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魔眼の忍者は地球と自分の未来を憂う  作者: 入栖
魔眼の忍者は個性豊かな仲間達と出会う
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 俺が連れてこられたのは、異世界『ヴォーア』にもある『魔法ギルド』の日本支部らしい。


 らしいと言うのは先輩たちにそう言われただけだからだ。

 パッと見、建物はとても一般的なビルディングである。本当に普通のビルだ。そこら辺にニョキニョキ生えているビルと全く大差無いし、表札の所を見てもいたって普通の会社が入っているようにしか見えなかった。


「どうぞお飲みください」


 そう言ってお茶を差しだすのは、土蜘蛛の体液を思い切り浴びてしまった玉響花香たまゆらかこうさん。彼女はビルに入るなりすぐに着替えに走った。もちろんだろう。俺だってあの体液を浴びたら半泣きで服を取りかえるに決まってる。

 

 俺は茶を受け取ると一口飲み込む。

(明らかに、警戒されているよな……)


 応接室らしき所に通された俺は、何人かの黒服サングラスの兄さんに囲まれながら、副支部長とやらの到着を待っていた。もうすでに20分以上経過している。

(スマホでも有れば暇つぶしにいいんだけどなぁ)


 あいにくスマホは『ヴォーア』に置いてきた。まぁ画面も割れてるし、電池は残っていないだろうし、アレがあった所で暇つぶしの道具になるとは思えないのだけれど。

「お待たせ致しました」


 部屋に入ってきたのは初老の男性と、俺の学校の生徒会長である細流瑛華せせらぎえいか先輩だった。その男性は髪が真っ白で、蓄えられたひげも同じように真っ白。彼はスーツではあるがなぜかとんがり帽子をかぶっていて、手にはベージュのローブ。渋谷にも原宿にもいない(もしかしたらいるかもしれない)だろうファッションだった。


 多分『ヴォーア』に行く前の俺、つまるところ『魔法使い』に対して偏見を持っていない時であったら、その老人を見れば魔法使いぽい、と思ったかもしれない。しかし見た目なぞ魔法使いにおいてまったく意味のないものだと知った、今の俺から見ればただの変な格好であるが。

(しっかし、この人……魔力が結構あるな)


 エルフである細流先輩や俺にはおよばないものの、お世話になった村の中でも10に入るんじゃないだろうか。

 その男性は左右に目くばせすると、部屋に居た黒服サングラス達が出ていく。そして代わりに、低身長童顔の柳原皐やなぎはらさつき先輩が部屋に入ってきた。彼女は小学生もしくは中学生ぐらいにしか見えないが、信じられないことに彼女は俺より1歳上らしい。


「さて、自己紹介と行こう。私はヴァイドリヒ・バルヒェット、一応日本支部の副支部長をしている。君は?」

湊音吉みなとおときちです」

「ふむ、湊君か。私の事はバルヒェットとでも呼んでくれ。では早速本題に入ろう。湊君は『旅人』だね?」


(旅人と言うのはなんとなく予想出来るけど、一応確認をしようか)

「バルヒェットさんが言う『旅人』と言う概念が、『地球』から『ヴォーア』へ行って戻ってくることであるならば、私は旅人ですね」

 俺がそう言うと彼は頷いた。

「そうだ。君は我らが管理している『ゲート』を通った訳では無く、『穴』で『ヴォーア』に行き、『地球』にもどった。それは間違いないね? 穴に落ちたのはいつだろうか?」


「1か月と1週間ほど前ですよ。それから『ヴォーア』に三年間いました。戻ってきたらたった1か月と1週間しか経ってないから驚きましたけど」


 『ヴォーア』と『地球』での時間の流れが違う事を聞いてはいたが、まさか3年が1カ月と少しにおさまるなんて思ってもいなかった。まぁ夏休み遊びに行っていたような感じだろうか。多分俺が異世界に行っていたなんて、誰も気か付かないだろう。魔力を扱うようになってから極端に体の成長が遅くなり、本当に3年あっちに居たのかと自分ですら疑うくらいに変わっていない。


「ふむ、そうか。ならばヴォーアに居た期間のうち、君は魔法ギルドに所属はしたか? もしくは冒険者ギルドでも良い」

「あいにく村にはギルドは無かったので。たまに冒険者が訪れることはありましたが」

「ふむ。では実力は量っていないのか……」


「バルヒェット。とりあえず彼は今回現れた蜘蛛よりも強い。私が保証しよう」

 細流先輩はそう言うと俺にほほ笑む。以前の俺は綺麗な外人さんかなとしか思わなかったけど、今見れば彼女はただのエルフだ。人間にしたら魔力がおかしいし。


 ちなみにエルフと言う種族はある程度年齢を重ねると容姿がほとんど変わらなくなる『停滞期』に入る(エルフだけではなく、魔力の多い人間も同じように停滞期に入るが)。停滞期に入ったエルフは耳がほんの少し、人とほとんど見分けがつかないぐらい上部が尖るのだが、見た感じ細流先輩は停滞期に入っているんじゃないかと思う。だから彼女の年齢を予想するのは難しいが、決して10代ではないだろう。


「あの蜘蛛はウチの村では土蜘蛛って呼ばれてました。それなりに厄介なやつだけど、対策さえしていれば恐い魔物でもないですね。周りの被害を考えなければ多分一人で倒せていたと思います」


 すると隣に立っていた玉響さんが顔をしかめた。色々あったし嫌なことを思い出したのかもしれない。

「アレは冒険者のクラスに直すとBクラスの魔物である。ソレを一人で倒せるとなるとAクラスは硬いか。うん。分かった。ならば君に一つ提案がある」


「提案ですか?」

「ああ、そうだ。魔法ギルドに入らないか?」

「……ちょっと聞かせていただきたいんですけど、なんでそんな提案を?」

「それが一番互いに良い結果が得られて、それでいて後腐れなく、最も楽な選択だからだよ」


 彼の言うことは要領を得ない。まるで重要な事を言いたくないと言っているようだ。わざと言っているのだろうか。

 

「理由を聞かせてもらっても?」

「いくつか理由があるが……一番の問題は人材不足なのだ」

「人材不足?」


「ああ。現在地球では魔法使いの数が絶対的に不足している。しかしそれだと今日みたいにヴォーアの魔物やケイオスの軍勢と対峙した時に市民を守れない」


 確かに今日みたいにあのレベルの彼女たち三人だけで、土蜘蛛を追い払うのは骨が折れただろう。だけど戦えるのは彼女たちだけかと問われれば、そうではないはずだ。そう仮に魔法使いが彼女たち三人しかいなくても、戦えるはずなのだ。他にも戦える人はいる。


「……警察や軍じゃ駄目なんですか?」

 軍についてよくわからないけど、戦車やらミサイルやら戦闘機があるんじゃないか?

「君は知らないかもしれないが、地球の武器は魔力を操る敵には余り効果は無いのだ。特にケイオスに至っては核兵器を使用してもまるで効果は無いだろう」


(そうなのか? いや、試したことは無いから分からないけど)

「それで町を守るためにはどうしても魔法使いの力が必要になる」

(まあ、銃器が効かないことを納得したとしよう。だが今度は別の疑問が浮かび上がる)


「銃器がケイオスに対して効果が薄いことは分かりました。だけど幾つか納得できない点があります」

「ほう。なんだい?」

「どうして、一般市民に魔法に関して、ヴォーアに関して、そして魔物やケイオスに関して話をしないんですか? 出たら逃げろぐらい言ってしまって良いと思いますが?」


 何故情報を規制するのか。ソレは大きな疑問だった。俺がこの生まれて10年以上経過しているのに、異世界だったり、魔法が存在していたり、ましてやケイオスと言う敵がいることを全く知らなかった。

 それにだ。つい先ほど『穴』を通過したであろう土蜘蛛。アレに対する対応も常軌じょうきいっしている。先ほどこのビルに来る途中にちらりと見た電光掲示板のニュースには『地震とガス爆発による被害で家が倒壊』となっていた。


 アレが地震とガス爆発による被害? ふざけるのも大概にしろ。


 何故あれほどの事があっても黙秘するのだろうか? そもそもあんなことが起こってしまえば隠し切れるかと問われれば、そうではないだろう。


(そういえば俺が彼女たち三人を見たときに『消す』だなんて言葉が出てきたな。消すのは記憶、とれとも?)


「ソレを説明するにはケイオスと言う生物がどう言った生物なのかを知らなければならないね。君はケイオスがなんなのか知っているかい?」

「魔法生物のようなもの、と聞いていますが?」

(精霊と魔物を足したようなものか。魔力の塊のような精霊みたいではあるが、性格は獰猛で動物的である魔物にそっくりな)


「うん。おおむねその解釈で正しい。ケイオスは魔法生物だ。ソレを頭の隅にでも入れて置いてくれ。では今度は魔法だ。本来魔法と言うものはこの世界において存在が全く認知されていなかった。そうだね?」

「そうですね、小説や漫画に出てきたりはしますけれど」


「そうだ。だけど皆がマンガ、小説と言ったフィクションだから魔法があるんだなんて思っているだろう。だけど魔法は実在するんだ」

「ええ、それは分かりました」

「さてそれでだ、魔法と言うものは使うためにどうしても必要なエネルギーがある。使う君が良く分かっていると思うが、魔力が必要だ。魔力とは自分の体内に存在する力の源みたいなものなのだが、魔力と言うのは他の人の魔力に当てられて初めてその存在に気がつく」


(『本当はあるのに気が付かないし、気が付くことは無い。体に直接魔力をぶつけることでようやく魔力の認識が出来る』、そう師匠に教わった。ヴォーアでは魔法を教えるために親は子供に大量の魔力をあてるらしい。そうして魔力と言う物が自分の体に存在していることを教え、魔力を理解させる。慣れたら今度は操作。更にそれも慣れたら、はれて魔法を使用できるようになる。まぁ俺の場合はこの目があるからすこし状況が違ったけど)


「不思議なことにね、ケイオスは魔法と同じように、『魔力を認識している人間』でなければ存在を感知できないんだ。またケイオスは面白い特性があってね、多数の人間から存在を感知されない限り、この世界に置いて存在を確立できない。つまり消えてしまうのだ。


(ええと、やたら解りにくいが……)


「つまり魔力を認識できない人だとケイオスは見ることもできない。繋がった線を使ってわざわざ地球に来たケイオスだけど、認識すらされないから存在すら無くなってしまう、そう言うことですね?」

「ああ、だからこそ魔力が認知されきっているヴォーアでは、ケイオスが存在していられる。そして襲われた。逆に地球は襲われることは無いから安全と言うわけだ」


(なるほど。まとめるとこうか)

1.魔力を感知出来る人間でないとケイオスを認知できない。

2.ケイオスは自分自身を認識してくれる人が大勢いないと、存在を保つことが出来ない。


「確かにそれならば魔法を、異世界を黙秘している理由になると思います。しかし……」

(腑に落ちない点がいくつも残る)


「しかし、なんだね?」

「疑問が残ります。さっきあなたは『ケイオスは多数の人間から存在を感知されない限り、この世界において存在を確立できない』そう言いましたよね。私はある理由でケイオスを見たことがあるのですが、確かに一般人はケイオスを認識していませんでした。しかし細流先輩達は見えもしなくて、ただただ消える筈であるケイオスをわざわざ消し飛ばしました。何故ですか?」


(消えるんだったら、ほおっておけばいい。なのになぜ彼女達はさっさと『穴』を塞ぎに行かず、わざわざケイオスを消滅させたんだ?)

「なに、それについては今話そうと思っていたのだよ。実を言うとケイオスは勝手に消滅していた。今までは、な。だからこそ我らには戦力が必要なのだ」

「今までは?」


(じゃぁ今は違うっていうのか?)

「ああ、最近は違う。面倒なことにケイオスは成長したのだ。いやもはや進化といったほうが正しいか」

「し、進化?」

「そうだ。ケイオスは進化したんだ。ある時期からケイオス達の中に球体が混じり始めるようになったのだが……」

(あの時見た黒くて丸い奴か!)

「その球体は自分と周りのケイオスを地球に定着させるために、地球の空気と人々が知らず知らずに出している魔力を吸い取り始めたのだ」


「吸い取り始めるって……まぁ確かに人は魔力を無意識に放出してますけど、本当にごくわずかですよ?」

 確かに人は知らず知らずのうちに微細な魔力を放出している。日本人だって例外ではない。一言しゃべれば、呼吸すれば、心臓が動けば微細な魔力が放出される。当の本人は全く意識、理解していなくてもだ。その量は小さな火と玉を作る魔法を発動するのに100の魔力を使用するのだとすれば、会話や呼吸なんかで消費する魔力は0.1にも満たないほど小さい。

(そんなの吸ってどうすんだよ? まさかと思うが……)


「もしかしてそれを吸い込むと、地球に存在していられるとか……そんな事ないですよね?」

「いや、そのまさかだ。現実にケイオスは一般人に認識されるようになり、そして町で暴れたのだ。だからこそケイオスを消す必要がある。ちなみに一般人に見えないケイオスを、『無体ケイオス』と名付、地球に定着する現象を『実体化』と呼ぶようにしている」


「『無体ケイオス』の『実体化』か……」

 なるほど、とても分かりやすい。

「さて、色々と脱線してしまったが、そろそろ本来の話に戻しても良いか?」

「……本来の話?」


 はて、何の話をしていただろうか? 色々考えることがありすぎたせいで最初に何を話していたのか覚えていない。


「提案をしただろう。ウチに入らないかと」

「ああ、そうでした」

 すっかり忘れていた。まぁ入る前にだがまだ聞かなければならないことはあるのだが。


「そちらの状況は理解しました。地球に出現したケイオスの消滅するための人材が欲しいと、そう言うことですね」

「そのとおりだ。ありていに言えば地球のギルド員は実力不足だ。彼女たち三人がギルドの中でも上位に足を踏み入れかけている、といえば我らの貧弱さが分かるだろうか」


 彼女達に関してはそれほど悲観的にならなくていいと思う。細流先輩や玉響さんはまだまだ魔力が伸びそうでもあるし、そこの柳原さんに至っては、もう異常と呼べるところに足を踏み入れているし。経験を積んでいるうちにもっともっと強くなれるだろう。

 

「さて、そこでだ。君には戦闘員として魔法ギルドで活躍してもらいたいのだが、どうだろうか?」


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