07
「光ある所に悪はあり!」
「悪ある所に、忍あり……」
「正義の心で悪を撃つ、その美しさは百花繚乱」
「忍者音吉ぃ……」
「くのいちナズナ!」
「此処に推参!」
「ここにすいさん……」
決めポーズを解くとナズナは少しだけ怒り気味で俺のそばに寄ってくる。多分文句を言われるだろう。
「かぁあぁぁっ、ちょっと音吉、あんたやる気出しなさいよ!」
無茶を言わないでほしい。ただでさえポーズして台詞言うだけでも恥ずかしさが限界突破しそうなのに。
「やる気なんてでねえよ……この決め台詞とポーズを梅次郎に見せて見ろ。朴念仁が抱腹絶倒でしばらく地面を転げまわるぞ?」
大体なんなんだよ、この決めポーズ。小学生が考えた最強のポーズのほうがカッコ良さそうだ。それに台詞が恥ずかしい。全部一人でやれ。
「はぁー分かってないなぁ。いい? 決め台詞ってのはね、それで戦いの8割は決する大切なものなの。それをあんたは……!」
分かってないのはお前の方だろう。
「お前はアホか。俺らなんて魔物としか戦わないのに、どこでその決め台詞言うつもりだよ」
そんなんで8割決するんなら、多分決め台詞を言っているうちに攻撃されて敗北が決定してるんだろうな。
「だからクオリティを上げて、魔物がたじろぐ位の物をやればいいのよ! それに私たちの戦意は急上昇間違いないじゃない!」
お前は急上昇しても、俺は急速下落するだろうな。人に見せても笑われて終わるだろうに、魔物の前でやったって鼻で笑われて食われるのが落ちだろう。
「はぁ~ぁ」
「なによぉ、そんなに大きなため息なんかついてあたしの決め台詞に文句でもあるわけ?」
「あるさ、もうちょっと何とかならないか? そのポーズとか。はっきり言ってダサい。それに台詞もなんかアレだし」
「むむっ! あんた分かってんじゃない、確かに台詞は改変の余地があると思ってるのよ! 音吉はどう言うのがいいと思う?」
(なんか変に食いついてきたな……つかそんなの知ったこっちゃねぇよ)
「そもそも俺が名乗る前に『美しさは百花繚乱』ってのはおかしいだろ、『その強さは一騎当千』とかだったらまだしも。つか二人用の考える前にまずは自分一人用のをしっかり考えるべきじゃないか? 俺が居ないこともあるだろう?」
「むむっ一理ある! まずはあたしのを考えておいて、後で音吉用のも考えて最後に合体ね。どうすればいいかしら。やっぱり花を入れたいわよね、この美しさは百合のごとく! いやそれだと悪ある所に合わないし……」
(俺のは考えなくていいんだがなぁ)
「音吉殿ぉー!」
ナズナが瞑想状態に入ってすぐに、後ろから声が聞こえた。多分この声は梅次郎だろう。
「やっと見つけたでござる。音吉殿、ナズナ。師匠が呼んでおったぞ。拙者ら三人に頼みたい事が有るとの事」
「ああ、分かった行くよ。おいナズナ、お前はいつまで悩んでるんだ……」
俺は隣でブツブツ言い続けるナズナの肩を叩くと、彼女は露骨に不愉快そうな顔尾して俺を見つめる。
「才色兼備の超絶美少女……ってなによ? せっかくいい言葉思いついたってのに!」
「喜介さんが呼んでるんだとよ」
「え、師匠が? 何、まさかまた何か問題を持って来たっていうの!?」
俺と梅次郎はそれを聞いて同時にため息をつく。
「何よあたしを見てため息なんかついて……もしかしてあたしの魅力によーやく気が付いたわけ?」
「なわけないだろう、トラブルメーカー。喜介さんは問題を持ってくるわけでは無い。問題を持ってくるのはお前だ、ナズナ」
「ナズナが歩けば棒に当たる。ナズナが何かしでかすたびに、ナズナだけじゃなく拙者らまでが棒にあたるでござる」
「ちょ、その言い方はひどくない? あたしだって――」
と彼女が言い終わる前に俺はポツリとつぶやく。
「三日前の王様狼退治……」
「ギックッゥゥ!」
それだけで終わらない。すぐに梅次郎も追い打ちをかける。
「十日前の一角獣の角」
「――――ふひゅーふひゅー」
(口笛ふけてないっつの)
「あ、あたしだって人間だから失敗することもあるの。ほら河童の川流れとか言うでしょ? 能ある鷹は爪隠すのよ!」
俺はナズナから顔をそむけると梅次郎にだけ聞こえるようにポツリとつぶやいた。
「豚に念仏――」
「猫に経でござるな」
どうやら梅次郎も同じことを思ったらしい。言うだけ無駄だと。