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【31 下痢のモーニングルーティン動画】

・【31 下痢のモーニングルーティン動画】


 ナノはまた歯磨きを再開するらしい。

 いやでもまだ痛いのならば、どうせまた中断するのではと思ったら、案の定、ナノが6シャコシャコした時点でまたつらそうになってきた。

「なの……ウンコのオーラが見えるの……」

「何で急に占い師みたいな気分になったんだよ、というかそれなら俺だって見えるわ」

「お尻からオーラが出始めているの」

「お尻からならばもうお手洗いに行くべきだ」

 その刹那、ナノは歯ブラシを俺の口の中に投げ入れ、お手洗いのほうへ走り込んだ。

 というか、

「ほがががががーっ」

 一旦ビデオカメラを台に置いて、俺は歯ブラシを口から出した。

 いやコップに投げ入れろよ! 心配になってつい口をちょっと開いていた俺の口に投げ込むなよ! 器用だな!

 というかさすがにこの間接キスは重いわ! もはや歯ブラシ・プレイじゃん!

 俺は歯ブラシを洗って、口をすすいだ。

 いやでもこの口の中に残る清涼感がナノとの歯ブラシの証で……って! 変な表現をするな俺!

 とか思っていると、ナノがお手洗いから、さらにカラカラの凍み豆腐みたいになったナノが出てきた。

 いや環境問題の砂漠くらい水気が無いな。

「なの……すごいのが出たの……青龍と呼ぶことにするの……」

「そんな四神みたいに言うな」

「玄武のような重さで」

「いやだから掛けていくな、ウンコと四神を掛けていくな」

 ナノは優しく一回頷くと、

「白虎のような獰猛さのあるウンコで」

「どんなウンコだよ、匂いか? 匂いが強いのか?」

「そして朱雀のように何度でも蘇るの……まだまだ出そうなの……」

「だとしたら朱雀は本当に困るな」

 と一応相槌を打っていると、ナノは急に驚いた表情をしてから、

「セーブポイントに投げ入れたはずなのに無くなってるのー! 歯ブラシどこなのーっ!」

「いや俺の口の中をセーブポイントにするな、というかもうナノは十分歯を磨けたからもう磨かなくていいよ」

「違うの! モーニングルーティン動画は女子が歯を磨いているところが山場って聞いたことがあるの! もっと磨かないとダメなの!」

「何だよそれ、何で歯磨きが山場なんだよ、とにかくまだお腹が痛いのなら安静にしておけよ、ナノ」

 するとナノは小さく頷き、居間に行き、布団の上に優しく座った。

 いやでも歯磨きが山場ってどういうことだ、マジで、それの何がいいんだろうか……って、まさか!

 口の中に白いモノが入っているところが興奮するとか、そういう精子的な話なのかっ!

 だとしたらとんだ変態根性だな! モーニングルーティン動画! こんな動画は流行るな!

 とか考えていると、ナノがまたお手洗いに直行、もはや直帰した。

 というか何だよこのモーニングルーティン動画、必死にお手洗いへ走り出す女子の顔を撮った動画って。

 変態ですら喜ばないよ、いや喜べるのか?

 そしてお手洗いから出てきたナノはもうガサガサの紐みたいに細くなっていた。

 素人が編んだ縄くらいガサガサのヤツ、それのほっそいほっそいバージョン。

 ナノはやけに息を荒上げながら、こう言った。

「終わったのぉ! 戦争は終了したのぉ! ハァ! ハァ!」

「でもまあ敗戦だろうな、その感じは」

「ちゃんと勝ったのぉ!」

「まあそうか、それは良かったな、じゃあ布団の上で休んでいるといいよ、俺が朝食の準備をするから」

 俺がそう言うと、ナノはまたしてもビックリして、こう言った。

「ヤオが料理なんてできるのっ?」

「いや普通に自炊してたし」

 俺は手早く味噌汁を作って、簡単に切ってサラダを作り、昨夜に準備していたご飯を盛りつけてテーブルに置いた。

「ほら、ナノ、水分くらいは取ったほうがいいから、ゆっくり食べよう」

「なのぉ……ヤオがたくましくなって帰って来たのー……」

 瞳を潤ませて喜びながら、ナノはゆっくり席に着いた。

 いつもなら席に飛びついてきそうな感じだけども、やっぱりまだお腹が心配みたいだ。

 そんな微妙な所作がちょっと笑っちゃいそうになるな、いやちょっと笑った。

 するとナノが俺の顔を見て、ニッコリ微笑んだ。

 いや、所作を笑っただけで、幸せで笑ったわけじゃなかったんだけどな。

 でもまあいいか、俺はとびっきりの笑顔を返して、一緒に食事を始めた。

「なのっ、お味噌汁が新たなナノになるのっ」

「急に細胞レベルの話、というかそうか、別に食べなくてもいいのか? ナノって」

「いや、こうなっちゃったらやっぱりちょっとは水分が必要なの」

「そうか、まあこうなっちゃったらなぁ、こんなヨボヨボの最終回になっちゃったらな」

 俺がそうハハッと笑いながらそう言うと、ナノはなんとか頬を膨らませながら、ヨボヨボのシワを伸ばすように一生懸命頬を膨らませながら、

「ヨボヨボじゃないのっ」

「いやもうすごいヨボヨボだよ、シルバー野球団の9回裏の最終回だよ」

「全然素早いピッチングするの、球が伸びるの」

「シワが伸びてる」

 そう俺がからかうと、ナノはちょっと不満げな表情をしながら、

「ナノはまだまだ元気なの、朱雀のように何度でも読み上げるの」

「蘇れよ、何度でも読み上げるって、めちゃくちゃ原稿を噛むアナウンサーじゃん」

「全くナノは噛まないの」

「読み上げるがもう噛んでいるんだよ」

 そこはガン無視でサラダをシャクシャク食べるナノ。

 やたらサラダをガツガツ食べ始めたので、俺は、

「蚕みたいだな」

 とサラリと言うと、ナノがムッとしながら、

「蚕はもう禁止なの!」

「いや蚕を用意したのはナノだろ、こっちは最初から禁止にしたかったよ、蚕という選択肢がそもそも無くて禁止にできなかったけども」

「今度からちゃんと相談するの」

「そうそう、相談してくれよ、二人のことなんだから」

 と俺は普通のことを言ったつもりなんだけども、ナノは急に頬を赤らめて、モジモジしながらこう言った。

「二人のことって、結婚したみたい、なの……」

「俺は妖怪と結婚しないよ」

「なじょなー! あやかしとなら、もふもふ結婚なのー!」

「いやナノはどこももふもふしていないし、結婚は勿論しないし」

 俺は味噌汁をすすって、ちょっと一息。

 ナノも同じように味噌汁をすすって、大きな息を吐いた。

 何か落ち着いた時間だな、こんな生活が続くといいのに。

 続けるにはこの大山狸神社をもっと有名にしないと、ということか。

 よしっ、頑張るぞ、と意気込んで食べた朝ご飯を片付けだした俺。

 ナノも食器を台所に持ってきた。

 俺が食器を洗っていると、何か視線を感じるな、と思って、ちょっと振り返ると、ナノがビデオカメラを構えてこっちを見ていた。

 いや!

「ナノのモーニングルーティン動画なんだから俺を撮るなよ!」

「なじょなー! つい台所に立ってるヤオがカッコイイと思って撮っちゃったのー!」

「いや別にカッコ良くないし、急に主人公が変わるモーニングルーティン動画ダメだろ! 自分を撮るんだよ!」

「なの……もうモーニングルーティン動画は失敗でいいの……」

 まあ下痢のシーンとかあるし、それがいいんだろうな。

 しかしナノはだいぶ落ち込んでいるようで、

「何か、なかなか上手くいかないの……十割全のナノには程遠いの……」

 いやでも

「始めたばかりなんだから上手くいかなくて当然だろ。それよりもさ、観光をメインとしてやっていったほうが俺はいいと思うんだ」

「なのぉ……やる気満々のヤオに応えたい、ナノ! 応えたい!」

 そう拳を強く握ったナノ。

 少し元気が戻ってきたみたいだ。

 ここは畳みかけよう。

「ナノ、流行りとかトレンドとかじゃなくて、もっと自分たちらしいユーチューバーを目指そう!」

「なのっ! ヤオ! その通りなの! 今までのナノはトレンドに踊らされていたの! これから頑張るの!」

 そして俺とナノは早速作戦会議を俺の部屋でし始めた。


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