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82、低迷中

ぺらりと突きつけられた始末書――

ソレを苦い思いで書き込みながら、ロイズ・ロックはその苛立ちが文字に出るようで更に苛々としていた。

「うわっ、隊長!」

 呑気に隊室に入ってきた副隊長の言葉に、ロイズは眉間に皺を刻み込んだまま胡乱な視線を向けた。

「随分とゆっくりだな。もう昼も過ぎてる」

「……いえいえ、オレにはオレの特別任務がですね」

クエイドは口元に引きつるような笑みを浮かべて、はっと気づいた。


「隊長――あの、猫……」

「ああ、あれなら戻ってる。悪いな――うちのエリサがおまえに猫探しを頼んだんだったな」

 その報告を受けていたことを思い出す。


――副隊長(クエイド)さんにブランちゃんを探してくれるように頼んだんですけど。結局自分で戻ってきてくれました。

 若様からもお礼を言っておいて下さいね。役にたちませんでしたけれど。


侍女も必死に猫を探していたようだ。


だがそんな心を打ち消すようにエリサは笑い「きっと若様を探しに行っていたんですよ。ブランちゃん。若様がいなくて寂しくて会いたかったのね」と続けた。


「――会いたくなんかなかったみたいだけどな」

思わずぼそりと低い声が漏れ、クエイドが「なんすか?」と眉を潜めた。

「いや、余計な手間を掛けさせたみたいだ。すまない」

「いえいえ……まぁ、色々と新しい発見もありましたし」

「は?」

「なんでもありません」


――猫の名前、ブランマージュなんですねーというのはまた別の話しだ。

クエイドは口元が緩み、うっかり尋ねてしまいそうなのを慌てて引き締める。


「って、朝っぱらから縁起の悪いもの書いてますねー」

「――そうだな」

低く言うロイズの言葉に、クエイドは不機嫌を察知した。

そそっとその場から離れる。

窓辺に立ち、他の署員がいれてくれた珈琲を受け取りゆっくりと喉の奥へと流し込む。


他の隊員が訓練や外巡りに出かけていくのを眺め、残されたのがクエイドとロイズだけになる。

今日の自分の仕事を確認し、ふと窓の外を見てクエイドはぶほっと珈琲を噴出した。

「なんすかそれーっ」

思わず叫んだのは、窓から子供が顔を覗かせていた為だが――理由はそれだけでは無い。


「魔女殿!?」

そう、そこにいたのは明らかに魔女だった。

クエイドも良く知る、ブランマージュ。ただし、彼の知るブランマージュは二十歳を少しばかり越えた女性だ。

 そこにいるのは十前後。しかも何故か大きなリボンのように猫のような耳をつけている。

ブランマージュは自分の口元に指を一本押し付け、

「ギャンに見つかるでしょ! 静かにしなさいよっ」

「ブラン!?」

執務机に向かっていたロイズが大きな音をさせて立ち上がる。


クエイドは一旦出た大きな声を、けれどすぐに潜めた。

「またイタズラしにきたんすか」

苦々しげに言いながら、思わずじろじろとブランマージュを眺めてしまう。


一言で言えば、奇怪。

何故、猫耳?

それにそのサイズはいったい何だ?

魔女は大きさも自由自在か?


だが彼の隊長殿はそれを奇怪とは思っていないのか、ずかずかと窓辺に来ると開かれた窓から手を伸ばし、幼い魔女をひょいっと抱き上げた。

「どうした?」

咄嗟に言ってから、慌てたように視線を逸らす。

その意味が判らずにブランマージュは小首をかしげた。

窓枠にそっと下ろされる。

よくみればその背でふらふら揺れているのは尻尾……黒と白の可愛らしい衣装。ふわふわのレースにパニエ。


……なんだこの可愛い生き物は。


クエイドは空恐ろしさに引きつり、思わずずりずりとさらに後ずさった。

「何か、用があるんだろ」

ロイズの口調が固くなる。

「まぁ、そうね。って、どうかした? 体調悪いとか?」

「……」

「顔が引きつってるわよ?」


「クエイド、悪い――仕事の話だ」

ぎろりとロイズが突然クエイドを睨みつけた。

仕事って、何の?

そう突っ込みをいれたくなったが、クエイドは肩をすくめてその場を逃げた。

正直に怖かったのだ。

――なんだあれ!


***



「別に大仰なことじゃないのに」

副隊長を下がらせたロイズにあたしは小首をかしげた。

「何しに来たんだ?」

「ん、一応謝りに?」


あたしは用件を思い出す。

うっかり忘れてしまうトコだった。

「あんたに助けてもらったお礼もちゃんと言ってなかったし、なんか……どうやら始末書書かないといけないことになってるみたいだし?」

始末書がどんなもんだかよく判らないけどね?


「――いや、それは構わない」

「そう? ちぇっ、せっかく恥ずかしい格好を押して顔を出したっていうのに、愛想なしね?」

 あたしは唇を尖らせて苦情を訴えた。

「悪かったな、わざわざ――会いたくもないのに」

ぼそっと低く言われる言葉に、は? と声を漏らす。


なんだこの刺々しいというか、雰囲気の悪い男は。

あたしは眉間に皺を刻み込み、ふわりと浮いてロイズの額にぺたりと手を当てた。

「あんた熱でもある?」

「――」

昨日までと人間かわってませんかね?


ロイズは一歩身を引いた。

「悪い――そんなつもりじゃ……余計なことを言った」

「んん? まぁ疲れてるんでしょ。別に気にしないけど」

「ただ、オレは」

言葉を詰まらせたロイズがつらそうに言う。


「それでも、やっぱり会いたかったんだ」

吐き捨てられるような言葉に、こいつの疲れはピークだなと感じた。

休めばいいのにね? マジメな人間って損よね。


昨日聞いた言葉を繰り返されないといけないほどあたしはモウロクしてません。


あたしは肩をすくめて、

「昨日聞いたわよ」

と少しばかり投げやりに言った。

「ああ言った。それに――会いたいと思わないとも言われた」

「そりゃ言うわよ。あたしあんたの顔毎日見てたし」

「は?」

「あんたの間抜け面は毎日拝んでたって言ったの。だから別に会いたいなんて思わないわよ」

あたしは心底呆れて言った。

一度言った言葉を繰り返させるなんて、実は耳も遠くなりはじめましたか、この熊さんは?


みるみるうちにロイズの眉間の皺が取れる。

「……は、ははっ」

突然笑い出してしまった男にあたしは若干引き、顔をしかめて窓辺へと戻った。

「ま、とにかく!

悪かったわね。じゃあね」

「ああ――なぁ、また顔出せよ?」

「……この格好でうろつくのは相当恥ずかしいのよ」

それでもこの格好で来たのは、猫のブランでは礼が言えないからだ。

救ってもらったのだし、それが原因で始末書など書かされるハメに陥っているのだから礼くらいきちんと言っておくべきだ。


――悪い魔女だって礼くらい言う!


窓枠から外へと抜け出して顔をしかめる。

「ブランマージュ」

「もぅっ、まだ何か?」

「早く元に戻れるといいな」

その言葉にあたしははたりと動きをとめ、振り返る。


「エイルは逆のこと言ってたわよ!

あいつってば小さいままでいろとか言うのよっ。実は幼女趣味なんじゃないかと思うんだけど、どう思う?」

本人は否定してたけどね?

「……」

あら、固まった。

固まったロイズはやがて表情を厳しいものにかえ、

「……気をつけろ」

とありがたい忠告をくれたが――気をつけろって曖昧な言葉よね。気をつけようが無いというか。


エイルも同じく毎日顔を合わせてなければいけない相手なのだ。

だってエイルの協力があればこそこの格好になれるんだしね? それに……確かに幼女趣味なのかもしれないけど、いいとこもあるのよ?

どこが、と言われるとちょっと詰まるんだけど。

悪いとこばっかじゃないの。

――それは保障してもいい。


だがその趣味だけは認めてあげられないわー。

アンニーナでも紹介しようかしら? ってか、逆にもっと幼女に走るかも。

トラウマになりそうよね、アンと付き合うと。

あれ、そういえばなんかいつの間にかアンニーナとエイルってばちょっと仲良くなってなかった?

……まさかソレが原因とか?

判らないなー

仕方ない、今度それとなくエイルに聞いてみよう。


あたしは大きく溜息を吐き出した。

ああ、なんていうのかしらね、こういうの。

難儀?

ちょっと違うかしら……

ロイズ……君が不憫じゃないと愉しくない。

自分で書いててorzな感じなのですが……

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