入学初日4
能力はとして大区分されているものは5つある。
まず、精霊術士── これは契約精霊の力を借りて四大元素、及び光と闇の術を扱う者達である。
主な特徴としては、契約精霊が属する力のみ行使する事が出来るので、属性に幅が持てず相性に結果が左右されやすい能力だ。
ただし、精霊そのものの力を借りているので、精神力…否、分かりやすくMPと呼ぼう。そのMPの消費が少なく、印を組むだけで術を使う事が出来る。
次に、魔術士──これは、自らのMPのみ使用して様々な術を使う者達である。
精霊術に比べ、印だけでは術の発動はせず呪が必要になる。その上、全てが自分の力のみなのでMPの消費は大きい能力だ。
しかし、自由度は非常に高く学園の能力者人口が6割を締める、最も一般的な能力と言われている。
そして、上位能力と言われる能力がPSYである。
この能力は精霊の力を借りずに、呪も印も必要としない能力であり、その種類も多岐に存在し、
「瞬間移動」
「念動力」
「発火能力」
「接触感応」
「予知」
などが有名である。
どの能力も、効果は個人の能力に大きく左右されるが、魔術や精霊術と違い関知されにくく、威力自体強いものが多い為、上位能力認定されているのだ。また、このPSYは唯一下位能力を持たないのも、特筆できる特徴であった。
残り二つは、精霊術士の|上位が精霊使い。魔術士の上位は魔法使いとなっているのだが、この二つの能力は使い手が殆ど存在せず、上位能力といえばPSYが一般的である。
そして、今真人の前に立っている男はまさに上位能力持ちの序列上位なのだ。冗談抜きに、やり合う必要がないなら、一生やらなくてもいい。
「だからって訳じゃないが、もうアンタと関わり合うのは御免被るんだわ… これ以上ちょっかい掛けないでくれ」
「そうか? 俺としてはもうちょい付き合ってほしいんだがな」
やる気満々で真人を見据える速水。
その顔は温厚とは程遠くとも、クールに寄っていて好戦的なものには見えないだけに、こんなにも真人に拘る理由がさっぱり分からない。
「序列三桁なんて、ここじゃ有象無象の雑魚だろう… 何故に俺に拘るんですかね? 」
「あぁ、有象無象の雑魚が上級生の序列一桁に絡まれて至って冷静なのが生意気なんだよ」
「何だよそのジャイアニズム… 」
「ジャイあ? 何だそれ」
速水の素朴な質問に真人は答えようとするが、良く良く考えてみると、
「知るかよ… ウチのじいちゃんが理不尽な事にぶち当たるとよく言ってただけだ」
「理不尽じゃないんだがな… 」
「は?」
ボソリと呟いた速水の一言に、眉を潜める真人。
態度も礼儀も道理も通しているのに、気に入らないという速水のどこが理不尽じゃないというのだろうか。
「兎も角、アンタが俺を気に入ろうが入らまいが、これ以上付き合う道理はないって事だ。だが、何されるか分からないんでな釘を刺させて貰う」
そう言って真人は、自分のプレートについているボタンをポチりと押した。
これはGPSのスイッチになっている。緊急事態を示すものではないが、自分の位置を管理者に知らせる事で一旦の注目を集める事が出来るのだ。つまり、管理者側でバトルの承認があったのかなかったのか確認するという事になるのだ。
「… なるほど、そう来るか」
「あぁ、これでアンタが不当なバトルを仕掛けているのは明白になる。もし、全てを隠したいなら俺を殺すしかない。だが、死因が外傷に因るものなら当然調査が入るだろうな」
「半端に痛めつけてもダメ、殺した所でアシがつく… か」
物騒な単語が飛び交う会話だった。
普通の高校なら実際に殺すなんて事にならないのだが、真人と速水がいる世界では実際に有り得る。そんな異常な世界で異常とは思わなくなっている。だからこそ、やるなら徹底的に… 守る方も攻める方もその考えが染み着いていた。
「お手上げだな… とりま、今回はお前の勝ちだ」
「勝ちだと言われても、何も付いてこない不毛なもんですよ」
「いやいや、先輩に目を付けられるという勝利報酬がある」
「どんな罰ゲームだ… 嫌過ぎる… 」
嫌でも何でも、実際二年の序列4位が目を付けたという事なのだ。真人にしてみれば、敗戦以上に痛い結果かもしれない。
── 恨むぞ… 瑞穂…
あまり目立たずに静かに暮らしたい真人。ならば、今回は半殺しの目にあっても無抵抗でやり過ごすのが正解であり、何もなければ真人もその選択を選んでいた事だろう。だが、この後に控えるのは瑞穂のフォローなのだ。満身創痍になっては意味がない。
「次はお前から、俺に勝負を仕掛けさせるようにしなければならないな」
「俺から喧嘩売るつもりはねっすよ。こう見えても平和主義者なんで… 」
「ふん、どんな平和主義者でも大切なもんを守る為なら、怒りもするし拳を振り上げるだろ? お前は何の為にここに来たんだ平和主義者よぉ」
すぅと、先にある森を指差しニヤリと笑う。
この先に居る瑞穂の存在を速水は知っているのだ。そして、それが真人の弱点である事も分かっている。
「三桁相手にプライドないのかよ… 」
「プライドなんてあっても邪魔だろ。人生楽しむ一番のコツは自分のやりたいようにやる事だ。俺はお前とヤル… その為には何でもするぜ」
一歩間違えれば相当危険な発言に、真人は顔を歪ませていた。
ここで「瑞穂に手を出したら殺すぞ」と、睨みを効かせて言い返せばそれなりに決まるのだろうが、言えばある意味馬鹿である。
だから、こう言い返すしかない。
「時期が来たなら必ず… 今はその時じゃないって事です」
瑞穂には手を出すなという意味をこめる。
「俺は短気だぞ」
「ま、善処しますよ」
逃げるなよの意味がこもったその言葉に、真人はもう大丈夫だと判断し、頷くと速水に背を向けて森へ歩みを進めた。
「まぁ、収穫はあったから別にいいんだけどな」
真人の姿が小さくなり、その声が聞こえないようになると、速水はボソりと呟く。そして、
「そろそろ帰るか」
静かに息を吸い込み、意識を森の向こうに向ける。
瞬間移動は視界の範囲であれば、歩くように意識する事なく移動が可能であるが、離れている場所に跳ぶのであれば精神集中を必要とする。
速水は森の向こうにある二年宿舎のとある部屋をイメージして跳んだ。
「あら、お帰り。遅かったわね速水君」
「チッ、少しは驚けよ。いきなり部屋に表れるなぁ~とかあるだろうが」
速水が跳んだ先にはデスクに腰を下ろした女性が一人いた。そして、その女性はこの部屋の主である。
ホテルのエグゼクティブスィートを思わせるような広さ、家具一つとっても安物はない。高校生が住むには贅沢過ぎる部屋ではあるが、その女性がいる事に不自然さはまるでないかった。
「いい加減慣れたわよ。それにここに来いって言ったのは私。驚く要素なんてないんじゃなくて」
「左様ですか」
「あ、でも、許可なく跳んできたりしたら、骨も残さず焼き殺すわよ」
涼しげな顔でニコリと言い放つ。
「そんな命知らずがこの学園に居るはずないだろ… 」
「危険を省みず私を拐いにくる男… キュンとしちゃうんだけどね」
「で、真紅の焔に黒焦げにされる… ま、冗談じゃないな」
「あらあら、軟弱な事ね。で、速水君」
瞬時に部屋の温度が上がったように速水は感じた。これは雑談はこれまでのサインなのだ。もう余計な軽口は叩けない。
「黒だよ…神条真人は本物だ。だが、解せない事もある」
「へぇ… 因みにそれは何かしら?」
「奴は三桁だ。資質、動き、思考どれを取っても一桁なのにな」
「ふぅん… 確かにそれは変ね。あのヂヂイ何を考えているのかしら」
暫し思案する女性を大人しく待つ速水。だが、どうしても解せない事はもう一つあった。
「なぁ、何でアンタ程の人がアイツをそんなに気にするんだ? 」
「んっ、何気になるの? 」
「そりゃそうだ… アンタは二年の頭で学園の序列でも三本指に入る真紅の焔赤屋圭だぞ。多少素質のある一年を気にし過ぎてる」
「フフッ… だって彼は特別だもの、それは気にするわよ」
そう笑う赤屋圭の瞳が妖艶に紅く輝く。
その様は美しい… だが、速水の心臓は恐ろしさで動くスピードを上げた。
── 神条、お前に目をつけた奴は恐ろしいぞ。素直に俺にやられておけ…
若干ではあるが、速水は真人に同情するのであった。
「じゃあ、速見君。期待の新人を見に行きましょうか」
そう言うと赤屋は音もたてずに静に席から立ち上がったのだった。