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短編・季節もの

シャッターチャンスは一瞬

作者: 鵠っち

 薄桃色の花びらが舞う並木道を歩く少年少女。この道の突き当たりを左に曲がって、次の角をまた左に曲がってすぐところにある中学校に通う生徒達である。

「あっ、桜ちゃん、ちょっと待って」

「んー? どしたの桃ちゃん」

 ――カシャカシャ

 少し強めの風が吹いた瞬間。桜ちゃんと呼ばれた少女が振り返ると、数歩後ろにいる桃ちゃんと呼ばれた少女がスマートフォンをこちらに構えているのが目に入る。

「もー。撮るなら撮るって言ってよー」

「シャッターチャンスは一瞬なんだもん」

 そう言って桃が桜に見せたショットは、振り返った桜の背景に薄桃色の花びらが渦巻いている。二枚目は桜が髪を押さえて少し驚いた顔をしていた。

「ねえ桃ちゃん。たまには一緒の写真撮ろうよ」

「えー、おんなじなんだから桜ちゃんだけでいいよー」

 この桜と桃は双子の姉妹である。一応、桜のほうが姉だが、家族の誰も、そんなことは気にしていない。自分達でも、たまに聞かれたときに「どっちだっけ?」となるほどである。

「おんなじだから、桜の写真だけじゃなくて、桃ちゃんと一緒の写真も撮りたいんじゃん」

「じゃあ、一緒の写真は桜ちゃんので撮ろうね」

「うん!」

 そんなことを言いつつも、現実は無常である。歩きながら会話をしていたこともあり、桜並木の通りを過ぎてしまった。

 実は桃のスマートフォンには無音シャッターアプリも入っていて、桜の隠し撮り写真も結構ある。常に桜の数歩後ろを歩いているのは、桜のことをこっそり撮影するため。「シャッターチャンスは一瞬」だなんて、どの口が言えたことか。気にしないのが桜のためだろう。

 学校の門をくぐって、下駄箱までは一緒。残念ながら、クラスは違うので一旦分かれるが、教室の階は同じなので、一緒に階段を昇る。

「じゃあ桃ちゃん、お昼にねー」

「うん。桜ちゃんのために場所取っとくよー」

 この学校では、敷地から出なければ昼食の場所は自由。一応、教室にいることが推奨されているが、静かに食べたい者や、他クラスの友人らと一緒に食べたい者は、別の場所やその教室に入っても構わないことになっている。禁止されているのは部室や特別教室だけ。屋上は昼食時のみ開放される。


 さて、午前の授業が終わって昼休み。少し早めに到着した桃は、校庭の隅にレジャーシートを広げて桜を待っていた。というのも、二人の教室は校舎の端と端。授業が終わって即座に行動すれば、桃の教室からならば、このベストポジションを確保できる。

「桃ちゃーん! お待たせー!」

「桜ちゃん! 今日は真下ゲットだよ!」

「お、吹雪姉妹! いいとこ取れたじゃん。仲間に入れてくれー」

「しょうがないなー」

 それから、姉妹と仲のいい友人が四人、五人と集まってきて、レジャーシートはいっぱいになる。桜が抱えてきたお花見弁当をつつきながら、時折、頭上に咲き誇る薄桃色を眺める。なんと贅沢なひと時であろうか。

 ちなみに、吹雪姉妹とは桜と桃のことである。

「あ、そうだ。写真撮ろうよ桃ちゃん」

「うん、そうだね。誰か頼んでいい?」

「もちろん!」

 桜はスマートフォンを取り出し、友人の一人、水木に預ける。今朝方桃と約束した二人の写真を撮ってもらうためだ。「近いな」とか「ちょっとごめんねー」とか言いながら、少し距離をとる水木。

「もうちょっとくっついてー……いくよー。はい、ちーず!」

 ――カシャシャシャシャシャシャ!

「え、なんで連写モード?」

「いやぁ、この一瞬気が緩んだところが最高の表情になるんだよ」

 ほら、と見せてくれたのは、ばっちりキメ顔の一枚目。それからスライドして次の写真はほぼ同じ。三枚目、四枚目と少しずつ表情がほどけていく。そして驚いた表情から、一気に破顔するまでが収められていた。

「ま、シャッターチャンスは一瞬しかないんだから、できるだけ多く切り取りたいじゃん」

 常にシャッターチャンスを窺っているか、少ない機会で多くのシャッターチャンスを狙うか。やっていることは違うが、なんだかよく似ている気がする。

 それからしばらく後、昼食を終え、姉妹と友人達はそれぞれの教室に戻っていく。

「桃ちゃん、また放課後ね」

「うん。桜ちゃん。また放課後ね」


 午後の授業も終わって放課後。

「桃ちゃん、お待たせー!」

「あー、桜ちゃんおっそーい!」

「ごめんごめん」

 階段を走ってやってくる桜に、桃が文句を言う。別に本気で言っているわけではないし、そもそも三分も待っていない。もしかしたら二分も待っていないかもしれないが、後から来た桜にはそんなことは分からないので、いつも謝っておくことにしている。

 しかし、実際は三分も待っていない。

 二人は現在どの部活動にも所属していないので、いわゆる帰宅部というやつである。なので、放課後は帰るだけ。また同じ並木道を歩くのは二人だけではないが、お互いに干渉しないのが暗黙のルールというやつだろう。

「あ、桜ちゃん、ちょっと待って」

「んー、どしたの桃ちゃん。忘れも……の?」

 ――カシャシャシャシャシャシャ!

 少し強めの風が吹いた瞬間。桜が振り返ると、桃がスマートフォンを構えている。

「もー。撮るなら撮るって言ってよー。それとなんで連写なの?」

「シャッターチャンスは一瞬なんだもん」

 そうして桃が見せたショットは、振り返った桜の後ろに薄桃色の花びらが渦巻いている。今朝と同じかと思ったら、空の色が変わっていて、左右が違う。それに、今朝とは違い、何十枚も撮れているのでかなり細かく表情の移り変わりが分かる。

「ねえ桃ちゃん。また一緒の写真撮ろうよ」

「一緒のは桜ちゃんので撮ろうね」

 すると今度は桜が自分のスマートフォンを取り出して、カメラアプリを起動する。

「じゃあ、桃ちゃん。いくよー……はい、ちーず!」

 ――カシャシャシャシャシャシャ!

「あ、連写モードのままだ」

「わざとじゃなかったの?」

 こうして撮れた写真には、驚いた表情の桜と、澄ました表情の桃が写っていた。連写に驚いて途中からブレてしまったが、半分くらいはきちんと見れる出来である。

「うふふ、今日の桜もかわいいなー」

「ん? なんか言った?」

「んー、なんも言ってないよー」

 そんなこんなで、笑いあいながら再び自宅へと歩き始める二人。手に持ったままのスマートフォンで桃が真正面からこっそり撮影した一枚は、桜の今日一番の笑顔だった。

 お花見、しましたか?

 ここ何日か雨の日があったので、もう散ってしまうのではないかと思ってしまいます。あさって(9日)まではもってほしいところですが……。鵠

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