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入学初日8

 瑞穂は二人を引き連れ、真人とカスミと距離を取った。

 自分に着いて来たのが、たった二人である事に不満を感じなくはなかったが、冷静に考えてみれば舐められているのではないと分かる。


 ── まぁ、三~四人来てくれば一番理想だったんだけどね。


 うっすらと笑みを浮かべ瑞穂は足を止めた。

 もう真人達との距離は十分取った。もし、瑞穂が一人を仕留め損なっても、逃げ戻る時には決着がついている。


「センパイ、ここで決着をつけましょう。あっさりやられちゃって下さいね」


 微笑が冷笑に変わり、えもいわれぬ冷気が空間に満ちる。そこそこの実力者であればこの空気感に警戒心を高めるところだが、追っ手の二人はそこそこの実力はなかったようだ。


一桁(ワンプレ)とは言え、一年が舐めるなよ」


「舐める? それはセンパイ達じゃありませんか。計算通りに行ってるのは貴方達だけじゃないんですよ」


 戦いにおいて、勝利の要因となるものに格というものがある。格下が格上を食らう大判番わせは人の興味を惹くものだが、実のところそんなに起こるものではない。そんな大番狂わせが起こるとすれば、実は格下と思われていた者が遥かに高い実力を持っているか、思った通りの展開が奇跡的に起こったかしかない。

 更に厳密言えば、格下だと思われた者が実力上位だった場合は、外からの視点に於いての大番狂わせであって、本当は順当勝ちという事になる。波乱などそうは起こらないのが戦闘というものなのだ。


「何が言いたい? 」


 明らかな動揺を見せる上級生に瑞穂は「分かっていますよね」と、髪をすいで言う。

 そう分かっているのだ。

 どう考えても雑魚臭しかしない連中が、余裕を持てるのは出された指示に沿っているから。しかし、相手からそれを指摘されるのは想定の範囲外…と、なれば格下の余裕など、息を吹きかけられた塵のように霧散する。


「もし、私に触れる事が出来たのなら、センパイ達の勝ちでいいですよ」


 ユラリと瑞穂の体が揺らぎ、足下から水が涌き出す。


「私の水流壁(アクアウォール)を破れるなら、ですけどね」


 そして、次の瞬間に涌き出した水が間欠泉のように吹き出し、瑞穂の体を包み込む。


水流壁アクアウォールだとっ! 聞いてないぞ… 」


 精霊術士や精霊使いは、各属性に応じた防御術を持っている。通常は『防御(ガード)』と呼ばれる術なのたが、その上にある術が『(ウォール)』になる。


「新入生ですもの… 誰にも言ってないし、聞けるはずないでしょ」


 上級生の呟きに、呆れ感を全面に出しながら瑞穂は口を動かす。だが、上級生が動揺を顕にしても仕方ない場面であった。何故なら『(ウォール)』は、精霊術士には使えない術である。精霊術士を相手にするのと、精霊使いを相手するのでは天と地程の差があるのだから。


「上位能力者なんて相手出来るか」


 序列上位というだけなら、実力が未知数であるが故に数の暴力と戦略によって勝てる可能性がある。だが、120%勝てないと分かれば痛い思いをしてまで戦おうとする根性はない。だから、瑞穂には上級生の次の行動が読めてしまう。


「ちゃんと降参するなら見逃しもするけど…」


 白旗を上げる事なく、背を見せて逃げようとする上級生を見て「そんな根性もないわよね…情けない」と、呟き右腕を上げる。


水竜咆哮(シーサーペントブレス)っ! 」


 激しい音もなく、瑞穂の右腕を取り巻く水が竜の顎を形作る。そして、吐き出される咆哮は無数の礫となり、逃げる上級生の背中を撃ち抜いていった。


 物足りないーー 戦闘狂という訳ではないが、あまりのあっけなさに出てくる感情はその一言に集約される。そんな欲求不満はあってはいけない感情だった。もし、その感情がなければもう少し利口な選択をしていたのだから…


「覗きって、そんなに楽しいものですか? センパイ」


 少し前に突如現れた気配。そして、突き刺さる鋭い視線は瑞穂を狩る気満々という殺気を含んでいる。


「物足りないって顔だな…どうだ俺とやらないか?」


「ゲスなナンパにしか聞こえないんですけど… 貴方はさっき圭ちゃんといた…」


「速見だよ。序列はお前さんより少し上だな」


 やるかやらないかの選択権は瑞穂あるという事だが、視線を含め全てが拒否する事を否定している。


「普段ならこの手のナンパはお断りなんですけど、今日は特別です。いいですよ、やりましょう」


「いや、その返事じゃダメだな」


「…んっ?」


 思いもよらない返事に指を唇に当てて首を捻った後、


「あぁ、そう言う事ですか… では、改めまして速見先輩、私と戦って下さい」


「OK上出来。二年序列4位速見准一戦闘受諾だ」


「一年7位、結城瑞穂です」


 互いにプレートを見せ合い視線を合わせる。


「行きますねっ! 」


 先手必勝と言わんばかりに、瑞穂は水の礫を大量に飛ばす。その数は先ほどとは段違いに飛翔し、速見に逃げ道は残されてはいない。


 ── これで決まる…はずはないわよね。


 当たれば必勝に思える一撃ではあるが、そんな簡単な相手であるなら、震える足を必死に抑える必要などなかった。そして、礫が接触すると思われた瞬間、速見の姿がかき消えた。

 何処だっ! 

 避ける事は分かっていた。だから、どんな避け方であっても驚きはしない。問題は避けた後速見がどう動くのか、その一点である。

 攻撃を交わされても、反撃に対応していければ戦い続ける事が出来る。当たり前の事だが、これが出来なければ負けるだけだ。

 瑞穂は全神経を自分の周囲にのみ集中させたのだが、


「遅い」


 その声は背中から聞こえた。

 信じられない事だが、自信のあった動体視力を以てしても捉えきれないスピードで速見に背中を取られたのだ。

 振り返る暇などない。振り返ればその瞬間に全てが終わる「ちっ! 」舌打ちを一つ打ち攻撃に当てていた水を防御に回す。


「きゃあ!」


 瑞穂には見えはしなかったが、速見の蹴りが防御に回した水の上からお構い無しに放たれる。

 大概の攻撃は弾き返す水流壁(アクアウォール)ではあるが、不十分な態勢であった為か威力を殺しきる事は出来ず、瑞穂は地面に向かって弾き飛ばされた。


「こ、このっ!」


 顔から地面に突っ込むのはごめん被る。その一心で腕を伸ばし、反動を利用して一回転。素晴らしい反射神経と運動神経で転倒を回避した。


「なかなかやるじゃないか」


「化け物ですか、貴方」


 どんなに速いといっても、体ごと目にも止まらぬスピードなんて出せるはずがないと思っていた。まして瑞穂の動体視力は、プロボクサーと比べても遜色ないほど良い。なまじっか自信があっただけに、瑞穂が受けた衝撃は大きかった。


「瞬間移動って反則でしょ…」


 この手の能力者には正攻法が通じにくい、一番効率的なのは相手の裏をかく戦法なのだ。どちらかというと武人然としている瑞穂とは相性が悪い。


 ── あーあ、やっぱ、ちょっと物足りないぐらいで納得しないと駄目ね。運気最悪になっちゃった。


「諦める… って感じじゃねえな」


 倒れ込むのを回避したとはいえ、膝をついて態勢が低くなっていた瑞穂を見下げる形で速見は言う。


「当然でしょ。若干めんどくさくなっただけですよ」


「ほぅ、なら立ちな。その自信を粉々にしてやるからよぉ」


「言われるまでもなく。でも── 」


 立ち上がると右足を軸に一回転し、同時に左足で地面を削る。そうする事で瑞穂を中心とした半径30cmの円が出来た。


「何の真似だ?まさかその円から出たら負けでいい。なんて言わないよな」


「まさか、そんな事言いませんよ。これはただの結界です。だから、この中に入ろうとするなら覚悟してくださいね」


 瑞穂は笑ってそう言葉を返す。だが、その目にはこの結界を破れたらもう手はない… そういう覚悟が込められていた。



時間が無さすぎてなかなか更新できません。ゆっくりですが、ちょっとづつ進めて行きますんで、また来て下さい。

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