私は悪くない
ラストです。
――だから私は悪くないのよ――
婚約している2人が羨ましくて男を奪った。だって、恋人を見つめ優しく微笑む笑顔を私に向けて欲しかったから。
無事に既成事実を成し婚約者との別れを選び私の手を取った将来有望な騎士の彼。私は幸せになるのよ。
現実は違った。婚約解消したタイミングで店に入る。私は羨望の眼差しを受け真実の愛が叶ったと祝福を受けるはずが店内から向けられるのは軽蔑の眼差しだけだった。
なぜ?私は悪くないのに。
それをきっかけに幸せの瞬間はガラガラと崩れ落ちる。あの女のせいなのに。
実家の花屋の経営が厳しくなった。私の噂で客足が遠のく。両親は私の噂を知らないのが救いだった。
そして一番の大口の客からも契約が切られた。この国の宰相の家からだった。店を閉めると両親は言った。
あの女が嫌がらせをしたに違いないと思った。いつも綺麗な服を着ているから何処かの貴族の娘だと思っていたから。男を取られてワザと事故に遭い。皆の注目を浴びる女を許さない。実家の花屋を閉店に、追い込んだあの女。
そして街で馬車事故の女性が意識を取り戻したと噂を聞いた。すぐに病院へと向かった。
そして、そこには目を覚ました女とアレクがいた。私は女に詰め寄った。そして知った。あの女は宰相の娘だと言う事を。大口の客との契約解除、幸せな私とアレクに嫌がらせをしてると思った。
「キャシー。やめろ。俺達が悪いんだ。俺達が浮気をした結果だ……俺も両親と縁を切られた。騎士の仕事も退職を勧められている」
「は?アレク?じゃあ私は騎士の妻にはなれないの?」
「あぁ、俺達は……いや、俺は君と同じ平民となった」
「何で?騎士を辞めなきゃならないの」
「何故か……それはナタリーはな、この国の宰相殿の娘だ」
「は?宰相の娘?」
「そして、ナタリーの隣にいるのは……この国の宰相殿だよ」
「そんな偉い人の娘から?」
「そうだ……私達は彼女を傷つけた」
「私達は愛し合っただけなのに?」
アレクは私を病院から連れ出し、私の両親の元へと行く、そしてアレクは全てを両親に話した。
店の契約が解消されているのは、それだけ宰相殿の影響力が大きかったのだ。
両親は泣いて私と親子の縁を切ると言い家を追い出された。行く所の無い私はアレクの借りた部屋に行く、本当ならば楽しい生活のはずが待っているはずの部屋は暗い空気のままだ。数日で私はこの気まずい空気の家には帰りたくなくなっていた。なので夜遅くまで営業している食堂で働く事にした。
そこで知り合ったのは遠くから出張で来ていた貴族の男性だった。見た目はタイプではないが今の状況から救い出してくれるだろうと思ったからだ。
彼は王都の人間ではない。私達の噂も耳にしないだろうと思い。彼に近づいた。何度か話をするうちに恋人になって欲しいと言われた。返答を濁らせているとタイミングよくアレクは騎士団を辞めたと言った。騎士でない彼はただの人だ。
私はすぐに荷物を纏める。そして店に行くと、あの男はいた。私に笑顔を向けてくれる彼に私は助けを求めた。元恋人が部屋に上がり込んで来て怖い、帰る所がないと言うと男は私の為に宿を手配し、半年の出張が終わると私を彼の住む土地へと連れて行ってくれた。
この街に来て半年後、私達は結婚した。子供も産まれて幸せだった。そして月日は流れ、娘のシュシュは幼馴染で恋人のマシューという騎士と結婚の話が出始めた頃、泣きながら帰って来た。
「ママ……ママは一体……王都で何をしたの?」
「どうしたの?シュシュ」
「ママ……ママのせいで私は彼と…マシューと結婚出来ない」
「どうして、ママのせいなの?マシューも浮気したの?」
「ママ……どうして浮気だと思うの」
「だって結婚間近の恋人が別れる理由は浮気でしょ」
「違うわ。マシューはそんな人じゃない。ママ……一体、王都で何をしたの?」
「何も……してないわ」
「マシューはね、王都で騎士になるのが夢だったのよ。試験にも受かったわ。面接の時に恋人はいるかと聞かれ私の事を話したのよ」
「そう良かったじゃない。一緒に王都に行けるのでしょ」
「行けないのよ。私は……いや私達親子はね」
「どうして?」
「こっちが聞きたいわ。ママ……宰相の娘さんに何をしたのの?」
「へ?」
「マシューは面接で言われたのよ。事情があり私のお母さんは王都には入れないと。私と結婚したら王都にママが来る可能性があるとね」
「だって……あれは私は悪くない……」
「何をしたの?」
「……宰相さんの娘さんと付き合っていた人と2人が別れた後に付き合っただけよ」
(そうよ、婚約を解消して付き合う事にしたのよ。それまで何度も会っていたのは友達としてよ)
「聞いたのよ。ママは宰相さんの娘さんの婚約者を奪った。娘さんはショックのあまり馬車の事故にとね。恋人がいる人から男の人を奪ったの?」
「彼は……私を好きに……なったのよ。だから私は何も悪くないわ」
「仲睦まじい恋人同士だったと……ママがその人に相談を何度もして寝取ったと」
「何故、シュシュが知ってるのよ」
「試験会場にマシューを迎えに行ったのよ。そうしたら1人の騎士に話しかけられたのよ……彼はその女性の幼馴染で、その恋人とも同期だったと。彼は怒っていたわ、自分から幼馴染と親友を奪ったと、幼馴染は死ぬ所だったと。そして更にママはその奪ってまで手に入れた恋人を騎士を辞めたとの理由で数ヶ月で捨ててパパと結婚したと。君達には悪いが全部君の母親のせいだと言われた。宰相さんも許してないと言っていた」
「そんなの昔の事よ。ママは悪くない」
「ママ……マシューは言ったわ。王都で騎士になるのが夢だったと……私と結婚しても別居婚となるなら、王都で騎士になるのは諦めると悲しそうに言ってたわ」
「だったら別れたらいいじゃない。彼は王都で騎士になりたいのでしょ。別居婚したら浮気されるだけよ」
「ママ?」
「他にも男はいるわ。浮気されて別れるなんて惨めよ」
「そう……わかったわ。パパ?聞いた?」
ゆっくりと近づくのはキャシーの夫だ。
「なあ、キャシー……あの時、君は私に元恋人に付き纏われていると言ったね。それに恋人はいないと私と何度も食事に行き……くそッ、君はどれだけ嘘をついているのだ?」
「私は悪くないわ」
「パパ……私をこの家の籍から抜いて、そうしたら彼と結婚できるかも……お願いパパ」
「きっと無駄だよ。君がママの子なのは確かだ。この国の宰相様は娘を溺愛していると有名だ。婚約者に突然別れを告げられ、その元婚約者は彼女が去ってすぐに他の女性と抱擁を交わしたとね。その時の話は今でも王都で知らない人はいない。その後は婚約者がいながらの不貞は厳しい処罰の対象となる法律ができたのだよ。その話の浮気相手がキャシーだったとはね」
「わ、私は何も悪くないわ」
「そうか、娘の為に何かしようともしない。娘に恋人と別れたらか……キャシー、私と離縁しよう。娘は私が引き取る。シュシュ、パパが何とか彼と共に王都に行けるように頭を下げてくる」
「パパ……パパ……私も行く」
「待って……私は?」
「ママは悪くないのでしょ。パパと離縁して、また男を作ればいいじゃない」
「あなた……あなたは私を愛して」
「自分の娘の為に何もしない妻はいらない。それに浮気してるだろ、その男の所に行けばいい。その男には私の事を何と言っているのだ?暴力夫か?浮気夫?」
「私は何も悪くないの」
2人はキャシーを置いて部屋を出て行くのだった。
「奥様……いや、キャシー様」
「ねぇ、私は悪くないでしょ」
「私には判断しかねます。離縁の準備をお願いします」
「いや、いや私は悪くないの、全部……あの女が悪いのよ」
(あの人の所に行こう。彼ならきっと助けてくれるはず)
「帰ってくれ」
「あの、私は夫に追い出されて。貴方との浮気がバレて」
「だから何だと言うのだ?お宅の旦那はとっくに気付いているよ」
「奥様にバラすわ」
「どうぞ。私の愛する妻も知っている。ちなみに私に愛人は君の他に3人いるから君がいなくても問題ない。それどころか王都の花屋の略奪娘がアンタだったんだな。あの騎士はお前の何処がよかったのかわからない。どうせ泣いて縋って股を開いたんだろ。宰相殿に目をつけられたくないからな。あの宰相さんは敵に回しちゃダメだ」
「じゃあな」
「そんな。私は……私は何も悪くないのに」
その日、1人の女性は姿を消した。しかし、誰も探さなかった。娘は産み育ててくれた母キャシーを父親に探しに行こうと言うも父親はシュシュに伝える。
「探さない方がシュシュは幸せになれるから、ママを忘れて彼と王都に行きなさい」
「わかったわ」
何か引っかかるシュシュであった。
「ねぇ、マシュー。ママがいなくなったの」
「そう……」
「ねぇ、マシューはママと寝てないよね」
――私は悪くない。彼が恋人を裏切るから悪いの――
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