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77、始原の森探検の終了

「任務完了!」

あたしは晴れやかだった。

玉子をどうするか迷ったが、結局そのままエイルの邸宅に転移させた。王宮のレイリッシュの元に送るのがてっとり早く感じるが、あそこはレイリッシュの魔法によってシールドされているため無理なのだ。馬面に頼んでみたのだが「あとで転移をかけろ」とすげなくいい、挙句人の体をじろじろと眺めて目を細め「近いうちに王宮に参じろ」と言いおき、さっさと自分は帰ってしまった。

いいけどね! もうあんたは必要ありませんよー、だ!



そう、今のあたしは、魔力はたっぷりでございます。

――エイル経由で。

あれ、もしかしてさ……エイルが不機嫌だったのってあたしに魔力を提供したからか?


あの後はちょっとタイヘンでございましたよ?

「使い魔となどしているわけがないだろう」

と不機嫌垂れ流しで低く唸るダーリンに対して、あたしは優しいから「うんうん判った判った」と言ってやったというのに、あたしの耳をぎゅーっと引っ張ったり、頭をぐいぐいと締め上げるという暴挙にまででるし、ロイズは慌てて仲裁に入るし。

機嫌をとるのがタイヘンでした。まあ、今だってその機嫌は微妙なワケだけどね?

ああ、やれやれ。


ほんと、どうにかして欲しい。エイルってば不機嫌で最悪!

馬面と口付けではなくてあたしに魔力の提供するのがイヤだったからとか?

なんといってもエイルは変態だからな。その思考回路が判らん!

いや、だが自分からしてきたことだってあるじゃないか! あれはあたしから魔力を奪う行為だったから構わないとか?

それって随分と自分勝手よ。

あたしと口付けすることに対して不機嫌だとしたらなんかむかつきますよ。ふつふつきますよ。あたしだってなぁ、本当はこんなしょっちゅう口付けなんてしたくないんだよ。

いやいや、したくない訳じゃない! コレでも一応オトシゴロなのです。

興味だって夢だってあるんだ、言いたくないがこれでも一応乙女属性なんだよ!



 素敵な異性にムードたっぷりに迫られて甘く優しく……

あ、なんか駄目だ。気持ち悪くなってきた。

乙女属性じゃないかも。

をや?


「どうした?」

ロイズがくしゃりとあたしの頭をなでる。


丁度いいのか、その頭の位置。

「いや、ちょっとね……まぁいいわ。撤収よ撤収!」

あたしは元気に言った。

すでに夕刻も間近だ。本来であればまた一泊するのが好ましいのかもしれないが、こんな場所で幾晩も過ごすのは楽しくない。


あたしはアウトドア派ではなくインドア派!

猫だしね。猫はあったかーい場所で眠っていたい生き物です。

「エイル、頼むわよ」

「――ブランマージュ」

エイルはしばらく考えるふうに静かに半眼を伏せていたが、ふいにあたしを持ち上げた。


あんたたち、あたしは小荷物じゃないからね?

そうひょいひょいもちあげるのは辞めなさい。


「……なに?」

怪訝に眉を潜めたあたしを厳しい眼差しで睨みながら言った。

「先に戻っていろ」

先に戻れといわれたところで、自分を転移なんていう高等技は使えませんよ? 荷物を送るのと自分を移動させるのとは違うのよ? いくら魔力が一杯だからってそこまで無茶は、とあたしが眉を潜めたが、エイルはそのまま口を開いた。

「いるのだろう、魔女殿」

静かな問いかけに、ぶわりと砂浜の砂が舞い上がり、こんな場にはそぐわない鮮やかな赤いドレスの女がふわりと浮かび上がった。

ロイズが驚いて「うわっ」と間抜けな声をあげるが、それはあたしも同じ気持ち。


「は?」

なんで突然アンニーナ?

「先に連れて帰れ――」

「あら、あたしに命令するの?」

くつくつと喉を鳴らしながら、突然あらわれたアンニーナはエイルの腕からあたしを引き取った。


魔女であるアンニーナにとって、あたしの体重など気にもならないのだろう。

「――そのつもりでいたのだろう?」

「おまえって本当に生意気よね?」

くくっと喉を鳴らしてあたしを抱いたまま移転しようとするアンニーナだったが、それをロイズの声が押し留めた。


「ブランマージュっ」

ふっとアンニーナの動作がとまる。

「なに?」

「……どんな姿でも、せめて子供達のところには顔を出せ」

ロイズの言葉に苦笑する。

「考えておく」

でもねー、猫耳猫尻尾はなかなか屈辱的な格好よね。

「町の人間も会いたがってる」

「うん――」

「オレも……会いたかった」



静かに告げられた言葉に、あたしは瞳を瞬いたがすぐに笑みを浮かべた。


「あたしは別に会いたいとか思わなかったわ」

途端にロイズの顔が強張る。

だって毎日顔をつき合わせていたのよ?

会いたいなんて思う訳がないじゃないの。

御風呂も寝台も一緒だったしね。


ロイズが何事か口を開きかけ、その隣でエイルは口元に笑みを湛えていた。

ロイズの言葉が耳に入り込む前にあたしとアンニーナの体を風が包み込み、気づけば一瞬にして場所は変わっていた。



そこは幾度か見た覚えのある、アンニーナの私室だった。

趣味の良いアンティークの家具が並び、手触りの良い寝椅子が置かれている。

あたしを近くの寝椅子に放り出すようにしたアンニーナは、途端に腹を抱えて笑い出した。

「アン?」

「あんたってば、ああ! あんたって子は!!!」

「なによ?」


ヒーヒーと腹を抱えて笑う魔女は、その美貌すら崩れている。

実は結構笑い上戸? こんなアンニーナを見たのははじめてだ。

「あたし今日は笑いすぎで死にそう!」

「なんなのよ!」

クククっと喉の奥を鳴らして笑い、

「立派な悪い魔女目指してがんばりなさいな」

苦しそうに言いながら、アンニーナはあたしを猫へと変化させた。そしてそのまま手のひらを閃かせて転移させる。

――ロイズの邸宅へと。

転移の瞬間、アンニーナが言った。

「島にもう一度戻ってあげるわ。

あの二人、仲悪そうだからね――ああ、あたしって優しい!」




……なんか激しく莫迦にされているけど!

まあいいわ。


目指すも目指さないもないわ。

だってあたしは悪い魔女。

悪い魔女、ブランマージュだもの。


とりあえずレイリッシュの任務はちゃんとこなしたからね!

玉子はまだ届けてないけどさ。

でも任務完了!

偉いぞあたし、すごいぞあたし、おつかれさま!

随分と長くなりました、【始原の森探検】もなんとか終了です。

目標は「ちょこっと糖分増やしてみましょう」でしたが、いかがでしたでしょうか? ちょこっとのはずが随分とブラン、エイル、ロイズの心境が変わってしまいました。いやいや、ブランは相変わらずですが。

平常運転に戻る彼等にもまたお付き合いしていただければと思います。

では。たまさ。でした。


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