第2話移ろい目覚めて
どうもHUKUMARUです。
第2話です。
優しい温もりに包まれて結衣は目覚めた。
(ここは?)
黒髪の優しそうな女性と茶髪で髭を生やした厳しそうな男性が結衣を見つめていた。2人とも西洋風の服を着ていて、部屋の中はアンティーク調の家具がならべられている。部屋の向こうからはドタバタと動き回る音と誰のものかわからない声が微かに響いている。
(…誰?…どこ?)
結衣はボーっとしていたが何か思い出しのか目を見開いた。
(ここは…女神さまに送り込まれた異世界?)
確認しようと周囲を見渡そうとしているが体に力が入らないのか思うように動けないようだ。暫くしてなんとか動かせたのは手だけのようだ。
(手は動くのね、え?えぇぇぇ?)
視界に現れたのはとても小さな手、まるで赤ちゃんのようなサイズだった。
結衣は驚愕のあまり呆然としてしまいのか、女性が心配そうに呟くまで抱き上げれれていることに気づかなかったようである。
「この子泣かないわ…大丈夫よね?」
男性は結衣の手を握り低い声で女性に答える。
「大丈夫だ、そういう子もいると聞いている」
男性の回答では女性の不安はぬぐえなかったようで、女性に顔には不安が張り付いたままであった。結衣は2人の会話を聞いて確信した自分は赤ん坊になったのだと、そして目の前の2人は新たな両親だと。
(……私赤ちゃんなんだ)
「本当なの?ようやくできた子なのよ?心配じゃないの?」
「ドリーも大丈夫だと言っていたじゃないか、心配しなくても大丈夫だ」
結衣はありのままに現状を理解し瞳に驚きの色はなくなっていたがふと何かに気づいたのか必死に息を吐きだしている。どうやら声を出そうと試みているようだ。
「…スーススーー……」
(声が!声が出ない!……私どうなるの?)
何度も声を出そうと繰り返しているがでるのは息を吐くような音だけだった。気が付くと結衣の顔は真っ赤になってしまっておりそれを見た二人は慌てふためいる。
「あ!あ!顔が!真っ赤に!」
「大変だ!ドリー!ドリー来てくれ!」
バンっと勢いよく扉が開かれ金髪で初老の目つきの厳しい女性が飛び込んでくる。
「坊ちゃま、どうなさいましたか!?」
「娘が!娘を見てくれ!」
ドリーは結衣を抱きかかえ体を隅々まで調べ上げようと、包み込んでいたタオルのような
布をとる。結衣は必死で布を握るが抵抗にもならなかった。
(恥ずかしいからやめて!)
やがてドリーは何かを察したのか、女性に結衣を渡し言いずらそうに口を開いた。
「坊ちゃま!声が出ない病かもしれません」
女性は結衣を抱いたままベッドに力なく腰かけてしまう。
「ええ!?そんな……」
男性は2人を一瞥した後、ドリーへと視線を向ける。
「ドリー、そのような病があるのか?」
「残念ながらございます、神父様をお呼びしましょう」
「わかった、頼む」
(私病気なの?なんで神父なの?)
ドリーは部屋を飛び出していき、残された男性は女性隣に座り肩を抱き寄せた。
「アンジュ、大丈夫だ」
「でも、声が出ないのよ?きっと私のせいでこんなことになってしまったのよ?」
「心配するな、神父様が何とかしてくださる」
「でも!私のせ…ン…」
男性がとりみだしている女性の唇を突然のキスで塞いだ。女性は耳まで真っ赤に染めているが男性の力が強いのか逃げれず受け入れているようである。結衣は顔がゆでだこのようにさらに赤く染まった。
(はうぅ…いきなりキスなんてしないでよ、びっくりしたぁ~~)
「…ちょっとパトリック」
「落ち着いたか?」
どうやら結衣の新しい両親は父がパトリック母がアンジュという名のようだ。
2人の間にとても甘い空気が流れており、こういう場面に免疫がない結衣はどうしていい分からず困惑してしまった。
……結衣のことは完全に忘れられてしまっている。
(うぅぅ……恥ずかしい………)
「急に、なにするのよ」
「別にいいじゃないか、誰も見てない」
(え?…………私は?)
「そういう問題じゃ…もう…仕方ないわね」
(え?仕方ないの?)
もう一度キスしそうな空気の中で2人の顔が近づきつつあるので結衣は慌てて2人の指に手を伸ばし握ってアピールしていた。
(ストップ!スト~プ~!)
「「…ん?」」
どうにか気づいてもらい目の前でのキスを防ぐことには成功したようだ。暫くして2人の世界から出てきたパトリックが何かを思い出したかのように呟いた。
「あ!…なぁアンジュ」
「なぁに?」
どうやらアンジュはまだ甘い世界の中のようで、人を魅了するような艶やかさが漂っていたがパトリックは答える気配はない。
「この子の名前を決めよう」
「そうね……大事なことを忘れていたわね」
さすがにアンジュも子供の名前決めるという人生で数少ない、大事な場面では色気も冷めてしまったようだ。
目の前で情事が繰り広げられる事がないと悟ったのか結衣はホッと安どの息を吐いていた。
「それで、名前だが…エマはどうだ?」
「エマ……貴族らしくなくていい名前ね」
「貴族らしくないか…そうだな、エマにしよう」
「これからよろしくね、エマ」
「よろしくな、エマ」
エマはよろしくと2人の手を強く握り返していた。
(私は…エマ…こちらこそよろしくね)
静寂の中3人だけの時間が続いたが、
ドタバタと足音が屋敷に響き扉向こうから、ドリィと茶髪の男性が現れた。
「「シンプソン!」」
「落ち着くんだ、お子さんが病気だとか」
「頼む、診てくれ」
シンプソンは頷くとエマを抱き上げ診察を行う。ふむ、ふむと頷いてはエマを持ち上げてひっくり返しと診察を進めていった。
「ふむ、パトリック」
「…どうだ?」
「身体的には問題ないが、穢れが体中に広がっていて魔力の流れが薄く細いだが…」
(穢れ?私は大丈夫なの?)
シンプソンの言葉をパトリックが遮った。
「穢れだと?」
「…穢れ、きっとあの時の……私のせいなのね」
絶望に打ちひしがれるアンジュの肩をパトリックが抱き寄せる。
「2人とも心配するな、穢れの濃度は高くない数年で解呪され声も出るようになるだろう、思い詰めてはいけない」
「そうか……治るのか、ありがとう」
「気にするな、これからが大変だ毎日聖水を少量飲ませ続けていかないといけない、量が多すぎると体調を崩しかねないから気を付けるんだ」
パトリックとアンジュはこくこくと頷きエマを抱き寄せた。
(生まれてすぐ体中に穢れって……女神さまの祝福は何だったの?最初から前途多難すぎるよ)
かくしてエマの闘病生活が始まった。
読んでくださりありがとうございます。
2話目にものすごく時間がかかりました(-_-;)
頑張って投稿するのでよろしくお願いします。