婚約破棄する男
――事故当時――
「キャシー、これで俺達は結ばれるな」
「嬉しいわアレク」
ヒソヒソ、ヒソヒソ
「ちょっと信じられない。恋人と別れてすぐ?」
「ないな」
「あの子、花屋の子?友達も恋人を取られた事あるのよ」
「人の恋人を取るのが好きなのよ」
「あの花屋に行くのやめよ」
「さっきの子の方が可愛かったぞ」
「いい身体なんじゃない?別れて直ぐに抱き合う位だし……」
「出ようか。なんか嫌なもの見せられたし」
「………………」
怒りで顔を赤くするキャシー。
「キャシー……店を出よう」
「さっきから何よ、何をしたって言うのよ。私は素敵な騎士様の恋人なのに」
突然、息を切らした青年が店に入ってくる。
「店長さん、医者を呼んで」
「どうした?」
「お嬢さんが馬車に」
「それは大変だ」
「店長……あとタオルないか」
「わかった。待ってろ」
「ん?あんた……あの子とさっきまでお茶してたよな。その女は?」
「俺の恋人に何か用か」
他の席の客が言う。
「あのね。あの男は恋人に別れを告げて、直ぐにその女と」
「は?バカなの。事故に遭った子はあんたの元恋人だ」
「ナタリーが……」
「最低だな。店長タオル借りる」
急ぎ店を出る男。
「ナタリー」
「アレク、行かないで」
「何でだよ。俺達のせいでナタリーは」
「行ったら別れるわ。アレク、あの女を捨てて私を取ったのよ」
「キャシー……ごめん。俺は行かないと」
急ぎ事故現場に行くと血まみれのナタリーが横たわっている。
「ナタリー……ごめん……ごめん」
声のする方へ顔を向けるナタリー。
「あぁ、アレクの声がするわね。アレク……ずっと好きだったわ。さようなら」
ナタリーはすぐに病院へと運ばれて一命は取り留めた。
その後は両親とナタリーの両親に全てを話した。
結果、ナタリーの父の逆鱗に触れ殴られた。父親にも殴られて母は泣いていた。
そして翌日、仕事に行くも皆からの視線は軽蔑だった。一週間が過ぎ上司に呼ばれた。全てを話した。そして退職を勧められた。風紀を乱したとの理由だった。
その間キャシーは何度か騎士団に押しかけた事がさらに同僚達の怒りを買ったようだ。キャシーは店に苦情がきて、店を開けられないと泣く。キャシーと共に花屋に向かうと店の前は酷い有様だった。キャシーの両親にも伝える。キャシーは両親に自分の事を何と言っていたのだろうか。キャシーは両親に泣かれていた。母親はキャシーに『何度、人様の恋人を取れば気が済むの?出て行って、もう……娘じゃない』と言われて家を出された。キャシーが今まで同じ事を繰り返していた事を初めて知った。
キャシーは俺がキャシーと住む為に用意していた部屋にやって来た。楽しいはずの2人の生活が一転し喧嘩が絶えなかった。キャシーは食堂で働いたのをきっかけに帰りが遅くなる。時々友人と泊まりに行くと言い外泊が増えた。ナタリーの意識はまだ戻らない。
騎士団に月末で退職する事を伝える。帰宅準備をしていたら騎士団が騒がしくなる。ナタリーの意識が戻ったと皆が言っていた。俺は急ぎ病院へと向かった。
ナタリーに謝罪したかった。耐えられなかった。少しでもこの苦しみから逃れたかった。
しかしナタリーは俺の事を覚えていなかった。そして、どこで聞いたのかキャシーも病院にやって来てナタリーに詰め寄ったのだった。
キャシーを連れ帰り話す。改めて騎士団を辞めた事を伝えるとキャシーは荷物を纏めて家を出た。
その後俺は自分の事を知らない田舎町へと引っ越した。そこで農家を営む一家の娘と知り合った。そして、その娘は私に告白をした。自分は過去の事を話した。それでもいいと彼女は言う。五年が経ち私達は結婚した。忙しい日々だが幸せだ。しかし、いつまでも自分の中に馬車の事故の光景が残り、寂しそうに消えそうな声で自分に告白するナタリーの姿は消えてはくれなかった。
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