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scene:210 悪鬼の角

 一角竜の角をいろいろ調べて、魔力の伝達性が悪いのは魔力を流し込む方向が関係していることが判明した。構造的に角の外側から内側へ魔力を流すことは難しく、角の中心部から先端方向へ流すことは簡単だと分かったのだ。

 リカルドは角の構造が木の年輪のようになっているのではないかと推測する。そして、年輪の中心部に赤い部分があり、そこが最も魔力を通すことを確かめた。


「そんなことだったのか」

 赤い芯のような部分は、極めて魔力伝達性が良いようだ。そこに指を当てて魔力を流し込むと、短時間で魔力が圧縮されるのを確かめた。

 魔力伝達性の高い素材でグリップを作り、そのグリップと角を結合すれば問題は解決する。


 リカルドは魔力蓄積結晶から中級下位魔術相当の魔力を受け取り、角に流し込み圧縮された魔力圧縮玉を押し出す機能を持つ魔術回路を製作し、ライフルのような形に組み上げた。

 魔功ライフルを製作した時に余った部品を流用したので、形はライフルに似ている。

 リカルドは『独角ライフル』と名付けた。


 独角ライフルの威力は、魔力の入力量に左右されている。取り敢えず中級下位魔術ほどの魔力量で放つように、魔術回路を調節したが、その威力は双角鎧熊や暴黒モグラを倒せるほどだ。

 再度魔術回路を調節して、中級上位魔術ほどの魔力量を流し込むようにして威力を確認してみた。確かに威力は上がったが、思っていたほどではない。


「魔力圧縮能力の限界が、存在するのかな」

 角が持つ魔力圧縮能力は、中級下位魔術程度の魔力量を圧縮するのが限界のようだ。

 それらのことが判明した頃、タニアとパトリックがリカルドの研究室を訪れた。

「リカルド、研究は進んでいるきゃ?」


「こんな武器を作ってみた」

 リカルドは独角ライフルを二人に見せた。二人は訓練場に行って威力を確かめようと言い出す。

「まあ、いいけど」

 訓練場へ行ったパトリックたちは、独角ライフルを試してみた。


 威力を確かめた二人は、リカルドの研究室に戻り感想を口にする。

「黒震魔砲杖の威力を知った後だと、独角ライフルの威力は物足りなく感じるがね」

「そうね。でも、中級下位の魔力で、あれだけの威力を出す武器なら、十分な戦力になると思う」

「自分としては、少し期待外れだったんだけど」


 リカルドは一級魔成ロッドを超える特級魔成ロッドが欲しかったのだが、一角竜の角は特級魔成ロッドの素材ではないと感じ始めている。

「まだ分からんがね。その特級魔成ロッドというのは、どんな特性が必要なんや?」

「まずは、膨大な魔力に耐えられるだけの魔力許容量が必要なんだよ」


 タニアとパトリックは頷いた。

「そうすると、この一角竜の角はハズレかな。中級下位の魔力量しか圧縮能力がないんだから」

「でも、魔成ロッドに圧縮能力は必要ないがね。試しに膨大な魔力流し込んでみたんきゃ?」

「いや、何だか爆発とかしそうで……」


「それなら、実験してみましょうよ」

 タニアが提案した。パトリックも提案に賛成する。

「どこでやるかな。さすがに魔術士協会の訓練場で爆発させたら、怒られそうだし」

「クレム川の上流に、岩場があった。そこで試してみるのはどうきゃ?」


 リカルドは実験してみることにした。三人でクレム川の上流に向かう。途中で頭突きウサギやホーン狼に遭遇したが、瞬殺して先に進む。

 岩場に到着した三人は、実験の準備を始めた。大きな岩が柱のように立っている影に隠れて、実験することにしたリカルドたちは、そこから魔力伝導線を三〇メートルほど伸ばして、そこに一角竜の角と接合して先端を上に向けて石で固定する。


「二人とも岩の陰に隠れてくれ」

「了解」「いいわよ」

 二人が大岩の陰に隠れ、視線を一角竜の角を置いている場所へと向ける。

「始めるぞ」

 リカルドが大声で叫んでから、魔力伝導線に魔力を流し込み始めた。


 意識を精神の奥へと沈める。源泉門を感じると、そちらへ向かって意志力の全てを発揮した。源泉門が近付くと、そこから流れ込んでくる力を感じて、それを魔力に変える。

 源泉門から三歩の距離まで意識を近付け、そこから溢れ出す力を吸収し魔力に変え、それを魔力伝導線に流し込んだ。


 魔力の手応えが分かり辛いが、中級魔術を超え上級魔術の魔力量は超えただろう。リカルドは更に魔力量を増やした。上級魔術を超え特級クラスになると、リカルドの身体から零れ出る魔力がタニアとパトリックにも感じられるようになる。

「ちょ、ちょっと……まずいんじゃないの?」

「こんな膨大な魔力……」


 二人は顔を強張らせ、リカルドの方を見ている。

 その時、一角竜の角から眩しい光が溢れ出す。リカルドも何か危ないと感じていたが、途中で止めては実験にならない。

 リカルドは意識を源泉門から二歩の位置まで進めた。歯を食いしばりながら、源泉門から溢れ出す力を魔力に変えて、魔力伝導線へ流し込む。


「タニア、止めた方がいいんじゃないきゃ?」

「でも、リカルドはまだ魔力を増大させようとしている」

 その時、一角竜の角を置いた場所から異音が聞こえてきた。ビキッギギギーーという危険を感じさせる音である。


「リカルド、中止だぎゃ!」

 パトリックがリカルドの身体を揺すぶり止めた。

 すると、リカルドが魔力の放出を止める。閉じられていたリカルドの目が開くと、目の奥に溢れ出しそうになっている魔力の煌めきを感じた。


「パトリックか。どうして止めたんだ?」

「一角竜の角から変な音が聞こえたんだがね」

「変な音? 何だろう?」

 リカルドたちは確かめるために、一角竜の角を置いた場所へ向かう。


 一角竜の角から漏れ出ていた光は消えている。ただ角から放出されている膨大な魔力は感じられた。

「なんじゃこりゃ!」

 パトリックが甲高い驚きの声を上げた。

 無理もない。青白いほっそりした角だったものが変形している。色は暗い赤でダークレッドと呼ばれているものに変わり、ほっそりした形も捻じれ一部が盛り上がってゴツゴツしたものに変わっていた。


「悪鬼の角だがね」

 お伽噺に出てくる悪鬼の角が、こんな禍々しい形らしい。

 リカルドは変形した角を手に取った。触った瞬間、角の内部に圧縮された魔力の塊が煮えたぎる溶岩のように角の内部から外に出ようとうごめいていた。


 このままでは危ないと思ったリカルドは、その魔力圧縮玉を百メートルほど離れている大岩に向かって押し出した。

 魔力圧縮玉が音速を超えて衝撃波を発生させながら飛翔し、大岩に命中した。

 リカルドたちは音速を超えた時の衝撃波で地面に押し倒され、次に大岩に当たった魔力圧縮玉が爆発した爆風で岩に押し付けられた。


「きゃあ」「うわっ」

 パトリックたちが上げる悲鳴がリカルドの耳に聞こえた。リカルドたちは頭を抱えて爆風が通り過ぎるのを待つしかなかった。

 やっと爆風が収まった時、百メートル先の大岩が在った場所にはクレーターが出来ていた。


「酷い目に遭ったがね」

「すまない。これほど強烈な爆発が起きるとは予想していなかった」

「……誰か、怪我をしていない?」

「自分は大丈夫だ。パトリックは?」

「大丈夫、タニアはどう?」

 タニアも大丈夫だと答えた。


「形は変わったけど、中身はどうなの?」

 タニアは角の機能面の変化が気になったようだ。

 リカルドは角に魔力を流し込み探ってみた。すると、驚くべきことが分かった。中級下位魔術程度の魔力量が限界だった圧縮能力が拡大していたのである。


 リカルドが驚いた顔をしたので、タニアとパトリックは説明するように催促した。

「角の魔力圧縮能力が拡大している。上級魔術程度の魔力量なら、問題なく圧縮できるようなんだ」

「へえー、そんなこともあるんや」

「でも、無理したから脆くなっているんじゃないの?」


 リカルドは角の感触から脆くなっている部分はないと感じた。

「いや、そんなことはないようだ。逆に丈夫になったように感じる。膨大な魔力で魔力伝導性が低い物質が弾き飛ばされ、角自体も圧縮されたらしい」

 リカルドは木炭を連想した。木材から揮発成分を除いて炭化した木炭は脆くなるが、一角竜の角は強固なものに変化したようである。


 リカルドは、もう一本の角を取り出し、同じものができるか試してみた。結果は失敗である。魔力を流し込む勢いが強すぎたのか、途中で角が爆散した。

「もったいないがね」

「実験には、失敗が付きものさ」


 リカルドは五本の角を使って、三本成功させた。合計四本の悪鬼の角を手に入れたことになる。

「いつまでも『悪鬼の角』という呼ぶのも嫌ね。『トゥイストホーン』にしましょうよ」

 リカルドとパトリックは賛成した。

「さて、帰ろう」

「あれっ、もうやめるんきゃ?」


「四本もあれば十分だろう。我々三人と王太子殿下の分だ」

「手伝ったシドニーとイヴェッタには、用意しないの?」

 タニアの問いに、リカルドは否定した。

「シドニーたちには早すぎる。この武器を必要とするような化け物に相対した時、冷静でいられるとは思えないんだ」


 タニアとパトリックが頷いた。

「その代わり、独角ライフルを二人には与えるつもりだ」

「それがいいかもしれない」

 タニアが賛成した。


 リカルドたちは魔術士協会に戻ることにした。

 研究室に戻るとシドニーとイヴェッタが、ドアの前で待っていた。

「リカルドさん、あの皮が高く売れましたよ」

 シドニーが袋に入った金貨を見せた。


「それは二人のものだよ」

「でも、こんな大金を……」

「魔境の探索というのは、そんなもんだがね。幸運な時は、お前たちのように大金を手に入れ、ダメな時は命を失うんだがや」

 パトリックが偉そうに言う。それを聞いたタニアが笑った。


「偉そうに言っているけど、私たちが行った探索では、収穫が妖樹トリルの亜種と分かった妖樹イゴルタだけだったので、ブツブツ文句ばかり言っていたのよ」

「文句じゃないがね。手強い魔獣が現れなかったんで、ちょっと気が抜けただけだがや」

 リカルドは笑って、

「それより、二人に協力してもらって手に入れた一角竜の角が、凄いものだと分かったんだ。追加の報酬も期待しておいて」


「えっ、これ以上の追加の報酬があるんですか?」

「一角竜の角は予想以上に凄いものだったのよ」

 タニアが今日の実験の結果を説明した。

「一緒に付いていきたかったな」


 その日は五人で副都街に行って、ユニウス料理館の限定メニューの竜肉ステーキを食べた。食事が終わり自宅に帰ろうとした時、ジュリアが来た。

「リカルド、ちょっと来てくれないかい」

「どうしたの?」

「特別な御客様が来ているのよ。挨拶に行ってくれる」


 リカルドは困ったという顔をしている母親を見て、もしかしてと考えながら三階にある特別室に向かった。ドアをノックして中に入ると、予想通りガイウス王太子とサムエレ将軍が竜肉ステーキを食べていた。

「やっと来たな」

 リカルドが畏まって礼をしようとすると、王太子から止められる。


「無礼講だ。堅苦しい礼儀より、座って魔境の探索について話してくれ。それに旨いものが手に入ったのなら、なぜすぐに知らせぬのだ」

「王太子殿下、竜肉ステーキは昨日から始めたものなのですが、お耳に入るのが早すぎませんか?」

「余の耳は、数が多いのだ」


 副都街にも王太子の配下がいるということだろう。リカルドは魔境での出来事を話し、その成果である一角竜の角と独角ライフル、トゥイストホーンを見せた。



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