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80、寛大

「捕まえた魔物の魔力と更に詠唱を重ね合わせてみた」

当初の怒りは急激に沈んだ。

なんといっても、十歳児ミニマムブランが今は十五・六歳程度にバージョンアップしているのだ。怒りに叫んでいる場合では無い。


あたしはエイルに詰め寄り「なになに、どうしたのコレ! スゴイっ、スゴイわよダーリンっ! 天才?」と無駄なほどエイルを褒め称えた。


ただ残念なことに耳も尻尾も健在ですがね?

これはあたしのデフォなんでしょうか?

今はきっちり外套のボタンを留めたあたしは、尻尾の所在もちゃんと確認済みです。

しっかりありました……ええ、ふさふさとね?


「だが思った程成長していない。おそらく効果もいつもよりずっと短い。まだ使えるような段階ではないな」

「いやいや、それでも凄いわダーリン!」


「スゴイです!」


突然割って入った声は、使い魔だった。

捨てられた使い魔であったが、どうやらいつの間にか部屋の中に舞い戻っていたらしい。


ぱたぱたとあたしの周りを飛ぶと、おそらく……無意識であったのだろう。ぽんっと人形(ひとがた)の姿に変化し、ぎゅうっとあたしを抱きしめたのである。

「マスター! カワイイです、であった当初くらいの大きさ! すごいスキーっ」

この使い魔の強制ぎゅーっもその時に吐き出されるスキも、ついで頬や額に落とされる口付けもあたしにとっては慣れたものだ。

使い魔はこういうナマモノ。


だが思い出して頂きたい。


その姿は今はエイル・ベイザッハ――その人であるということに。

エイル・ベイザッハの面前でそのような行為をするという暴挙に、エイル当人がぶちきれたのは言うまでもない……


いや、気持ちは判る。

それってあれだわな。あたしの面前であたしの顔したモノが誰かに抱きつきキスしだくる。

何かの拷問かと問いたい。

悶絶、鳥肌ものだ。あたしだって雷撃を食らわせたいくらいの動揺はするだろう。

エイルは雷撃ではなく、炎でございましたが。


焦げた蝙蝠を治療しながら、あたしはエイルを(なだ)めにかかった。

「ちょっと落ち着きなさいって」

「そいつをよこせ」

……あたしが驚くのはだな、自分の顔と同じものを平然と攻撃できるその神経だ。躊躇(ちゅうちょ)なし。

 少しは躊躇(ためら)うだろうが。


時々キミが魔物の一種なのではないかと思うのだが、どう思うね?


「悪気は無いのよ? これがエイルの顔しているのはあたしが悪いんだし。この子があたしを見て張り付いてくるのは極普通の反応なんだから」

「殺す」

あああ、フォローできないっ。

低く言いながら薄い笑みを浮かべるエイルの瞳はどす黒い。あたしは蝙蝠の治療を手早く済ませると、いっそためしに転移をかけてしまおうかとも思ったが【イキモノ】の転移はまだ自信が無い。

 ちらりと窓と続き部屋の扉を確かめて、どちらがより近いか安全かを考えて続き部屋の扉へ素早く近づき、蝙蝠を放り込んだ。

――さっさと消えろ。このド阿呆!

迂闊にもほどがある。


「ブランマージュ!」

扉を閉ざし、べったりと張り付きながらあたしは愛想笑いを浮かべた。

「ごめん。あたしが悪かった。謝るっ」

悪くないけどね!

仕方ない。アレはあたしの使い魔だ。アレの不始末はあたしの不始末。しでかしたものは仕方なし!


もう今回は言い訳無用で全面降伏。

エイルでなくても不愉快で不快で腹の中が煮えたぎること間違いなし。


 エイルの冷たい眼差しが更に怒りを増すようにあたしを睨む。

ひぃぃ、怖いっ。

絶対に耳が伏せてますよ。

尻尾は現在二倍くらいに膨張中。

エイルの眼差しが無言で睨んでくる――その圧力に喉の奥に唾液がたまり、あたしは泣きたい気持ちを必死に押しとどめてゆっくりと視線を逸らした。

この視線に自分の視線をかち合わせたら固まる気がする。

もしくは死か!?


斜め下に視線が逃げる。

一歩、エイルが近づく。


ぴくりと体が震える。


もう一歩――

「どけ」

「……」

あたしはドアノブを掴んだままふるふると首を振る。

くそっ、使い魔のボケ。

こいつ怒らせると怖いんだからなっ。

自分の主人をピンチに陥れるとは使い魔の風上にも置けませんよ!


「……ブラン」

「ごめんなさい」

 エイルの手がドアノブを掴むあたしの手を包み込むように掴む。

もう片方の手があたしの頭辺りをかすめ、扉に触れた。


顔が近づき、耳元で低く――

「二度はない」

ぞくりとするほど低い声で囁き、エイルはあたしの首筋にがぶりと歯を立てた。

「っっっ痛いっ」

痛みに声をあげ、小さく首をすくめるあたしだったが、エイルはそのままの位置で言葉を続けた。

「この程度で許してやるのだ。寛大だろう」

ふんっと鼻で笑い、おそらく乱暴に噛まれた為に皮膚を裂いたその箇所――零れた血をエイルの生温かな舌が舐めあげた。


「玉子の転移をすますのだな」

エイルは低く笑ったが、あたしは顔をしかめて首筋の傷を自ら治療した。


おまえ本当に魔物なんじゃなかろうな!

魔物であれば絶対に使い魔にして顎でこきつかってやるのに!!!


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