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魔眼の忍者は地球と自分の未来を憂う  作者: 入栖
魔眼の忍者は個性豊かな仲間達と出会う
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「もう少しで祖父の部屋です。確実に失礼をすると思ますが、気になさらないように。すべて戯言たわごとなので」

「あ、ああ」

「どうかされました?」

「いや、家が凄く広いんだなと思って……」


 そう言いながら俺は辺りを見渡す。松や梅の木が植えられた庭園、高そうな鯉が泳ぐ池、時代を感じさせる木造建築。まるで大河ドラマに出てきそうな家だ。その縁側に腰掛けて一日中ぼうっと庭を眺めていても、飽きはこないだろう。


「ああ、此処はウチの幾つかある家の中でも一番大きいんですよ、それに道場もありますし。関西に行けば此処以上の家もありますよ」

(俺の家とは桁が違うな……いや、比べるのも失礼なぐらいだ)


 彼女がお嬢様だと言う事を再度認識させられる。通りかかる女中さんらしき人は花香を見ると足を止め一礼をする。マジで何だここは。俺は平安時代の貴族にでもなった気分だ。

(それにしても色々急な話だったな)


 花香が実家……というより祖父に連絡してすぐに返答が有ったらしい。今すぐ呼び出してくれと。花香は体を丸めて上目づかいで俺を見つめてきた。卑怯である。

 考えても見てほしい。凛とした和風美人が体を小さくして凄く申し訳なさそうに言うのだ。


『私を助けると思って今から来てくれませんか?』

 いくらでも行ってやろう、たとえ地獄の果てでも行ってやろう。そう言ってしまいそうなほど彼女は可愛かった、と言うより保護欲を掻きたてられた。


 本当であればスマホを買いに行く予定ではあったが、別にそれは後回しでも良い。スマホがあった所で連絡が来るのは、家族か魔法ギルドからぐらいなものだろうから。


「……祖父が本当に申し訳ない」

「まぁ、渡りに船だったよ。それにこれから色々世話になるだろうし、親族にごあいさつしとかないと」


「よ、よよっよ嫁入りみたいなことをい、い、い、いうな」

 そんな事はさらさら考えていなかったのだが。

「そこまでは言ってないが」

「そ、そうですよね」

(なんで残念そうなんですかね……)


「そ、そうか。ふぅ。……なんだか、助けてもらってばかりで頭が上がりませんね。もし私に何かできることが有ればいってくれれば都合をつけます」

(そんなこといわれてもな)

 困りごとと言えば今の所すぐに解決しそうなものばかりだ。スマホ、魔法訓練の場所。


(いや、ちょっとまて。アレがあったか。だけど学校も違う彼女にお願いしていいものなのか……まぁ一応聞いてみようか)

「花香は勉強が得意だろうか?」

「? 一応、偏差値は65以下をとったことは無いですが?」


 想像以上だった。俺とは根本的に頭の作りが違いそうだ。よくよく考えてみれば財閥のお嬢様でそれなりの学校に行っている時点で頭は良いだろう。ならばお願いしても良いか。


「えと、非常に申し訳ないんだが、勉強を教えてくれないだろうか……」

「わたくしで良ければ構いませんが、その、お、音吉は勉強が苦手なのでしょうか?」


「苦手と言われれば苦手だと思う、成績は芳しくない。まぁ今までは最低限できた。が、しかしだな」

 自分で言って悲しいが全国平均ちょっと上ぐらいしかとることが出来ない俺だ。


「3年のブランクを負ってしまって……はっきり言って1学期習ったことが全て吹っ飛んでいてもおかしくは無いんだ」

「ああ、なるほどヴォーアに行っていたから忘れてしまったのですね。だから勉強を教えてくれと」


「話が早くて助かる。時間が有るときでいいから見てくれないだろうか、見周りの後とかでも良いし」

「それは無論構いません。いつするかは、後で話しましょうか。もうそろそろつきますので」


 花香は木の扉の前で足を止めると大きく深呼吸する。釣られて俺も深呼吸した。

「ふぅ、よし、行ける。負けない。隣には彼がいる。下手には出ない。攻める。最悪は逃げよう」


 小声で何かをブツブツつぶやく花香。

(なんかやたら花香が気合を入れてるんだけど……手合わせするの俺と花香の爺さんだよな? あの皐さんもお爺さんは変人だと言っていたから、一筋縄でいかない人なんだろう)


「行きましょう……!」

 そう言って彼女は戸を引くと中に入っていく。俺は一抹の不安を抱きながらもその扉を潜った。


 そこに居たの還暦は越えたであろう白髪の老人と10代中盤の女性だった。その老人は自分の横に刀を、女性は横に薙刀を置いて正座をし、瞑想をしていた。

(へぇ、なかなかの魔力だな)


 花香に及ばないにしても二人の魔力は人間族にしてはそれなりに優秀と言って良かった。老人の方は年齢もあってもう魔力の伸びは無いだろうが、女性の方はまだまだ伸び代が有る。


「お爺様、湊音吉様をお連れ致しました」

 老人は体は一切動かさず、ゆっくり目を開く。彼から与えられた印象はまるで『岩』であった。荒れ狂う嵐、凍える吹雪、焼き尽くすような日差しを浴びたとしても、何ら影響を与えることは無く、ただそこで異様な存在感を放ちながら鎮座しているような岩。


 その老人は小さく息をつくと低い声で話し始めた。

「良く参った。音吉殿。私は玉響源三郎たまゆらげんざぶろう花香の祖父だ」

 その気配に圧倒されながらも、俺は自己紹介をしなければと口を開く。

「初めまして、音吉と申します。花香と――」


 彼はスッと手を出し俺の言葉を静止させる。そして真剣な表情で俺の瞳を見つめてきた。彼は体中を魔力で覆っていて、いつでも戦闘が出来るような体制を取っていた。

「なに、お主の言いたいことは分かる」


(なに? まさかのサイコメトリー? いやまて魔力の動きは無かった。そんな事をしていれば俺に気が付かない訳がない)


 コクリ、と唾を飲み込む。彼は一体俺から何を読みとったのだと言うのだろう。彼はゆっくり口を開く。


 そして源三郎の口から出た言葉で――


「なに、顔を見れば一目瞭然じゃ。エロイ顔しやがって。ワシの可愛い花香にアーンなことや、ウーンなことしてエーンさせちゃうつもりだろう。絶対に許さん。花香がほしければワシを倒し……むっ!」


 ――俺は言葉を失った。


「きえええぇぇっぇえい!」

 俺の横から花香が駆ける。そしていつの間にか取り出していた刀で、その老人に斬りかかった。

「ぬるいわぁ!」

 老人はすぐさま刀を抜くと、花香と対峙した。


「フォッフォ。その程度でわしに勝てると思っておるのか!」

「く、まだまだ!」


 花香は横に回ると再度斬りつける。しかし源三郎はそれを余裕を持ってかわすと大きく一歩下がった。そして足に魔力を集めると小さな魔法陣を足元に作る。

「ふぉっふぉ。畳み返し!」

「なんのこれしきっ!」


 花香は浮き上がった畳ごと老人を斬り裂こうと……している所で俺は肩を叩かれた。

「あ、はい。何でしょうか」

 俺が視線を向けるとそこには花香にそっくりな10代中盤の女性、先ほど源三郎の隣に座っていた女性がいた。


「初めまして、玉響桂花たまゆらけいかと申します。姉の花香がお世話になりました」

「あ、はあ、桂花さんですね。湊音吉です」


 隣では真剣を抜いてカンカン斬り合っていると言うのに、彼女は気にならないのだろうか。と、チラチラ戦いを見ながら、桂花さんに自己紹介をする。

 そんな俺を見てか桂花さんはくすりと笑った。

「いつもの事なのでお気になさらないでください」


 彼女はそう言って小さくため息をつく。何故だろう。この空間で一番年齢が低そうな彼女が、一番落ち着いていて大人っぽく見えるのは。

「それと姉と同じように呼び捨てで構いません。むしろ姉を呼び捨てで呼ばれるのに、わたくしにさん付はおかしなもののように感じられます」


「は、はぁ。分かりました」

(話す事は普通なんだけどトーンが低いと言うか……えと淡々としゃべる子だな……)


「姉から忍法を使用されるとお聞きしました。失礼とは存じますがわたくし忍法に興味がございまして、祖父に無理を言って連れてきてもらったのです。私も祖父との試合を拝見させてもらってもよろしいでしょうか」


「ああ、もちろん構わないよ。隠しているわけではないし」

「ありがとうございます。それとヴォーアについても興味がございまして、よろしければお話しして頂けますか?」


 ということで俺が桂花さんと二人で道場の隅に座り込みヴォーアについてしばらく話しこむ。

 それからしばらくして斬り合っていた二人がこちらに近づいてくる。どうやら十分以上続いた戦闘は終わったようだ。


「ゼー、ゼー、ううん。なかなかやりおるわ」

「ふー、ふー、わたしだって日々鍛練をしているのだ、遊んでいるわけではない」


 肩で息をしながら何かを言い合う二人。二人は俺の前に来るとへたり込んだ。

「ゼーゼー、よ、よし。時間も少ない事じゃしはぁはぁ。早速手合わせ、はぁはぁと、いこうかの」


「……休憩してからでかまいません。せめて息を整えて下さい」

 息も絶え絶えで、足が震えていて、顔中汗だらけ。軽くローキックをすれば試合が終わってしまいそうだ。


「ゼーゼー感謝するぞ、音吉殿。ふぅふぅ…………」

 そう言って源三郎さんは道場に寝転がった。いびきを掻き始めたような気がするが気のせいだよな。まさか寝ているわけではないよね?


「ふーふー。す、すまない音吉。息の根を止めるつもりだったが、最後の最後で負けてしまった」


 普段の花香からは想像できないような殺伐とした言葉を聞いて、俺はなんとコメントしていいのか分からず頭を捻る。敬語も消えうせてるし。すると隣の桂花が俺の代わりに答えてくれた。


「お姉様。音吉様が引いておられますので一旦休憩して頭を冷やしてください」


 たしかにそのとおりなのだけど、少し言い方が辛辣ではなかろうか。両手をほおに当て泣きそうな顔をしている。しっかし、なんで彼女にはこんなに庇護欲を掻きたてられるのだろうか?

 

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