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scene:206 第八魔境門へ

 副都街にあるリカルドの屋敷で、妹のパメラがモンタと遊んでいた。

「モンタちゃんは、リカルド兄ちゃんから魔術を習っているんだよね?」

「そうだよ。今度、セルジュが習うんだ」

「セルジュ兄ちゃんだけ、ずるいの」


 パメラも魔術を習いたかったようだ。

「パメラも九歳になれば、リカが教えてくれるよ」

 それが不満なようだ。セルジュと一緒に習いたいらしい。

「魔術がダメなら、別のことを習えば」

「別のこと?」


「リカは頭がいいから、何でも教えてくれるよ」

 その時、義姉エレオノーラがリビングに顔を出した。

「もうすぐ、お昼よ」

 いつの間にか昼食の時間になったようだ。パメラはモンタを連れてダイニングへ行った。アントニオとロブソンが食卓の席に着いている。


「セルジュは?」

 アントニオが質問した。エレオノーラが優しく笑う。

「忘れたんですか。学校ですよ」

「そうだった。建てたばかりの学校に通わせることにしたんだった」


 パメラは席に座って、ロブソンに視線を向けた。

「今日は、ロブソンさんなんだ」

「ええ、今日は僕の番なんです」

 アントニオには副都街を一周してから昼食を摂るという習慣がある。その時に護衛兼雑務係として、ロブソンたち魔術士が交代で付いて行くのだ。


 パメラが隣の席に視線を向けた。今までならセルジュが座っているはずの席だ。今、セルジュはリカルドが設立した学校に行っている。

 アントニオはパメラの様子に気づき声をかけた。

「エレオノーラ、今日は、王都の中央広場で市が立つ。パメラと一緒に見物に行ってはどうだ」

「そうですね。パメラちゃん、行きたい?」

「行きたい」


 エレオノーラとパメラは馬車に乗って、王都へ向かった。護衛はロブソンと警邏官二人が付いて行くことになった。もちろん、モンタも一緒である。

 警邏官二人の護衛はパメラたちというよりは、モンタのために付けたようなものだ。まだ賢獣を求める貴族が多いのである。


 馬車が王都に入り、中央広場へ向かう。中央広場の市は、毎月一〇日に開かれる。この日は様々な工房から職人たちが露店を出し、自分たちが作った作品を並べる。そればかりでなく骨董品なども売られているので、様々な人が市を訪れる。

 また、近隣の農家や怪しい商売人も露店を開くので、大きな賑わいとなる。

 パメラたちは中央広場の近くに馬車を停め、歩いて中央広場へ向かった。さすがに人が多い。パメラたちは露店を見て回りながら市を楽しんだ。


 露店の中に賢獣の子供と称して、普通の獣の子供を売っている店もある。パメラはリカルドとモンタの出会いについても聞いているので、賢獣の露店を覗き込んだ。

「おや、お嬢ちゃんも賢獣を持っているのかい?」

 店の主人が声をかけた。主人はモンタを賢獣とは思っていなかった。単なる景気付けの掛け声のようなものだ。


「モンタのこと? そうだよ」

「本当に、賢獣なのかい?」

 モンタは疑り深い商人を睨んだ。

「モンタが賢獣じゃおかしいの?」


 商人はびっくりした顔をする。賢獣を売っている露店の主人が、賢獣を見て驚くようでは、売り物は全て偽物ということだ。

「おっ、本当に喋った。本物だ。お嬢ちゃん、その賢獣を俺に売ってくれないか?」

 身を乗り出して交渉しようとする商人に、パメラは頬を膨らませた。

「モンタは、家族なの」


 ロブソンが主人に忠告した。

「モンタは、王太子殿下の御友人である魔術士リカルド殿の賢獣だ。変な考えを起こすなよ」

 主人はリカルドの名前を聞いて、身を引いた。

「これは失礼しました」


 市には平民ばかりでなく貴族も訪れる。貴族に対する時のように、主人は神妙な態度となった。

「ふん、賢獣を探す貴族が増えたせいなのか、偽の賢獣を売っている露店が増えたな」

「殿下、面倒は御免ですよ」

 二人の若者が現れた。その周囲に護衛がいるので、身分の高い者だと分かる。


 ロブソンは二人の姿を見て、緊張した。一人はアウレリオ王子だったからだ。

 アウレリオ王子は、パメラに抱かれているモンタを見て声を上げた。

「見覚えがある。リカルドが飼っている賢獣だな」

 モンタはピコッと首を傾げてから、思い出したようだ。


「お城で会った人だ」

 モンタはアウレリオ王子と何回か会っている。

「モンタだったね。僕を覚えているかい?」

「サルヴァートだ」

「嬉しいね。覚えてくれていたんだ」


 サルヴァートが周りを見回した。

「リカルド君は、居ないのだね」

「今日は、パメラと一緒に来たんだよ」

 エレオノーラがおずおずと声を上げた。

「私、リカルドの義姉あねのエレオノーラと申します。こちらは義妹いもうとのパメラです」


 サルヴァートが微笑んだ。

「へえ、リカルド君には、こんな可愛い妹さんが居たんだ」

 サルヴァートはロブソンに目を向けた。

「君は魔術士だね」

「そうです。ロブソンと申します。アウレリオ殿下とサルヴァート殿にお会いできて光栄です」


 露店の主人は、王子の名前を聞いて青くなっている。

「ところで……我々は質の良い魔成ロッドを探しているのだが、どこで売っているか知らないか?」

「この市にはないと思います。高名な職人に頼むのが一番だと思いますが」

「普通はそうするのだが、明日にはミル領へ向かわねばならない。その前に魔成ロッドを手に入れたいのだ」


 今まで使っていた魔成ロッドが古くなったので、新しいものに替えたいらしい。だが、職人に頼むと三、四日は時間が必要だった。

 ロブソンはリカルドが多数の魔成ロッドを所有しているのを思い出した。そのことをサルヴァートに伝える。

「なるほど、彼なら質の良い魔成ロッドを持っているだろう。殿下、魔術士協会に行きましょう」


 王子たちは魔術士協会へ行ってしまった。

 残ったパメラたちは市を見物して楽しみ、買い物をして帰った。


 一方、アウレリオ王子は魔術士協会へ行き、リカルドの研究室を訪ねた。

 ドアがノックされたので、リカルドはドアを開けた。そこにアウレリオ王子が立っているのを見て驚いた。リカルドは挨拶をしながら用件が気になっていた。

「今日は、どのような用件でお越しになられたのでしょう?」


「実は、質の良い魔成ロッドを探している。リカルド君は多数の魔成ロッドを持っていると聞いたので、分けてもらえないかと訪ねたのだ」

 サルヴァートが代わって答えた。

「そういうことでしたか。それで、どのような魔成ロッドをお探しなのですか?」

「今、殿下に上級魔術を教授している。なるべく質の良いものが欲しいのだ」


 リカルドはちょっと困った顔をする。魔力コーティングの技術を鈍らせないために、時々必要もないのに魔成ロッドを作っているので、大量の魔成ロッドを所有しているのだ。

 大量に作りすぎて、自分がどんな魔成ロッドを持っているのか分からないほどだった。

 上級魔術にも耐えられる魔成ロッドとなると、妖樹タミエルの枝を魔力コーティングしたタミエルロッド以上のものになる。


 タミエルロッドなら上級下位魔術なら使えたはずだ。リカルドは収納碧晶からタミエルロッドを出してテーブルに置いた。

「三級のタミエルロッドです。これなら上級下位魔術までなら使えます」

 アウレリオ王子がタミエルロッドを手に持って確認する。


「なるほど、良いものだ。だが、上級下位魔術まで、というのではダメだ」

 リカルドは頷いて、収納碧晶から妖樹デスオプの枝を加工したデスオプロッドを取り出した。

「これはデスオプロッドです」

 デスオプロッドの名前は聞いたことがあったらしく、アウレリオ王子が強い関心を示した。


「これは上級上位魔術でも使えるのか?」

「はい、使えます」

 王子がこれにすると言おうとするのをサルヴァートが止めた。

「出し惜しみはよしてくれ。君ならもっといいのを持っているんだろう」


 リカルドは苦笑して、パトリックとタニアに渡した二級エルビルロッドを取り出した。リカルドが使っている一級エルビルロッドには劣るが、これ以上のものは国宝級になる。

 手に取ったアウレリオ王子が、魔成ロッドの表面に浮かんでいる雪華紋を確かめる。大きく複雑な雪華紋が綺麗に並んでいる。


「これはユナボルタの二級魔成ロッドなのか。素晴らしい」

 アウレリオ王子は気に入ったようだ。

「もう一本あるか?」

 サルヴァートが尋ねた。リカルドは同じものをもう一本取り出してサルヴァートに渡した。


 王子が値段を聞いたので、普通の二級魔成ロッドより高い値段を答える。ユナボルタの希少性を知っている王子は納得して頷いた。

「よし、この二本をもらう。代金は城の役人に言ってくれ。話を通しておく」

 王子が二本と言ったので、サルヴァートが驚いた顔をする。

「このような高価なものを……」

「上級魔術の授業料だ」


 サルヴァートが王子に礼を言って、リカルドに視線を向けた。

「これほどの魔成ロッドを死蔵していた君は、どんな魔成ロッドを使っているんだ?」

 アウレリオ王子も興味を持ったようだ

「興味深い、是非見せてくれ」


 リカルドは仕方なく一級エルビルロッドを取り出した。二人は一目見て驚いた。それが普通の魔成ロッドではないと分かるほど、特別な力を感じさせるものだったからだ。

「なんと、これは一級魔成ロッドだな」

「ええ、一級エルビルロッドです」


「ちょっと魔力を流し込んでも良いか?」

 アウレリオ王子が許可を求めたので、リカルドは許可する。

 一級エルビルロッドに魔力が流し込められると、その表面の雪華紋が金色に輝き浮かび上がる。その様子は神秘的で神聖だと感じるほどだ。


 王子とサルヴァートは魅せられたように金色に輝くエルビルロッドを見つめていた。

「……まさに国宝級だな」

「ええ、これほどの魔成ロッドは、見たことがありません」


 それを聞いたリカルドは苦笑した。源泉門から三歩の距離まで近付き、そこから得られる力を魔力に変換して実戦で使えるようになっている現在、一級エルビルロッドでは扱いきれないほどの魔力が使えるようになっていた。


 国宝級なので、一級エルビルロッドを売ってくれと王子も言い出さなかった。

「良いものを見せてもらった」

 リカルドは返してもらった魔成ロッドを仕舞い、王子たちを魔術士協会の門まで見送った。

「魔成ロッドか、一級エルビルロッド以上の魔成ロッドなんか存在するんだろうか」


 リカルドは魔成ロッドについて調べ始め、古い文献や資料を調べて妖樹の枝だけでなく魔獣の角や牙を魔成ロッドにしたという記述を発見した。

「なるほど、ホーン白虎や雷嵐虎の角から製作した魔成ホーンのようなものを作った昔の人が居たんだな」

 リカルドが作った魔成ホーンは、魔力蓄積機能と魔力制御機能を備えていたので、すぐに魔砲杖のような武器にしようと思ったが、魔成ロッドの代わりになったかもしれないと思い始めた。


 そして、魔成ホーンを作れそうな角を持つ魔獣を調べる。角から魔法を放つような魔獣は幾種類か記録が残っていた。

 ホーン白虎や雷嵐虎の記述もあったが、最も目撃情報が多かったのは一角竜である。こいつは頭に一本の角を持つ竜だ。体長が三メートルほどで大きな後ろ足と小さな前足を持っている。


 特徴的なのは、一本角から衝撃波を出すことだ。妖樹タミエルの魔功蔦に似ているが、一角竜の角から発射される衝撃波は、より強烈だという。

「ふむ、こいつの角はロッドの素材となるかもしれない」

 リカルドは魔境の第八魔境門の近くで遭遇するという一角竜を狩りに行くことにした。



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