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魔眼の忍者は地球と自分の未来を憂う  作者: 入栖
魔眼の忍者は個性豊かな仲間達と出会う
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 俺と瑛華先輩が魔法ギルドに到着した時には、既に花香と柳原さんは到着していたようで、そこでは既に優雅なティータイムが行われていた。

 俺達は空いている席に座ると、花香は立ち上がり俺と先輩に紅茶を注いでくれる。


「ありがとう」

 そう言うと花香は照れたようにニコッと笑い、席に戻る。

(なんかアレだな……俺だけ場違いだな)


 例えるなら貴族のお茶会に混じった一般平民と言うところだろうか。上品かつ容姿端麗な彼女たちに挟まれた俺は、彼女たちの召使いみたいに見えるかもしれない。

 お茶を飲みながらたわいもない話をしてから10数分後、ようやく本題に入る。


「ああ、あんたのギルドカード預かってたわよ。はいこれ」

 不意に思い出したらしい柳原さんは、そう言ってエメラルドグリーンのカードを取り出す。そのカードの中央には月と太陽、そして右下に桜のマークが刻まれていた。


 俺は目を凝らしそのカードを見つめる。

 そのカードには記憶の魔法陣と表示の魔法陣、そして暗号化の魔法陣が刻まれていて、中には何らかの情報が記憶されているようだった。


 俺がじっと見ていたせいか、瑛華先輩が不安そうな声で尋ねてくる。

「……もしかして音吉はカードの中身も読み取ることが出来るのか?」

 彼女だけは俺の目を知っている。だけどどうせだったらこの二人にも知っておいてもらいたいし、説明を兼ねて話すことにした。


「ええと、どういった魔法陣が刻まれているのかはわかりましたが、中の情報は分からないですね。暗号化されてます」

(なるほど、決められた魔力を当てることによってカード内の情報を写し出す事が出来るのか。その登録は初回に当てた魔力の波長を解析して。面白い構造だな)


 俺は使い方を簡単に理解したので、カードに魔力を当てる。そして自分をカードに登録するとカード内の情報を表示させた。

(えーと、魔法ギルド実行部隊所属とな。そして俺の名前に……こっちにはEランクと書かれているな)


「なんであんた説明もなしに使いこなしてんのよ……」

 驚き呆れたとばかりにため息をつきながら、柳原さんは言う。ちらりと花香の顔を見るに、彼女も同じような感想を持ったようだ。


「いや、俺『真理の魔眼』持ちなんです」

 納得した様子の柳原さんと未だ首をひねる花香。

「真理の魔眼? 話の腰を折ってしまい恐縮ですが、真理の魔眼がどういったものか教えて頂けないでしょうか……」


「簡単に言えば魔力が見えるんだよ。魔法で作られた幻覚とかも見破ることが出来るし、どんな魔法が使われたかも調べる事ができる」

 そう言って俺はカードに描かれていた魔法陣の一つを起動させる。


「あーあーテストテスト」

 俺は魔法陣に自分の声を入れる。そして起動の為に魔力を込めた。

『あーあーテストテスト』


 すると魔法陣から俺の声が再生される。記憶魔法陣は振動も記憶が出来るようで、声や音波なども発生させることが出来るようだ。


「へぇ、この魔法陣面白いな。それに、色々使えそうだ」

「真理の魔眼は凄いのですね……」

「……あんたの規格外っぷりは分かったわ。ただ強いだけじゃないくて魔眼持ちってことね」


 花香は目を丸くしていてまじまじとその魔法陣を見つめる。柳原さんは若干呆れながら紅茶を飲んでいた。

「と言うことで彼は一度見た魔法陣を再現出来るらしい。エルフの研究室にいたら確実に目玉がくりぬかれているレベルの能力だ」


 その言葉を聞いて俺の背中に冷たいものが伝っていく。

「あれ……瑛華先輩。もしかしてこの話気軽にしてはいけませんでした?」

(確かに二人以外には話すなとは言われたが、結構軽いノリだったような?)

「あん、そんなの当り前じゃない」


 そんな俺の質問に答えたのは柳原さんだった。

「考えてもみなさいよ。伝説と言われた魔眼が実在していて、それが目の前にぽんと放り込まれるって。研究者ならこぞってあんたを欲しがるでしょ」


 なんであんたは気が付かないのよ、と言わんばかりに首を振る。

「えと、この話は内密にしていただけると……」

「あーはいはいわーったわ。花香も良いでしょ? じゃないとあんたのが研究室に連れてかれるわよ」

「わ、私のではない!」


 慌てて否定を入れる花香は、俺を見つめると一つ咳払いをする。

「も、もちろん秘密には致します。そこは安心してください」

「いやぁ、ありがとう。村に居た時は誰一人として気にする様子もなかったからなぁ。お前すげぇな程度で……」


「その村が特殊だっただけだろう、と言うことで副会長や校長には絶対漏らすな。彼女らは諜報部だから確実に上に報告するだろう」

(えーと、魔法ギルドの実行部と諜報部には壁が有るのだったか? まぁそこらへんは後で聞こうか)


「分かりました」

「さて見周りのローテーションだが……ふむ。君はどれくらい入ることが出来る?」

「俺は基本的に暇なのでいつでも……」

 どこかに遊びに行くことはめったにない。学校さえなければ毎日入っても良いくらいだ。


「分かった。シフトは私が組もう。来週からどんどん入れていくぞ。それと基本は私と組むことが多いと思うが、休日は花香と多くなると思う」

「花香とですか?」

「ああ、家が思った以上に近いみたいだからな。それに花香と一緒に組めば道場の件もお願いしやすいんじゃないか?」


 そう言われて俺はふと先の学校での会話を思い出す。

「道場の件でしょうか?」

 花香は何のことだとばかりに、首をひねった。

「あーそうそう。花香にお願いが有ったんだ」

「わたくしに?」


「その、魔法の訓練がしたくて……ここらへんで一番近いのは花香の道場だって瑛華先輩が言っていたから、使わせてもらえないかと思って」

「それももちろんかまいません。だけど私からも一つお願いがございまして……」


「お願い?」

 不意に花香の顔に影がさす。何か余り乗り気じゃないと言うか、嫌々ながらやってると言うか……。

「実は昨日の顛末を祖父に伝えた所、祖父が忍法を使う……お、お、おてぃぉきちに興味があるとのたまいましてですね……」


 私の名前は音吉です。誰ですかそれ日本人ではなさそうですね。つかまだ口調が固いんですけど。鬼蜘蛛と戦ってる時みたいに話してはもらえないだろうか。


「その一度でいいから手合わせしたいとのことでして。あの私も祖父に彼も忙しいと申し上げていたのですが、言う事を聞かず困っているのです。それで、子供のようにだだをこね初めて……会社に影響が及ぼしそうだったので、とりあえず話だけはする約束をしたのです」


(子供のようにだだをこねるって。さすがに嘘だろう……)

「その、もしよろしければですが、お暇な日に祖父と手合わせいただければと思いまして……その、なにとぞ――」


「あ、あの、そこまで畏まらないで欲しいんですが……それと手合わせ自体はもちろん良いですよ」

「ほ、本当ですか?」


 信じられないとばかりに驚く花香ではあるが、俺だって道場を借りようとしているのだから別に手合わせするぐらいなら構わない。

「本当に助かります。話の途中、申し訳ないですがすぐに祖父に報告してもよろしいですか?」


「えと、構いませんけど?」

「すみません。どうしても早く伝えておきたいのです。でないと会社がうまく回らなくて……」


 手合わせする事が出来ないと会社がうまく回らない? 少しおかしくないだろうか。嫌な予感しかしない。


 俺は花香が部屋の隅に行って電話を始めたのを見計らって、瑛華先輩に花香のお爺さんについて聞こうと思い、彼女を探す。しかし瑛華先輩はいつの間にか席を立っていたようで、彼女の席には人影が無かった。そのため俺は隣で紅茶を飲んでいた小中学生風高校生の柳原さんに小さく声をかけた。 


(あの、柳原さん)

(あ? なによ?)

(花香のお爺さんって、ヤバい人なんですか?)

(あん? むしろあんた玉響財閥の会長の事知らないの?)


 玉響財閥、そう聞いて俺は思わず唾を飲み込む。玉響財閥についてはもちろん知ってる。食品、機械、金融、IT、不動産などなどほぼ全ての分野を網羅する、この国の超巨大財閥のひとつだ。花香は玉響なんて珍しい苗字であるからして、薄々分かっていた事ではある。そもそも立ち振る舞いがお嬢様だった。


(玉響財閥については知っていますけど、俺は一般人ですよ。会長なんて雲の上の人です)


(あ゛ーなら簡単に説明すると、玉響財閥の会長は有能だけど変人って言われてるのよ。突如奇行に走るって言えばいいんかね。ま、あんたも会って分かると思うけど、覚悟しといたほうがいいわ)


(だから花香は面白くなさそうな、つか不安げな表情だったんですね)

「そう。んで、それとさぁ……ちょっと気になったんだけど、あんたはなんで私だけ柳原さんなわけ?」


 不意に彼女は声の調子を上げる。まぁ内緒で聞きたいことはもうないから別にいのだけれど。

「えーと、花香は年齢一緒だし、先輩には名前で呼べって言われたからですけど……」


「はぁん。あっそ。じゃぁあたしも名前でよんで。あたし自分の苗字好きじゃないの」

「そうなんですか?」

「ええ、大っっきらい」


 そう言って彼女は不気味な笑みを浮かべる。それは見る角度を変えれば意味が変わりそうな不思議な笑みだった。


(まるで能面だな、綺麗なんだけど……とりあえずこれ以上の話はよそう)

「分かりました、よろしくお願いします、さつきさん」


「分かってんじゃない。最低限空気を読むことはできんのね。よろしく音吉」


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