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魔眼の忍者は地球と自分の未来を憂う  作者: 入栖
一般人少女はお嬢様学校で自身の安穏を願う
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湊葵みなとあおい 語り手。一般人。

玉響桂花たまゆらけいか 日本最大の財閥、玉響財閥会長の孫。容姿、知力、財力全てを兼ね備えたお嬢様。魔法使い。

岩倉綾乃いわくらあやの 葵のクラスメイト。ある事件をきっかけに湊兄妹と仲良くなる。

湊音吉みなとおときち 葵の兄で魔法使い。忍者。

玉響花香たまゆらかこう 桂花の姉で魔法使い。


 窓の外に見える茜色の空を、一羽のカラスが悠然と飛び去っていく。


「はぁ」

 視線を下に移してみれば、そこには幾重ものお嬢様達が談笑しながら帰路についている姿が見られた。私のように窓際でグダグダと外を眺めている学園生はもう居ないと思う。


 彼女たちが進む先、門の前には1台のリムジンが止まっている。多分どこかのお嬢様がそのなかに乗り込み、パーティーやら、習い事やらに顔をだすのだろう。


 はぁ、とまたため息が私の口から零れる。


 私の家は裕福か裕福でないかと問われたら、裕福だと思う。


 住んでいるとこは、一応高級住宅街(隅っこだけど)だし、両親がそこまでお金に困っている様子を見たことがない。

 まぁ、父は日本で一番有名な財閥の中心会社で働いているし、まさか給料が安いということは無いだろう。


 それに私は幼稚園から短大までのエスカレーター女子校の中等部に通わせてもらっている。そこはいわゆるお嬢様学校と言われる学校で、ある程度のお金と、ある程度の家柄がないと入れない、らしい。だけど私は後者については甚だ疑問だった。うちにそんな家柄なんて無いだろうと。


 私が周りと自分の差を認識したのはいつ頃からだったろうか?

 初めは初等部のときだろうか。多分リムジンで悠々と登校する友人を見たときだ。


 初めは○○ちゃん凄いなー、だとしか思っていなかった私。だけど年を重ねるにつれ彼女たちの常識と、私の家の常識の差異を理解できるようになった。


 私の家とはそもそも規模が違う。普段からその格の違いを見せられているけど、一番それを感じる時は、夏休みに明けに友人と顔を会わせたときだ。私が彼女たちに休み中何してたかを聞くと、彼女たちは笑顔で別荘(避暑地)に言ってたとか、ハワイに行ってたとか言うのだ。


 私なんてお兄ちゃんと買い物に行って、一緒にゲームをしていた位しか思い出がないと言うのに。


 もちろんお金だけではない、家柄もだ。歴史で聞いたことがあるような名字の生徒が居るなと思えば、本当にその人の子孫だったりする。また超有名な財閥やグループ会社の会長の孫だとか、警察のおえらいさんだとか、親が政治家だとか、茶道の家元だったりとか。


 それに比べたら、うちはなんて平凡な家庭なのだろう。私がこの学校に合格したのかは未だになぞだ。


「あら、葵さん。どうかされたの? そんな黄昏てしまって」


 後ろから声をかけてきたのは、綾乃さんだった。彼女は初等部からの付き合いだ。初めはただのクラスメイトであったが。しかし中等部に入ってからとある事件をきっかけにとても仲良くなり、今では一番にいる時間が一番長い友人でもある。私と同じようにそのままエスカレーターで高等部へ進学する筈なので、これからもこの関係は続いていくだろう。


「ええ、その……。実は兄が桂花様にお世話になったようで」

 私が桂花様と言うと綾乃さんは驚きを顔に出し、私に近づく。

「まぁ、それは一体どう言うことですの? お差支えなければ教えて下さいな」


 さて、一体どう言う事かと言うと、夏休み中行方不明になった兄が玉響病院で保護されていたのだ。なんでも一時期記憶喪失だったらしく、家の事とか、私の事も忘れていたとかなんとか。その時に桂花様や花香様にお会いして色々ご迷惑をおかけしたとか。


 そう、私が説明をすると綾乃さんは笑いながら首を左右に振った。 

「事情をお聞きする限りでは、それほど悩むべきことでないと思いますよ?」

「そうですか?」

「ええ、桂花様も花香様もとても誠実で心優しい方々です。葵さんはあまり接する機会がないかもしれないのでピンと来ないかもしれませんが、気になさらなくてよろしいと思います」


 綾乃さんにそういわれても、私は安心なんて出来ない。だってあの玉響桂花様と玉響花香様だよ?

 玉響家と言えば日本だけでなく世界にもその名を轟かせる日本最大の財閥だ。ウチの父だってその財閥の関連企業に努めている。運が悪ければ父の首が飛び、私の生活だって平穏から悪夢に変わるだろう。


 ましてや世話になったのはあのお兄ちゃんなのだ。面倒くさがりやで引きこもりに近いお兄ちゃんなのだ。迷惑をかけない訳がない。

「そうだといいんですが……」

「ふふっそれに葵さんのお兄様であれば、そんな事は無いと思いますけどね……。それよりも葵さんは帰宅されないの? もうこんな時間ですわ」


 私はスマホを取り出すと時間を見つめる。確かに下校時間が過ぎてかなり時間がたっている。

 それといつの間にか兄からメッセージが届いていたようだが、どうせ今日の夕食は何が良いとかそんな事だろう。もう、こっちは無視で良い。


「もうそろそろ帰ります」

 綾乃さんはホッと息をつくと、いつも持ち歩いている鞄を持ち直す。

「そうですか。では私はこの後予定があるので、お先に御暇おいとましますわ」


 えと、今日は木曜日だし彼女はいつもの習い事だろう。舞踊だっただろうか。

「頑張ってね」

「ありがとう。葵さんは暗くなる前に帰らないといけませんよ。以前のように音吉様がいらっしゃれば話は別ですが……」


 どうも綾乃さんはお兄ちゃんを乙女フィルターを通して見ている節がある。たしかに白馬の王子様みたいに颯爽と助けてくれたことがあるから、綾乃さんがそうなってもおかしくは無いかもしれない。だけどあの・・お兄ちゃんなのだ。


「綾乃さん、うちの兄はてんでたよりないですよ? 以前のはたまたまですから……」

「たまたまでも構わないんです。彼は自分を顧みず私の前に立って下さいました。たしかに追い払えたのはたまたまかもしれません。だけど立ち向かった勇気は本物です。そしてわたくしに優しい言葉をかけて下さったのも疑いようのない事実です」


 そう言う綾乃さんは頬に手を当て、恥じらうように身を小さくする。

 もはや乙女フィルターどころではなく、心酔している感がある。以前にお礼が言いたいから家に呼び出してくれ、なんて言われた時は兄と一緒に頭を抱えた。


 お兄ちゃんに言わせれば『妹の友達がハンカチを落としたから、拾って届けた』位の感覚で助けたらしい。それなのに家に御呼ばれされても……となるのは仕方ないだろう。


 その後私は綾乃さんを説得したが、『どうしてもお礼を言わせてほしい』と言う事を断り切れず、三人でカフェに行くことになった(家に行かなくて本当に良かった)。


 そのカフェで綾乃さんが『本当にありがとうございます。何かお礼させてください』と言うと兄は半笑いの困った表情を浮かべ、綾乃さんに言った。

『私は目の前の人がハンカチを落としたから届けたのと同じような事をしただけです。ハンカチを拾って届けただけなのに、何かを貰うまでお礼をされるとこっちが恐縮してしまう。もう私は綾乃ちゃんにお礼の言葉をしっかり貰ったからもう十分だ』と。


 あの時の綾乃さんの顔は忘れられない。私も少しだけキュンと来てしまった。またあの時のカフェ代の全額を綾乃さんが全て持つと言ったのだが、お兄ちゃんはそれを無視した。そしてお兄ちゃんが全額を払い颯爽と帰って行ったのも、綾乃さんが心酔している原因の一つなのかもしれない。


 ちなみにカフェの料金が想像以上に高かったようで、お兄ちゃんはその後ゲームを1本買うのを諦めた。


「ははは、まぁ兄のことは置いといて……私はもうすぐ帰るので大丈夫です」

「そうですか、なら安心です。では失礼しますね」


 そう言って綾乃さんは教室を出ると、足早に歩き去っていく。習い事の時間が押していたのだろうか。それなのに私に声をかけてくれたのだとしたら、私は彼女に心配をさせていたのかもしれない。


「はぁ」

 私は窓に背を向けると先ほど届いていたお兄ちゃんのメッセージを開くため、スマホを取り出す。


 兄曰く、今日はカレーでも良いか? との事だった。私は了承のメッセージを送るとスマホの画面を消灯した。

「お兄ちゃんが、料理……ね」


 お兄ちゃんは行方不明(記憶喪失でもあった)から戻ったとき、性格が激変していた。以前ならば料理なんてしたくないと言い、いつもどこかで買った弁当やら外食ですませようとしたものだ。だけど家に戻ってからはなんと自炊をするようになった(毎日ではなくたまにだが)。あの面倒くさがり屋のお兄ちゃんがだ。


 それだけじゃない。いつもは私や出張中の両親が言わない限り行わなかった、掃除も洗濯と言った家事も進んでやるようになった。何か危ないものを食べたんじゃないかって私は思ってる。


 気がつけば料理は私よりも上手くなっていて…………うん、なんだか悲しくなってきたし、帰ろうかな。

 

 私は立ち上がると荷物を持ち、部屋の明かりを消す。そして戸締りがされてるかを確認するため、ざっと教室内を見渡した。


 窓から差し込む赤い光が照らしている所為で、部屋全体がオレンジ色に染まっている。その黒板も、その教卓も私の席も棚の上に置かれた花も。

「綺麗ですね」


 うっとり見ていた私は不意に後ろから声をかけられ、体がびくりと反応する。私は驚きながらもそちらを見つめた。そして思わず息を飲んだ。

 そこにいたのは一人の女性だった。それも学園で知らない人が居ないほど有名で、つい先ほど話題にもなった人だった。


 彼女は私と目が合うと少しだけ笑い小さく礼をする。

「ごきげんよう、葵様」

「ご、ごきげんよう、桂花様」


 嫉妬すら起きない綺麗な顔。小ぶりな鼻に、ぱっちりした眼、長いまつ毛。そしてまるで絹のような黒髪に、私と同じ中等部3年の制服。また制服の襟には、この中等部生徒で一番の権力者であることを示す、生徒会会長の証でもあるピンが付けられている。


「どうかされましたか?」

 私が挙動不審だったからだろうか、桂花様は私を見つめて不思議そうに首を捻った。その小さな動作がまた可愛らしく、傍から見ていたのなら思わずため息が漏れそうだ。いまの私はそれどころじゃないけれど。ってなんで彼女は私の名前を知っているんだろう。


「い、いえ。あ、あの桂花様」

「? どうかされたの?」

「あの、もしかしたら覚えてらっしゃらないかも知れませんが、わたくし湊音吉の妹でして、兄が入院中お世話になったとか……ご迷惑をおかけしたとか……」


 緊張のせいか上手く言葉が出ない。だけど桂花様は私の思いをくみ取ってくれたのか、小さく笑顔を作った。

「それはもちろん覚えておりますよ。音吉おにい……んんっ、ごめんなさい。音吉様は私たちに迷惑をかけていません。それどころか私や姉、ひいてはお爺様が音吉様にご迷惑をおかけしたかもしれません」


 え、ええぇ? ちょっと聞いていた話と違うんですが……。お兄ちゃんは一体何したって言うんですか!?

「そ、そうなのですか?」

「葵様は素敵なお兄様をお持ちですわね」


 アレが素敵ですか? お世辞にも程があります。あんなの欲しければいくらでもあげますよ?

「ありがとうございます」

「本当にうらやましいわ……」


 桂花様は私から視線を外し、茜色に染まる教室をうっとりと見つめる。私は教室ではなく桂花様を見てうっとりしてしまいそうだったが。

「あ、あの。桂花様はこんな時間にどうされたのですか? 忘れ物でしょうか?」

「いいえ」


 桂花様は教室から私に視線を戻す。そして信じられないことを言いはなった。


「貴方に用があってきたの」


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