7、勘弁して
もう嫁にいけないんじゃないかという屈辱に身を震わせたあたしは、寝るというよりむしろ気を失う勢いでその日を終えた。
――ありえないありえない。
他人様の面前で排泄をさせられたことも屈辱ならば、それを促されたなんて!
どんなプレイだよっ!
なんだってあたしは猫になってしまったのか?
そもそもどうしてロイズが飼おうとかしているのさ?
これがまたまったく別の人間ならばもう少し心が軽いだろう。
ロイズ!
それはあたしの天敵の名前だ。
いや、もう一人、もっと厄介な男がいるのだけれど。ロイズだって問題だ。魔術など使えない癖にあたしを追い詰める警備隊隊長。
――あの気迫というか、威圧というか……
いや、からかうと面白いとは思うのだけれど、ちょっと冗談が通じない時をなんとかして欲しい。
あたしは嘆息を落とし、更に身を丸めた。
それに……あの腐れ魔導師め。
あたしは顔をあげて窓の外を眺めた。
ちょっとからかっただけじゃないか。何故あんなにも短気なんだろうか。もう少し人生を楽しめ。腹がたったからといって魔女を殺そうとするなんて、呪われてしまうぞ。
「ブランマージュ」
長椅子で寝ていたあたしの襟首がひょいっと持ち上げられる。
「ふしゃーっ」
ってか、その名前は辞めなさいよ!
というあたしの怒りなど知らぬ気に、ロイズはあたしの首に赤いリボンを巻きつけた。
淡々とした様子で無表情に。
「朝飯」
そのまま床に置かれた皿を示される。
……ミルクだ。
ミルクの中にお米が入れられている。
「若様、もうお時間ですから」
着替えの手伝いに訪れていた侍女が微笑ましいというように顔をゆがめてあたしとロイズとを眺め、
「食事が終わったら排泄させてやってくれ」
「はい、かしこまりました」
……絶対逃げ出してやる。
あたしはその為にも体力をつけねばと――渋々そのミルク粥を食べ始めた。
ちゃんと鳥でダシが取られていて美味いのがまたシャクに触る。屋敷の主が出かけると、侍女が興味深い様子でしげしげとあたしを覗き込む。
「ちっちゃくってふわふわー」
ふふふと笑いながら頭を撫でる。
くぅっ。
今に見てなさいよっ!
がうがうとあたしはミルク粥を食べて、汚れた口元を前足で丁寧にぬぐう。
侍女はひょいっとあたしの体を持ち上げるとひっくり返し、ぽこんとふくれた腹をつんつんと突いた。
「はい、お腹一杯ですねぇ。
美味しかったでしゅかー?」
でしゅかーって、あんたあたしを馬鹿にしてる?
「食べたらちゃんと出しましょうね!」
って、だからソレは辞めて!!!
自分でできるから!




