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93、楽しい遠足・船の旅1

船はあたしの敵に違いない!

あたしは客船の寝台の上でへたりこみながら、あーとかうーとか自分でも理解しがたいうめき声をあげていた。


はじめのうちこそなんだか不機嫌そうにしていたロイズだが船酔いで経垂れているあたしの姿に怒りを解いたのか、溜息と共に濡れたタオルなどを額に当ててくれる。

「大丈夫か?」

「少しだけらくーに、なった」

レイリッシュが手配していてくれた船は、大陸間を渡る定期便の一つで、一番船足が速いという高速船だった。この船には船長とそれを補佐する魔道師が幾人か乗っているのだという。


 しかし、外海に出る前までの波の酷さにめっきりと船酔いです。


部屋はそれほど広くは無いが、四人部屋。

寝室が二つついていて、中央の居間部分が共有。更に腹立たしいことに、居間部分のテーブルの上に【楽しい遠足】と滑稽な飾り文字で書かれた冊子が置かれていた。

……まっくろくろすけは遊んでいる。確実に。


あたしは一人で寝室にへたっていたのだが、ふと顔をあげた。

「どうした? そとの風でもあたるか?」

「物凄い素敵なお誘いですが……ちょっとロイズ、あんたがここにいるということはエイルはどこ?」

「居間」

「ティラハールは?」

「居間」

ぎゃあっ。


「駄目ではありませんか!」

あたしはがばりと体を起こし、気持ち悪さにうっと呻いた。

「ブラン?」

「エイルとティラハールを二人しておくなんてなんと恐ろしい。あんたそれでも警備隊の人間か、ぼけなすっ」

「え、ええ?」

「エイルは幼女趣味なのよ! あんな可愛いの、しかも魔物! そんなのと二人にしておくな、危ない」

「――いや、その幼女趣味って本当なのか?」

以前にも確かに言ったのだが、ロイズは信用していないのか眉を潜めている。あたしは寝台の上から相手に指を突きつけた。


「本当です!」

あいつは魔道莫迦の上に幼女趣味という変態です。

もうそれはあたしが実体験した事実です。

もう人間として終わっています。

あああ、友人辞めたいっ。ってか友達か、友達なのかあたしらは?

……うん、きっと友達。友達少ないなー、あたしも。

 眉を潜めるロイズに、あたしは命じた。

「あたしはいいから、あんたはティラハールを一人にしないように。いい?」

「……おまえは?」

「あたしは平気。自分のことは自分でなんとかなるもの」

なんなかったからのていたらくとか言わないで。あたしは大丈夫。

でもティラハールはなんとかなりそうにない。

だってあの子ってば座ってるだけだし。


「そもそも、あの子はなんなんだ?」

眉間に皺を寄せて言われ、あたしは「ははははは」と乾いた笑みを浮かべてみせた。

「前回もいたでしょ」

「いや、いないだろ」

「ああ、そういう意味じゃなくて。あたしの魔力供給用。王宮魔女の使い魔よ」

そういうと、ロイズは更に微妙な表情になった。

「それはつまり」

「はい、そこ! 美少女同士のラヴシーンを想像しないっ」

「……おまえ、自分を美少女とか言ったか、いま?」

クっと喉の奥でロイズが笑い、ぽんっとあたしの頭に手を置いた。


「にらむなよ。可愛いよ、おまえは」


――うっ……

あたしはぴしりと固まった。

うわっ、なんだ今の。なんかやたらと恥ずかしい気持ちになったぞ。

かぁーっと頬に熱が集中する。

ロイズは微苦笑を浮かべてあたしの頭を撫でてて、どう切り替えしたらよいものかとあたしが慌てると、ぽんっと音がしてぎしりと寝台がきしんだ。


その場に現れたのはエイル――ではなくて、使い魔だった。エイルがいないから変化した使い魔は、無遠慮にあたしを抱きしめた。

「マスターっ、具合大丈夫ですか?」

おや、おまえいたのか。

という呑気なあたしとは違い、突然現れたエイル――ではなく使い魔だが――の姿に、ロイズは一歩下がった。

「なっ、エイル?」

「あー、これうちの使い魔だから」

「……使い魔って、アレか! うちのブ……えっと、猫を持っていった!」

ブ……さすがに猫の名前はいえないようだ。


ぶ……


ばーかめぇぇぇ。

だからそんな紛らわしい名前にしなけりゃ良かったのよ。

「あー、そん時は悪かったわ」

何故あたしが謝らねばならないのだ。

「それにしたって何でエイルと同じ顔なんだ?」

ああ、その疑問は当然よねぇ。

あたしは乾いた笑いを浮かべながら、


「いや、嫌がらせ――エイルが嫌がることを率先してやってたら、まぁこうなりまして。んで、今ってほらあたし魔力値が低いでしょ? もとに戻せないのよねぇ。まぁ、だからこのこのことは気にしないで」

「めちゃくちゃ気になるだろ」

やっぱり?

ロイズの眉間に皺が寄ったままだ。


使い魔ときたらべったりとあたしに張り付いている。

はたから見てアレだわな。

エイルが、しかも莫迦っぽいエイルがあたしに――幼女に張り付いているわけだ。

「シュオン、ちょっと離れなさいよ」

「やですよー。だってエイルさんいないんですよ。やっとマスターと一緒にいられるのに。エイルさんいるとぼくが人の形していると怒るじゃないですか」

使い魔ときたら時々ひどく頑固で困る。


あたしは使い魔の腕をぽんぽんと叩いた。

「まー、このこのことは放置していいから」

「……むしょうに腹がたつんだが」

ぼそりと呟かれた言葉に苦笑する。

なんか判るけどね。このこってちょっとうざったいというか邪魔くさいというか……

――ああ、キモチワルイ。

あたしは自分が船酔いだということを思いだし、それよりエイルとティラハールが同室にいるということをさらにどうにかしようと思った。


「ロイズ」

「なんだ?」

「あんたは極力ティラハールとエイルが一緒にいるようなじたいにならないように、その目つきの悪い目を最大限に利用するのよ!」

「……なんか釈然としない」


こらこら、そこで機嫌を損ねない!

あたしは「うーっ」と呻き、随分と思案したあげく、

「あとで尻尾触ってもいいから……」

と提案してみた。

「そのかわり逆撫では禁止だからね!」

「なんというかオレは変態か?」

「あれ、触りたくない?」

あたしは瞳を瞬き、ぱたぱたと尻尾を揺らした。

猫フェチにはとても心躍る提案だと思ったのだけど。


ロイズは眉間に皺を刻み込んで考える素振りでいたが、やがて大きく息を吐き出してあたしの額を軽く指先で弾いた。

 ぴしりと小さな痛みが走る。


「いいさ。好きなだけ頼れ」

その言葉にほっと息をつくと、あたしを抱きしめている使い魔が更に力を込めてあたしを抱きしめた。

「ぼくも、ぼくも頼って下さい」

「いや、あんたはいいからね? あんたエイルの前だと蝙蝠でしかいられないんだから」


言葉にしつつ、うっと何かがこみ上げる……

あー、なんかもぉ、本当に気持ち悪いんだってば。

あたしはぐいっと蝙蝠を押してよろよろと寝台からはいでた。

「ブラン?」

「マスター?」

二人の問いかけに、溜息を吐き出す。

「外の風にあたる」

言葉と同時に居間へと続く扉を開き、そこで――ワタクシ見てしまいました。


座っているティラハールを腕を組んでじっと観察している変態を。

「エイル! ちょっと甲板まで付き合いなさいあんたっ」

危険だ、危険すぎる……

もぉ誰か助けてホントに。

その様子にはさすがにロイズも絶句した様子で乾いた吐息を落とし、安心させるようにあたしの頭をぽんぽんっと二度、叩いた。


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