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87、憂鬱

「どうした?」

ソファにべったりと張り付いているあたしの姿に、ロイズが苦笑をこぼすようにして手を伸ばす。


「なぅー」

あたしは伸ばされた手に顔を押し付けて小さく鳴いた。


酷いんだよ、エイルのヤツ。

あたしの首絞めたんだぞ。やつは()る気だったに違いない。容赦ってものがない。あたしは稚い子供だというのに、あいつ絶対人間じゃないよ。

魔物に違いない。


悪魔類鬼畜目(あくまるいきちくもく)エイル族に属する魔物に違いないよ!


「今日はおとなしいな」

首絞められたからね。

精神的ダメージ大きい。

いや……もしかしたらあたしもエイルの精神に何らかのダメージを与えたのかもしれない。


あの後、エイルってば始終不気味な顔を晒していた。

絶対にしちゃいけない顔だった。

近づいたら踏みつけられそうなめちゃくちゃイヤな雰囲気をかもしてましたよ。あたしは慌てて退散したかったのだけれど、猫の足で帰るにはちょっと遠いの。

――必死に一時帰宅していた蝙蝠が戻るのを願ったわよ。


触らぬ神に祟りなし!

あいつ悪魔だけどねっ。


謝ったほうがいいかね?

どう思う?

――ほんのちょっとの御茶目なんだけどなぁ。

どうしてああ怒りっぽいんだろう。そりゃ、からかう気満々で言ったけどさ、そんなに怒るようなことだったかね?

男としての矜持ってヤツ?


食われたって表現がまずかったかね?

逆に、食べただったら良かったとか?


「なーに難しい顔してるんだ?」

さすが猫フェチ。あたしが悩んでいるのが判るのか?

猫の表情が判るなんてすごいぞ。

猫フェチスペシャリストは剥奪だが、猫フェチ初段はもう永遠にキミのものだ。

もう少ししたら二段にだってあがれるかもしれない。日々精進を(おこた)るな。

ロイズはあたしを膝の上に抱き上げ、機嫌よさそうな様子で首筋をなでる。すでに痛みとかはないものの、首は今日はちょっとイヤ。


「なぅっっ」

嫌がる素振りを示すと、今度は頭をぽんぽんっと軽く叩かれる。

「おまえは相変わらず小さいな。ちゃんと食べて大きくならないと駄目だぞ?」

ちゃんと食べてるよ。

昼食はエイルの家でしっかり食べてるしね。最近はココで食べるご飯だってあからさまな猫飯は出ないんだ。何故かというと出されたって食べないからね! じっと侍女の顔を見つめ続けると、侍女は苦笑して「ブランちゃんは口が肥えてるわねー、今回のご飯はイヤなのね」と諦めた様子で交換してくれるようになった。あたしの日々の努力の成果が実ったのだ!


 ああ、そんなことよりですよ!

明日行くの気が重いなぁ。

もうひたすらあやまっちゃおうかなぁ。

あたし悪かったかなぁ。

「にゃぅう?」

ねぇ、どう思う?

でもお昼ご飯もデザートも捨てがたいしね。何より、このまま喧嘩してたってあたしの人生が猫生になっちゃうくらい不毛なのよ。ってかめちゃくちゃそれは駄目だろう。

自分の体を見つける為にも、これからの明るい人生の為にもエイルともうちょっと仲良くしていかねばならないのだ。


ロイズは口元を緩めてあたしの顔に自分の顔を摺り寄せた。

「おまえはかわいいなぁ」

「……」


なんであんたそんなに機嫌がいいの?

え、ちょっと気持ち悪いんだけど。

なんだか判らないけどなでくりまわすの辞めてくんない?


あたしをひっくり返して膝の上において、ロイズは首輪をそっと撫でた。

「うん、似合ってるぞ」

……あー、その首輪ね。

実はエイル作らしいよ?

どうするよ、本気で呪いのアイテムかもしれないってちょっと危惧してるんだけどさ。

あいつの詠唱一つでぐいぐい絞まるとか、突然電流が流れるとか! そういう恐ろしいアイテムじゃないって保障がないんだけど。


「ブランマージュどこにいるんだろうな? 一度ちゃんとお礼を言っておかないとな。

お返しに何かプレゼントしたほうがいいかな? そうだよな、そのほうが……ネックレスとか、指輪、いやそれはさすがにどうだろうな?」


人からの贈り物でそこまで喜べるあんたは善良な男よね。

あたしつくづく思うんだけどさ、あんたとエイルって足して半分に割ったら丁度いい感じなんじゃない? 人間として。


ああ、エイルの毒素はそんなんじゃ薄まらないか……

なんたって悪魔類鬼畜目(あくまるいきちくもく)エイル族だもん。


「にゃー」

「どうした? 悩みでもあるのか?」

そう、悩んでるのよ。

ちょっとなぐさめてくんない?

あああ、明日エイルの家に行くのやめようかしら。

でもそしたらもう二度と行く気になれない気がするーっ。


そしたらずっとあたしは猫だわ。

猫のまま自分の体を探さないといけないし、それに……

ああ駄目だ。考えが堂々巡りをおこしてる。同じことを考えて同じトコにしか落ち着けない。

つまり、あたしが悪かったってコトなのよ。

「にゃうっ」


よし、決めた!

決めました。

明日あいつの家に行って、「ごめんね」ってチビ魔女ブランでめちゃくちゃ謝ろう。悩殺ポーズで愛らしく!


だってあいつ幼女趣味だもん(そんな事実はない)きっとめろめろよ!

なんたってチビ魔女ブランは可愛いんだから。

どんな悪行だってさらーっと水に流すハズ。

あたしがやる気だしたら幼女趣味のエイルなんてイチコロだって。


……いや、なんかそれもやばくない?

何がやばいって、自分の身が? それに、めろめろのエイルって気持ち悪い。うっ、想像しちゃったよ。

うわっ、この世の終わりか?

「どうした? 顔が困った顔になってるぞ? 可愛いなあ、ブランは」

いや、おまえまでめろめろにならなくていいからさ?


あああああ、人間って面倒くさい!

あたしは猫なのにっ。


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