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入学初日2

「んで、これから何をするつもりだ? 」


 直訴なる暴挙は諦めさせた真人であったが、その結果瑞穂が元より考えていた行動に付き合わされるハメになった。


「パーティーに招待されてるのよ」


「俺には招待状なんて届いてないんだが… 飛び入り歓迎なのか? 」


 招かねざる客ほど居たたまれないものはない。


「んんっ、どうだろうね。まぁ、お世辞にも趣味がいいって言えないパーティーだから、別にいいんじゃない」


「悪趣味ね… んじゃ、そういう事で… 」


「待て、何処に行く気よ」


上位序列者(エリート)と違って、今日はやること満載なんだよ」


 逃げ口上ではあるが嘘はついていない。個室を貰っている序列二桁(テンプレイヤー)以上とは違い、荷物を受け取りに行かなくてはならない。そして、荷物を受け取ると同時に自分の部屋番号を教えて貰えるのだ。つまり、寮母が不在なら自分の部屋も分からず、寮の入り口で途方に暮れる可能性もあった。

 ただ、それ以上に瑞穂がいうパーティーが何なのか、分かったような気がしていたのだ。


 真人に届いていない招待状… 否、正確に云えば、招待されているのが瑞穂であるという事から、パーティーに招待される条件が予測出来る。

 入学初日に明確な差が生まれるものといえば、家柄、性別── そして、入学試験の成績。つまり、ここでいうところの序列である。能力に家柄、性別は重視されないのが通常である事から、今回重視されているのは序列であろう。思えば入学式終了時、あそこに残っていたのは10人程度。そして、どれも一癖も二癖もあるような感じを真人は受けていた。

 つまり、残っていた者こそ一桁の板持ち(ワンプレーヤー)であり、パーティーの招待者達であったという事だ。

 そんな連中が集まる趣味の悪いパーティーで、飛び込み参加者が非エリート(ハンプレイヤー)なら歓迎される訳もない。


「付き合ってくれないんだ? 」


「悪いな」


「付き合ってくれないんだ? 」


「…………… 」


 目付き鋭く、繰り返されると怖いものがある。


「付き合わないとダメか… 」


「うん」


「…… はぁ、何でいつも逆らえないんだろうか」


「惚れてるからじゃない。美しさは罪よね」


 ふさりと髪をかき上げ、真人を上目遣いで見つめる。だが、真人にはそんな感情の一つも湧いて来なかった。湧いてくるのは、妹の我儘に付き合う兄の心境に近いものなのだが、一人っ子の真人にそれを知る術はない。


「アホ抜かせ… だったら何処に行くかだけは話しておけよ。それで判断する」


「2年の校舎… って、何よその顔」


 うがっ、とばかりに心底嫌な顔を真人はしていた。


「お前マヂで今から行く気なのか… 」


「嘘ついてどうするのよ」


「お前、ここの総面積分かってるんだよな」


「約85k㎡だっけ」


 その通りであった。

 この社来学園は旧船橋市に建てられていて、一つの政令指定都市が全て学園の敷地なのだ。

 何故そのようになっているのかは割愛するが、そこをきっちり三分割し、1年エリア、2年エリア、3年エリアに別れ、今は更地か森になっている。そして、中心部に商業エリアがあるので、生徒は学園を出る事なく三年間を過ごす事が出来る。まぁ、裏を返せば学園外に出る事ないよう軟禁されているという事なのだが…


「ちな、ここから2年の校舎まで何分掛かるか知ってるか? 」


「うん、徒歩で三時間くらい」


 昔であるなら、電車で10分程度の距離でも今は商業エリアから都心に抜ける一本しか電車はない。また、バス等の交通手段もないので移動は徒歩が基本だった。


「お前な… 」


「歩かなきゃいいんでしょ」


「そりゃそうだが… 何をしに行くのか考えてないだろ? 」


「あ、誰が何処で見てるか分からないって事か」


 そうだと頷く真人。


「ふーん、もうどんなパーティーか分かっちゃったみたいだねぇ~。アンタにサプライズって言葉はないの? ほんと可愛くない」


「可愛くある必要性がないからな」


「ふふん、でもさ、どうせバレるんだから… 水流疾走(アクアドライブ)っ!」


「なっ! 」


 真人の忠告も聞かず瑞穂は術を発動させる。

 ── 水流疾走(アクアドライブ)

 水の精霊術士が使う移動用精霊術だ。術者の足下に水の塊を生み出し、回転させる事によって行動力を上げる。

 そのスピードは術者のレベルによって、大小様々ではあるが既存の交通機関より便利な代物になる。


「真人~、先に行ってるからね。ちゃんと追い付きなさいよ」


 地を滑り、瑞穂の姿はあっという間に小さくなった。


「あの馬鹿が… 」


 真人は、このパーティーは上級生の洗礼なのだろうと予想していた。

 一年の序列一桁(ワンプレーヤー)が慢心しないように、上級生が呼び出し、そこで上級生の力を見せて威厳を示す。


 ── 表向きはそんなとこだろうけどな。


 この学園の目的はまた魔物が現れた時に対抗できる能力者を作る事なのだ。その為、ここでは頻繁に生徒同士の能力バトルが行われていた。

 それはプレートバトルといわれ、勝敗は自分の序列に影響する。また、このバトルにはファイトマネーもついてくる。この学園の中でしか使えないポイントだが、月の生活を潤わさせる為にも絶対に必要なポイントだった。

 序列が高ければ一戦毎の取得ポイントも増え、楽で贅沢な暮らしがしやすくなる。だからこそ勝ち負けは真剣になり、時に命を落とす生徒も出てくる。

 ある意味プロの戦いをするのだ。

 自分の能力はギリギリまで隠しておくのが定石であり、自らひけらかすのは愚行なのだが、瑞穂にそういう考えはないようだった。


「ったく… あいつはあぶなかっし過ぎるぞ」


 ぶつぶつ呟きながら、生徒手帳を取りだしプレートを填めると、一帯の地図が空中に浮かび上がり自分の位置を映し出す。


「最短ルートはこっちか、周りに潜める地形は… 」


 現在地から2年校舎までの中間地点に森がある。待ち伏せや環視があるならここしかない。


 ── 待ち伏せなら、瑞穂はここで止まるか。なら、少し急がないといけないな。


 すぅっと息を吸い込み意識を先にある森へ向ける。そして、左腕を真っ直ぐに突き出して言葉を綴る。


「風よ流れろ、風索敵(ウインドサーチ)


 真人の指示で風がそよぎ、森を囲むように包む。

 よほど感知に優れた者でなければただのそよ風としか感じない。しかし、真人にはその風を遮る物体の大きさや形を、まるで間近で見ているかのように感じとる事が出来た。


「ざっと10人。やっぱ待ち伏せか、瑞穂一人で相手するには少々キツいかもしれない」


 一応進言しておくが瑞穂は強い。1対1なら能力者が集まるこの学園でも瑞穂に勝てる者はそうはいない。だが、その強さ故に戦いを軽んじている節がある。

 例え10人相手だとしても、馬鹿正直に突っ込み戦闘を開始するような性格を真人はよく分かっていた。


「やれやれ、流石に一瞬でケリがつく事はないだろうが、のんびり歩いていく訳にもいかないな… 仕方無い… 」


 あまりこれ見よがしに自分の能力を見せるのは、真人にとって本望ではない。どれ程近付けるかを、瞬時に計算して真人は印を組んだ。


飛翔(エアレイヴン)っ!」


 4大元素の中で最速を誇る風── その象徴ともいえる術だった。

 真人の体はふわりと宙に浮いたと思った直後、桁違いのスピードで森に向かって飛び立ったのだった。



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