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魔眼の忍者は地球と自分の未来を憂う  作者: 入栖
魔眼の忍者は個性豊かな仲間達と出会う
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玉響 花香 (たまゆら かこう) 語り手。日本刀を持つ長身の女性。

細流 瑛華 (せせらぎ えいか) 湊の学校の生徒会長。

柳原 皐 (やなぎはら さつき) ○学生にしか見えない少女。


「穴のあいた場所はセブンの近く。中からは魔物。ケイオスではないわ。そして人払いはまだ済みきっていなくて、けが人は今の所10人。死亡はゼロ」


 走りながら説明をする細流せせらぎ先輩、その後ろを私とさつき先輩はついていく。


「てぇことはあたしは人払いと、けが人を優先ね」

 それを聞いた細流先輩は走りながら首を左右に振った。

「いえ、人払いだけでいいわ。今の所重傷は少ないそうだから諜報部にまかせましょう」

「あいあい、了解。じゃぁあたしはここらで一旦別れるわね」


 そう言ってさつき先輩はマイルームから杖を取り出し、私たちから離れ魔法陣を発動させる。先輩は結界を張るのだろう。

「花香、魔物との戦闘経験は?」

「一度父が数匹のウルフと対峙していたのを見たことがありますが、それきりです」

「そう……。知っているかもしれないが、実体化していないケイオスなんかより数倍強い魔物がいる可能性がある。気をつけなさい」


 それは父から口酸っぱく言われた事だ。ヴォーアへ何度か行ったことのある祖父が言うには、ケイオスの軍勢よりもヴォーアの魔物の方が場合によっては怖いらしい。


「心得ています」

「そうか、無理はするな」


 先輩はそう言ってマイルームから杖を取り出した。私も同じようにマイルームから刀を取り出すとセブンに向かって全速力で駆ける。

「なんだこれは……」

 セブンについた私は、思わずそう言ってしまった。

「ふむ……酷いな。酷すぎる」


 先輩も私と同じ気持ちのようだ。

 そこは、まるで大地震でも起きたかのようだった。コンビニや周りの家は見るも無残に破壊され、がれきの山となっている。それどころか一部には火の手も上がっていた。またこの場所付近には既に何人かの諜報部の人間がいて、けが人を運んでいる。


「――――――――」

 不意に人の声では無い何かの叫び声が聞こえ、私はそちらを向く。そこに居たのは私の3倍はありそうな蜘蛛だった。


 私はその蜘蛛のおぞましさに一瞬吐き気を覚えるも、大きく首を振って唾を飲み込むことで何とか堪えた。

 顔はまるで鬼のようだった。真っ赤に染まった顔に鋭い牙、黒と黄色の網目模様の目。そして体には茶色い毛が生えていて、至る所にその毛が落ちていた。また尻には白い糸のような物が出ていて、その先には半壊した家と繋がっている。


「ヅォルツヴェイグ!」

 細流先輩の言葉で私はハッとなる。細流先輩はちらりと私を見ると小さく頷いた。

(何故私はぼぅっとしているのだ! 私も戦わなければ!)

 私は刀を構えると足に魔力を送り、地面をける。そして先輩が発射した氷塊の後ろを走ると、先輩を睨みつけている蜘蛛に接近した。


「――――――――」


 その叫び声を別の何かに例えれば、赤ちゃんの甲高い声と、ガラスを引っ掻いたような音だろうか。体中から嫌な汗が吹き出し、腕は鳥肌になっているだろう。聞いていて不愉快、それどころか体調を崩しそうな声だった。

 私はその蜘蛛の足元まで行くと、細流先輩の氷塊に気を取られている蜘蛛に刀を振るう。


(足、一本とった)


 私はすぐさま蜘蛛の前方に回り、攻撃にそなえ刀を構え次の攻撃に備える。

 私は手ごたえを感じていた。それは確実に片足を斬り落としたと言う手ごたえだ。皮、肉をこの手で感じながら斬った。それに一つの足が空に舞い上がった。だからこそ今にも蜘蛛はバランスを崩すだろう。そうしたら顔に一撃お見舞いしよう。


 そう思っていた。けれど、その考えは甘かった

「――――――――」

「くっ」

 私は確かに足を斬った筈だった。だけど、奴はバランスを崩す事は無かった。それどころか先ほど斬った筈の足・・・・・・をこちらに向け、思いきり地面を叩いた。

(なぜ足が……!?)


 蜘蛛が足踏みをするのと同時に、足元を中心にコンクリートが盛り上がった。その盛り上がりはだんだんと私の方に近づいてくる。その速さは一般道路を走る自動車ぐらいだろうか。

 私は危険を感じて魔力を足に集め地面をけると、近くの家の屋根に飛び乗る。

「――」


 私が飛び上がった直後だった。盛り上がった地面から土の針が生えたのは。

 まるで刃物のように鋭い茶色の針。それは私のいた場所を針だらけにしても飽き足らず、更にその先の自動車に直撃した。

「う、うそだ」


 思わず声が漏れる。私の後ろに停車していた自動車を見つめ思わず体が静止した。その車の青いボディには巨大な針が、まるで豆腐でも突き破るかのように簡単に突き刺さっていたのだ。


(あんなの受けてしまえばひとたまりもない……)


 私はもう一度蜘蛛に接近する。すると後ろから細流先輩の援護であろう風の刃が、私を通り過ぎ蜘蛛へ向かって一直線に飛んでいく。

 風の刃を見ていた蜘蛛だったが、避けることはしなかった。代わりに体を大きく膨らませると、口を大きく開く。私は嫌な予感がして急停止してその場から飛びずさる。


「――――」


 直後、蜘蛛の口から出たのは白銀色の糸だった。網目状のその糸は先輩の風と正面衝突する。丸太ですら斬り裂いてしまう先輩の風の刃だ。もちろん防ぐのは至難の業、である筈だった。

 先輩の顔が驚愕に染まっているのが此処から分かる。先輩の刃はその蜘蛛の糸を越えることが出来なかった。糸は何本か斬れたものの、それだけだった。吐き出された糸は私の立っていた地点まで飛び、辺りを糸だらけにする。

 

(斬れないのか……それにしてもなんだこの音は?)

 シュゥシュゥと何処かから音が聞こえる。ソレは小さい空気穴から蒸気が出るような音だった。そして私はあることに気がついた。

(あの口から出た糸に煙!? まさか……)


 私が地面に視線を向けると、そこには先ほどの糸の周りから小さな煙が出ていた。そしてその下のコンクリートや家の塀が、あろうことか変色し、糸を中心に溶けている。

(まさか奴は消化液まで吐くのか?)


 蜘蛛はその5メートルはあろう巨体を動かし、細流先輩を見つめる。私は急いで蜘蛛に向かって駆けだした。

 先輩が魔法の詠唱を始めると、蜘蛛は大きく体を膨らませる。またあの糸を吐くのだろう。私は急いで蜘蛛の足元に向かうと、足に向かって斬りかかろうとした。しかし横にでも目が付いているのか、蜘蛛はこちらを向くと前足で私を攻撃してくる。

(まずい!)


 前足の攻撃は何とかなる。斬り飛ばせばいい。だけどそのあとあの糸を吐かれたら私はその糸を防ぐ手立てが無くなってしまう。


 そう思った時に蜘蛛の顔がぐにゃりと歪んだかと思うと、まるでサビた機械のようにギギギと動かし、顔を横に90度回転させた。そして大きく跳躍すると、その蜘蛛のいた場所に巨大な氷の刃が突き刺さった。

花香かこう!」

「ありがとうございます!」


 細流先輩が援護をしてくれたようだ。私は一旦刀を鞘に戻すと、蜘蛛が着地する場所まで駆ける。そして蜘蛛の着地と同時に刀を抜き放った。


 居合 ― またたき


 鞘に貯めた魔力を爆発させ、目にもとまらぬ速さの刃を蜘蛛にお見舞いする。私の放ったその刃は八本ある足のうち、3本を吹き飛ばし、その大きな胴体に傷を付けた。

「――――――!」


 その蜘蛛から甲高い悲鳴が聞こえる。傷口からは紫色の液体が噴き出し、辺りに何らかの腐食臭が漂う。その液体は、私にも少しかかってしまったようだ。


(くっ、なんだこの匂いはっ!)

 私はその意識が飛びそうになる程の匂いを何とかこらえ、後退し立て膝をつく。何らかの魔法が掛かっているかのように意識がもうろうとし、立つこともままならない。


(まずい。もしや先ほどの体液には何らかの幻覚作用があったのか?)

 そうとしか考えられない。でなければ先ほどまで五体満足だった私が、膝をつくことはあり得ない。

(まずい。まずい)

 私は刀を鞘にしまうと震える足に鞭入れ立ち上がる。そして居合の構えを取り目の前の蜘蛛を睨みつけた。


「――」


 直後、私は信じられないものを見てしまった。それは私の付けた筈の傷が癒えていく蜘蛛の姿だ。

 傷の周りの肉が膨張したかと思うと、だんだんと無くなった部位が再生していく。そして形を作り終えると、今度はボウッと毛が生えた。完全に元通りである。


(嘘……だろう)


 ただでさえもうろうとしている頭に金槌を叩きつけられたような気分だった。今すぐに吐いて倒れてしまいたいぐらいに。

 だけどそんな事は出来る筈がなかった。倒れてしまえば、私は数秒とせずに殺されるだろう。アイツは人なんて息を吸うように殺せるのだ。


「――」


 不意に蜘蛛が奇声をあげながらその場で大きく足踏みをする。まるで地震が起きているかのように揺れる地面に、意識がもうろうとしている私は立ち上がることはできない。

 地面を両手に付き、倒れるのを堪えるのが精いっぱいだった。


「逃げろ、剣士! 足元だぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 不意に後ろから男性の声が聞こえる。


(誰だ? こんな場所に人?)


 だけど今の私は振り向くこともできず、ただただ地面に横にならないよう耐える事しかできなかった。

「くそがあああああああああああ!」


 だんだんと声が近づいてくる。そして耳元までその声が近付いた瞬間、私の体が重力が消えたように一瞬ふわりと浮かびあがった。そして目の前の地面が高速で遠ざかってゆく。


(体が、浮いていく……?)


 その瞬間だった。私のいた場所のコンクリートが盛り上がり、そこから巨大な針が出現したのは。私がそのままそこに居たら突き刺さっていただろう。


「あ……あぁ……」

 思わず声が漏れる。


「あぶねぇ、ギリギリだった」


 不意に体が回転し、目の前に一人の男性が映る。そこに居たのは着物を着た男性だった。

 

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