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復讐は天罰を呼び、魔術士はぽやぽやを楽しみたい  作者: 月汰元
第6章 ガイウス王太子編
148/236

scene:147 秘薬と毒薬

「リカルド様、俺はもうダメみたいです」

 連発して魔術を放ったミコルは、魔力を消耗し魔術が使えなくなったようだ。そこで魔術が使えるリカルドに助けを求めてきた。魔彩功銃で仕留めようとしたリカルドを、モンタが止めた。

「モンタを忘れちゃダメぇ」

「そうだった。だったら、モンタがやっつけるかい」

「任せて」


 モンタは首輪に付いている収納紫晶から【風】の属性色ロッドを取り出した。この紫色をしたロッドは、一級魔成ロッドであるエルビルロッドを作った時に出た廃棄物で作製したものだ。

 通常のロッドとしては使えない枝の細い先端部分を加工しロッドにしたものだ。紫色に変色したロッドの表面には、小さく綺麗な雪華紋が浮かんでいる。


 モンタと【風】の属性色ロッドの組み合わせは特別だ。触媒なしで魔術を使えるのである。モンタが選んだ魔術は【風斬】、空気で形成された刃がホーン狼に向かって飛び、その首を切り刻む。

 ホーン狼が首から血を流して倒れた。

「凄え」「マジかよ」

 木に登っている新人魔獣ハンターの口から感嘆の声が上がる。その声に励まされたように、モンタは次々に【風斬】の魔術を放つ。ホーン狼が残り二匹となった時、リカルドが止めた。


 リカルドはボニートに視線を向け、

「後は任せる」

 その言葉の意図を理解したボニートは、木に登っている新人魔獣ハンターたちに戦うように指示した。

 ホーン狼は警戒しているのか、少し離れた場所で吠えている。これなら安全に木から下りられる。


 チーロとドナートは頑張った。ミコルも少しだけアシストし、何とか苦労しながらもホーン狼を倒した。チーロが地面に座り込んで肩で息をしている。

「はあはあ……ホーン狼がこんなに強いなんて」

 ドナートも同様に座り込み、ミコルへ顔を向けた。

「お前、凄いな。こんな奴を二匹も倒すなんて」

 そう言われたミコルは照れたように笑った。

「えへっ、魔術が使えたからだよ」


 ミコルだけ褒められたと思ったモンタが、頬を膨らませる。

「はいはい、モンタも凄いよ。ミコルたちよりたくさん倒したからね」

 リカルドが褒めると、モンタがニカッと笑う。

 それを聞いたミコルたちがガックリと肩を落とす。こうして、ミコルのデビュー戦が終わった。


 リカルドは不思議に思った点がある。初めてモンタは魔獣を倒したはずだ。賢獣に『恩恵選び』はあるのだろうか。モンタに確かめると、そんなものはなかったらしい。

 賢獣という存在自体が恩恵なのかもしれない、とリカルドは思った。


 翌日、リカルドは家でのんびりしていた。

「はあ、久しぶりにぽやぽやとした時間をすごせる」

 モンタが散歩に行こうと誘ったが、今日は休みだと断った。


「リカはダメ。怠けものになっちゃった」

 プリプリしながら、メルのいるダイニングルームへと向かう。ふさふさの尻尾をぴょこぴょこと振りながら歩く姿は、本当に可愛い。

 リカルドは散歩くらい付き合うかと思ったがやめた。


 モンタはメルのところに行って散歩に誘った。メルは二つ返事で承諾。専用のカゴにモンタが乗ると、メルは空へと羽ばたいた。

 空の散歩を楽しむモンタは、魔力を流し込むと金色に輝く小さなエルビルロッドを取り出し、指揮者のように振り回しながら飛ぶ方向を指示する。

「メル、今度はあっち」


 勢いよく振り回したエルビルロッドが手からすっぽ抜け、下に落ちていく。

「きゅきゃあ!」

 叫びを発したモンタが、カゴから飛び出した。空中で飛膜を広げ滑空しながらロッドを探す。


 モンタたちがいた場所は、バイゼル城の上空だった。落ちたロッドは、風に揺れながら城の庭へと落下。そこには病気から回復したセルジオ王子が石段に座ってボーッとしていた。

 正門の通路からアルフレード男爵が庭に出てきた。庭を通って謁見室へショートカットするつもりのようだ。

「セルジオ王子、ご回復おめでとうございます」

「あ、ありがとう」


 セルジオ王子は、この男が嫌いだった。王子に向けられている笑いが、馬鹿にしているように思えたからだ。男爵が目の前を通り、歩き去ろうとしていた。

 男爵の頭上に何かが落ちてきて突き刺さった。落ちてきたものは魔力を帯びており、ちょうどツボのある部分に命中したようだ。全身が痺れ動けなくなった男爵は顔面から倒れる。


「何で?」

 王子はびっくりして倒れた男爵を見た。頭に小さな棒が突き立っている。

「し、死んだ!?」

 そこに空から小さな獣が飛んできた。トンと男爵の背中に着地したそいつは、首輪をしているので、誰かが飼っているのだと分かる。


「モンタのロッドを知らない?」

 モンタが話しかけると、王子はビクッと驚いた。

「しゃべった?」

「ねえ、モンタのロッド」

 王子は男爵の頭を指差した。


 モンタは男爵の頭を見て喜んだ。

「あった。あれっ、どうして倒れてるの?」

「君のロッドが刺さっているからじゃないかな」

「そっかあ、ほいっ」

 モンタは男爵の頭からロッドを引き抜いた。


「血が出てるよ。モンタが治してあげる」

 モンタは【治癒】の魔術を男爵にかけた。血が即座に止まる。

「魔術もできるんだ?」

「モンタ、リカに習ったんだよ」

 王子はモンタが賢獣だと気付いた。飼い主は魔術士なのだろうと推理する。


 そこにカゴを提げたミミズクが飛んできた。

「ギャギャッ」(探したよ)

「ごめんよ。ロッドを落としちゃったんだ」

 セルジオ王子が首を傾げる。

「この子は?」

「賢者ミミズクのメルだよ。モンタの弟」


「そ、そうなんだ。何か複雑なんだね」

「ロッドが見付かったから、散歩の続きだ。じゃあね」

 モンタはカゴに乗ると、メルと一緒に飛び立った。


「ううっ」

 男爵が呻きながら起き上がる。

「なぜ、私は倒れているのだ?」

 王子は本当のことを教える気にはならなかった。

「転んだんだよ。大丈夫?」

「そうだったのですか。お恥ずかしいところをお見せしました」


 男爵が急いで立ち去った後、セルジオ王子は考えていた。

「あの賢者ミミズク、王太子殿下が飼っている鳥に似ていたな。まさか、王太子殿下が仕組んだことなのか……違うな。それなら男爵の息の根は止まっていたはずだ」

 王子はもう一度モンタに会いたいと思った。


 散歩を終えたモンタは、家に戻った。

 リカルドは一日中ゆっくりしていたようで、アクビをしながらモンタを出迎えた。

「今日は何かあったかい?」

「あのね。ロッドを落としちゃった」

「えっ、失くしたの?」

「ちゃんと見付けたよ」

「そう、良かったね」

 モンタは嬉しそうに頷いた。リカルドは、メルがジト目でモンタを見ているのが気になったが、大したことではないのだろうと追及しなかった。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 時間を遡り、モンタが去った頃。

 バイゼル城では、アルチバルド王がフェルモ司祭から報告を受けていた。

「お約束通り、秘薬『サマリヤス』をお持ちいたしました」

 司祭が小さな薬ビンに入った薬を二〇本渡した。

「これは何人分なのだ?」

「二〇人分でございます」


 国王が顔を曇らせた。

「アプラ領に何百という患者がおるのだぞ。足りぬではないか」

 フェルモ司祭が顔を強張らせ、

「しかし、提供のあった血では、それだけしか作れなかったのでございます」


 国王は目を閉じ何かを考えてから、秘薬を見つめる。

「秘薬をペルーダ病の患者に処方したのだな?」

 フェルモ司祭が頷いた。

「順調に回復しております」


「よし、アウレリオに処方せよ」

 麻疹だったセルジオ王子は、必死の看護により回復した。しかし、その麻疹がアウレリオ王子に感染したのだ。今、アウレリオ王子が床に臥せっていた。


 厳しい顔をしたアルチバルド王は、司祭に厳命する。

「必ず、アウレリオを助けよ」

「全力を尽くして、治療いたします」

 フェルモ司祭は深く頭を下げた。


 国王は司祭との謁見を済ませると、執務室へ戻った。そこにはアルフレード男爵が待っていた。男爵の額に血が付いている。

「血が付いておる。どうかしたのか?」

「いえ、転んだだけでございます」

「ふむ、男爵も人の子か。そういうこともあるのだな」


 男爵は、近衛軍の将軍になった今でも役職名でなく男爵と呼ばれることを好んだ。

 元々は国王の侍従長というのが役職だった。側近の中ではトップの役職だが、将軍や大臣と比べれば一段低い役職となる。


 そこで領地を持たない貴族としては、最高位となる男爵という身分で呼ばれることを周りの者に習慣づけたのだ。アルフレード男爵は宰相となった時には、役職名で呼ばせようと決めていた。

 国王が回復した時、男爵は宰相の必要性を訴え自分を任命するように懇願した。しかし、国王は最後の最後でアルフレード男爵を信じきれなかったようだ。


 アルフレード男爵がアプラ侯爵から届いた伝言を報告した。

「アプラ侯爵から、秘薬を渡さなければ、ペルーダ病の患者を王都へ送り込むと脅しが来ております」

「まだ、くたばっておらんのか」

「延命のために、高価な薬と【治癒】【解毒治療】などの魔術を使っているのでしょう」


 延命処理を施しているアプラ侯爵と息子のルーベンだけは生きながらえたが、ペルーダ病になった他の者は十日から十数日で死んだようだ。

「どうしたものか?」

 国王が胃の辺りを押さえながら悩み始めた。それを見たアルフレード男爵が、悪魔のような笑顔を浮かべ提案した。


「秘薬を二人分だけ、送ってはどうでしょう?」

「二人分……侯爵と息子のルーベンの分か。だが、それでは脅しに屈したように受け取られるぞ」

「その秘薬と毒をすり替え送るのです。侯爵自身か息子の命、あるいは二人の命が失われることになるでしょう?」

 国王が苦虫を噛み潰したような顔をする。


「反逆者を処罰するということか。しかし、生き残った方が、ペルーダ病の患者を王都へ送り込むかもしれんぞ」

 アルフレード男爵がニヤリと笑った。

「侯爵が生き残ったなら、必ずそうするでしょう」

「まずいではないか」

「そこでアプラ領との境に弓兵を配置しておくのです。奴らが来るタイミングさえ予想できれば、始末するなど簡単です」


 何十日も弓兵を領堺に配置することは難しい。だが、二、三日なら可能だった。

「ふむ、ペルーダ病患者を王領へ運ぶ者どもを討ち取ろうというのだな。もちろん、自らが弓兵を率いて向かうのであろうな」

 国王は、アルフレード男爵がアプラ領制圧部隊を自ら率いることを拒んだことを覚えていたのだ。ここで拒否するということは、国王の信任を失うことを意味すると悟ったアルフレード男爵は、覚悟を決めた。

「御意」


 アルフレード男爵は、毒入りの薬ビンを手配しアプラ領へ送った。そして、配下の弓兵を集め部隊を編成する。

 アプラ領へ送られた薬ビンは、翌日にアプラ侯爵の手に届けられた。

「ふん、たったの二人分か。陛下もケチな男よ」

 侯爵は二本の薬ビンを見つめ迷うような仕草を見せた。


 侯爵は一本の薬ビンを看病している司祭に渡す。

「先にルーベンに飲ませろ」

「分かりました」

 司祭は黙って薬ビンを受け取り、部屋を出た。


 しばらく待っていると、侯爵の部屋に慌ただしく司祭が入ってきた。

「何を慌てている?」

 司祭は青い顔をして、侯爵に告げる。

「ルーベン様が……亡くなられました」


 侯爵が狂乱。アルフレード男爵が予想した通りペルーダ病患者を王領へ送り出した。

 王都方面には、弓兵部隊が待ち構えていたので患者と兵士は矢によって死んだ。

 だが、侯爵は王都方面だけでなく、王領で二番目に大きな都市ルリセスへもペルーダ病患者を送っていた。

 軍事面には疎いアルフレード男爵は、王都以外の都市を見落としていたのだ。


 王都方面に向かってきたペルーダ病患者を制圧し、王都に戻ってきたアルフレード男爵は、思いがけず国王の怒りを浴びた。

「馬鹿者、ペルーダ病の患者がルリセスへ入り込んだぞ。どうするのだ」



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