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魔眼の忍者は地球と自分の未来を憂う  作者: 入栖
魔眼の忍者は個性豊かな仲間達と出会う
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09


 僕は音吉とナズナが部屋から出ていくのを見計らって梅次郎に話しかける。

「なぁ梅次郎。音吉はどうだったかい?」

「はっ。忍法は極めているとまではいかないにしても、ほぼ使いこなしていまする。極めるのも時間の問題かと。また魔眼の力は凄まじく、発動前の魔法の効果を察知する事も出来ております」


 魔眼、ね。音吉が僕達の姿を見て色を言い始めた時は驚いた。水魔法を使用していれば青、火の魔法をしようとしていれば赤といったように。初めは何の事を言っているのか分からなかったけど、それは魔力の色だったとはね。


「また七色兎の擬態を拙者は見破れなかったものの、音吉は一瞬で見破ったでござる」


 初めは使う魔法が分かるだけかと思っていた。まぁそれだけで脅威なのだけれど、だけど彼の眼の力はそれだけでは無かった。僕が魔法で作った分身を一発で偽物と断定できたり、幻術が全く効かなかったりと僕たち忍者の天敵にしか見えない能力を持っていた。更には魅了術まで無効化するとは、もはや万能の魔眼と言っても良いと思う。


「運動能力も魔力も既に拙者に引けを取らぬかと、いえ魔力は既に拙者が圧倒されておりまする。忍法の威力は拙者を越えたかと」


 また魔眼の力はそれだけでは無かった。魔眼の扱いに慣れてきたころには魔法を数度みれば……いや、しっかり見ることが出来れば、一度でその魔法をコピーしてしまうことが出来るようになった。


「ははっ。青は藍より出でて藍より青し、か。いずれナズナと梅次郎は僕を越えると思っていたけど、まさかぽっと出の者に3年で追いつかれるとは僕も思っていなかったよ」


「!? 師匠、では音吉は……?」


「ああ、あの忍法を除けば免許皆伝だろう。魔眼にそしてあの才能。ははっ、恐ろしいね。僕の30年が3年に凝縮されたんだよ」

「……」

 梅次郎は苦虫を噛み潰したように顔をしかめていたが、やがて大きくため息をつく。


「何、梅次郎もすぐに追いつけるさ。でもそれはナズナが先だろう。彼はナズナに沢山の物をもたらしてくれた」


「そう存じます」

「正直に言えばもうこの村で一生過ごしてもらいたいものだが……」

「師匠。御言葉ですが彼にも家族が――」

「分かっているさ。でも、天涯孤独のナズナを考えるとどうしても……」


 ナズナの両親は10年前にケイオスの軍勢と戦い、今は土の中だ。彼らは村の忍びたちを率い、襲い来るケイオス達を追い払った。彼らがいなければどれだけの被害を受けていただろうか。僕だって――。

「――師匠? 話を聞いておられたか?」

「すまない、ちょっと考え事をしていたよ。それでなんて言ったんだい?」

「ナズナの事。傍から見ていれば十人中十人が気が付くかと。そんな彼女がしでかす行動と言えばやはり……」

「そうだよね。僕もそう思う」

 だとしたら、翻訳の丸薬をまた用意するか調合しなければならないだろう。


「やれやれ、なんてじゃじゃ馬な子なんだろうか。それにしても梅次郎は良いのかい?」

「はて、良いとは?」

「ナズナが音吉にバレバレだったように、僕にしてみれば――」

「拙者は彼女が楽しそうに笑っていられればそれで構わないのでござる」

「そっか。まぁ、最近神社の巫女に猛烈アタックをしているしね。それもそうか」


 僕が神社と単語を出した瞬間、彼は勢いよく顔を上げる。彼の顔は驚愕に染まっていた。

「! し、師匠。い、いつからでござるか!?」

 僕が気が付かないと思っていたのだろうか? それどころかナズナと音吉も気が付いていたと言うのに。

「いつだったかなぁ? 一年前の年始には確信していたよ」


 あんなに挙動不審になっていれば初めて梅次郎を見た人でも気が付くだろうさ。気が付いていないのはあの巫女だけかな。まったく彼らはなんで自分に向けられると気が付かないのに、なぜ他人のは気が付くのだろうね。

 

----

 

「ねぇ」

「うん?」

 彼女は大根を切り終えたようだったので、俺は白菜に手を伸ばし水洗いをする。そしてソレを彼女に渡したのだけれど、彼女の手は一向に動かない。ただただざく切りすれば良いだけなのに、切り方を忘れてしまったなんて事もないだろう。


「音吉がこっちに落ちてきて三年たったじゃない?」

「そう、だな」


 思い起こせば苦労の連続だった。

 初めは覚えることがありすぎたし、魔法や忍法の修行が辛かったのもあってとても大変だった。でも数カ月もすればそれも慣れて、どんどんと出来ることは増え、ついには毎日が楽しくなった。


「……そろそろ、帰る?」


 俺は帰ろうと思えば帰れる。先月、ようやく一人でも都市まで行けると太鼓判を押された。必要なお金も溜まった。行こうと思えばもう、出発はできる。


「ああ、そろそろ行こうと思う。でもさ」

「でも?」


 日本で俺はほとんど引きこもりみたいに、毎日ゲームをしていた。それで得られたのは一時しのぎの快楽で、ゲームに飽きてしまえばそれで終わりだった。それがこっちの世界に来てからは毎日が刺激に溢れていた。その代わり生死の境をさまよったことも多々あるけれど。


「いや、地球に戻ってしばらくしたらまたこっちに来ようかなって思ってるんだ」

 此処に戻ってこれるのはいつになるかは分からないが、必ず来たいと思っている。


「ホントッ!」

「うん。まぁいつになるか分からないんだけど。此処の世界の生活は凄く楽しかった。俺の世界じゃ魔法なんて無かったし、それに元の世界に戻って魔法を自由に使えるかと言えばそうではないし」

 魔法を使う場所は確実に限定されるだろう。でなければ生徒会長らは堂々と魔法を使って生活している筈だし。


「そっかーなら安心かな?」

「何がだよ?」

「ん、あー。あたし音吉達と一緒に旅に出たいなぁなんて思っていたからさ」

「冒険者か?」


 この世界には冒険者と言う職業がある。冒険者は街の周辺の魔物を倒したり、各地に点在しているダンジョンや遺跡で宝を集め生計を立てているらしい。この村に冒険者はいないけれど、冒険者を引退してこの町に住み込んだ者もいた。ナズナや梅次郎は彼らの話を聞いて目を輝かせていた記憶がある。

「まぁそれは口実なんだけどね」

「え?」

「ううん、なんでもない。それじゃその目に刻みなさい、あたしの包丁さばき!」


 なんだかよくわからない掛け声をあげながら、食材を切り刻む彼女。それをみて俺はため息をついた。


「……頼むから大きさは揃えてくれ」

 その後はほとんど話すことなく黙々とご飯の準備をしていた俺たち。向かいの家のおじさんが来たのは、俺が玉ねぎの皮を向いている最中だった。


「おい、音吉はいるか!?」

「ああ、いますよ? どうかしたんですか?」

 入ってきたのは梅次郎の親父さんだ。彼は肩で呼吸しながら、顔を伝う汗を腕で拭う。


「『穴』だ、月見の森に『穴』が開いた。急げ、音吉。早くしないと閉じるぞ!?」


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