ふたつの公園・数々の不運
十月生まれの僕にとって、土曜日の午後は鬼門だ。
インドア派のくせに公園の空気だけは好きな僕は、いつもなら人のいない早朝や深夜を狙う。しかし、今日は誕生日だ。自分へのささやかなプレゼントとして、お天道様の下で堂々と日向ぼっこをしようと目論んだのが運の尽きだった。
「休みの日の公園は、親子連れのものだなぁ……」
広場の中央、家族連れでごった返す賑やかなエリアからは、子供たちの嬌声と親たちの談笑が波のように押し寄せてくる。場違いな独身男は、回れ右をして、その反対側にある「遊具も何もない、人気のない広場」へと避難した。よし、あっちの静かな場所なら僕のパーソナルスペースは守られるはずだ。
そう確信して足を踏み出した瞬間だった。
「あ……」
視界が揺れ、地面が迫る。入ってすぐの、なんてことない小さな段差。情けないほど派手に、僕は地面とキスをした。
「イテ、イテテテ……!」
起き上がると、手のひらからじわりと血が滲んでいる。良かれと思って避難した先でこれか。誕生日なのに。三十路の男が、無人の広場で血の出た手を見つめ、天を仰ぐ。
「イテええええ!!」
叫ばずにはいられない。もう家に帰る気力すら失せた。こうなったらヤケだ。公園は全人類に与えられた憩いの場なんだ。
「曜日なんて関係ねぇ!ドカドカ入っちゃうぜー!」
僕は足を引きずり、再び賑やかなエリアの端っこにあるベンチへと向かった。
鼻息荒く腰を下ろした、その刹那。
ガッシャーーーン!!
「ぎゃああああ!?」
背後から強烈な衝撃が走り、僕はベンチから転げ落ちそうになった。振り返ると、そこには補助輪付きの自転車にまたがった少年が、呆然と僕を見上げている。
「……ひき逃げ?」
僕が腰を押さえて悶絶する間もなく、少年は「やってしまった」という顔で猛スピード(補助輪付き)で逃走していった。
「大丈夫ですか~!」
駆け寄ってきたのは、いかにも噂好きそうな若いママ、クチコさんだ。
「あの、今の子が……」
「見てましたよ~!あの補助輪の男の子、この公園の『走り屋のボス』ですから!あのマシン、スピード出すために改造されてるんですよ!」
「改造……補助輪を?」
ツッコミを入れる余裕もない。腰に走る激痛。クチコさんは僕の返事も待たず、「ボスの父親を呼んできます!」と風のように去っていった。
次に現れた男、矢塀父は、さらに異次元だった。
「うちの子と写真撮ってもらっていいですか?」
謝罪かと思いきや、開口一番それだ。訳も分からぬまま、僕は「神さま戦隊クウム」の雑魚キャラに似ているという理由で、少年の隣で「ぐへー!」という断末魔のポーズを強要された。
「やっぱり雑魚キャラにそっくりだ。じゃ、行こうか」
親子は満足げに去っていった。……何なんだ、この町。
「最悪だ。何やってもうまくいかない……」
地面に這いつくばる僕の前に、今度は別の男が現れた。
「すみません、うちのトウマが……」
今度こそ「本物の」加害者の父だった。申し訳なさそうに謝るトウマ君と、彼を抱っこするパパ。その光景は微笑ましいはずなのに、トウマ君の泣きそうな顔と僕の腰の痛みが相まって、妙な空気が流れる。
彼らが去った後、ベンチの脇にキーホルダーが落ちているのに気づいた。さっきの矢塀の息子が落とした「神さま戦隊クウム」だ。
「ああ、神よ……」
僕はキーホルダーを天に掲げた。
「せめて、小さな奇跡をください……」
すると、トウマ君が小走りで戻ってきた。
「あ、これ忘れ物だよ」とキーホルダーを差し出す僕。
トウマ君はそれを受け取り、じっと僕を見た後、大きな声で叫んだ。
「ママ~~~!!」
「えっ、ちょ、違う、変な意味じゃない!」
焦る僕の前に、困惑した顔のパパが戻ってくる。神の悪戯か、僕の願望が歪んで伝わったのか。必死に弁解しようとする僕の言葉を遮り、パパはなぜか深く頷いて言った。
「……愛してるよ!」
「嫁じゃなーい!!」
叫びも虚しく、僕はトウマ君とパパの二人から、力いっぱいの抱擁を受けた。
十月某日。僕の誕生日は、見知らぬ親子との温かい(物理的に熱い)抱擁で幕を閉じた。
腰は、さっきよりずっと痛かった。




