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青春ショートケーキ

愛憎ログイン(11/14編集)

作者: 狂言巡

 別にお祖父ちゃんの、お祖母ちゃん、お父さんの、お母さんの言葉を疑っているわけじゃない。もちろん、間違っていると思ってるわけじゃない。

 ただ、それは時として間違った方向に向けられているんじゃないかしら? なんて思うことがある。まぁ、結構前から思っていたんだけど。と言うか。此処に引っ越して来て。彼等に出会って。前よりもずーっと激しく強く濃く、思うようになってしまった。慶ぶべきなのか悲しむべきなのか。それが問題なんだけどねえ?

 交換留学の学校先で、不思議な光景を目撃した。光景は謎でも、その人物自体はあたしが知っている人間で、ちょうど暇だったこともあり、話しかけてみた。

 

「キセキちゃーん。こっちよぉ!」

「あ、ありがとうございます真実(まこと)さん!」

「ちょっと静かにしててね」


 リボンを揺らしながら、中庭を一人でバタバタ走っていたキセキちゃんに声を掛け、誰も居ない部屋に引っ張り込む。……別に変な下心はないわよ! 

 ぱたんと静かに扉を閉めれば数秒後。ばたばたばたと数人分の足音。叫んでいる声に聞き覚えがあったけど、まあ流すことにしよう。どうせあたしには関係の無いことで、彼女には関係があっても害の有ることなら無視するに限る。

 壁に寄りかかって座り込んだキセキちゃんは、胸に手を当て呼吸を整えていた。ちょうど未開封だった水入りのペットボトルを渡すと、無我夢中でそれを飲み干す。ふぅと一息ついた彼女はいい汗をかいてるわねえ……原因が微妙だけどね。


「ありがとうございます、助かりました!」

「どういたしまして……で」

「で?」

「今回は何が原因なの?」

「実はですね。さっき今夕依(こよい)がちょっと変わった『鬼ごっこ』教えてくれたんです!」

「……どんな遊びなの?」

「一人を鬼にしてそれを皆が追いかけて、最初に捕まえた人がその鬼を自由に出来るんだとか。私、くじで外れ引いてしまったので鬼なんです。あ、ちなみに頭のリボンは鬼の目印なんですよ!」


 いやいやいやいや疑問に思いましょうよ。楽しそうに語る『鬼ごっこ』は、自分の知るルールと異なっている。確かに遊びというのは地域によってそれぞれ個性があるものだけど、これは違うでしょ、故意によって捻じ曲げられているじゃない。追いかけるのは合っているけど、他のところは疑問に思わないの?

 でも、今夕依ちゃんみたいな、キセキちゃんの友人ちゃんたちなら正しいことを知っていても、面白い展開に転がるならそれでいいと思う子が多くて、わざと間違ったまま教えたんでしょうねえ……。誰もそれを疑問に思わないのがすでに終わっているわ。


「でもこれからどうしようか……」

「キセキちゃん。その【遊び】はどうやったら終わるって聞いた?」

「鬼が捕まったら、だそうです」

「……他には無いの?」

「無いって聞きました」


 オタワ! じゃなかったオワタ! 他に何か打開策が有ればそれを使うのだけど、それがそもそも無いらしい。無いなら作ればいいのか……でも、それであの人たちが承諾するとは思えないし……。何なのかしら。前に住んでいた人様の家の合鍵を勝手に作る街より、先週家に強盗が来た時より頭を使っている気がする。つらつらぐるぐると考えていたら。呼吸を落ち着けたキセキちゃんがドアに手を掛けているのを見て、慌てて止める。


「ちょ、ちょっと。外に出たら危ないわよ!」

「え。でも私が鬼ですし」

「だから、もうちょっと待ってて!」

「何を?」

「いいから。キセキちゃんはそこに座ってて頼むから!」

「はーい?」


 椅子を指差し、全然危機感を感じていないキセキちゃんに座らせる。(何故か正座だった。まぁ、畳の上だからいいけど)まぁこれで少しは時間が稼げる。幸い、この部屋は普段使われていないから時間はまだ有るだろうし。キセキちゃんに向き合うように腰を降ろし、考える。ドアの向こうではドタドタと走り回る多数の足音をBGMにして。さて、よく考えてみましょうか。

 【鬼】は捕まると【勝者】の【ご褒美】に成ってしまう。そうなると、あんなことやらそんなことやらの、とってもよくない断じてよくない最悪の結果だ。てゆーかキセキちゃんの未来(いや、貞操?)が危うい。しかし、終わらせる方法は【鬼】が【捕まる】ことでしかない……って。急に頭の中で電球が光った。


「あ、そうだわ」

「何ですか?」

「キセキちゃん。一緒に外に出ましょう」

「はい?」


 左手でドアを開け、右手をキセキちゃんにさしだす。恐ろしいくらい素直にキセキちゃんは差し出された手に、自分の手を重ねる。耳を劈くような悲鳴が、数人分。危なかったわあ。


「あー! アンタ、オカマこの野郎!」


 一番最初に聞こえたのは、キセキちゃんのお兄さんの(ちかい)くん。ほんと、ある意味期待を裏切らない人よねぇ。それとオカマじゃなくてオネエよ!


「ちょ、何で先輩が捕まえてんですか!」


 琢磨(たくま)くん、そりゃアナタが一番危険だものねえイケメンの皮を被った変態だもの。


「悔しいですぅ。もう少しでしたのにぃ」


 真炉(しんろ)ちゃん……アナタも?


「…………」


 こっちを一睨みしてから、何も言わず去っていく、明留(あける)くん。……流石にアナタの参加はあたしも驚いたわ。


「みんな残念だったわね~」


 【鬼】が【捕まる】ことでした終われないのなら、自分が途中参加して終わらせればいい。全然話を聞いていなかった自分が参加したことは予想外だったのだろう。小気味良いほど驚愕の表情を浮かべる彼らを見て、笑みが浮かぶ。その笑顔が気に入らなかったのか、今にも射殺されそうなほど鋭い視線を向けられる。それを受け流していると何とも、呑気な台詞が聞こえた。


「あ、そっか。私は捕まったのか」

「ええそうよ。じゃあキセキちゃん、行きましょうね~」

「どこにですか?」

「そーねー……とりあえず、カフェでお茶でもしない?」


 ナンパじゃないわよ? ただのお誘いよ?


「どこまでもお供しますよ!」


 繋いだ手をそのままに(離す必要はないのだから)微動だにしない三人を放置して、てくてく歩く。後ろから突き刺さる視線を、もっと勉強とかボランティア活動にも出せたらいいのに……。つくづく彼女は、お姫様は、愛されている。


「とっても不平等よねぇ」

「へ。何が?」

「こっちの話」


 アナタほど愛されてる人を、あたしは見たことがないのよ。






「で、キセキ先輩はいるんですか?」


 名前を呼ばれて私は顔を上げた。目の前には何故かキラキラと目を輝かせた後輩。期待を裏切るようで悪いけれど、日誌を書くのに全神経を集中していたので言っている意味が分からない。正直にごめん、聞いていなかったと告げる。


「だから好きなひとですって~」


 あまりにも意外な問いだったので私は「へ?」と間抜けな返答をしてしまう。真炉はもう、色気がない返事ですねぇと呆れ顔。返事に色気も何もないだろうと思いつつ私の頭の中でその質問はエコーしていた。


(好きなひと、好きなひと、好きなひと)


 一般的な意味ならば恋愛対象のヒトということだろう。胸がきゅんと締め付けられるやら甘酸っぱいやらレモンの味……それはキスの味だったっけ? とかいう。あいにく、自分にはそういう対象となる人間はいない。お茶会同好会の皆は好きだけど、そういう意味とはほど遠いし。

 第一。自分にとって格好良い、憧れるという異性は間違いなくナポレオンとキャプテン・ジャック・スバロウ。うーんと考え込んでいる私に真炉は諦めたのか今度、教えて下さいねと疲れた笑みを浮かべた。






 名前を呼ぶと弾かれたように、その青い髪に青い瞳の少女は顔を上げた。あたしと目が合うとにっこりわらって挨拶をしてくれる。


「決まった?」

「はい、もちもちクランペットにします」

「そう、あたしはアップルクラフティよ。後でシェアしましょうね」


 彼女は魔麟(まりん)学園五級生(中等部二年生)。ストバスで不届きな男共に絡まれていたのを助けに入ったのが知り合ったきっかけ。実際のところは、キセキちゃんのお兄さんに助けて貰ったのだけど。

 その後。あたし達はまめに連絡を取り合い、キセキちゃんのお友達の(えにし)ちゃんたちも巻き込んで親交を深めている次第である。今日は美味しいと評判の甘味処に二人で乗り込む。今日は三人とも私用で欠席なのが惜しいけれど可愛いキセキちゃんと一緒なら楽しい時間を過ごせるだろう。

 言い忘れていたけれど彼女は可愛い。頭をぐりぐりなでてお菓子をあげたくなるような可愛さだ。彼女に懸想している殿方が多いと聞くが気持ちは分かるわ! そして、ふと、あたしはクラスメイトの質問を思い出した。


「ねえ、キセキちゃん。好きなひとはいるの?」


 一瞬呆けた彼女は意味を理解して首筋まで真っ赤になった。ゆでダコでもここまでなるかというほど赤い。もうおかしくてほほえましくて可愛くて堪えきれずあたしは笑い出してしまった。

 キセキちゃんは眉を下げてひどいですよと情けない表情。それも可愛らしい。我慢出来ずあたしはぎゅっと彼女を抱きしめてしまった。元気だけど純情な彼女は、真っ赤になったままうろたえている。


(キスしたい)


 そう思った。自分に驚いたが唐突に理解する。好き。彼女が好きだ。厳密には恋愛感情と違うけど私の中では一番近い感情。


「キセキちゃん、キスしていいかしら?」


 返事を貰う前にしてしまったから、意味が無いけど。吹き出物ひとつない、真っ白な額と柔らかい頬に、ついばむみたいにキスをした。桜色の唇は……屋外だし、うっかりしちゃうと怖い人がたくさんいるから今回は見逃してあげましょう。


「ま、真実さん?」


 キセキちゃんはもうこれ以上ないというくらい、真っ赤っ赤。その彼女の耳元にあたしはささやく。


「キセキちゃん。あたし、あなたのことが好きみたいだわ」

「……私も」


 可愛いことを言ってくれる彼女に、もう一度キスしてしまったのは不可抗力ということで。彼女に思いを寄せる男共にこっそりザマアミロと思ったのは誰にも内緒。

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