表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

入学初日6

 ── どんな展開になってんだ?


 森に入ってから戦闘の気配はなく、間に合ってる事を知った真人であるが、風を走らせてみると現状がよく分からなくなる。

 感じとれた気配は12人。

 その内の一つがやたら強烈な気配を出している。


 ── 手を出すなよ瑞穂。


 真人の直感はよく当たる。そして、瑞穂一人では手に余る相手だと思えて仕方無いのだ。

 安易な結論を出す訳にはいかないが、真実を見ていない内は焦りが増し、真人を足早にさせるのだった。

 そして、もうまもなくの時に会話が聞こえてきた。


「ルールは集団戦(パーティバトル)の基本に準ずれば、我々から望む事はない」


「基本と言うと、今この場にいる者全てに参加権利を与え、開始宣誓後に来た者には参戦は認めない… そんな感じかしら」


「そうだ」


 そんな会話を聞きながら、真人は気配を消し木陰にその身を隠し情報収集に入る。

 ちらりと聞こえただけだったが、察するにルールの確認をしているだけらしい。つまり、まだ戦闘開始には若干の猶予があり、焦って飛び込む必要はないという事だ。


 ── あの小さい女と瑞穂の距離から見て、今は共闘しているみたいだな。と、いう事は一年か。


 そして、二人の前に立つ10人の男達が二年で目下の敵である…… と、ここまでは簡単に理解出来る。

 真人が参戦するのに一番のタイミングは、個々の能力を把握した後になる。しかも、先程の会話で今ここに居る真人は、参戦する権利を得ているのだから、待っていても問題はない。だが、目の前に浮遊する魔力塊に気付いた真人には、その時間が貰えるとは思えないのだった。


 ── あの女、間違いなく俺の存在に気付いてるな。


 その魔力塊は無色透明で普通なら気付きようもない。真人が気付けたのは、姿を隠したままでも状況をしれるよう風探索(サーチ)を発動させていたからだ。

 たまたま発動させた探索(サーチ)に引っ掛かった探索(サーチ)の魔法… 誰が術者なのか確認した所、小さな女カスミの前にある魔鏡が受信機である事が分かった。

 さて、そうなると──

 集団戦(パーティバトル)の第一ルールである「今この場にいる者が参戦者」という所がネックになる。当たり前の事だが、開戦までに時間が掛かれば参戦者が増える可能性が、どんどん上がっていくという事になる。

 味方が増える分には全く問題ないが、敵が増えるのは真人でなくとも遠慮したいところだろう。そして、現状は10対2の状況であるのだから、開戦と同時に真人に参戦して貰った方が有り難いに決まっているのだ。

 もし、真人がカスミの立場にいるなら、


「悪いけど参戦者はここで締めさせてもらうわね。此方のお目当てが到着したみたいなんでね」


 ニコリと笑って真人を呼び寄せるカスミ。


「…… ったく」


 思った通りの展開に真人は舌打ち一つして、渋々と前に歩み出した。


「真人っ! 」


「あー、はいはい… 良く先走らなかったな瑞穂」


 頭をボリボリ掻きながら、のっそりと姿を現して瑞穂の横で足を止め、


「此方のお嬢さんのお陰かな」


 訳すると紹介しろや… と、云った意味である。


「あ、此方は… 」


「よろしく、真人さん。私は本多カスミ、序列は一年5位よ」


 首からプレートを引っ張り出して、


「貴方は三桁(ハンプレ)らしいけど… 」


 訳するとより細かい順位を言えや… と、云う事らしい。


「あ、あぁ… 瑞穂に聞いたのか。俺は神条真人、仰る通りの三桁(ハンプレ)だ」


 的確にカスミの真意を読み、自分のプレートを二年にも分かるようにぶらぶらと見せて見せる真人。

 この場で自己紹介は必要ないのでは? と、思うかもしれないが、実の所この行為には大きな意味を持つ。

 真人のプレートを見た二年の緊張がみるみる解けていくのが、その効果だった。

 二年側にしてみれば数的優位があるとはいえ、格上に挑むのだからそれなりの緊張感を持っていたはずだ。そこに一年側の人間が表れたのだから、より気を引き締める形になっていた。しかし、真人の順位を知る事で一旦締めた帯が緩んだのだ。

 一度締めた気を緩めると、不思議なもので元々持っていた緊張感すらなくしてしまう。もう二年の頭の中には余裕の二文字が浮かんでいる事だろう。

 それが意味する事が油断であると気付きもせずに…


「ほんとに三桁(ハンプレ)なの… 勘弁してよ」


「ちょ、本多さん… 」


 だめ押しともいえるカスミの芝居。確かにバレるような三文芝居じゃ意味ないが、表情から仕草に至る一挙手一投足、真人を下卑しているように見える。


「す、すまんな… 三桁(ハンプレ)で」


「ま、いいわよ。取り敢えず邪魔しないように一人相手にして頂戴」


「一人ね… 了解」


 キッと真人が二年を仕切っている男を睨むと、その男は余裕の笑みを浮かべ木の上を見ていた。


「完無視ですか… 」


 余裕をかましてくれるのは順調な証拠であるが、それが気分いいものかどうかは別である。


「んっ、ああ、済まないな… 此方も待っていたゲストが到着したようなんでついな」


『なっ!』


 思いもよらない男の台詞の直後、真人、瑞穂、カスミに衝撃が走る。


「これは… 」


 ヤバいのレベルを超えている。

 男の視線を追った真人と瑞穂は、体の芯から来る震えを抑えるので精一杯になっていた。

 木の上には、男女一人づつ立っている。

 一人は真人も知る速見。そして、もう一人が赤髪の美人であったが、この女性が速見を超えて厄介な雰囲気を纏っていた。


「圭ちゃん… 」


 顔面蒼白になりながら、ボソリと瑞穂が名を呟く。


「やっほー、瑞穂。大きくなったわね」


 真紅の髪を揺らし、そのゴージャスな見た目とは裏腹に軽い口調だった。そして、


「真人もお久、尤も貴方は私の事覚えてないんでしょうけど」


「あ、ええ… すんません」


「いいのよ。今から忘れないようにしてあげるから」


 強きな発言とその美貌… 一回見れば普通は忘れない。そう、普通なら忘れるはずはないのだが…


「ちょ、一寸、アンタ達… 二年主席と知り合いなの」


「あ、俺は知らんが、そんな有名人なのかあの人」


 改めて問うまでもない。主席なら当然有名に決まっているし、纏う雰囲気は化物と言っても過言ではないのだ。


「赤屋圭。火の精霊使い(エレメントマスター)よ。赤屋家は精霊使いの4大名家の一つ… 真人ならこの意味分かるわよね」


 風の神条、水の結城、地の里見。そして、火の赤屋。精霊に関する者限定であるが、この名を知らない者はいない。

 各家の当主は全て精霊使い(エレメントマスター)であり、それ以外は当主たる資格はないのだ。つまり、現時点で精霊使いである赤屋圭は、当主たる資格を所持している天才だという事に他ならない。


「そりゃ、あの存在感も不思議じゃねぇな… けどよ。残念ながらタイムアップだ。そうだろ本多? 」


「ええ、その通りよ」


 既にカスミは締め切り宣言をしている。赤屋圭と速見がどんなに強くても決定権が此方にある以上、参戦する権利はないのだ。


「あら、それは残念ね」


 然して残念そうもなく赤屋は肩を竦める。


「でもね、それは決定権がそっちにあればの話じゃなくて? 私の序列は1位。此方にいる誰よりも高いんだけど、そこのところ理解しているのかな」


 序列上位者は下位の挑戦を拒めない。だから、ルールの設定が出来る。そして、今の最上位は赤屋圭になるのだから、締め切りの上書きもルール上問題ない。しかし、


「ま、確かにそうですが、それを行使するなら貴女達の一番望まない結果になりますよね」


「真人、冷静沈着な思考素敵よ。そう私が参戦すれば、貴方達には拒否権が生まれる。まさか、勝てないのが分かってて、戦うような愚かな選択はしないでしょ」


 ここで赤屋に挑むという事は、同時に数的不利も受け入れる事になる。そんな不利を被ってまで戦う必要はないのだ。従って出てくる答えは一つ、挑まなければいい。


「だから、私は見てるだけ。この先、貴方が私を楽しまさせてくれる存在なのか否か… 期待してるわよ」


 バッと赤屋圭が右手を上げる。すると、二年の10人が一斉に臨戦体勢に入った。


「ったく、めんどいな」


 戦闘開始待ったなし、後はカスミがいつ動くのかだけになる。

 真人はまず瑞穂を見るといい感じに集中している。そして、カスミに視線を持っていくと頷く姿が見えた。


「Goっ!」


 カスミの合図が高らかに響くと同時に、各々が地を蹴ったのだった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ