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おわりのはじまり

作者: 雅希



――昔読んでいた御伽噺や、童話のしめくくりはいつもこう。


  「こうして、2人はいつまでも幸せに暮らしました」



全てが全て、ハッピーエンド。

ハッピーエンドって事は、幸せな結末。

お話の主人公が幸せになった事は嬉しいけれど、読み進めていた話が終わってしまうのは、いつも寂しかったんだ。









小さなころ、絵本を読み聞かせてくれているママに聞いたことがあるの。

ママの膝の上に置かれていた本は、少し古びているけどとても綺麗な絵がついていて。

お話の内容も、とてもとても綺麗だった。

ママの声はいつまでも聞いていたい程心地よくて。時折そのまま寝てしまうこともあったっけ。


「ねぇ、ママ」

「なぁに?」


アタシが話しかければ、ママは淡く微笑み髪を優しく梳いてくれる。

まるでそれが『愛してる』とか『大好き』って言われているようで、ちょっとむず痒かったけど、アタシはママが髪を梳いてくれるのが大好きだったわ。


「お姫様と王子様はこの後どうなったの?」

「ふふふっ、どうなったと思う?」


純粋にお話の続きを聞きたかったアタシに、ママは少しだけ意地悪な声を落として、私に持っていた本を渡してくれたけど。

まだひらがなが少しばかり読めるだけのアタシに、その本はまだ難しすぎて。

ただ、綺麗な絵だけをぱらぱら捲って見続けた。



「すべての話は、ハッピーエンドで終わるのよ」



そう言っていたママは可憐な少女のような笑みだったと、思うんだ。

幼心にもママがとっても可愛く思えたもの。

アタシは、ママが言う「ハッピーエンド」っていう意味が分からなくて首を傾げたら、ママは「幸せな結末……つまりは、終わりって事かしら」と、優しく説明してくれたの。


けど、アタシにとって「幸せ」という言葉よりも先に「終わり」という言葉の響きが嫌で、くしゃりと顔をゆがませてしまったわ。

その時、持っていた本を床にポトリと落としてしまったけど……その時のシワはまだ消えずに残っているんでしょうね。



「終わっちゃうの……?」



不安そうにそう呟いたアタシに気付いたママは、安心させるようにアタシを抱きしめてくれた後、もう一度先ほど落としてしまった本を持たせてくれたの。

そうして、今度は一緒にページをはぐって行ったわ。


文字のページ、挿絵のページ、そして最後の白紙のページ。


物語の結末が書かれている挿絵の後ろ……つまりは、白紙のページを指さして、ママはアタシにこっそりと囁いてくれたの。



「終わりって事はね、これからまた始まるって事なの。

 つまり、幸せな終わりは、幸せの始まりでもあるのよ」



内緒話のように囁いたママは、そう言ってアタシに色とりどりのペンを握らせてくれたわ。

そして「一緒に2人の未来を、描いてみましょう?」って、白紙のページいっぱいに、幸せそうな2人の未来予想図をカラフルなペンで彩った。


字も読めないような小さな年だったから、そんなに絵も上手じゃない……寧ろ、ある種の芸術品のような出来栄えだったけれど。

ママはそれをずっとずっと大切に仕舞ってくれていたの。


「あなたが初めて描いた、幸せの未来だから」


って。

かなりの親ばかだなぁって、今でも赤面しちゃう言葉だけれど。それでも、些細な事でもすべてを宝物のように取り扱ってくれるママは、アタシにとっても宝物なの。





だから。












「ママ、これからまた始まるんだよね」








涙で霞んだ目の先には、天まで届きそうな黒い煙。

青空に少しずつ溶けて消えていくその煙は……ママと絵本の始まりの門出。


あの日、一緒に幸せな未来を描いた絵本はママと一緒に旅立った。

ママがアタシに「おわりのはじまり」を教えてくれたように。

アタシはママに「おわりのはじまり」を伝えたくて。


今、ママの絵本は最後のページを迎えてしまって、別れをしてしまったけれど。

あの日、白紙にたくさんの未来を描いたように、新たな未来が始まるように。



おわりのはじまりを信じて……。

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