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scene:27 魔術士認定試験

 リカルドが魔成ロッドをベルナルドに売った数日後、バイゼル城で双子王子の第十三回誕生会が開かれた。

 アウレリオ王子とセルジオ王子は双子だとは言え、二卵性だったらしくあまり似ていない。

 兄であるアウレリオ王子は背が高く活発な性格で、軍事面に興味を持っていた。一方、弟のセルジオ王子は兄より背が低く外で遊ぶより書斎で本を読んでいるのが好きという性格である。


 バイゼル城の大広間にはたくさんの貴族たちが招かれ、王子たちにお祝いの言葉を贈った。

 言葉だけでなく、数多くの贈り物が二人の王子に渡された。

 兄のアウレリオ王子には剣や槍などの武器が多く、弟のセルジオ王子には貴重な書籍が多かった。

「アウレリオ殿下には名匠ティントに作らせた短刀を用意しましたご笑納ください。セルジオ殿下には読書を好まれるとお聞きしましたので貴重な歴史書を用意しました」

 コグアツ子爵が持ってきた贈答品を披露した。

 アウレリオ王子は社交的な性格なので嬉しそうに礼を言う。一方、セルジオ王子も礼を言うが、義務的なのは一目で分かった。


 セルジオ王子は内心でガッカリしていた。

 王家には書庫があり、そこには歴代の王が集めた書籍が保管されている。贈られた書籍のほとんどは書庫に所蔵されているものと同じだったからだ。

 書庫に行けば読めるものを贈られても嬉しくはない。

 それに本好きだという評判になっているが、実際は外で動き回るより部屋の中で静かにしている方が好きなだけで、特別に知識欲が旺盛だというわけではない。


 また一人の貴族が、二人の王子に前に進み出て挨拶を始めた。

 ボニペルティ侯爵は王子たちの前に進み出ると挨拶をしてお祝いの言葉を述べる。

 チラリとテーブルの上に置かれている贈答品を見て。

「これは凄いですな。アウレリオ殿下は武器屋、セルジオ殿下は本屋が開けるのではありませんか」

 アウレリオ王子が笑って答える。

「武器は消耗品です。幾ら有ってもいい……まさか、侯爵も武器ですか?」

 侯爵は頷き、王子たちの前に二つの細長い箱を差し出した。


 セルジオ王子が首を傾げてから。

「私にも武器ですか?」

 侯爵は頷き説明を始めた。

「御二方には同じものを贈りたいと考え、これにしました。武器としても使えますが、芸術品としての価値もあると思います」

 二人の王子が渡された箱の蓋を開けた。そこには一本のロッドが入っていた。雪華模様が美しい、芸術品のようなロッドだった。

「魔成ロッドですね。綺麗です」

 セルジオ王子が魅入られたように見ながら声を上げた。


 アウレリオ王子も同意するが、武器としてはどうかと疑問に思う。

「芸術品というのには同意しますが、武器としてはどうでしょう。名匠の剣に比べると……」

 侯爵は即座に否定した。

「いえいえ、武器としても威力があるのですよ。私も同じ魔導職人の魔成ロッドを所有しているのですが、小さな魔獣なら一撃で倒せます」

 アウレリオ王子が驚いた顔をする。世間一般では魔成ロッドを魔術が使いやすくなる特別なロッドだと認識され、衝撃波についてはあまり知られていない。


「ああ、殿下は魔成ロッドをお使いになったことがないのですね。魔成ロッドは魔力を流し込みながら敵を叩くと衝撃波を発し敵にダメージを与えるのです」

「そうなのか」

 アウレリオ王子は魔成ロッドの特性を知らなかったようだ。

「中でも御二方に御贈りした魔成ロッドは、ユナボルタと呼ばれる特別なもので、魔力の扱いに不慣れな者でも使いやすいものです」

 周りで話を聞いていた貴族たちが悔しそうな顔で侯爵を見た。この贈り物で王族の関心を引き、侯爵自身の有能さをアピールすることに成功したのを感じたからだ。


 この出来事でユナボルタの製作者である魔導職人マトウの名声が上がり、幻の名匠と言われるようになった。

 そんなことになっているとは知らないリカルドは、試験勉強しながら従業員宿舎で生活していた。

 その日、タニアとパトリックと一緒に狩りに行った帰り、街に入ってすぐの場所で戦闘ローブを着た一団と遭遇した。

 彼らの背後には狩りの獲物らしい妖樹と魔獣の死骸を運んでいる男たちがいる。


「宮廷魔術士よ」

 タニアが呟くように言った。どうやらクレム川の上流で演習兼狩りを行い帰ってきたところらしい。彼らが仕留めた獲物は牙猪と妖樹ダミルだった。

 指揮官らしい魔術士が背後を振り返って声を上げる。

「疲れたような顔をするな。我々宮廷魔術士は精鋭集団なのだ。その誇りを忘れるんじゃないぞ」

 その時、脇道から荷物を担いだ男が歩み出て、指揮官らしい魔術士とぶつかった。肩と肩とが触れ合った程度の軽いものである。

 魔術士はロッドを振り上げ、ぶつかった男に振り下ろした。男は担いだ荷物を道に撒き散らして倒れた。


「馬鹿が……気を付けろ!」

 指揮官は怒鳴り声を上げて去っていった。

 リカルド達は宮廷魔術士の一行を見送った後。

「胸糞悪い、宮廷魔術士って偉そうにしとるんで好かんがや」

 パトリックが吐き捨てるように言った。リカルドも同感だった。

「宮廷魔術士は王家の重要な戦力だから、少しの横暴は許されると思っているのよ。……魔術士認定試験では、毎年のように騒ぎを起こすから困るのよね」

 タニアの説明によると試験の実技で優秀な成績を収めた者たちを強引に勧誘しているそうだ。試験後に無理やり宮廷魔術士として徴用され、魔術士協会と揉めることもあるらしい。


 本来は宮廷魔術士に徴用する権限はないのだが、国のためだと言われ断れなくなって宮廷魔術士となった者も多いと聞いた。

「パトリックの時はどうだったのですか?」

 リカルドが尋ねるとパトリックは苦い顔をして答える。

「ワイは中級下位の魔術二つと初級上位の魔術を使ったんやけど、それほど目立たんかったみたいだがね。だが、中級下位の魔術一つと中級上位の魔術二つを試験で披露した奴は宮廷魔術士に引っ張られていったがね」


 リカルドは溜息を吐いた。派閥争いがありマッシモの存在する究錬局も嫌だが、宮廷魔術士も遠慮したい。

 筆記試験の成績が良ければ究錬局へ、実技の成績が良ければ宮廷魔術士へ徴用と聞き、リカルドは憂鬱になった。

「タニアさん、試験の配点はどうなっているのですか?」

 タニアが複雑な顔をしてから。

「本来なら教えちゃいけないんだけど、リカルドにはお世話になっているから教えてあげる」

 筆記試験は、歴史が三〇点、計算が二〇点、魔術の基礎原理が五〇点となっているそうだ。実技では初級上位の魔術の成功が二〇点、中級下位が二五点、中級上位が三〇点となるらしい。

 もちろん、魔術が発動しただけでは配点全部を取れず、発動速度や威力なども審査対象となるらしい。


「今年の試験は例年になく賑やかになりそうね」

 タニアが言うとパトリックが頷き。

「聞いたんやけど、今度の試験にはレミジオ・オクタビアスが来るそうだがね」

 パトリックが聞き覚えのない名前を挙げた。

「レミジオ……何者です?」

「知らんのかいな。オクタビアス公爵の息子だがね」

「えっ、貴族なら秋の試験を受けるんじゃないのですか?」

 タニアが肩を竦め。

「春の試験は貴族でも受けられるのよ。普通は秋に試験を受けるんだけどね」


 リカルドはレミジオに興味を持った。貴族だからと言って特別扱いされたくないと思っているのでは……と思ったからだ。

「合格したら究錬局に入って魔術の研究したいそうやで」

「へえー、公爵の息子なら領地経営の手伝いでもするのかと思っていました」

「公爵には息子が五人も居るから、一人くらいはええんだがね」

「そうなんですか」

 リカルドはパトリックの情報網に感心した。



  ◆◆◇◆◆=◆◆◇◆◆=◆◆◇◆◆


 リカルドが魔術士協会で生活を始めてから三ヶ月ほどが経過し、とうとう試験の日が来た。

 全国から魔術士の卵達が魔術士協会に集まり、お祭りのように賑やかになっている。

 ぼんやりと人の波を見ていると入口付近でざわつく気配を感じた。

 その方に目を向けると豪華な馬車が入ってくるところだった。その馬車の扉には公爵家の紋章が描かれている。

 筆記試験が行われる講義堂の傍まで馬車が近付くと中から、一人の少年が現れた。黒髪の十三歳ほどの少年で背はそれほど高くないが、鍛えられた体格をしていた。

 その少年の後ろから眼光の鋭い中年の男性が馬車から降りた。豪華な服や堂々とした様子から公爵らしいと見当をつける。


 魔術士協会の理事であるリューベン・フェルゼッティが出迎えに出た。リューベンは究錬局の局長を務めており、副局長イサルコの上司にあたる。

 リューベンが丁寧に挨拶をしているので公爵だと確信できた。

「試験会場はこちらになります」

 リューベンが公爵たちを講義堂へ案内する。リカルドも講義堂へ入り自分の席を探す。


 講義堂の内部は大学の講義室のような構造をしていた。一〇〇人ほどが入れるスペースがある。

 魔術士の卵たちがそれぞれ席に着き、短い説明があった後、筆記試験が始まった。

 まずは歴史から問題を解く、歴史は基本的な問題だったので難なく回答を書く。次は計算問題である。これも基本的な四則演算だったので、簡単に答えを出し念を入れて検算も行う。


 最後の魔術基礎原理だが、全部で一〇問あり、ほとんどは基礎だったが、六問目に触媒の役割である属性励起についての設問があった。

 この設問は属性励起とはどういうものかを書けば良かったのだが、リカルドは変に深読みしてしまい属性励起と魔力の振動についての考察を書き始めた。

 リカルドは触媒なしで魔術を発動させるために必要な魔力の振動について研究していたので、魔力の振動と魔術の系統の関係についても記述し、気付いた時には解答用紙の裏にも書いていた。


「そこまで。時間だ」

 リカルドはハッとした。未回答の問題が四問まるまる残っている。

「しまった」

 試験でよくやるミスをやってしまった。肩を落としたリカルドが席を立つ。

「教師時代には教え子に何度も注意するよう言ったことなのに、自分でミスするなんて」

 自分を責めながら深呼吸して気分を一新する。終わったことを後悔するより、今は次の試験に集中した方がいいと考え直す。


 試験の案内係に促され訓練場の方へ向かった。そこで実技試験が行われるのだ。

 受験者が多いので四班に分かれ試験を行うことになった。リカルドは公爵の息子レミジオと同じ班である。当然、父親の公爵も付いてきている。

 公爵ともなれば忙しいだろうに、とんだ親馬鹿である。

 レミジオは父親である公爵の方を見て恥ずかしそうにしている。


 リカルドの順番は十二番目、レミジオの次となっていた。

 十メートルほど離れた位置に分厚い板で作られた八角形の標識のような標的がある。この標的は特殊な加工がされており、魔力を弾くようになっている。

 試験においては何度も繰り返し使用するので高価な標的が使われているのだ。


 訓練場にイサルコとタニアが現れた。レミジオと公爵の様子が気になったのだろう。公爵に挨拶をして実技試験の様子を見守り始めた。

 受験者が次々に魔術を披露した。実技試験ではロッドの使用が禁じられているので、魔術士の卵たちは腕を伸ばし呪文に集中する。

 初級上位の【流水刃】や【風斬】、中級下位の【崩水槍】や【嵐牙陣】などが高価な標的に命中し衝撃音を発する。この衝撃音の大きさが威力を表しているらしい。

 今のところ、リカルドが注目するような魔術士は居なかった。偶に中級上位の魔術を発動する者も居たが、発動速度が遅く威力も足りなかった。


「中々有望な魔術士が現れんようだな」

 公爵がイサルコに話し掛けた。

「次はいよいよ御子息の番です。有望だと聞いていますよ」

「ふん、レミジオなどまだまだよ」

 公爵は謙遜して言ったが、その声はレミジオにも聞こえムッとした顔をする。


 レミジオの名前が呼ばれ、黒髪の少年が前に出た。

 一発目は【火】の魔術にしたようだ。【火】の触媒を取り出し精神を集中する。呪文を聞いて中級下位の【爆炎弾】だと判った。

 レミジオが伸ばした手の先に触媒を撒き呪文を唱え始める。


ファナ(火よ)スペロゴーダ(弾け飛び)ジュデグロ(爆ぜろ)


 火の塊が標的に向かって飛び、大きな衝撃音を立てた。

 周りの見物人から感嘆の声が上がる。今までで一番大きい衝撃音だった。

 二発目は中級上位の【滅裂雨】である。衝撃音自体は一発目より小さかったが、連続して何回も衝撃音を響かせた。

 レミジオはチラリと公爵の方を見た。


「まだまだ、頑張れ」

 公爵は応援したつもりのようだったが、レミジオは公爵の言葉をダメ出しだと思ったようだ。

 唇を噛み締めると大きな触媒木筒を取り出した。

 怒ったような顔から紡ぎ出された呪文を聞いて、イサルコが顔色を変えた。

 リカルドの知らない呪文である。


 標的とレミジオの中間地点に魔法陣のような光の紋様が現れ、空間が歪んだ。発動しているレミジオは脂汗を流しながら魔力を絞り出している。

 魔法陣の中から巨大な魔獣が現れた。リカルドが初めて見る召喚魔術である。

「おおっ、凄い」

 思わず声を上げた。


 だが、レミジオの方を見ると顔を青褪めさせている。

 黒髪の少年は力ない声で呟くように言う。

「……制御できなかった」

 リカルドは一瞬意味が分からずアホ面を晒した後、現れた魔獣が召喚者の制御を離れた危険な魔獣だと気付く。もう一度魔獣を確認し、驚いて大声を上げる。

「馬鹿な……双角鎧熊じゃないか!」

 妖樹狩りに行った時に遭遇した双角鎧熊だった。【溶炎弾】を使っても仕留められず、追い払うだけが精一杯だった魔獣である。


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