまで信用できるものなのか判らず、確実な情報とは言えなかったからだ。


 翌日、ヤロを出発したリカルドたちは第二魔境門へ向かった。

 第二魔境門へ向かう途中には、王太子が滞在しているヨグル城砦が在った。その城砦の横を通り過ぎた時、一人の兵士から呼び止められた。

「お待ちください。魔術士協会のリカルド殿ではありませんか?」

 城砦から周囲の見回りに出てきた王太子の部下の一人が、リカルドを目にして呼び止めた。

 リカルドは呼び止めた兵士を見て首を傾げたが、何となく顔に見覚えがあったので、王太子の部下ではないかと推測した。

「はい、そうです」

「やはり。ちょっとお待ちください。王太子殿下にお知らせしてきます」

 リカルドはしまったと思ったが、待てと言われたのだから待たないわけにはいかない。

 銀嶺団のメンバーが不審げな顔をしている。代表してアメディオが質問した。

「リカルドさんは、王太子殿下と知り合いなのか……いや、なのですか?」

「そうですが、自分は全然偉くないので普通に話してください」

「しかし、王太子殿下と知り合いというだけで凄いですよ」


 リカルドとアメディオたちが話していると、先程の兵士が戻ってきて城砦内に案内された。

 城砦は石造りの無骨な建造物だった。石の階段を登り二階のバルコニーに行くとガイウス王太子が待っていた。

「リカルドよ。ヨグル領へ来たのに、私に会わずに素通りするつもりだったのか?」

 リカルドは言い訳を急いで考えた。

「決して、そのようなことはございません。まずは魔境での用を済ませてから殿下の下へ参るつもりでいたのです」

 鋭い目つきでリカルドを睨んだ王太子は肩を竦め。

「そういうことにしておいてやる。ところで、魔境へは何をしに行くのだ?」

「妖樹タミエルを狩りに参ります」

 王太子がニヤリと笑った。悪人面の王太子が笑うと迫力がある。

「どうせ、王都の騒ぎで魔功銃が使えると判った貴族共が欲しいと言っているのだろう」

「御明察の通りです」


「王都の様子はどうだ?」

 王太子が尋ねた。

「商店街と工房街の被害が大きいようです」

 リカルドは自分が見聞きした被害の様子を王太子に説明した。

「なるほど、それで役人共はどんな支援を行っているのだ?」

「具体的な支援があったとは聞いていません」

 リカルドは山林組合の炊き出しなどの活動と焼け落ちた織物工房の従業員を引き取った話などをした。

「宰相が生きておれば、何か手を打っただろうに」

 王太子が悔しそうに言った。


 王都の様子について話した後、話題がリカルドの狩りに移った。

「ふむ。王立バイゼル学院の教授が妖樹タミエルを倒すのに鋼鉄サソリの毒が有効だと言ったのか。……興味深い」

 王太子は鋼鉄サソリの毒に興味を示し、狩りに付いていくと言い出した。

「しかし、相手は妖樹タミエルの群れです。危険です」

「承知している。毒が効かなかった場合は、お前たちが時間を稼いでいる間に逃げるので心配ない」

 たぶん冗談を言っているのだと思うが、顔が悪人面なので冗談に聞こえない。


 どうしてこうなったのか、リカルドが納得できないうちに、王太子は十数人の部下を引き連れ魔境へ向かう準備を始めた。一時間後、リカルドは王太子と一緒に魔境へ向っていた。

 第二魔境門から中に入り、探索を開始した。噂通り門の近くに妖樹が集まっていた。多くの妖樹トリルに遭遇し、王太子の部下が仕留める。

 リカルドが妖樹トリルの枝に興味を示すと、王太子が気前よく譲ってくれた。


 王太子は部下たちの報告から、妖樹タミエルの群れがどの辺に居るのか知っていた。

 御陰で探す手間が省けたが、銀嶺団のメンバーは居心地が悪そうである。自分たちの仕事だったはずの探索を王太子の部下がやってしまったからだ。

「殿下、妖樹タミエルの群れを発見しました」

 王太子の部下は有能だった。逸早く妖樹タミエルの群れを発見し報告した。


 リカルドと王太子たちは妖樹タミエルの群れが見える場所まで移動した。ここなら妖樹タミエルから見付からずに観察できる。

 リカルドは用意してきた毒矢を銀嶺団のメンバーに渡した。

「妖樹タミエルは三〇体ほど居るようだが、大丈夫なのか?」

 王太子が確認した。

「毒が有効であれば、問題ありません」

 弓が使える銀嶺団の三人は、妖樹タミエルの群れの周りを移動しながら毒矢を射た。同じ場所から攻撃すると妖樹タミエルに発見され反撃を食らう恐れがあるからだ。

 毒矢は効いた。毒矢が突き刺さった妖樹は、少しの間苦しむような様子を見せたが、すぐに動かなくなった。

 周りの妖樹が攻撃してくる敵を探したが、銀嶺団の三人は見付かることなく毒矢を放ち続ける。

 妖樹の中には目標を定めずに魔功蔦から衝撃波を放つ奴も居たが、その衝撃波は周りの樹々を傷付けただけに終わった。

 最後に残った一体は毒矢を三本受けても動き回っていた。この個体は他の妖樹タミエルより一回り大きく、年を経ているように思われた。

 その妖樹タミエルが魔功蔦から衝撃波を放った。もちろんアメディオたちが発見されたわけではないので、衝撃波は直径三〇センチほど木の幹に命中し、木の表面をズタズタに引き裂いただけである。

 アメディオたちは容赦なく四本目、五本目の毒矢を最後の妖樹に命中させた。

 程なく全ての妖樹タミエルが動かなくなった。


 リカルドは群れの中心に【爆散槍】を放った。

 着弾し爆発すると近くの妖樹タミエルが横倒しになった。それでも妖樹タミエルは動かない。

「大丈夫のようです」

 銀嶺団とリカルドは妖樹タミエルに近付き、その樹肝の瘤に穴を開け、樹肝油を採取した。

 樹肝油を失った妖樹は死んだ。妖樹の数を数えると三十一体を仕留めていた。

 王太子の部下にも手伝ってもらい、魔功蔦を回収した。一体の妖樹タミエルから三本が採取されるので、九十三本の魔功蔦が手に入った。

 最後まで手古摺らせた妖樹の魔功蔦は、他のものより長かった。

「それで魔功銃を作ったら、威力のあるものができそうだな」

 王太子がリカルドに声を掛けた。

「威力のある魔功銃が完成致しましたら、王太子殿下に献上させていただきます」

 リカルドは狩りを手伝ってくれた王太子に贈り物をする約束をした。王太子は満足そうに頷く。


 枝も切り取りロッド用として確保した。残った幹と根っこも収納碧晶に入れた。

「リカルドの収納碧晶は、特別製のようだな」

 王太子が収納碧晶の容量に驚いて声を掛けた。

「限界まで容量を広げた逸品です」

「そのようだな。一国の王太子でさえ所有していないものを持っているとは」

「王太子殿下ならば、複数の収納碧晶を持っておられるのではないですか。全部の容量を足せば、これ一つなど問題とするほどではございません」

 実際、王太子は六つの収納碧晶を持っていた。それらは全て、貴族たちからの贈り物である。


 狩りを終えたリカルドたちは、ヨグル城砦に戻った。

 王太子から、狩りで手に入れた妖樹の幹と根っこが欲しいと言われた。

「魔砲杖で使う触媒が不足しておるのだ。譲ってくれ」

 リカルドは快く妖樹の幹と根っこを渡した。王太子たちが魔境門の近くに集まる魔獣を退治するために奮闘していると聞いているので、協力しようと思ったのだ。

 もちろん無料ではない。相応の対価は貰った。ただベルナルドに渡した場合の金額より少なくなったのは事実である。

 その後、大量の【火】の触媒を手に入れた王太子の部下たちは、魔境門近くの魔獣を退治することに成功する。


 王都へ戻る途中、リカルドは銀嶺団のメンバーから愚痴を聞く羽目になった。

「王太子と狩りをするなんて、冗談じゃないぞ。どんだけ緊張したことか」

「私もよ。一言も喋れなかったわ」

「顔が強張って変になりそうだった」

「王太子様に笑い掛けられた時、殺されるかと思った」

 リカルドは苦笑いしながら聞いていた。


 王都に戻ったリカルドたちは、ベルナルドの店に行った。

「その顔から察すると、上手くいったようですね」

 出迎えたベルナルドが、リカルドたちの顔を見て言った。

「ええ、三十一体の妖樹タミエルを狩ることに成功しました」

「予想より多いですね。早速、加工してもらいたいのですが、大丈夫ですか?」

「ええ、今回の旅では、あまり疲れませんでしたので、体力的には大丈夫です」

 リカルドの顔に複雑な表情が浮かんだので、ベルナルドは不審に思った。

「ヨグル領で何かあったのですか?」

 リカルドはガイウス王太子と会い、一緒に狩りに行った様子を話した。

「災難でしたね。……妖樹タミエルの幹と根っこは王太子殿下に渡してしまわれたのですか」

「断ることはできませんでした」

「まあ、そうでしょうね。残念ですが、仕方ありません」

 触媒を商売にしているベルナルドにとって、妖樹の幹や根っこは喉から手が出るほど欲しい素材だったが、相手が王太子では諦めるしかなかった。


「枝はどうしました?」

「持ち帰りましたよ。それも大量にです」

 妖樹の枝はベルナルドに渡し、ロッドに加工してもらうことにした。リカルドが一人で加工するには多過ぎるのだ。

 大量の枝を店の床に積み上げると、ベルナルドが満面の笑顔を浮かべた。

「これまでの人生で、これほど大量の妖樹の枝を見たのは初めてです」

 樹肝油もベルナルドに預けた。薬剤を扱っている商人に売却してもらい、その売却金は銀嶺団に成功報酬として渡される約束をした。

 アメディオが恐る恐る確認する。

「樹肝油の売却金はどれくらいに?」

「そうですね。金貨六〇枚以上にはなるでしょう」

 その金額を聞いてアメディオたちは喜んだ。依頼料として金貨五〇枚が支払われる約束になっており、それに加えて金貨六〇枚となると、昨年一年間に稼いだ金額を上回る。

 アメディオたちはリカルドとベルナルドに、次回魔境に行く時も是非声を掛けてくれと言って店を去った。


「リカルド君が、王都を離れていた間も魔功銃の注文が来ましてね。対応が大変でした」

「今回の狩りで、多数の魔功銃を製作できると思いますが、全ての注文には応えられないと思います」

「私もそう思います。ですけど、こういう特殊な武器は製作に時間が掛かるものが多いのですよ。特に急いでいるお客様にだけ割り増し料金で製作を引き受け、後は時間を掛けて商売にすればいいのです」

 ベルナルドの話では五〇件ほどの注文を一ヶ月以内に納品すれば十分だという。

 魔功銃製作におけるリカルドの仕事は、魔功蔦を加工し波生管を完成させるまでで、後の工程はベルナルドが集めた魔導職人たちに任せることになっていた。


 リカルドは、その日から波生管の製作に集中した。作業場所は魔術士協会の研究室である。この部屋にはリカルド以外誰も入らないので、一人で作業する場合は都合がいいのだ。

 七日で八〇本の波生管を完成させた頃、その作業に集中できなくなった。同じ作業がずっと続き、精神的に疲れてしまったのだ。

 すでに五〇本の波生管をベルナルドに納品しているので急ぐ必要はなくなっている。

「ちょっと散歩でも行こうかな」

 商店街と魔術士協会の中間辺りに小さな公園があった。そこに向かってぶらぶら歩く。

 公園と呼ばれているが、特に何か遊具があるわけでもなく、空き地と大して変わらない。ただ定期的に草刈りなどの手入れをするようで、子供たちの遊び場となっていた。

 所々に丸太を半分に切っただけのベンチが置いてあり、そのベンチにリカルドは座る。子供たちが遊んでいる姿を眺め、強くなった日差しと風を感じながらぽやぽやとしていた。


 一時間ぐらいそうしてぽやぽやしていた時、子供たちの母親らしい一団が火付け棒について話しているのが耳に入った。

 火付け棒というのは、赤の煌竜石を使った火付け用のライターのような魔術道具である。商店街の店で安売りしていたという話だが、ぽやぽやしていたリカルドの頭の中に、火付け棒になった自分が魔功蔦に火を点けようとしている姿が浮かんだ。

 半分寝ているような状態となっていたリカルドは、夢のようなものを見ていたらしい。


「火付け棒か、確か火の煌竜石で魔力を属性励起させ、【着火】の魔術と同じような現象を起こす魔術回路で火を点けていたはず」

 リカルドは属性励起について考え始めた。属性励起とは魔力を振動させ活性化させるものである。

 魔術士は触媒を使って、魔力を属性励起させるのが普通である。だが、触媒なしでも属性励起させられるのは昔から知られている。

 但し触媒なしの属性励起は、高度な魔力制御と集中力が必要で、瞬時に魔力を属性励起させ魔術を放つことは不可能だった。故に魔術士は触媒を使うのである。

 リカルドは触媒なしの属性励起が可能だと知った時から練習をしていた。今では【火】【水】【風】【地】四種の属性励起ができるようになっていた。


 その時、属性励起した魔力でロッドや魔功蔦を魔力コーティングしたらどうなるのだろうかというアイデアが閃いた。

 リカルドは急いで魔術士協会の研究室に戻り、収納碧晶から妖樹トリルの枝を取り出した。王太子から譲ってもらった枝である。

 素早く妖樹の枝をロッドに加工した後、興奮した精神を鎮める。

 魔力を放出しながら魔力を属性励起させようと意識を魔力に集中させた。三分ほど経過した頃、魔力が薄いピンクに変わり、段々と色が濃くなってゆく。

 魔力が赤に変わった後、その魔力をロッドに注ぎ込んだ。赤い魔力はロッドの表面を侵食し、赤く染め上げていく。そして、赤い雪華紋が浮かび上がった。


 完成した魔成ロッドは赤いロッドとなった。

 リカルドは赤いロッドを持って、訓練場に向かった。訓練場には的にするための土嚢が積んであった。赤いロッドに魔力を流し込みながら、その土嚢にロッドを振り下ろした。

 土嚢に赤いロッドが打ち付けられた瞬間、衝撃波が発生した。土嚢から焼け焦げた臭いが立ち上る。土嚢を調べてみると赤いロッドが当たった箇所が焦げていた。

「熱の衝撃波が発生したのか?」

 リカルドは新しい発見をした。


2017/11/6 修正

2017/11/10 修正

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