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scene:234 天神族と根源力

 リカルドの精神が源泉門に足を踏み入れた瞬間、肉体から意識がもぎ離された。精神だけが源泉門の内側に入ってしまったのだ。

 そこは力が満ち溢れた海の中のような場所だった。リカルドが取り込んでいた力の源泉は、この世界に満ち溢れている力だった。


 その力はある種族により『根源力』と呼ばれていた。根源力の海は、凄まじい圧力でリカルドの精神を押し潰そうとする。

 それに対抗するためには、根源力を取り込み精神を強化するしかなかった。リカルドは必死で根源力を吸収し精神を補強する。


 苦しい。リカルドは凄まじい圧力を感じて藻掻き苦しんだ。肉体は存在しないのだが、精神が押し潰されそうになり消滅する危機感を覚える。

 リカルドは現実世界に戻ろうとしたが、どちらの方向に行けば戻れるのかも分からなくなっていた。藻掻き苦しみ、ひたすら根源力を吸収し耐えられるように精神を補強する。


 あまりの苦しさに諦めようと思った瞬間もあった。だが、悲しげに涙を流すグレタの顔が心に浮かぶ。諦めるものか、帰るんだ。そう思い直す。

 気がつけば、苦しさが軽減しているように感じる。精神を補強したことの効果が現れ始めたのである。リカルドは貪欲に根源力を取り込み始めた。


 そして、ついに根源力の圧力に耐えられるだけの強さを手に入れた。

 キツかった。ここはどんなところなんだ? リカルドは、この世界を見ようとしたが、肉体のないリカルドの精神は見ることができない。


 現実世界に戻るために、どうしても周りの様子を確かめる必要があった。リカルドは全ての感覚を研ぎ澄まそうとした。だが、使える感覚は魔力を感じるものと根源力を感じる二つの感覚しかない。


 この世界で魔力を発するものは、リカルド自身しかいないようだ。リカルドは根源力を感じようと感覚を研ぎ澄ます。この根源力を感じ取る感覚は、長年源泉門に意識を近付け力を取り込もうとすることを繰り返して手に入れたものだ。


 リカルドは焦りを覚えていた。この瞬間にもリカルドの肉体は、ティターノフロッグが吐き出す炎のブレスで燃えてしまうかもしれなかったからだ。

 根源力の感覚に精神を集中する。研ぎ澄まし、感じたものの正体を考える。この世界に満ちている根源力には流れがあるようだ。


 根源力の流れの先に、巨大な力を持つ何かがいると感じた。危険かもしれないが、正体を確かめなければならないと決断する。

 精神だけの存在が移動するには、強い意志力が必要だった。根源力の流れに沿って移動。その先に神を見付けた。凄まじい力を持った存在が、そこに居たのだ。


【ようこそ、狭間(はざま)留界(るかい)へ】

 その声は直接精神に響いた。返事をしようとして、どうすればいいか分からない。

【考えるだけで良い】

『あなたは何者ですか?』


【私はリカゲル天神族のウィセリアという】

『リカゲル天神族? 魔境に研究所を建設した異星人の仲間か?』


【あれはアウレバス天神族だ。私たちの仲間ではない】

『でも、同じ『天神族』という名前が付いている。少なくとも知っているはず』

 リカルドは苦労して考えを纏め伝えるために念じた。


【根源力の使い方を知らないようだな。基本だけ教えてやろう】

 その瞬間、膨大な知識がリカルドの精神に流れ込んできた。公用語・根源力・宇宙の構造・精神についての基本が精神に刻み込まれる。

 根源力の使い方を初歩の部分だけマスターした。


 ウィセリアという存在が見えるようになった。根源力の感知能力で入手した情報を映像化したのだ。それは大きな頭を持つ老人だった。

「少しは使えるようになったか?」

 ウィセリアと名乗った老人は、根源力を振動させ、音波のように使っているのが分かった。言語は教えられた公用語のガパン語である。

「原理は分からないが、使い方は分かった」


「精神力だけで、狭間の留界へ入り、根源力を使えるようになったのだな。合格だ。君をリカゲル天神族に迎え入れよう」

「リカゲル天神族に迎える? 意味が分からない」

「我々リカゲル天神族は、一つの種族ではない。卓越した精神力を持ち、根源力や他の宇宙的規模の力を精神だけで操れるようになった者の集団なのだ」


 リカルドは現実世界に残した肉体が気になる。

「戻る方法を教えて欲しい」

「時間を気にしているのか? それなら無用だ。ここと我々の宇宙とは時間が切り離されている。ここに入った時間に戻れる」


 それを聞いたリカルドは安心した。どうやらティターノフロッグに肉体を殺される前に戻れるようだ。

「ここで何をしていたのです?」

「アウレバス天神族を監視していた」

「何のために?」


「アウレバス天神族は、人工的にリカゲル天神族を作り出そうという実験プロジェクトを始めた。それを監視していたのだ」

 機械の補助なしで根源力や他の宇宙的規模の力を操れる者を人工的に作り出そうという実験らしい。それが実現したら、リカゲル天神族にとって脅威だ。


「そうか、その実験が成功したという証が、自分だということか」

「違う。君はあの惑星で生まれた者ではない。別な要因で精神が異常な発達を遂げた者だ。アウレバス天神族の成果ではない」

 ウィセリアはリカルドという肉体を乗っ取ったことを知っているようだ。


「あれは不可抗力だったのだ。そうするつもりではなかったのに……」

「言い訳する必要はない。君が肉体に入れたのは、元の持ち主である精神が消え去ったからだ。捨てられ朽ち果てるはずだった肉体を使っているだけだ」


 リカルドにとっては衝撃的な情報だったが、ウィセリアには日常茶飯事のことだったようだ。リカゲル天神族の中には、肉体を自分たちで作り乗り移って使う者もいるらしい。

 この種族にとって精神こそが本質であり、肉体は服のような存在なのかもしれない。

「先程、リカゲル天神族に迎えると言っていましたけど、どういう意味です?」


「あの惑星を離れ、広大な宇宙で活躍するのはどうだ、と提案したのだ」

「いや、あの惑星でやり残したことがある。戻ります」

「そうか。だが、言っておこう。君の精神は人間の範囲を超え、超人とも言うべき領域に達した。それは戻っても変わらないぞ」


 リカルドは、それでも戻ると決めた。戻り方を教えてもらい現実世界へと帰還する。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 リカルドが気付いた時、自分の肉体に戻っていた。周りにはティターノフロッグの吐き出す炎が渦を巻いている。魔力が途絶え【炎風陣】の防壁が消える。

 即座に、精神に残っている膨大な根源力の一部を使って、炎を弾き返す薄い膜を身体の周囲に張った。あれほど強烈だった炎のブレスが、ロウソクの炎のように弱々しいものに思えるほど強靭な膜だ。


 リカルドは根源力が魔力より桁違いに強力なのを感じた。

「どう攻撃するか?」

 リカルドは炎のブレスを吐き出している巨大なティターノフロッグを見た。

 根源力を使って、ティターノフロッグをどうやって倒すか。リカルドは考えた。特級魔術を使うより確実だと思えたのだ。


 リカルドは魔術ではなく、根源力を使った魔法のようなものが使えるようになった。但し、魔力を使っていないので魔法と言えるかどうかは分からない。

 だが、触媒や呪文を必要としないものだ。

 リカルドは、根源力を取り出し頭ほどの大きさの砲弾を作った。その根源砲弾をティターノフロッグの胸に向かって撃ち出す。


 根源砲弾は音速を超えて飛び、ティターノフロッグに命中して爆発した。その破壊力は凄まじく、直径二メートルほどの穴が開いた。そこから大量の体液が噴き出し、ティターノフロッグが倒れる。

 炎のブレスが止まったので、ティターノフロッグに近付く。

 ティターノフロッグは死にかけていた。


「これで最後だ」

 リカルドは、もう一度根源砲弾を作り化け物の頭に向かって撃ち出した。それは巨大な眼と眼の間に命中し、伝説の魔獣の息の根を止める。

 静寂が訪れた。リカルドは緊張から解き放たれ地面に倒れた。


「リカルド、大丈夫きゃ?」

 木に弾かれたパトリックが、リカルドによろよろと近付く。

「大丈夫。死んじゃいないよ」

「良かった。でも、最後にティターノフロッグを仕留めたのは、何だったんきゃ?」


「秘密だよ」

 パトリックが肩を竦めた。そして、リカルドの近くにドカッと座る。

「伝説の魔獣は、全部倒したがね。これでセラート予言も終わりだがや」

「そうだといいんだけど」


「そうでないと困るがね」

「ん、どうして?」

「こんな戦いが続いたんじゃ、魔術士協会が潰れてしまうがね」

 代表理事のジェズアルドを始めとする大勢の魔術士が死んだ。


 これから先、魔術士協会はどうなるのだろう。リカルドたちは少し休んでから、退避を指示していた兵士たちを呼び寄せた。

「さすがリカルド様です。あんな化け物を倒してしまうなんて」

 兵士たちは、リカルドを称賛した。


 リカルドたちは兵士たちを、ティターノフロッグの見張りとして残し帰ることにした。途中で会ったオルランド中将にティターノフロッグを倒したことを伝え、見張りとして残した兵士の回収を頼んだ。

「ホッとしました。ですが、宮廷魔術士や魔術士協会の方々が大勢亡くなったと聞きました。将来、大丈夫なのでしょうか?」


 リカルドはゆっくりと首を振った。

「分からない。また九十年後、セラート予言が繰り返すのなら、それに備えて後進の魔術士を育てなければならないだろう」

 リカルドがウィセリアに対して、やり残したことがあると言ったのは、ティターノフロッグの始末と後進を育てるということだ。


 リカルドたちが王都へ帰還すると、お祭りのような騒ぎとなった。特に王太子は大喜びして、自らがリカルドたちを出迎え歓待した。



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