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魔眼の忍者は地球と自分の未来を憂う  作者: 入栖
魔眼の忍者は個性豊かな仲間達と出会う
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(まぁ、しかたないよな)

『面倒だろうが関わざるを得ない』


 それは日本に戻って来た俺がヴォーアを知る者たちへどう対応するかを思考した結論だ。理由は腐るほどある。だからこそ選択肢はそれ以外にないだろうと思っていた。入るのは、まあ構わない。だけど幾つか条件がある。それに俺は彼から彼ら魔法ギルドの利点ばかり聞いていたが、俺に関しての利点が聞けていない。

 

「はあ、その前に俺が入ったら戦闘、もとい仕事させられるだけのようにしか感じられないんですが。入って何か俺に利点とかあるんですか?」


「あるさ。まず基本的なことから。働いたら基本的にお金が支払われる。それは『地球』も『ヴォーア』も一緒さ。君が魔法ギルドに入ってくれるならば給料やら報酬を用意しよう。それも君の実力なら小金もちレベルの」

給料なら入ってすぐなるだろう、それだけじゃない」


「それだけじゃない?」

「関係者には権力者だったり政治家だったりがいる。それである程度コネが出来るのだ」


「ソレは別に要らないですね……」

「まぁ、コネがどれだけ大切か分かるのはもう少し先だろう。あとは、魔法ギルドを通じて魔法についての知識をもらえたり、研究できたりと様々だ」


(確かにソレはものすごく興味がある。自分の目の事も調べたいし、魔法についてももっともっと詳しくなりたいと思う。だけど俺が一番に求めているのはそれじゃない)


「じゃぁすいません、一つ聞かせてもらいますけど……俺が魔法ギルドに入れば、ギルドの管理している穴に入って『ヴォーア』に行けるのですか?」

「ふむ、君は『ヴォーア』に行きたいのかね?」

「ありていに言えばそうですね」


「何故行きたいのか、は今置いておくとしよう。そして結論から言えば可能だ。しかしすぐにとはいかない。最低でも半年はかかる」

(置いておいてくれたのは助かる。ナズナに会いに行きたいとか言ったら、女目的かとか言われそうだし)

「どうして半年かかるのですか?」


(さて、穴は空いているのだから、すぐに飛び込めばよさそうな気もするのだが)


「実は決まりがあるのだ。ヴォーアの魔物は強い。魔法ギルドと冒険者ギルドが決めたランクの一定以上を認定されなければ行けないのだ」

(なるほどな、それならば納得だ。しかしランクを上げるにはどうすればいいんだ?)


「旅人であれば最初にランクGからではなくEから始まるのだが、ヴォーアに行くには最低でもDランクである必要がある。君の実力ならもちろん認定されるだろう。だがランク認定試験が1年2回、それは残念なことに先々週に終わった」


(うわ、そう言うことか。ならば次の認定試験がある半年後まで待たなきゃいけないんだな)

「また行く前に、地球での仕事もちゃんと休暇を取り、他の人へ引き継いでからだ。何かあった時に誰もいないのじゃ話にならないのでな」


「分かりました。なら自分を魔法ギルドに入れて下さい」

「うん、そうだとこちらも助かる」

「ちなみにですけど、入らなかった場合はどうなってたんですか?」


「一般人にやっているように記憶を消去するのが基本だ。まぁ魔力の多い君にはそれが無理だろうから、情報流出しないよう話しあいをする。魔法の禁止、魔力放出の禁止契約等だ。話しあいも難しい場合は、君の処分を検討していただろう」


 彼がそう言った瞬間この部屋で一番に反応を示したのは玉響さんだ。彼女はいつ取り出していたのか、刀を手に持っている。また彼女の居合技術を見る限り、いつでも抜けるであろうことは容易に想像できる。だけど俺は彼女がどうしてそんな行動を取ったのか疑問だった。


 なぜなら玉響さんは目を鋭くし、まるで射んばかりに睨みつけるのは、『俺』では無く『バルヒェット』さんの方だったからだ。


 そしてバルヒェットさんも驚いた様子で玉響さんを見ているのかも疑問だ。それを横で見ている細流先輩は笑っていて、柳原さんは無関心。

 

(ちょっと待て何だこの組織。玉響さんが得体のしれない俺を睨みつけるんなら分かるけど、なんでバルヒェットさんを睨むんだ? 同じギルド員じゃないのか? さっき助けたからか? そんなわけないよな、そんなことで組織に刃向おうとする? もしかしてこの組織って末端から信用ないの? ……大丈夫?)


「と、とりあえず、湊君は魔法ギルドに入ってくれると言うことでいいのだな?」

「え、ええ。それで構いません」


(これ、なんかまずい組織に入ってしまったのか? 俺、大丈夫か?)


 焦っているバルヒェットさんを見ていると、俺の奥そこから不安がこみ上げてくる。

(いや俺だけじゃない。こんな組織に守られてる地球もヤバいんじゃないか?)


「詳しい話はまた後日に使しよう。今日は蜘蛛退治の疲れも残っているだろう、ゆっくり休むといい」

 そう言って彼は細流先輩に一言何かを言うと部屋を出て行った。彼が完全に部屋からいなくなり、ドアがしっかりしまった所でようやく玉響さんは刀を他次元部屋マイルームにしまった。


 俺はどうしていいか分からず途方に暮れる。

(バルヒェットさんも居なくなったことだし、帰っていいのだろうか?)

 と、考えていてもしかたがないし、誰かに聞こうかと思ったちょうどその時。玉響さんが俺に近づいてきた。


「湊様、あの……。その、今日は助けていただいて、ありがとうございました」

 彼女はそう言って小さく礼をする。彼女の立ち振る舞いはとても上品でいて美しく、思わず俺も姿勢を正してしまう。

 

「あ、いえ、気にしないでください。それに今後はギルドに入ったばかりの俺の方が、皆に迷惑をかけそうな気がするし……その時はお願いします」

「何か、わたくしが力になりそうなことがあればお話し下さい」


(何かこの子、凄くまじめっぽそうだな。それに美人でカッコよく見えるんだけど、ちょっとだけ恥ずかしがり屋なのか稀にオドオドしていて、守ってあげたくなる事もある。美人なのに可愛いってずるくないか?)


「多分魔法ギルドについて疑問を色々お持ちでしょう。私で良ければお話しさせていただきたいと思っているのですが、あいにく今日は私の都合がつかなくて……その、後日お暇な時間があれば」

「ああ、い、いつでも構いませんよ」

「そうですか。あっ、あの」


(? やたら挙動不審だけど、どうかしたのだろうか?)

「よろしければですね、えええと、その、私にれれれれ、連絡先の交換をですね。その。です。お、お願い出来ればと」

 連絡先。と言われても別に教えるのは構わない。全く持って構わないのだけれど、残念なことに今は無理だ。


「あーそのですね……」

「や、やはりご迷惑でしたよね。出会ったばかりの殿方に連絡先を尋ねるなど、常識的に考えて失礼ですよね。そうです、私がどうかしていたんですよ。何を考えていたんでしょうか。ああ私が……」


 俺が言いきる前に彼女は言葉にかぶせるようにそう言った。彼女は乾いた笑いを浮かべながら顔を伏せると、何かをぽつぽつと呟き始める。心なしか瞳がうるんでいるような気もするが、さすがにソレは気のせいだと思う。

(……なんかすごく落ち込んでる? 拒絶するつもりはないんだけど……)


「あ、いえ、嫌だと言うのではなくてですね。スマホが壊れてしまったのでヴォーアに置いて来ちゃったんですよ。スマホを買おうと思っていたのでそれからで良ければ……」

 彼女は一瞬真顔でこちらを見ると、ホッと息をつき、ぱぁっと花咲くように満面の笑みを浮かべた。


「そうなんですね! 分かりました。では私の番号をお教えいたしますので、何かあったら、いえ、何も無くても連絡いただければと思います」

(何も無くってもって……、ちょっとその笑顔やばいって。かわいい……)


「湊様、これからよろしくお願いします」

 そう言って彼女は綺麗に礼をする。だけど、どうにも俺にはそれがむずがゆくて仕方がなかった。


 そもそも彼女は俺とは住む世界が違う、本物のお嬢様なのであろう。九割九分九厘、この推測は当たっている。まずもって彼女の言葉づかい。戦闘中は比較的ラフな感じであったが、今は完全に切り替わってまさにおしとやかなお嬢様だ。


 次に立ち振る舞い。一挙手一投足いっきょしゅいっとうそくが優美で、毅然きぜんとした態度を……いやたまに挙動不審になるけれど、基本的には毅然としている。


 そして決め手は彼女が着ている制服。エスカレーター式お嬢様学校の制服である。ウチの妹もその学園に憧れて入学したけれど、周りと自分とのギャップで一時期悩んでいたらしい。現在妹は中等部三年、玉響さんは高等部一年と学年は違うのだけれど、もしかしたら知っているかもしれない。

 

(妹の事は良いか……それよりも敬語慣れしてない俺からすれば、ラフに話しかけてもらいたいんだが)

「あ、こちらこそよろしくおねがいします! それとですけどね、俺って玉響さんと同じ年齢ではないですか」

「? え、ええそうですね」


「なるべくフランクに話しかけてほしいのです。丁寧な言葉遣いなんてされるほどの人間でもないし、それにそう呼ばれるとむずがゆいんです。ざっくばらんに話しかけてもらいたいんですよ」

 そう言うと彼女は首をちいさく左右に振る。


「いえ、わたくしを助けて下さいましたし丁寧な対応は必然かと思いますが……しかし湊様がそ――」

「それっ! その様! 出来れば様を外してほしいんです。名前を呼び捨てでもいいので」


「よよよびすすすって、なななななまえををを、よよおおっよよよゅっよびすてっでででですか?!」


 うおうさおう、しどろもどろ。そんな表現がピッタリなほど彼女は狼狽ろうばいしていた。


「であっていちにちでなまえだなんてすすみすぎであってほんらいならもっとゆっくりとはぐくんでくものであってそれでいてわたしときたらはしたなくてああでもよばれてみたくてでもちちうえやははうえにしかなまえでよばれたことがなくて」


(何だかお経みたいなのを唱えだしたんだけど……俺なんかヤバい事言っただろうか?)


 俺は困ってしまって横を見る。そこには腹を抱えて笑っている細流先輩と苦笑いで退室していく柳原さん。そろそろ彼女の船は沈みそうだけど、助け船はこないらしい。


「えっと、大丈夫ですか?」

 とりあえず彼女に声をかけると、彼女は急にハッとなって小さく咳払いをする。


「う、ううんっ……だ、大丈夫です。 おてょきちさん、私のこてゃは、か、かかかこうでゅぇ」


 音吉おときちです。だれですかその人、私気になります。

「えーと……さんも良いですよ? よろしく花香」


 彼女は顔を真っ赤にしてうつむいてしまったのだけど、俺はべつに何かをしたわけでは無い。

「よ、呼びゅぃ捨てだなんて……。よ、よろしくおねがいします」


(えっと……最敬礼するんですか……)


 そのようすからして、ざっくばらんな関係ではないことは明らかである。


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